「The Great British Wedding Cake」を観る2021/08/12

ブリティッシュ・ベイクオフの番外編です。
別の日に紹介しようかと思っていたら、「ダイアナ妃のケーキ、28万円で落札」というニュースがあったので、今日書くことにしました。
実際のウエディングケーキは5段もある大きなものでこちらに写真が、売りに出されたケーキはこちらをご覧下さい。

ファイナルに残った三人がそれぞれ「伝統的なウエディングケーキ」とオリジナルレシピで作った「現代のウエディングケーキ」を作るというものです。
いつもの司会者は現れず、審査員のお二人と決勝に残ったベイカー三人で行います。


写真の左からルース、エド、ミランダ、メアリー、ポールとなります。
ちなみにメアリーさんは自分でウエディングケーキを作ったそうですが、ポールさんはキプロスにいた時で忙しくて作れなかったと言っています。
(実は彼、離婚してしまい、現在は若い恋人がいるようです)
女性2人と男性1人ですが、男性のエド君は24才。まだ若くて結婚していないので、女性好みのケーキが作れるのでしょうかね。

最初は11時間かけて「伝統的なウエディングケーキ」を作ります。
伝統的なウエディングケーキはフルーツケーキを三段重ねて、マジパンとアイシングを使ったものです。

ここで番組で紹介された伝統的なウエディングケーキの歴史などを書いておきます。
伝統的なウエディングケーキは小麦粉と卵、ドライフルーツと香辛料、ブランデー、ナッツ、糖蜜が使われています。
三段になっており、下段は当日のゲストと食べ、中段は最初の結婚記念日に食べ、上段は子どもの洗礼の時に食べたそうです。
子どもがいつ生まれるかわかりませんから、日持ちするようにフルーツケーキを使うのですね。

この伝統は500年前から始まりました。
中世には結婚式で新郎新婦がパンとワインを運んできました。
チューダー朝では、オランダの画家の絵にコーニッシュ・パイのようなケーキを運んでくる様子が描かれています。この頃のケーキは酵母で膨らませていました。
酵母の中に卵4個を入れ、小麦粉と混ぜ、膨らむのを待ち、膨らんでから生地を2つに分け、バターを折り込み、生地を小さく切り刻み、砂糖と干ぶどうを入れて焼きます。
砂糖は11世紀に中東から南欧を経てイギリスに渡り、チューダー朝ではまだ贅沢品でした。貴重なジャコウの香料やバラ香水も好んで使用されていたそうです。
この他にマーチパーン(イタリア語で「マルコのパン」)という甘いものが祝宴のテーブルに並んでいました。アーモンドペーストと砂糖、バラ香水を型に入れて作ったもので、今のマジパンのようなものです。これは17世紀初頭までに進化し、アイシングが施されて、飾りとして使われ始めたそうです。

18世紀のロンドンで、リッチという見習いベーカーが師匠の娘に求婚する時にウエディングケーキで愛を示そうと思いました。モチーフを考えていると、聖ブライズ教会が目に入り、その段々の尖塔をもとにウエディングケーキを作りました。
ウエディングケーキは1840年代に広く普及し始めました。というのも経済が著しく発展し、安い値段の砂糖や果実、香辛料が入ってきたからです。

三段のウエディングケーキはヴィクトリア女王の結婚式の時に生まれました。
それまで結婚式は内輪で開かれ、衣装も様々でしたが、女王が白いドレスや付添人の伝統を作ったのです。
女王のウエディングケーキは大きくて、重さ130キロ以上、外周が約3メートルで4人がかりで運びました。
彼女の子どもたちのウエディングケーキは更に高く、豪華になっていったそうです。
20世紀の終わり頃までに重ねる形式のケーキが定着し、すべての階層の結婚式でこの形が好まれました。

第二次世界大戦中には食料は配給制になり、ケーキの材料はポイント配給制なので、友人や親類などから配給品を分けてもらって作りました。そのためウエディングケーキは小さくなり、着色剤で黒っぽい色を追加したり、マジパンに大豆粉を使ったりしていました。
水しっくいや壁用の漆喰を利用して装飾を施した厚紙で作ったケーキの中に小さい本物のケーキを入れていました。
戦後40年、1980年代初頭まで伝統的なウエディングケーキが続きました。

1960年代から離婚率も上がり、再婚する人も増えてきたため、結婚に対する意識が変っていきます。
80年代にはデザイナーがもてはやされ、ブランドが重視され、伝統に反するものの需要が増え、人びとは好きなものを買い始めます。
そのためウエディングケーキも変っていきます。人と違う、個性が表れるウエディングケーキの需要が高まったのです。
ケーキ界でも革命が起きていました。アイシングが進化したのです。
シュガーペイストは柔らかい生地なので、ケーキに合わせて使えますし、1日でケーキが完成するので日持ちのするフルーツケーキではなく、スポンジやチョコレートが使えるようになりました。
ペギー・ポーションなどが新しいウエディングケーキに挑戦しているようです。

