「サウンド・オブ・メタル―聞こえるということ」を観る2021/05/08

2019年に公開され、第93回アカデミー賞、編集賞と音響賞を受賞した作品です。
(ネタバレあり)


ドラマーのルーベン・ストーンはトレーラーハウスでアメリカ中を移動しながら、恋人のルーと組んだバンドでライブ活動をしながら暮らしていました。

ある日、急に耳が聞こえなくなります。
病院で聴覚検査をしてみると、最大音量にしても右耳29%、左耳24%しか聞き取れていません。
医師は急激に聴力を失いつつあり、失った聴力は戻らない、今の聴力を維持するだけだという診断をくだし、大音量にさらされるような環境から遠ざかるようにと言います。
人工内耳を埋め込むこともできますが、保険がきかず、4万から8万ドルするそうです。

ライブの後、ルーベンはルーに耳が聞こえないことを告白します。
ルーはツアーを止めようと言いますが、ルーベンは聞き入れません。
自暴自棄になったルーベンを見て困ったルーは知人に相談し、ミズーリ州にある聴覚障害者の支援グループを紹介してもらいます。

施設ではジョーが迎えてくれました。
ジョーはルーベンにドラッグ依存症かどうか、もしそうなら耳が聞こえなくなってから使おうと思ったか聞きます。
ルーベンは4年前からルーと付き合いだし、彼女のおかげで薬と縁が切れたのでした。
ジョーは自分のことを話します。彼はアルコール依存症で、戦争で聴力を失い、妻も子も失ったのですが、それは耳のせいではなく、酒のせいだったと。
ジョーはここで暮らしながら手話を学んで生活の基盤を作るべきだとアドバイスしますが、一人で施設に入らなければならないということがわかった時点でルーベンはジョーの申し出を断ります。
しかし翌朝、ルーはルーベンを残し、父親の元に行ってしまいます。

仕方なく施設に入ることにしたルーベン。
車のキーも携帯電話も預けなければなりません。
みんなに紹介されますが、手話がわからないので、何を言っているのかわかりません。食事の時も、みんなが楽しそうに何を話しているのかわかりません。
この施設ではそれぞれにやるべき仕事が与えられ、ルーベンはろう者の生活を学ぶように言われます。

自分が何をしたらいいのかわからないルーベンは、頼まれてもいないのに屋根を直してしまいます。それを見たジョーがやってきて、課題を出します。
朝5時に指定された部屋に行き、そこでジッと座っているという課題です。
ジッとしていられない時はテーブルに紙とペンがあるから、自分の気持ちを書いていくのです。

やがてルーベンは指文字を覚え、子どもたちと親しくなり、食事の時にはみんなと話せるようになります。
そんなルーベンにジョーは、将来この施設で彼のプログラムや学校の手伝いをして暮らしていかないかと提案してきます。
しかしルーベンはまだ望みを捨ててはいませんでした。

ルーベンは隠してあったキーを使い、車と車の中にあった機材を売り払いお金を作り、インプラント手術の予約を取ります。
手術後、施設に戻ったルーベンにジョーは言います。
「君は静寂の瞬間を感じることはあったかい。その静寂こそ心の平穏を得られる場所だ。その場所は決して君を見捨てない」と。
「難聴はハンデではなく、治すものではない」というのがジョーの信念。
ルーベンはジョーの信頼を失ったのです。

四週間後、耳に音を入れにいきます。
医師はこの音に慣れるようにと言います。

ルーベンはルーに会いに行きます。
ルーは父親との関係が改善し、ルーベンと一緒にいた頃とは全くの別の環境に身を置くようになっていました。

ルーと過ごした翌朝、ルーの家を出て、一人ベンチに座り、周りの音を聞くルーベン。
機械を取り外し、やっと訪れる静寂…。


人間の目や耳は優秀で、見たいものを見、聞きたい音を聞くといいます。
人工内耳は全ての音を拾ってしまいますから、さぞ五月蠅いでしょうね。
ルーベンは最後にやっとジョーの言った言葉がわかったのではないでしょうか。
世の中音が氾濫していますものね。
静寂に身を置くことで、自分と向き合えますから。
一人になり、ルーベンはやっとろう者として、自分の人生を歩んでいこうという覚悟ができたのではないでしょうか。

ルーベンス役の人を見るのは初めてでしたが、なかなかよかったです。
ジョー役の人の両親がろう者で、彼はコーダだそうです。だから演技が自然だったのですね。
ルーの最初と最後が違いすぎて、おんなじ人!と思いました、笑。

題名に「聞こえるということ」が入っていますが、これ、いらなかったですね。
いつも思うんですが、なんでテーマと合っていない題名がつけられていることが多いんでしょう。
この映画は「聞こえる」ことよりも「聞こえないこと」が主題のように思いますけど。
「サウンド・オブ・メタル」だけだと音楽系の映画だと勘違いされちゃいそうだからかしら?

今ならamazon prime videoで無料で見られますので、観てみてください。