篠田節子 『田舎のポルシェ』2021/07/02



車に乗って行く2、3日の間の出来事を描いた短編小説3篇。

「田舎のポルシェ」
田舎の人がポルシェに乗っていてもいいのに、わざわざ「田舎の」とつけたのは何故かしらと思ったら、軽トラックのことでした。
軽トラックに「農道のポルシェ」と呼ばれていたものがあったそうです。
スバルが生産していたリアエンジン・リア駆動のRR車の「サンバー」です。
ポルシェと同じ駆動方式だったので「農道のポルシェ」と呼ばれていたのですが、今は生産されていないようです。
なにしろ軽トラックですからねぇ。違いはわかる人にしかわかんないでしょうね。

若い頃東京の実家から飛び出し、今は岐阜の郷土資料館で働く増島翠は、実家で獲れた米百五十キロを引き取らなければならなくなり、友だちの知り合いにハイエースで運んでもらうことにします。
しかしやって来たのがなんともショボい軽トラック。
さらに運転していたのが、坊主頭でツナギを着て、金の鎖が喉元からのぞいている瀬沼という男でした。
ヤンキーか?
不安に思う翠でしたが、話を聞くと意外と苦労人です。
間の悪いことに大型台風が近付いています。
果たして無事に帰ってこれるのか…。

「ボルボ」
ボルボはボルボでも廃車寸前のボルボです。

定年間近に勤めていた印刷会社が潰れ、今は妻に養われている斉藤克英と非鉄金属メーカーを退職した伊能剛男は、妻同士がスポーツジムで知り合ったことから夫婦で食事をする間柄になりました。
イタリア料理屋で、妻たちが席を外した数分間で意気投合し、ボルボに乗って北海道旅行に行くことになります。
伊能は愛車との最後の旅に、学生時代を過ごした北海道を選んだのです。
男二人の気楽な旅だったはずが、だんだんと不穏な旅へと変っていきます。

「ロケバスアリア」
デイサービスセンターに勤める畔上春江は、緊急事態宣言のためすべてのイベントが中止になった地方都市の音楽ホールが一般開放され、破格の値段で貸し出されることを聞き、一大決心をします。
憧れのオペラ歌手・宮藤珠代がリサイタルを開いた湖月堂ホールを借り、彼女が歌った曲を歌い、記念DVDを作ろうと。
孫の運転するロケバスに乗り、孫が頼んだ制作会社のディレクター・神宮寺と共にホールに行きますが…。

同じ車に乗れば、一蓮托生、笑。
「ボルボ」ではいくらなんでもそれは…、ということもありますが、「田舎のポルシェ」は後味よく、その後を期待してしまいますし、「ロケバスアリア」はそんな理由があったのかと納得しました。
ほどよくユーモラスで、少し社会問題も詰め込み、最後はしんみりさせ、篠田さんはうまい作家さんですね。

トリミング2021/07/03

月に一回のトリミングに行ってきました。
朝、雨が降っていたのですが、トリミングに行くときには晴れていました。
地面が濡れているので、抱いていこうかと思っていたら、兄が歩きたくてウズウズして落ち着かなかったので、歩かせました。

今回は初めてのトリマーさんです。どうなるのか楽しみでした。


トリミングに行く前はこんな感じでした。
トリミング後は…。


可愛くなったでしょうか?
二匹は相変わらず近寄らないので、困ります。


お尻が上がっているのは何故?
兄に攻撃されてもすぐに逃げられるようにと考えているのかしらね。


スッキリしました。


耳の毛が今回は短いです。


兄はカッタルそうです。


気に入らないところがあったら、前のトリマーさんが直してくれると言われましたが、特に直す必要はないようです。
毛が短いので直しようもないですけどね、笑。


弟は舌を出す姿が可愛いです。

トリミングした後に写真をもらうのですが、兄はいつもお座りしておすまししています。


弟はふせをして耳を下にさげていて、誰がわかりません。
おかしいですねぇ。


見てください。こんなんではどこの犬かわかりませんよね。

時代小説、4冊2021/07/04



五十嵐佳子 『むすび橋 結実の産婆みならい帖』
江戸時代の産婆さんの仕事はどんなものだったのかと思い読んでみましたが、あまり昭和の産婆さん(私の祖母)と違ってはいないようです。