歴史はこれぐらいにして、三人が作ったケーキを紹介しましょう。
天性の技と飾り付けのセンスが評価されているミランダは、春の息吹を感じさせる伝統的なウエディングケーキを作りました。メアリーさん一押し(↓の写真)。


独創性に加え、あらゆる領域をこなす能力のあるエドは、戦時中に行われた祖母の結婚式の時のケーキを参考にして、ナッツの入らないフルーツケーキを使いました。
お祝いにふさわしいけどシンプル過ぎ、生地がティーケーキ風で、花嫁が軽めのケーキを望んだ時にはいいかもとの評価です。

何事にもそつがなく、大胆で手際よく、挑戦を怖れないルースは、ロマンチックでエレガントな、バラの花の先にほどこしたピンク色が素敵なウエディングケーキを作りました。ポールの一押しです(下の写真)。


「伝統的なウエディングケーキ」の次は5時間で自分のイメージする「現代のウエディングケーキ」を作ります。

ルースはレモンメレンゲのタワーケーキ。大きな生地の上に30個のミニメレンゲパイを飾ります。
ここでまたポールの横やりが入ります。レモンメレンゲは結婚式ではお目にかかったことがないと…。でもルースは負けずにレモンメレンゲを使います。
ミランダはホワイトチョコレートとローズのケーキ。アイシングとガナッシュがポイントです。2段で上下2種類の生地を作り、バタークリームでサンドし、外側にガナッシュを塗ります。
エドはマカロンタワーのケーキです。マカロンは2種類、ヘーゼルナッツと伝統的なマカロン。なんとマカロンが何個必要か把握していないそうです。

さて、評価はと言うと…。
ルース:モダンで目新しく、若い人にぴったり。大胆で他にはない発想。
エド:マカロンはベイクオフの時にいいのはわかっていたので、違うものにチャレンジして欲しかった。


ミランダ:少し生地がパサついているが、美しく、温かみがあり、目新しさもあり、味もいい。(↓の写真)


ポールはルース、メアリーはミランダ押しです。
(写真はBBCからお借りしました)

可哀想なエド君は今回2人の審査員から嫌われてしまったようです。
彼はどちらかと言えば職人肌で、味はいいけど見かけが・・・という感じなのかもしれませんね。私はエド君のウエディングケーキ、悪くないと思いますけど。
エド君の作ったウエディングケーキはここに載っています。

王室のケーキがどんなのか、見てみたい人は「A Brief History of British Royal
Wedding Cakes
」を見てみて下さい。
エリザベス女王のウエディングケーキは華やかで、ウィリアム王子とキャサリン妃のは意外と地味。ハリーとメーガンのは思っていたよりも品が良く、現代的でいいですね。
この前結婚したダイアナ妃の姪のキティさんのウエディングケーキが見たかったのですが、探せませんでした。約4億円もかけたという結婚式ですから、ウエディングケーキはさぞ立派だったことでしょうね。

読んだ本2021/08/14

雨が続く嫌な毎日で、古傷が痛み、相変わらずの引き籠もり生活です。


そんな人間にはお構いなしに、この子は遊べと五月蠅いです。
兄はパソコンを使っているとかまってもらえないことがわかっているので、私の膝の上で横になって寝ています。

さて、読んだ本ですが、また溜まってしまいました。
一番のお勧めが『水族館ガール8』です。


木宮条太郎 『水族館ガール8』
最初の頃は由香ちゃんの妄想が邪魔だったのですが、この頃は妄想もなくなったので、気にせずに読めるようになりました。

結婚することになった由香と梶でしたが、どうも両方の家にはそれぞれ問題があり、すんなりとはいかないようです。
そんな頃、水族館では色々な問題が起こってきます。
地元の人たちと連携しての自然保護活動やイルカの赤ちゃんの離乳食トレーニング、そしてパークの存続の危機。
由香と梶の結婚と仕事はどうなるのか…。

自然保護と声高らかに言ってはいても、それが本当に動物たちのためになっているのかの判断は難しいですね。人間達のよかれと思ってしたことが、種を絶滅させることになることもあるのです。
お子さんの離乳トレーニングで困っている方に。

「どうして、こっちは食べるのに、あっちは食べないのか。赤ん坊の反応は、理屈では説明しきれねえところがあってな。よく分かんねえのが、離乳。それを肝に銘じて、トレーニングしてくんな」

