「Fukushima 50」&『死の淵を見た男』2021/03/27

ネットで「Fukushima 50」が観られるということなので、観てみました。
その時に原作本があることがわかったので、映画を観た後に読みました。
映画では描かれていなかったことが、本を読むとわかります。
読んでから観るか、観てから読むか、どちらでもいいでしょう。
でも映画は観なくても、本は読んでもらいたいです。


「Fukushima 50」の意味がわかりませんでしたが、これは事故発生時に発電所内に最後まで残り続け、対応業務に従事した約50名の作業員たちのことを、海外メディァがこう称したそうです。


映画では門田隆将の『死の淵を見た男』を元に、福島第一原発事故が起こった時の現場の様子をリアルに克明に描いています。

福島第一原発は大地震が起こり、大津波が押し寄せ、全電源喪失したため注水不能に陥ります。
原発は最大6メートルの津波に対する備えをしていたのですが、実際は14m以上の津波が押し寄せてきたのです。
当直長と運転員たちは放射線量増加の中、水流のラインをつくるため、原子炉建屋に突入して手動で給水系のバルブを開けました。
外では陸上自衛隊から派遣してもらった消防車を使って、運転員たちが決死の覚悟でバルブを開けたラインから水を注入していました。
しかしこのままでは圧力容器の圧が上がりすぎて、格納容器爆発が起こります。そうさせないためには原子炉を冷やし続けた上で、ベントをおこなわなければなりません。しかしベントをおこなうと、中の蒸気を外へ逃がすことになるため放射能汚染がおこります。そのため住民を避難させなければなりませんでした。

本によりますと、福島第一原子力発電所所長の吉田所長を始め、運転員や他の職員、自衛隊などが最悪のシナリオを回避するために奮闘していた時、首相や経済産業大臣等に対して意見し、助言する立場である原子力安全委員会委員長の斑目も東電から窓口として送られてきた武藤も「情報の断絶状態」に置かれていたそうです。
そのため原子力の専門家である彼らが原発の状況について説明できないことに首相が苛立ち、現地に行くことにしたようです。門田によると、首相には東電への拭いがたい不信感があったそうです。
吉田所長がきちんと説明したので、菅は納得し、すぐに帰っていきました。
どうみても東電側に問題がありますよね。
映画ではここのところをちゃんと描いていないので、首相がただの空気を読めない、ヒステリックな奴になっていました、笑。
同じように、東電が撤退したいといってきたという報告があり、首相が東電本店のオペレーションルームで怒り狂い、「撤退はありえない、撤退すると東電はつぶれる」などとわめく場面がありました。どうみても首相はヒステリックかつエキセントリックな人で、ただ現場を混乱させているように見えますね。
その時、吉田所長は俺たちが撤退するはずないだろうと怒り、スボンを脱いでお尻を出していましたが(本当にしたらしいです)、この時も「伝言ゲーム」をやっていたせいで、伝達ミスがあったようですね。
東電本店からの情報伝達が遅くて、不正確だったことは確かだったようです。
そういえば、吉田所長と伊沢当直長は実際の人の名前ですが、菅直人首相はただの総理大臣、斑目は小市、武藤は竹丸と名前が変っていますが、何か意図があるのでしょうか?

ありえないと思ったのが、無事になんとか原発を制御出来た後に、伊沢が家族に会いに避難所に行き、謝る伊沢を周りの人たちが慰労し、拍手をしたことです。
避難させられた人たちが東電社員に対して恨みさえしても、原発で何をしているかわからない社員に、良くやったと拍手をするでしょうか?
実際は避難所ではなく、伊沢が住む小さな地区の住民40人あまりの会だったようです。映画のために作り過ぎちゃったのかしらね。
アメリカ軍の「トモダチ作戦」の描き方には笑っちゃいました。
あまりにもお粗末です。こんな描き方なら別に入れなくてもよかったんではないでしょうか。
危機を脱したところまでで終わるなら、感動的だったのにおしいと思いました。
後は蛇足ですね。(だから作品賞が取れなかったのかな、笑)
そうそう映画の主役が伊沢役の佐藤浩市だそうですが、私には吉田役の渡辺謙の方が主役に見えました。

事故当時、真実が知らされていなかったので、とんでもないことが起こっているということを私たちは知りませんでした。
福島にある放射性物質の量はチェルノブイリ四号炉の十倍以上で、格納容器が爆発していたら、避難対象が半径250㎞(東北と関東全部に相当)、人口3000万人が退避しなければならなかったのです。
近頃、制御できたのではなく、幾つかの偶然が重なって最悪の事態を回避できたと言われています。運がよかったとしか言えませんね。

映画を観て、現場で命を賭けて頑張ってくださった人たちには感謝の念で頭の下がる思いになりました。
戦前、福島原発のあるところに盤城陸軍飛行場があり、戦争末期には特攻の飛行訓練がおこなわれていたそうです。
現場で闘う人たちと特攻隊員の姿が重なります。

この事故は自然に対する人間の驕りや慢心から起こったように思います。
どんなに科学技術が進もうが、最近次々と起こる自然災害の状況をみてわかるように、人間は自然には太刀打ちできないのです。
何事も最悪のことを考え、備えなければなりません。その備えをきちんとしていなかったことから人災だとも言えますね。

本の中に1999年に起きた茨城県東海村での臨海事故の話が出てきたので、蛇足ながらお勧めの本を載せておきます。
NHK「東海村臨界事故」取材班 『朽ちていった命ー被爆治療83日間の記録ー』です。


是非、『死の淵を見た男』と一緒に読んでみてください。