幕末の江戸で、21歳の山村結実は祖母・真砂の指導の下、産婆見習いとして働いています。
真砂は母方の祖母で、産婆として四十年以上も赤ん坊をとりあげていました。
結実は十四歳から真砂の家に同居し、ひとつ年上のすずとともに、産婆になる修行を続けています。

結実の実母・綾は安政二年の地震で亡くなっており、結実は叔母の絹と真砂に育てられました。
絹は綾の夫だった医師の山村正徹の後添えに入り、結実の義母になり、後に弟の章太郎が生まれました。
結実が産婆になろうと決めたのは母の死と関係していました。

出産は命がけと言われ、今よりもずっと出産で亡くなる母と子が多かった時代に、様々な事情を抱えた母子の出産に立ち会い、若い結実は何を思うのでしょう。
結実の産婆としての成長物語です。

髙田在子 『まんぷく旅籠 朝日屋 なんきん餡と三角卵焼き』
元火付盗賊改の怜治に拾われ、旅籠「朝日屋」で板長・慎介の下で働くことになったちはるですが、困っていました。
というのも、仲買人の哲太が魚を売ってくれないからです。
彼のところの魚はとっても生きが良く、立派なのです。
どうも慎介と哲太の間に何かあるようです。
その他にも百川の料理人に朝日屋はしょせんは旅籠で「百川と同じ土俵にあがれると思うな」と言われるし…。
前途多難?

怜治とちはるは評判を呼んだ『玉手箱』を改良していくことにします。
さて、料理はみんなに気にいってもらえ、旅籠にお客が来るのでしょうか。

鷹井伶 『お江戸やすらぎ飯 芍薬役者』
大火事で7歳の時に親とはぐれた佐保は吉原の郭で育ち、今は医学館で賄い手伝いをしながら、病人のための料理人になるべく勉学修行中です。

佐保は白丸屋の娘・お鶴に誘われ、澤田夢之丞のが八重垣姫を演じる芝居見物に行くことになります。
そこには幼馴染みの颯太が女と一緒に来ていました。
颯太は夢之丞と懇意な間柄で、夢之丞の具合が悪いのを心配していました。
夢之丞は医者嫌いなので困っていましたが、たまたま父を診てくれた瑞峰が大見世玉屋にやってきたので、相談すると、佐保を行かせてはどうかと言われます。
さて、佐保は夢之丞に何を食べさせるのでしょうか。

吉原で火事が起こり、身請けが決まっていた花魁・玉紫が大やけどをしてしまいます。身請けの話もこれまでかと思われたのですが…。
一方佐保は吉原の火事をきっかけに両親のことを思い出します。
そして…。

鷹井伶 『お江戸やすらぎ飯 初恋』
失った記憶を思い出し、父と再会した佐保。
武家の娘であることがわかり、周りは戸惑っています。
そんな頃、また芝居見物に行くことになります。
行くのは稀代と瑞峰、元堅、佐保、そしてお旗本のお嬢さま。
そうです、元堅のお見合いです。

耕三郎の妻を奪い、彼の右手を切り落とした仇が現れます。
耕三郎はその仇の看護をすると言い出します。
彼の真意は…?

「初恋」ですから、もちろん佐保は胸キュンしますが、それは恋と言えるかどうか…という淡い思いです。

なんか父親との再会があっさり過ぎて、もっと膨らませてもいいんじゃないのと言いたくなりました。
それに元堅や颯太の恋も上手くいかなくて、こういう時代小説には珍しいパターンです。
薬膳料理もあまり美味しそうに見えないですねぇ。あ、当たり前か。

というわけで、一番のお勧めは『むすび橋』です。
江戸のお産婆さんの話でも読んでみようかしらと思ったら、どうぞ。



この頃、甘えん坊になった兄。
今朝も部屋から逃げ出してママの所に来ました。
部屋に帰すと、また出ようとします。
逃げ出せないようにしていたのですが、もう大丈夫かと思って油断していると、ちゃんと違う逃げ出せるところを探します。
犬は人間の二三歳の知能があると言われていますが、意外と頭がいいですね。

「星の旅人たち」を観る2021/07/05

コロナ禍で旅行に行けないので、映画で行くことにしました。
「ノマドランド」ではアメリカンの広大な土地を堪能しましたが、今度はスペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の旅、800㎞の旅です。
簡単に言うと、日本のお遍路みたいなものかな?

