中島京子 『ムーンライト・イン』2021/04/16



野宿のできない大雨の中、栗田拓海が辿り着いたのが一軒の建物。
「NN」を「INN」だと思い、ベルを鳴らすと、出てきたのが一人の外国人女性。
つっけんどんな態度の彼女に追い返されそうになった時に一人の老紳士が現れ、屋根を直してくれるんなら泊まってもいいと言われます。

その建物は元ペンションで、高齢の家主・中林虹之助と彼の知り合いで車椅子の小柄な老女・新堂かおる、元介護士で主に家事全般を担当している津田塔子、日本に介護福祉士になろうとして来たフィリピン人のマリー・ジョイとが共同生活をしています。
翌日、拓海は屋根を修理中に屋根から落ちて歩けなくなってしまい、しばらくそこで暮らすことになります。
最初は拓海を胡散臭そうに見ていた三人の女性たちですが、彼女たちにはそれぞれそこで暮らすしかない事情がありました。

人が生きていく上で避けられない親子問題と介護問題、介護の仕事でありがちなセクハラや職業蔑視、外国人差別、セクシュアリティなどを、シリアスになり過ぎない、よい塩梅で書いてあります。

男女差と言ってしまうと問題がありますが、あまりにも出てくる男性たちが情けなかったですねぇ。
女性たちはウジウジ悩んでも、良くも悪くも最後はキッパリ決めてましたよ。
マリー・ジョイが特にいいです。

ムーンライト・インはムーンライト・フリット(夜逃げ)してきた人たちが、一時羽を休ませる場所。
訪れた人にとっては、拓海の言うように実家みたいな場所。
旅立った先に幸せがあるといいね、と思えるお話でした。