トニー・シェイ 『ザッポス伝説』2010/12/14

ダイヤモンド社から『ザッポス伝説』をいただきました。
ありがとうございます。面白く読まさせていただきました。


ザッポスとはアメリカのネットで靴を販売する企業です。
アマゾンみたいなものかしらと思ったら、今はアマゾンの子会社になっています。
この企業のすごいところは、顧客満足度が高い上に、10年もしないで売り上げ10億ドル以上というところです。

ザッポスのCEOはトニー・シェイで、この本を書いた人です。
父母とも台湾出身で、イリノイ大学の大学院で勉強するためにアメリカに渡り、父は化学技術師、母は臨床心理士という、裕福なアジア系アメリカ人の典型的なタイプです。子供の出来が自分自身の成功と社会的地位を示していると思っているのです。

アジア系アメリカ人のこどもの出来を図るカテゴリーってのがあって、
①学校の成績。進学する大学の一番はハーバード。
②キャリア。医師になるか博士号を取る。
③楽器をマスターすること。特に人気があるのがピアノかバイオリン。
なのだそうです。③なんてちょっと思いつきませんでした。

トニーは小さい時から自分で事業を営むことに興味がありました。
彼は9歳の時にミミズの繁殖で大金持ちになろうとしますが、見事失敗。
その後、いろいろとやるのですが、オリジナル・ピン・バッジ・ビジネス(送ってきた写真をバッジにして売るという商売)が当たり、中学時代に毎月200ドルも稼きました。
バッジ販売は中学卒業後に弟に譲ったそうです。

大学は8校に願書を出してすべてに合格。親の希望でハーバードに入ります。
まるっきりのアジア系アメリカ人の優等生のコースを辿っていますね。

でも彼の子ども時代のエピソードを読むと笑ってしまいます。
ピアノとバイオリンの稽古をしたくなかったので、テープに録音しておき、練習の時にテープを流していかにも練習しているように見せていたり、ソネットをつくる宿題にモールス信号を14行並べて出したりしています。
ソネットは洒落のわかる先生だったので、A+++++++++++だったそうです。
他にもたくさんおもしろい悪さをしているようです。

ハーバードでは一度もでない授業でいい成績を取るために、うまくBBSを利用します。史上最大の勉強会をしないかとBBSで仲間をつのり、試験にでる100のテーマを一人3つずつ割り当て、返答をまとめてコピーをとり一冊20ドルで売り出すのですから。

やっぱり発想が豊かです。

大学では学生食堂の運営とピザ・ビジネスで成功したようです。

こどもが小さいころから金儲けのことを考えるなんて、日本ではありえませんよね。
親は金儲けを考えるなら勉強しなさいといいますから。

大学卒業してからは、大学院へはいかず、一番高給だったソフトウエアの会社に勤めますが、仕事が退屈だったので、友達と一緒に企業のウエブサイトのデザインと制作をやり始めます。
そして、ふとした話からリンクエクスチェンジ事業を始め、これが大当たりし、1997年にヤフーから2000万ドルの買収を持ちかけられるまでになります。
この企業は急成長したのですが、トニーはある時点から会社に行きたくなります。
最初は楽しくワクワクするものを一緒に築き上げようと思う人とやっていたのに、会社が大きくなり過ぎ、お金を稼ぐこととかキャリアと履歴書をよくすることが動機の人も採用してしまっためだとトニーは書いています。
結局彼は会社をマイクロソフトに2億6500万ドルで売ってしまいます。

自分が人生で最高に幸せを感じた時はお金を伴っていなかった。
「何かを作っているとかクリエイティブで独創的でいる」と幸せだったと、トニーは気づいたのです。

そして彼はフットウエア業界に進出していきます。

ザッポスは最初から上手くいったわけではありません。
資金が足りなく、レイオフをしたり、トニー自身も全財産を投資したりしています。

「偉大な企業は、ただ単に金儲けや市場で一番になることを超えて、もっと大いなる目的とか大きなビジョンを持っている」

「最大のビジョンとは、まさに最高のカスタマー・サービスを意味するザッポスというブランドを構築することである」

こういう観点からトニーはザッポスを作り上げていきます。(詳しくは本を読んでください)
もちろん最初からザッポスらしさがあったわけではありません。
ザッポスの成功は「企業文化」の構築にあったようです。

まず、10のコア・バリューを正式に定め、社員に浸透させています。(詳しくは本を読んでね)

私が好きなのは、「①サービスを通して「ワオ!」という驚きの体験を届ける」と「③楽しさとちょっと変なものを想像する」です。

人を採用する時もザッポス文化に合うかどうかをチェックします。
これはリンクエクスチェンジの時の失敗から学んだようです。
面接は二種類行い、面接を通過した人たちに四週間の研修プログラムがあり、この後働くかどうか決めさせるのです。

「企業文化と企業ブランドは本質的に一枚のコインの表と裏である」

他にも「ザッポス・カルチャー・ブック」とか顧客からのどんな要望にも応えるコールセンター、面白い見学ツアー、ザッポスの推薦図書などザッポスという企業の様子を伝えるものがあります。

アメリカ人は仕事と私生活をきっちり分けて考えると思っていたのですが、ザッポスの人たちは違います。
ザッポスの中に友人がいるのです。
昔のよき日本の会社文化みたいなものがザッポスにはあるようです。

こうしてザッポスは10年もしないうちに総売り上げが10億ドルを超したのです。

最後にトニーの信じる「サイエンス・オブ・ハピネス」理論が載っています。
この理論はビジネスでも応用できるとして、ザッポスの理念の根底をなしているようです。

「幸せは●自分で自分をコントロールすること
      ●進歩を感じること
      ●つながり
      ●ビジョンと意味
の四つできまる。」

読みながら、こういう企業で働くと楽しそうと思いました。
企業文化を構築するなんて、日本の企業では考えられないですね。
構築しようとしている企業があるそうですが、私にはどうも無理があるように思います。
若い経営者がつくったベンチャー企業などにはあるのかもしれませんね。

企業経営はできない私ですが、自分自身の働き方を考えさせられました。
「ワオ!」という体験、してみたいしさせてみたい、かな。

人の上に立つ人に是非読んでもらいたい本です。

*トニーのインタビューが載っていました。ここをクリック。