監督はエミリオ・エステベスで、主役を演じるのが実の父、マーティン・シーン。
エミリオも息子役で出ています。
ここの家族は俳優一家で、チャーリー・シーンはこの頃映画で顔を見ていませんが、エミリオの弟です。


カリフォルニアで眼科医をしているトム・エヴリーが友人とゴルフをしている時に電話がきます。
世界を見たいと言って旅に出ていった一人息子のダニエルが、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の初日に、ピレネー山脈で嵐に巻き込まれて亡くなったというのです。
トムは遺体を引き取りにスペイン国境に近いフランスの町、サン・ジャンに行きます。
汽車でトムは息子との会話を思い出していました。

前にトムはダニエルに二人で旅に行こう、親子の旅は楽しいよと言われていました。それなのにトムは冷たく「普通の人はフラッと旅になんか出ない」と言ったのです。
ダニエルは「人生は選ぶんじゃない、生きるんだ。ジャッジしないでくれ」と返していました。

駅には3回巡礼の道を歩いたという警官・セバスチャンが迎えに来ていました。
モルグで息子と対面し、彼の巡礼手帳とバックパックを渡されます。

レストランで座っていると、ヨストという若者が相席してもいいかと聞いてきます。
彼はトムが汽車にいたのを覚えており、自分は兄の結婚式まで痩せて妻と主治医を喜ばせたいから巡礼の旅に出るのだと話します。

その夜、バックパックの中を見ているうちに、トムは息子が辿れなかった巡礼の道を歩いてみようと思いつきます。
次の日、セバスチャンのところに行き遺体を火葬してもらい、彼に"The Way”を歩くとトムは言います。
60歳を過ぎてトレーニングもしていないのに歩くのは無謀だと言われます。
しかしトムは一人ではない、息子と二人で歩くのだと言います。
四国巡礼は同行二人、弘法大師が共にいてくれると言いますが、トムの場合は息子なのですね。

トムが出発するときにセバスチャンは見送りにきてくれます。
息子のために"The Way"を歩くというトムにセバスチャンは道は自分のために歩くものだと言い、クルス・デ・フェロで役立つからと言って石をくれます。
実はセバスチャンも息子を亡くしていたのです。

トムは息子の遺灰をまきながら歩き始めます。

途中で前に会ったヨストに再会し、トムにからんできたカナダ人女性・サラやアイルランド人の作家・ジャックと出会い、成り行きで四人で一緒に歩くことになります。

サラは煙草を止めるために、ジャックは小説を書くために歩くと言いますが、トムは頑なに歩く理由を明かそうとはしませんでしたが、口が軽いヨストが他の2人に話してしまいます。

ある日、エル・シドの墓があるというカセドラルの入り口にトムが不用意に置いたバックパックが盗まれてしまいます。
しかし盗んだ子供の父親が戻しに来ます。
彼はダニエルの遺灰をムシーアにあるバルカ聖母教会まで持って行き、そこで海にまくといいと教えてくれました。

