パオラ ・カルヴェッティ 『本のなかで恋をして』2011/07/06

イタリアの小説です。
とっても私好みの本でした。


まもなく50歳の誕生日を迎えようという時に、エンマは≪夢うつつ≫という本屋を開くことに決めました。
叔母の遺産で文具店を譲られたからです。
この本屋、普通の本屋ではありません。恋愛小説専門書店なのです。
ただ恋愛小説を置いてあるだけではなく、<傷心>、<手紙>、<愛の巣>、<とれたてのみずみずしい愛>などとコーナー名を決めて、その名にあった小説が置いてあるのです。
 
エンマは商才があるらしく、次々と夢を実現していきます。
中庭に面した管理人室が空くのを知ると、バールを開くことにします。
その名も≪夢のロカンダ≫。
「ロカンダ」ってイタリア語で「宿」という意味らしいです。

上の階が開くと、今度はホテルまでやっちゃうんです。
それも作家専用のホテルです。

う~ん、うらやましい。ホテルはやりたくないですが、本屋とカフェ、やりたいです。

これだけでも私の興味を引いたのですが、これじゃあ、普通の人にはおもしろくないですよね。
この本、恋愛小説なのです。

≪夢うつつ≫を開いてまもなく、エンマは『パリ 愛のバラード』という本のあいだから、蛍光イエローの小さな旗が突き出ているのに気づきます。
本のビニールが破られたようなので、値段のシールをはがすと、シールに緑のマーカーで名前と電話番号が書いてありました。
名前はエンマの知っている名前でした。
フェデリーコ。公立の理数系高校五年生の時につきあっていた男の子。
たまたま≪夢うつつ≫に入ったフェデリーコが、エンマに会いたくてしたことでした。

エンマには17歳の息子が一人いて、離婚していました。
フェデリーコは建築家で、今はニューヨークのプロジェクトを担当しているので、ニューヨークに妻と13歳の娘と暮らしています。

二人は私書箱を使い、文通することにします。

文通なんて、今の世の中でやっている人がいるのかしら?
そう思うでしょう。
実はエンマはメールが嫌いなのです。

二人の手紙が実にいいのです。
手紙の良さを忘れていました。
今のように、いつでも連絡が取れる時よりも、メールがなく携帯もない時の方が、ひょっとしたら恋愛が十分に育つ時間があったかもしれません。
今はお手軽な恋愛ばかりになってしまったのかも…?

本の中でフェデリーコが手掛けているニューヨークのモルガン・ライブラリーって、本当にあるんですね。


銀行家のJ.P.モルガンが1906年に膨大なコレクションを収めるために作った図書館で、世界に三冊しかない『グーテンベルク聖書』の一冊やレンブラントの素描、有名な音楽家の楽譜、著名人の直筆の手紙や原稿などがあるとか。
100周年を記念して、イタリアの建築家によって改築され、2006年に再オープンしたのだそうです。
古い建物とガラス張りの新しい建物とが美しいらしいです。
ニューヨークに行くことがあったら、行ってみたい場所です。