個体差があるので、じっくりゆっくりやっていきましょうね。
帯を見てビックリ。教育出版の『伝え合う言葉 中学国語2』でこの本が紹介されているとのこと。
小学生高学年ぐらいから読める本なので、是非YAたちにも読んでもらいたい本です。

山本由布 『寄り添い花火 薫と芽依の事件帖』
     『風待ちのふたり 薫と芽依の事件帖』
こんなことは実際にはなかったとは思うのですが、札差の娘が岡っ引きで、同心の娘が札差の娘の下っ引きというシリーズです。
札差の娘は薫、同心の娘が芽依と言います。
二人は大の仲良しで、推理力抜群ですが、人と上手く接することができない薫を芽依がフォローするという感じです。ともすれば二人の関係はGL(百合)かぁと思うほどですが、『寄り添い花火』の最後の章で何故二人がこんな関係になったかがわかりますので、GLとは関係ないですので、安心して(?)下さい。
時代物ミステリーですが若い15歳の女の子が活躍するので、それほど本格的ではなくて、読み進めるのが私にはちょっと辛かったです。

赤星あかり 『居酒屋こまりの恋々帖 おいしい願かけ』
亡くなった祖父の営んでいた酒蔵・水毬屋を再建するために、出戻りのこまりは江戸に出て来て居酒屋で働いていました。
しばらくして店主の栄蔵から店を継ぎ、小毬屋と名づけて酒と美味しい料理で客をもてなしますが、やってくるのはとんでもない客ばかりで…。

シリーズ化されるようです。
これから元夫とのことや水毬屋再建に奮闘するこまりが見られるでしょう。

「薫と芽依の事件帖」やこの本は女性向きの時代小説なんでしょうか。こういう本って時代小説好きの男性は読まないような。
ちょっと私の好みと違いました。

柊坂明日子 『おばさん探偵ミス・メープル』
あの、これは「ミス・マープル」ではなくて「ミス・メープル」ですので、お間違えなく。私だけかしら、「ミス・マープル」だと思ったのは(恥)。

東京都世田谷区のお屋敷(子ども達にはお化け屋敷と言われている)に住むミス・メープルこと森野楓子は小説家。それもSFバイオレンス・アクション・エログロ・超ハードボイルド作家なのです。もちろんペンネームがあり、大河ショー和という男性名で、覆面作家として『新宿魔法陣幼獣伝』シリーズを書いています。このシリーズ、出版不況を吹き飛ばす大ヒットだそうです。すごいですねぇ。どんなお話でしょうね。
パーティに出席する時は出版社の彼女の担当編集者、27歳の吉井君が変装して大河になります。
吉井君は好青年で、楓子さんのお屋敷に来るときはいつも大量の美味しいお土産を持参します。
実は楓子さんは元々絵本作家としてデビューしていたので、いつかまた絵本を書きたいという夢がありました。
こんな彼女が次々と起こる事件に挑みます。

あの~、本場のミス・マープルとは雲泥の差がありますので、同じようなものを期待して読まないで下さい。私はKindleのお勧めにしつこいぐらい出てくるので、ついつい買ってしまい、後悔しました。
コージー・ミステリーとも全く違いますので、あしからず。

井上ねこ 『花井おばあさんが解決!ワケあり荘の事件簿』
第17回『このミステリーすごい!』大賞・優秀賞受賞作品だというので読んでみました。ごめん、私、『このミステリーがすごい!』大賞とは合わないみたい。
何冊か読んだのですが、中山七里とか柚木裕子、海堂尊のお三方以外にいいと思った作家さんはいません。
ホームズ役の花井おばあさんの設定はいいと思いますが、もっと魅力的に描けなかったかしら。
主人公らしきワトソン役の独居老人専門アパート「若鮎荘」管理人、27歳の若泉歩美が全くダメでした。この人なんなの。お嬢様らしくもないし、仕事もしていないみたいだし、暇なので入居している老人たちを見張り、余計なお世話をしているだけに見えます。
文章が硬い感じで、もっとどうにか出来なかったのかしら?
書き方によってはもっと良くなったのにと残念に思いました。

ここからは漫画です。

西田ヒガシ 『やさしいあなた…』
もろBLでした。裏社会に生きる男たちが出逢ってしまい、恋に落ちる。
なんとも言えない世界ですが、嫌いではないです、笑。

鷹野久 『午後3時 雨宮教授のお茶の時間3』
楽しみなシリーズです。
今回のお菓子はコーニッシュパスティ、チョコレートケーキ、ストロベリーチーズケーキ、ミンスパイ、クリスマスプディング、ロックケーキ、クランペットです。
亡くなった妻に対する雨宮教授の愛情が素敵ですね。
「ブリティッシュ・ベイクオフ」に出てきたものばかりで、どんなものかすぐにわかりました。