ダニエルたちは聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラに向けて歩き続けます…。


聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまでは800㎞ですから、約一ヶ月かかるそうです。
ちなみに四国巡礼は1200㎞です。
四国の場合は山道と言ってもそれほどたいしたことなさそうですが、この巡礼の道はピレネー山脈を超えなきゃならないそうですから、超えるまでがちょっと大変そうです。
嵐の時はダニエルのように命を落とす人がいるのでしょうかね。
宿泊施設でみんなでテーブルを囲み、ワイン片手に楽しく食事をする様子がとてもよかったです。
巡礼だからとかまえずに、楽しみながら歩いて行こうという感じ、信仰のためというより、観光目的の人の方が多そうです。
巡礼の三種の神器というのがあり、ホタテ貝と瓢箪、杖だそうです。
ホタテ貝は聖ヤコブの象徴で、巡礼者であることを表すもの、瓢箪は水筒の役目、杖は長い道のりを歩く道中の身体の支えになります。
日本では遍路用品が色々とあり、お金がかかりそうですね。
もっと気楽に出来ないものかしら…。

トムはこの巡礼の旅に味をしめ、旅に出るようになったようです。
旅に出られるようになったら、この道を歩いてみるのもよさそうです。
スペインにはまだ行ったことがないので、ポルトガルと一緒に行きたいです。

そうそう、原題が"The Way”なのに、なんで「星の旅人たち」なのかしらと不思議に思いました。
息子の死を扱っていますが、深刻な映画ではなく、十分に旅の醍醐味を堪能できる映画ですので、スペインワイン片手に気楽にお楽しみください。
大きい画面で観るといいですよ。私はパソコン画面で我慢していますが。


夜中の三時過ぎにママが目を覚ますと、やってくる兄犬。
それから一緒に5時過ぎまで寝ます。


この頃、妙にかまって欲しがります。
今朝も僕、部屋に帰るの嫌ですと、このようにふせをして居座っていました。


弟はトリミングのせいか、顔がちょっと変ってきました。
おじさんの顔になっています。
8月には7歳、人間では44歳になります。立派にオヤジです。

桐野夏生 『インドラネット』2021/07/06

「インドラネット」とは、「帝釈天(インドラ)の宮殿をおおうといわれる網。この網の無数の結び目のひとつひとつに宝珠があり、それらは互いに映じ合って、映じた宝珠が更にまた互いに映じ合うとされることから、世間の全存在は各々関係しながら、しかも互いに障害となることなく存在していることにたとえる」。
                   (『精選版 日本国語大辞典』より)


八目晃のところに実家の母から電話が来ます。
野々宮空知の父親が亡くなったというのです。

空知は高校時代の唯一の友人でした。
頭が良く、運動神経抜群で、ものすごく美しい容姿をしていました。
晃は何も取り柄のない自分に空知は釣り合わない、もったいない友だちだと思っていましたし、周りにもパシリとかゲイとか揶揄されていました。
高校卒業後、空知は美術大学に行き、大学半ばで突然アジアに旅立ってしまい、それ以来どこで何をしているのかわかっていませんでした。

空知や彼の姉妹、橙子と藍にもう一度会いたいと思い晃は通夜に行きます。
ところが通夜には空知も橙子も藍もいません。
母親によると空知は四年前にホーチミンにいたようですが、その後カンボジアに行ったらしいのです。
通夜は人が少なく、早々に引き上げて駅に向かって歩いていると、通夜振る舞いの席にいた男に話しかけられます。
彼は安井と名乗り、橙子の元夫で、彼女の無事を確かめたいから、往復の費用は出すので、まずは空知を捜し、空知経由で橙子と藍を捜し出してくれないかと頼まれます。

家に帰りカンボジアの物価を調べ、三ヶ月程度なら滞在できるとは思うのですが、中途半端すぎると諦めたところに、非正規雇用で働いている会社からメールが届きます。
女性の同僚から晃の発言が差別的だと告発されたのです。
頭にきた晃は会社を辞め、空知を捜しに行こうと思い、安井と会います。
安井は渡航費と滞在費と会わせて70万を出すと約束したので、晃は会社を辞め、カンボジアに行くことにします。

それから数日後、野々宮の母から連絡が来ます。
家に行くと、三輪という男がいて、彼は藍のマネージャーだったと言い、滞在費の助けに10万、藍を見つけたら成功報酬20万を渡すと言います。
お金に目がくらんだ晃は三輪の申し出も受けることにします。

