西條奈加 『隠居すごろく』2020/11/19



徳兵衛は巣鴨の糸問屋「嶋屋」の店主でしたが、還暦を過ぎたのを機に隠居生活に入ることにしました。
妻のお登勢は旦那さまが決めたのだからと反対するわけでもなく、全く味気のない態度です。隠居家には徳兵衛だけが入り、お登勢はいなければ差し障りがあるということで店に残ることになります。
徳兵衛は三十三年間を、商いは手堅く、表奥ともに節約を心掛け、自身も贅沢を戒め、ただ店のためだけに費やしてきました。
そのためきままに趣味に生きる暮らしを味わいたい。これまでの褒美として安穏な余生を送りたいというのが夢だったのです。

隠居家は巣鴨村の外れ、「嶋屋」からそう遠くない古びた百姓家にしました。
越してから釣りを始めましたが、三日でやめ、次は・・・と考えるのですが、如何せん、趣味道楽に熱中するさまを小馬鹿にしてきましたから、今から頭を下げるのも嫌ですし、この歳から始めたところで、さして上達するわけでもなく、笑われるのが落ちだと思うと、尻が重くなるばかり。
なんと徳兵衛はひと月で隠居生活に飽きてしまったのです。
気楽なひとり暮らしの邪魔をするなと言ってしまったため、嶋屋からは誰も訪ねてきません。
初めて寂しさを感じる徳兵衛。

そんな頃、息子の吉郎兵衛とお園夫婦の長男で、8歳となる孫の千代太が隠居家にやってきます。
孫の来訪に喜ぶ徳兵衛。
それから千代太は毎日やってくるようになります。
実は千代太には悪癖がありました。犬猫を次々と拾って隠居家に持ってくるのです。孫の悪癖を直すため、徳兵衛は孫におまえの気持ちは悪いことではないが、どうせなら人のために使ってみてはどうかと話します。

千代太が隠居家に来るには理由がありました。
もちろん徳兵衛のことを案じてはいるのですが、新しい手習いの女師匠と合わなく、お昼まで我慢し、その後、隠居家に来ていたのです。
考え抜いた末、手習いを半日にし、その後お店商いを学びに隠居家に来ることになります。
千代太は頭の良い子でしたが、徳兵衛の教えを逆手にとり、とんでもない厄介事を連れてくるようになります。

安穏な隠居生活もどこに行ったのやら。
次々と起こる難題にてんてこまいの徳兵衛でしたが、意外と充実した生活になっていきます。

小言の多い、短気なじいさんがだんだんと変わってきて、今度は人様のためにもうひと働きする様がほっこりします。
どの作品も間違いのない出来の西條さんです。

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