キリ 『豆しば こつぶーーはじめまして』
あの~、豆柴って種類はありません。柴犬の中で小型な犬のことを豆柴って言っているだけです。
ホント、犬はどんな犬でも可愛いですよ♡。
犬好きの人も犬をこれから飼いたい人も楽しめる内容です。

他にもシリーズ物がどれもよかったです。
読んだのは『リエゾン5』、『こはる日和とアニマルボイス6』、『忘却のサチコ16』、『プラタナスの実3』、『BLUE GIANT EXPLORER3』、『ましろのおと28』、『屍活師19』、『モーメント13』、『絢爛たるグランドセーヌ18』、『舞妓さんちのまかないさん16』、『あおざくら 防衛大学校物語21』、『ナースのチカラ5』、『七つ屋志のぶの宝石14』。
そうそう『傘寿まり子16』が終わりました。なんとか家族も一つになり、まり子は八百坂さんに会いに行きます。これからまり子は死ぬまで書き続けるでしょう。

読んだ本では面白いのが『水族館ガール8』だけだったので、ちょっと残念でした。

「ロング・トレイル」を観る2021/08/15

わたしに会うまでの1600キロ」ではアメリカの三大トレイルの一つ「パシフィック・クレスト・トレイル」を歩いていましたが、今回紹介するのは別の三大トレイル、「アパラチアン・トレイル」です。アメリカ東部のジョージア州からメイン州までの約3526㎞です。

主演がロバート・レッドフォード。懐かしいです。
「追憶」の彼(の顔)が好きでした。しかし、久しぶりに見た彼は…年を取ったなぁという印象です。しわくちゃなのは仕方ないのかもしれませんが、それにしても別人みたいです。でも見ているうちに、彼は彼でした。

原作が『ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験ー北米アパラチア自然歩道を行く(A Walk In The Woods:The World's Funniest Travel Writer Takes a 
Hike)』です。
(ネタバレあり)



トラベル・ライターだったビル・ブライソンはアメリカに戻り、ニュー・ハンプシャー州、ハノーヴァーで悠々自適の生活を送っていました。
知り合いの葬儀に出た後、自宅付近を散歩していると、アパラチアン・トレイルと書かれた標識を見つけます。
家に戻りwebサイトで調べてみると、素晴らしい風景が現れました。
ビルはアパラチアン・トレイルの踏破を決意し、早速庭でテントを張ろうとしますが、古いテントなので…。

妻のキャサリンは反対します。だって彼はもう60を過ぎた年寄りで、普段から体を鍛えていないんですもの。
トレイルで死んだ人の記事などを集めてビルに見せます。
息子も無理だとはっきり言いますが、アウトドアショップまでビルを連れていってくれます。
結局一人ではなく、誰か他の人と一緒なら行ってもいいということになります。

ビルは友人知人に声をかけまくりますが、ことごとく断られます。
やっと現れたのが酒がもとで喧嘩別れをしていたスチィーヴン・カッツでした。
彼に40年前、ヨーロッパで600ドルを貸したまま返してもらっていません。
妻はもちろんカッツと一緒に行くのには反対でした。

飛行場に現れたカッツは足が悪いみたいで、飛行機から降りるのも一苦労。今までの不摂生がたたったのか体はブクブク太っていて、とてもじゃないけど歩けるような体ではありません。
一抹の不安はありますが、ビルはカッツとアパラチアン・トレイルに挑戦することにします。
別れ際、心配なキャサリンはビルに、「愛している。死なないで」と言うのでした。

4月、ジョージア州から出発します。
トレイルの始点の宿泊所で一泊しますが、次の日、カッツはもう一泊しないかと言い出します。
ビルはそんなカッツを無視し、俺は行くぞと言い、歩き出します。カッツは着いて来ますが、最初からヨタヨタです。
早々に疲れて座り込む二人。若者達はそんな彼らを追い抜いていきます。
カッツは「今すぐ殺してくれ」なんて言い出し、その夜は疲れすぎたのか何も食べずに寝てしまいました。

道の途中で様々な人に出会います。
その中の一人、メアリーはとんでもない女性で、ビルのテントがスリーシーズン用じゃないと馬鹿にするわ、カッツには太りすぎだと言うわ、歩きながらベラベラ喋り続け、夜中には歌い出します。
辟易したビルとカッツは彼女を出し抜くことにします。
上手くメアリーをまき、ヒッチハイクをし、カップルの車に乗せてもらいますが、カップルは酒を飲んでいい気分で、交通事故を起こさないかとビクビクものです。
やっとレストランで一息ついた時に、カッツは酔って交通事故を起こして以来酒は飲んでいないこと、そしてメアリーに後ろめたさを感じていることをビルに打ち明けます。