根が怠惰な晃はお金も入ったことだし、少しはカネと時間を無駄に使う生活を楽しんでもいいんじゃないかと思い、ゲーム三昧の生活を始めます。
二週間が過ぎた頃、三輪がアパートまでやって来て、一週間以内に出かけなかったら、手足を折って目を潰してやろうかと脅されます。
その剣幕に驚いた晃はやっと重い腰を上げます。

海外旅行などしたことのない晃はカンボジアのことを事前に調べることもなく、飛行機に乗ってしまいます。
隣の座席に座っていた吉見という女性に押しまくられ、彼女の紹介する宿に泊まるハメになり、おまけに宿でなけなしのお金を盗まれてしまい、吉見がお金を盗ったのではないかと疑う始末。
たまたま親切な鈴木という女性が助言してくれたので、宿泊していたゲストハウスでバイトとして雇ってもらえることになります。

ゲストハウスに来た吉見にお金のことを聞き、カンボジアに来た理由を話し、空知たちの写真を見せると、彼女は橙子を見かけたと言い、彼女の消息を聞いてやるから金をくれ、果ては安井に直接交渉をするとまで言い出します。
しばらくして吉見から連絡が途絶えたので、電話をしてみると、知らない女が出て、吉見が亡くなったと言われます。
はたして偶然なのか…?

インスタグラムに空知が二年前に亡くなったという投稿がありました。
その後、藍から兄は死にました、日本に帰ってくださいという投稿が…。

本当に空知は死んだのか?
自暴自棄になり酒を飲んだ晃はスマホを盗まれそうになり、昏倒し…。

読んでいて晃のゲスっぷりにイライラしてきました。
自分で自主的に動けず、依存ばかりしているくせに、自分の不幸を他人、特に女性のせいにするなんて、とんでもない奴です。
なんで空知はこんな男と友だちになったのでしょうね。
晃は空知にしたら自分にまとわりつく犬っころを可愛がるみたいなもんだったのかしら?
人に裏切られ騙され続けて、誰が敵か味方かわからなくなり、やっと自分の馬鹿さ加減がわかったようです。
空知たちの生い立ちやカンボジアの歴史と現状を知り、真剣に空知を捜し始めた当たりから、やっと普通の人に近づいていきます。
まあ、空知に会いたいという思いの強さには感心しましたけど。

最後が予想がつかなくて、エーという感じで終わりました。
桐野さん曰く、できあがったのは「究極の愛」の物語だそうです。

カンボジアの猥雑さを感じながら、晃のカンボジアの旅を楽しんでください。
楽しめないかもしれませんが、笑。


今週のおやつ。


缶が可愛くて、これは使えそうです。
そろそろ病院に行かなければならない時期なので、お菓子は食べないようにしないと…。

喜多喜久 『科警研のホームズ (1)~(3)』2021/07/08



このシリーズの三巻目を間違って読んでしまい、仕方ないので一巻から読み直しました。
一、二巻は舞台が科学警察研究所・本郷分室で、三巻は東啓大学理学部・寄附講座『科学警察研究講座』という違いがあります。

科捜研というのは聞いたことがありますが、科警研って初めてでした。
科学捜査研究所(科捜研)は各都道府県の警察本部の付属機関で、科学捜査の研究及び鑑定を行います。
科学警察研究所(科警研)は警察庁の付属機関で、主に捜査の手法や犯罪予防などの研究活動を行います。

科学警察研究所・本郷分室に三人の研修生がやってきます。
北海道警の北上純也(26)と兵庫県警の安岡愛美(26)、埼玉県警の伊達洋平(28)です。
北上は上司から強引に研修を受けるように説得され、安岡は技術を磨くため、伊達は科警研入りを狙ってこの研修を志望しました。
室長は土屋で、かつては科警研の研究室長をしていた、鋭い洞察力と推理の切れ味から「科警研のホームズ」と言われている人です。
しかし誤認逮捕をしたため科警研を辞め、今は東啓大学の理学部准教授をしています。
実はこの分室は、現在の科警研の所長の出雲が、土屋を科警研に呼び戻すために作ったものだったのです。

土屋は研究に夢中になると、興味のないことは忘れてしまいます。もちろん無理矢理押しつけられた研修生のことも頭にありません。
仕方ないので、出雲は研修生たちに未解決事件の捜査に協力するようにと指示を出します。土屋の方は君たちに任せたと丸投げですけどね、笑。
三人は自分たちの得意分野を生かして捜査に挑みます。
土屋の出番は彼らが行き詰まった時です。
「科警研のホームズ」というのも伊達ではなく、彼らに的確なアドバイスを与え、事件解決へと導きます。(『科捜研のホームズ (1)』)

研修は一年の予定でしたが、もう一年延び、今度は出雲ではなく、自分たちで「解決が困難な、不可解で難解な案件」すなわち「面白そうな事件」を選定し、調査することになります。(『科警研のホームズ (2) 毒殺のシンフォニア』)

一、二巻はこんな感じで進みます。
私が最初に読んだ三巻は、場所が大学に変ります。
なんでこうなったかというと、分室には専用の実験機器がなくて不便なので、実験機器のある大学の講座にしようとなったそうです。
今度は丸投げできないなと思ったのですが、講座の責任者は土屋ですが、北上が大学の派遣研究員になっていて、学生の指導は北上がするようです。
北上は講座の正式なスタッフじゃなく、研究室の運営には関わっていないのに、土屋がしないから学生の指導をするのです。
詳しい事情が書いてありませんが、たぶん土屋を諦めきれない出雲が北上に土屋の代わりにやるように圧力をかけたのでしょうね。

『科学警察研究講座』のメンバーは四年生二名、派遣研究員一名です。
四年生のメンバーは東啓大理学部化学科の松山悠汰と分子生物学科の藤生星良です。
松山は父親が科学捜査を題材にした海外ドラマのファンで、中学校の頃から科捜研系のドラマを見ていたので、科学捜査に関するテーマを扱う研究室というのに興味を持ち、この研究室に入ろうと思いました。
そんな簡単な理由でいいのかと思いますが、結構彼、向いているようです。
藤生星良は将来科捜研に就職するつもりだと言っていますが、隠れた理由がありました。(『科警研のホームズ (3) 絞殺のサイコロジー』)

短編なので、読みやすかったのですが、物足りなく感じました。
土屋がオブザーバー的立ち位置だからかもしれません。
三巻目で唐突に大学生が主人公になり、どうなっているのという感じですし、なんで北上が研究員になったのか、気になってしょうがありません。
四巻目もあるとしたら松山と藤生は大学院生になっているでしょうね。
そろそろ土屋が動いてくれないかしら。

遊びが大事2021/07/09



紫陽花も終わりに近付き、枯れてきています。


この頃梅雨というより豪雨になっていて、災害が増えています。
十分お気をつけてお過ごし下さい。
ハザードマップを見ておくといいかもしれません。
水害に関しては家はなんとか大丈夫そうですが、すぐ近くまで水がやってきそうです。
これ以上災害がないことを祈っています。

<今日のわんこ>


弟は遊びに命を賭けていますから、手を絶対に抜きません。
疲れすぎて後ろ脚が…。


兄は疲れるまで遊びません。
遊びを適当に終わらせ、床をクンクン嗅ぎ回り、落ちている食べ物を探します。
写真を撮ろうとすると、いつもこうやって険しい顔をします。
笑ってくれるといいのにね。

柚月裕子 『月下のサクラ』2021/07/10



『朽ちないサクラ』の続編ですが、読んでなくても問題ないです。
私はすっかり内容を忘れていて、読み終わっても思い出せませんでした、笑。

森口泉は米崎県警に事務職として採用されましたがその後、警察官採用試験を受け、四年前に警察学校に入学しました。
交番勤務を一年経験し、所轄の交通課で実績をあげ、刑事講習を受け、県警本部刑事部捜査二課、知能犯係に配属されました。
それから一年が経ち、県警の捜査支援分析センターで人員の補充があると聞き、志望しますが、実技試験で失敗してしまいます。
しかし実技試験の試験官であった係長の黒瀬が泉を強く推薦したため合格となり、センターへ異動となります。