トレイルに戻り歩き出すと、反対側から来た男がメアリーが彼らのことを噂していることを教えてくれ、これから雪が降りそうだと言い去っていきました。晴れているので雪なんか降るはずはないと思っていると、本当に降り始めます。とりあえず風を避けられる所でテントを張ります。
翌朝出かける準備をしていると、ビルはカッツのザックの中に酒を見つけます。

宿泊小屋で部屋を取ろうとすると満室。仕方なく大部屋の二段ベッドに寝ることにしますが、カッツが上段に寝たため、ベッドがカッツの重みに耐えかねて壊れ、カッツがビルの上に落ちてきます、笑。

5月、川を渡ろうとします。
親切な若者たちが荷物を向こう岸まで持って行ってくれるといったのを断ります。
カッツは川に落ち、彼を助けようとしたビルも落ちてしまいます。
その後、グレートスモーキーの素晴らしい絶景に目を奪われる二人。

モーテルに泊まり、久しぶりにベッドとシャワーにありつけましたが、カッツがコインランドリーで出逢った太った女性と上手くやろうとし、彼女の夫に見つかり追いかけられ、急いで逃げてトレイルに舞い戻ります。

森の中で寝ていると、二頭の熊がやって来ます。慌てて二人はテントを持ち上げて大きく見せ、熊を威嚇します。熊は去って行きました。

6月、大雨と雷。
トレイルの半分の距離も歩いていないので、レンタカーを借りてズルをしようと言い出すカッツ。ビルは反対し、カッツを置いて歩き出します。カッツは諦めてビルの後に続きます。

熟練コースを歩いていると、ビルがwebサイトで見た絶景の場所に辿り着きます。
そこでカッツは酒の瓶を持っていた理由を明かし、酒を捨てます。

岩場が続き、だんだんと道が狭くなり、そのうち二人はよろけて崖から落ちてしまいます。(落ち方がわざとらしいですけどね、笑)
さて、二人の運命は…。

二人のオヤジ(おじーちゃんと言ってもいいけれど)たちの旅は散々な終わり方になりますが、それでも二人は満足したようです。

三大トレイルの中でこのアパラチアン・トレイルは一番難易度が低いそうですが、実際に踏破できるのは20%ぐらいしかいないそうです。
そうだとすると、60を過ぎたオヤジたちにしては健闘したと讃えるべきかもしれませんね。
トレイルを踏破するには何ヶ月もかかるのですが、街が近いので、ハイカーたちは長くても6日以内に街に降り、頻繁に食料の補給や休息を取りながら歩き続けるそうです。
今はもう歩けませんが、20代だったら一部分でいいからチャレンジしたかったですわ。

予告編をご覧下さい。オヤジ二人の雰囲気がわかると思います。

ローラ・チャイルズ 『スパイシーな夜食には早すぎる』2021/08/16

「卵とカフェ」シリーズの九作目です。


結婚式まで後二ヶ月。
スザンヌは婚約者で医師のサムのところへ夜食を届けに行き、とんでもない事件に巻き込まれることになります。
病院で襲撃犯と遭遇してしまったのです。
とっさに持っていたチリコンカンの入った保温ボトルを襲撃者めがけて投げつけ、難を逃れますが、犯人は忽然と消えてしまいます。
その後も病院や薬局が狙われ、薬品が強奪されるという事件が相次いで起こります。

出来るだけ事件には首を突っ込まないようにしていたスザンヌですが、親友でカックルベリー・クラブの共同経営者でもあるトニの別居中の夫・ジュニアから古い農場を改装して共同の施設を作り、自給自足の生活を送っているサバイバリストたちのことを聞き、ウズウズしてきます。
トニもスザンヌが事件にかかわることを期待していました。だってスザンヌと一緒に彼女も捜査に参加したいのですもの。
サムはスザンヌのことが心配で、事件にかかわることに反対しています。
しかしスザンヌはトニにのせられ、二人で捜査まがいのことをしてしまいます…。

カックルベリー・クラブも朝食以外にお茶会やディナーをするようになったようです。作者のローラ・チャイルズは「お茶と探偵」シリーズも書いていますから、お手のものでしょうね。
どんな料理が出てきたのか、ご覧ください。

「園芸クラブのお茶会」
琥珀色の烏龍茶、バラ色のルイボス・ティー。
ピスタチオ入りのクリームスコーン。
アボカドと卵のサラダのサンドイッチと生ハムとリンゴの薄切り、ブリーチーズのサンドイッチ、蟹のサラダにアクセントとしてクランベリーとクルミを加えたサンドイッチ。
チョコレートのクランブルケーキとチョコレートガナッシュを会わせたコーンアイスのケーキ。