センターのメンバーは黒瀬を筆頭に最年長の市場哲也、日下部真一、春日敏成、最年少の里見大の5名です。
初っぱなから泉は春日に「スペカン」と言われます。
「スペシャル捜査官の略」で刑事になり県警に配属されたのも、センターのメンバーになったのも、強い引きがあったから、特別扱いという意味だというのです。
泉は精いっぱい努力をしていたのに、それなのにそう揶揄されたのです。
自分は与えられた仕事をするだけだと気持ちを新たにする泉でした。

着任早々、当て逃げ事件の捜査を始め、目途が立った頃に、とんでもない事件が起こります。
会計課の金庫から一億円相当の金が盗まれたというのです。
メンバーたちは総出で捜査を開始します。

金の紛失直前に早期退職をした元会計課の課長が、事件に何らかの形で関わっているのが明らかになってきますが、その彼が謎の死を遂げます。
その影には公安の存在が…。
黒瀬は何か引っかかるようですが、それをメンバーに明かしません。
そんな彼に泉は迫ります。

新人の泉が体当たりで事件に挑みます。
彼女の強みは記憶力と強い正義感です。
男社会の警察組織の中で、劣等生とかスペカンとか言われても、頑張ってやっていきます。

読んでいて恐ろしく思ったのは、如何に私たちの日常生活は見張られているのかということです。
GPSやNシステム、防犯カメラなどを辿ると、どこで何をしていたかということがすぐにわかってしまうのです。
悪いことはできませんわ、というかする気もないですけど、笑。
このシリーズも映画かドラマになりそうですね。

次作は捜査支援分析センターのメンバーたちが一団となって事件に挑み活躍する姿を読みたいものです。

柳瀬みちる『神保町・喫茶ソウセキ文豪カレーの謎解きレシピ』&春河35『文豪ストレイドッグス 1~2』2021/07/11

たいした意味はないのですが、文豪繋がりということで、この本と漫画を一緒に紹介します。


表紙からおわかりのように、軽いミステリーです。

元フレンチのシェフ・千晴は神保町の一角にある四階建ての雑居ビルの一階東側で≪喫茶ソウセキ≫を開店する。
もちろん店名は大文豪・夏目漱石から。
開店してから七日目、お客は少なく、誰もいない時間帯もある。
生まれてから26年の人生で「間違っていなかった」ことが一度でもあっただろうかと思う毎日。
目玉は「漱石カレー」。
神保町でカレーを出すなんて、とんでもないこと。美味しいカレー屋が軒並みですから。
それなのに何故と聞かれると、大家さんからふたつ出された条件の一つだからとしか言いようがない。
「夜遅くまで営業すること」と「カレーを出すこと」の二つを守れば、破格の賃料で貸してくれるというのだ。

そんなある日、店に小説家・葉山トモキがやってきて、漱石カレーを食べ、「このカレーの、どこがどう『漱石』だ」とつっこむ。
そのため千晴は店に置いてあった『三四郎』を読む羽目になる。
この本は千晴の母の形見だった。
本の中にレシートが入っていて、誰かの書いた手紙らしき文が…。

また葉山が現れる。
彼は『三四郎』を読み始めた千晴に漱石関連の資料を貸そうと言い、連れて行かれたのが、同じビル内の4階。
葉山が「カレーを出すこと」という条件をつけたオーナーだったのだ。

レシートから始まる謎解きの合間に次々と新しいカレーをあみ出す千晴です。
「漱石カレー」以外に「百閒カレー」、「子規カレー」、元は「石油カレー」ですが美味しくなさそうなので、名づけて「エラリー・クイーン風ラム肉のカレー」など。
各作家の著書の中にカレーのことが載っているらしいので、内田百閒や正岡子規、エラリー・クイーンのファンの方はカレーの中身の推理をしてから読むといいかも。

思っていたよりも面白いミステリーでした。
シリーズにするとなると、カレーのことを書いている作家さんは他にいるかしら?


文豪ストレイドッグス」は「現代横浜を舞台に、中島敦、太宰治、芥川龍之介といった文豪たちが繰り広げる異能アクションバトル漫画」だそうです。
賛否両論の意見がある作品のようですね。
文豪をこんな風に使うなんて、けしからんと思う人もいるのはわかります。
私なんか、文豪たちをこのようにキャラクター化するという発想が面白いと思うのですが、不謹慎でしょうか?

孤児院を追われた青年・中島敦は餓死寸前のところ、川の中で流されている男を助ける。その男は自殺をしようとしていた太宰治だった。
そこに太宰を探しに国木田独歩がやってきて、太宰がお金を持っていなかったので、国木田に茶漬けを奢ってもらう。
彼らは荒事が領分の異能力集団「武装探偵社」のメンバーで、今請け負っている仕事は人食い虎探し。
敦はその虎のことを知っており、敦から話を聞いた国木田は虎捜しを手伝わないかと言い出す。
お金に目のくらんだ敦は手伝うことにするのだが…。

表紙の一番目立つのが主人公の中島敦で、その隣の長いコートを着たのが太宰治、左上の眼鏡が国木田独歩です。
中島敦が可愛すぎですね。
キャラクターごとに異能があり、中島敦は「月下獣」という、非常に大きな白虎に変身する異能で、太宰治は「人間失格」という、直接触れたありとあらゆる異能を無効化する異能、国木田独歩は「独歩吟客」という、手帳の頁を消費することで、書き込まれたものを具現化・実体化する異能があるそうです。

ショックだったのが、私の好きな芥川龍之介がヨコハマの港を縄張りにするポートマフィアの一員だということです。
悪役じゃないですか、ひどいわぁ。
ポートマフィアの構成員は私の好きな文豪が多いです。
例えば樋口一葉とか中原中也、梶井基次郎、森鴎外、立原道造…。

まだ二巻しか読んでいないのではっきりとはわからないのですが、各文豪たちの生きていた時代もバラバラで、設定も違っていたりするそうです。
まあ漫画でフィクションですから、それほど目くじらを立てなくてもいいと思いますよ。
それが許せないと思う人は読まない方がいいですね。

この漫画が入り口となって、子どもたちが各文豪の本を読むようになるといいと思います。

山本幸久 『店長がいっぱい』2021/07/13

題名が面白そうなので読んでみました。


友々家は国内外で約120店舗を展開する他人丼のチェーン店です。
店長になった人は様々な経歴があります。転職、離婚、家出、左遷、倒産…。
そんな店長たちの奮闘をオムニパス風に描いた作品です。

他人丼ってどんな丼なのか知っていますか?
親子丼は鶏肉と卵ですが、他人丼は鶏肉以外の肉を使っている丼だそうです。
私は親子丼と牛丼しか食べたことがないのですが、美味しそうですね。

友々家の会長は真田あさぎと言い、シングルマザー。
夫がどこかに行ってしまい、息子を育てるために、息子の好きな他人丼を出す店からここまでのし上がってきたのです。
息子に社長の座を明け渡したのですが、息子はとんでもなく無能な奴です。
彼が発案した新メニューや新企画はことごとく失敗。
クリスマス限定のディナーセットは全く売れず、スタンプカードのスタンプを7つ集めるとくれるオリジナルグッズが卵の殻を被った子豚のぬいぐるみ。
クリスマスに何が悲しくて、丼を食べますか?
いい大人にぬいぐるみ入りませんよね。
それを責任者のせいにして海外に飛ばしています。最悪の経営者ですね。
こんな社長の下、店長たちは不満を持ちながらも、頑張っています。
店長たちの頼みの綱は出来る女、フランチャイズ事業部の霧賀久仁子。
社員からはやっかみでしょう、高飛車だとか、嫌みな女だとか、色々と言われ、嫌われていますが、店長たちのために毎日各店舗を訪れ、愚痴を聞き、相談にのり、トラブルを解決しています。

ブラックだという噂の外食チェーン店ですが、影ではこういうことがあるのですね。
今まで読んだ山本さんのお仕事の本とは違うテイストですが、読後心がほんのり、暖かくなるお話です。