「プティ・パリ・グルメ・ディナー」
アミューズ・ブーシェ:エッグ・シューター。
前菜:かもの手羽肉のオレンジソースにシェリービネガーであえたベビーリーフのサラダ。
メインディッシュ:こぶりのヒレ肉に野生のアミガサタケを使ったソース。付け合わせがパルメザンチーズをたっぷりまぶしたポムフリット。
デザート:桃とアーモンドのタルトとエスプレッソ。
フランス産赤ワイン、ステファン・アヴィロン・ボージョレ・ヴィラージュ。
カリフォルニア産ソーヴィニヨン・ブラン。

鴨肉と牛肉では肉かぶりでちょっと重くないでしょうか。前菜は魚系の方がいいような気がしますが、アメリカ人は生魚をあまり食べないから無理でしょうね。
コーンアイスのケーキが食べたいです(涎)。

今回はトニが暴走気味で、それにスザンヌがのせられ、住居侵入まがいのことをしちゃいます。そのせいで、えらい迷惑を被る人が出てきます。それなのに二人は反省していないみたいです。
サムもこんな人が妻なんて、これからも大変でしょうね。

どんなに主人公がやり過ぎても、美味しいお料理が出てくれば許せるのがコージー・ミステリー(だよね)。
次はスザンヌの結婚式の様子が楽しみです。
結婚するわよね…?

堂場瞬一 『チェンジ 警視庁犯罪被害者支援課8』2021/08/17



昼食に向かっていた支援課の村野秋生に通り魔事件が起きたとの連絡がきました。
急いで現場の東新宿に向かうと、首から出血している男性と泣き叫んでいる若い女性がいて、そして突然の怒声が…。
そこには被害者の胸ぐらを掴んで揺さぶっている追跡捜査係の沖田大輝がいました。
一体何故沖田がここに…と疑問に思う村野。
とりあえず沖田を被害者から引き剥がし、被害者を救急隊員に任せました。

被害者は四人で、二人が搬送された病院に行くと、捜査一課の刑事が四人来ていました。彼らは村野たち支援課に捜査の邪魔をするなと言ってきます。
その中の知り合いの刑事に沖田のことを聞きますが、知らないようです。
沖田が獲物と言っていた被害者は急性硬膜下血腫の疑いがあり、手術することになります。
沖田に電話をしてみると、砂町銀座商店街の惣菜店で起きた強盗殺人事件の再捜査を始めており、彼が無理矢理話を聞こうとしていた通り魔事件の被害者は栗岡将也といい、強盗殺人事件の容疑者として名前が挙がっていたので尾行していたというのです。

無茶を言い、何をやるのかわからない沖田をなだめ、支援課の仕事をする村野でしたが、しばらくすると、栗岡を調べているのが沖田だけではなく、沖田も何者かによって尾行されているのがわかります。

関連のなさそうな2つの事件でしたが…。

驚異の記憶力を持つという岩倉がちょこっと参加。
イケメン大友とがさつな沖田、そして村野が組んで過去と現在の事件を捜査し、解決していきます。
支援課の話というよりも、どちらかといえば追跡捜査係の沖田が主人公という感じがなきにしもあらずと思ったら、この本も堂場さんの「作家デビュー20周年」のコラボ企画だったようです。

出版社の特設サイトを見ると、「シーズン1、感動の完結」と書いてあるので、とりあえずこれで一端は終わりになり、シーズン2で公私共に心機一転した村野が見られるのでしょうね。
本音を言うと、村野よりも大友鉄の新シリーズを読みたいですがね。

大山淳子 『猫弁と鉄の女』2021/08/19

「猫弁」シリーズの新刊です。


婚約して同じアパートの隣同士に住んでいるのに、全く進まない百瀬と大福亜子の関係。
一緒に刑務所にいる百瀬の母に会いに行こうとすると、いつも百瀬は高熱を出してしまい、行けません。
いつ行けるのかしら…。

そんな頃、百瀬はカフェでホットドッグを囓っている時にリードなしの犬を見かけます。
ほっとけないのが百瀬。その犬の後を着いていき、交番前で立ち止まった犬と一緒にいた婦人に声をかけます。
婦人によると買い物の途中でこの迷子の犬に出逢ったとのこと。
交番の年若い巡査は迷惑そう。とりあえず遺失届を出し、犬は婦人がしばらく預かることになります。
婦人の名は小高トモエといい、一軒屋に一人暮らしをしているとのこと。
ところが犬のことにかまけていて、二人とも忘れ物をしていました、笑。
トモエさんはシルバーカーを、そして百瀬はなんとカメレオンをカフェに忘れたのです。なんでカメレオン?
引き取りに行かされた七恵さんが激怒するのは当たり前ですよねぇ。もちろんカフェには出入り禁止になってしまいました。
犬はサモエドという種類で、性格がよく、トモエさんの家にすぐに馴染みました。
そして「ここ掘れ、ワンワン」ではないのですが、庭に埋まっていたある物を掘り出します。

二世議員の宇野勝子は選挙の公約に周りの反対にもかかわらず、東京の花粉一掃を掲げます。
まずは小規模の自治体と手を組んで、実証実験をしようと、もえぎ村と連絡を取り、森林所有者から伐採承諾書のサインをもらったのですが、但し書きがありました。「森林蔵氏の許可を得ることを条件とする」。
森林蔵氏とは、もえぎ村の杉林の守り神と崇められている神出鬼没の木こりです。
勝子は森林蔵氏と会おうと山に行きますが、会えず、そのため勝子が考えたのが、自宅兼事務所の土地建物を担保にもえぎ村の森林を購入し、伐採をやっちゃおうという計画です。
この計画、上手く行くのでしょうか。そして選挙はどうなるのでしょうね。

カメレオンから意外な縁があり、百瀬は勝子の顧問弁護士となります。

百瀬の周りは色々なことが起こりますが、すべてが丸く収まり、みんなハッピー。
亜子さんとのことも一歩前進。よかったねという終わり方です。

そうそうサモエドってこういう大きな犬です。(「mofmo」から写真をおかりしました)


「サモエドスマイル」といわれる、いつも笑っているような表情が有名みたいです。
笑顔と言えば…。


「もちろん僕で~す」と弟犬が現れました。笑顔だけは自慢のヨーキーです、笑。

濱嘉之 『院内掲示 シャドウ・ペイシェンツ』2021/08/20

「院内刑事(デカ)」シリーズの最新刊。


元警視庁公安総務課の伝説の人、日本警察の宝とまで言われた、今は川崎殿町病院・敬徳会常任理事で危機管理を担当している廣瀬知剛は、病院内で起る様々な犯罪に対処しています。

中国人の健康保険証不正使用と転院してきた新型コロナウィルスに感染したワケあり妊婦を公安時代の人脈を使い調べていくと、意外なところで繋がっていました。
中国人グループによる裏金稼ぎを邪魔したため、川崎殿町病院が狙われることになります。
救急外来から院内に入り込んだマル暴や借金持ちたち。
夜中に病院の横の道に集まるローリング族。
そしてサイバーテロ…。
廣瀬は警視庁や県警からの協力を得、犯人たちを追い詰めていきます。

最後はやられたら、やりかえすという廣瀬がとても頼もしかったです。

最初に政府のコロナ対策に関する辛辣な意見が出てきたので、コロナ絡みの犯罪でいくのかなと思ったら違いました。
話が院内を超えて段々と大きくなっていきました。
大病院ではこういうことが起る可能性があるということですね。
そういう時のために廣瀬のように警察と太いパイプがある人がいると助かりますね。

コロナ対策に関する意見は、特に二十代、三十代に対してとても厳しいものです。
「二十代、三十代の連中に対して罰則を加えて何とかしなければ、コロナは終息」
しないとか、「この時期に至って、新たに感染する二十代、三十代の連中を診察する気にもならないのが医者の本音だ」とか。
一概に悪いのは二十代、三十代だけだとは思いませんが…。
昨年感染爆発した国を参考にして、コロナ対策を考えておいて欲しかったとは思います。

前回は蘊蓄が多く、読み飛ばしたところもありましたが、今回は少なく、話自体は面白かったです。
次回も院内のみならず院外でも活躍する廣瀬の姿が見られるでしょうね。

豊田巧 『駅に泊まろう!』&『駅に泊まろう!コテージひらふの早春物語』2021/08/21

読んで楽しい、旅の小説です。
行くところは北海道!
コロナ禍でどこにも行けない今、脳内旅行をしましょう!


『駅に泊まろう!』
桜岡美月はやっちゃいました。居酒屋店長の仕事を辞めたのです。
それもわざわざ本社ビルまで行って、大成エリアマネージャーに辞表をたたきつけてやったのです。
入社してからの二年間、セクハラ、パワハラは言うまでもなく、長時間労働、過剰なノルマ、法令に抵触する営業行為の強要等に耐えてきました。
もう我慢がならなくなったちょうどその頃、徹三じいちゃんが亡くなり、遺言書の中に「比羅夫のコテージは、美月に継いで欲しい」と書いてあり、美月は決心したのです。
コテージのオーナーになることを。

東京駅から新幹線のグランクラスに乗り、終点の新函館北斗で乗り換え、長万部まで行き、小樽方面行き普通列車に乗り換えて八駅目の比羅夫がコテージのあるところです。
東京にいるとたいしたことがないように思えますが、北海道の広さをナメてはいけません。
東京のように頻繁に電車はないし、時間もかかるのです。
朝9時頃に出発し、函館北斗駅に13時34分に着き、比羅夫駅に着くのが18時過ぎですから。

実は私、美月と同じように比羅夫ってどこにあるのか知りませんでした。
羊蹄山の麓でニセコの近くなんですね。

比羅夫駅に着くと、駅の周りには何もなく、駅から徒歩0分というコテージはどこ?と思っていると…、怪しいガサガサいう音が聞こえて来ました。
熊か!と身構えると、なんとそれは従業員の東山亮でした。

駅のホームでバーベキューをしていると、予約なしのお客さんがやってきました。
彼は何やら訳アリ風で、気になる美月。
何故か次々に訳アリの客がやって来る「コテージ比羅夫」…。

『駅に泊まろう!コテージひらふの早春物語』
三月にもなると「コテージ比羅夫」に来るお客も減り、従業員たちは、と言っても二人しかいませんが、やっと正月休みを取ることができます。
コックの亮がいない四日間は美月が料理をしなければなりません。朝食はなんとかなっても、夕食が困ります。冬ですから、ホームでのバーベキューは出来ません。
美月は居酒屋に勤めていましたが、今時の居酒屋チェーン店はまな板や包丁なんかいりません。全て冷凍食品で、電子レンジで解凍すればできあがりですから。

そんな初日から事件は起こります。とは言ってもたいしたことないですけど、笑。
亮の兄で羊蹄山の山岳ガイドをしている健太郎から電話が来ます。
雪の影響で魚や肉類が入ってこないとのこと。
美月、ピンチ!野菜料理しか出せないのか…。
ところが健太郎からジビエ料理はどうかとの案が提出されます。
果たして初めてのジビエ料理はお客さんに満足してもらえるのかしら?

次の日、思ってもいなかったお客が現れます。

亮のいない間を何とか乗り切り、代わりに美月も正月休みを取ります。
行き先は道東、友人で新幹線アテンダントをしている木古内七海と一緒です。
七海は鉄子なので、旅の計画はすべておまかせ。
さて、どんな旅になるのでしょう。

私、帯広とか十勝地方には行ったことがありません。
帯広空港に降り、レンタカーで十勝地方を回るのも良さそうですね。
動物園や牧場、ガーデン、ワイン、豚丼、そして温泉など色々といいところがありそうです。
本に出てきた「馬車BAR」って本当にあります。乗ってみたいわぁ。
コロナが落ち着いたら双子に会いに岐阜に行った後、十勝地方に行きましょうか。
今からプランを立てておきますわ。
そうそう「コテージ比羅夫」は「駅の宿ひらふ」と言い、実際に比羅夫駅の中にあります。

豊田さんの本を初めて読みましたが、彼は鉄ちゃんなのかしら?
思っていた以上に面白い本でした。
なかなか旅には行けない今、この本を読んで北海道に行ったつもりになって下さいね。
私の知らないうちに北海道も変っていたようです。

朝井まかて 『白光』2021/08/22



日本初のイコン画家、山下りんの生涯を描いた小説です。

明治5年(1872年)、15歳のりんは絵師になりたくて、家出をし、故郷の笠間(茨城県笠間市)から独りで江戸まで行きます。
本所の生沼家に着いたのにりんを探しに来た兄がやってきて笠間に連れ戻されましたが、それでも絵師になりたいという気持ちは変りませんでした。
そんなある日、百姓に嫁いだ友だちが入水自殺をしたと聞かされます。
このことがあったためか、りんは母と兄に許され、明治6年(1873年)から上京し絵師の道を歩くこととなります。

りんは画業に一途なため、下手な師匠につく気はなく、この人はダメだと思ったらすぐに辞めてしまいますし、人付き合いも上手くないので、周りと軋轢が生じてしまいます。
そのため次々と師匠を変えていきます。
やっとこの人はと思えたのが、中丸清十郎でした。
彼から近代日本初の画学校、工部美術学校が女子学生を募集するという話を聞き、りんは応募して、見事合格になります。しかし月二円の学費など出せません。
困っていると、旧笠間藩の藩主が学費を援助してくれることになります。
明治10年(1877年)に工部美術学校に入学し、ホンタネジーという師に教えを受けます。

工部美術学校で友人となったのは信州岩村田藩士の娘・山室政子です。
彼女は最初は隠していましたが、神田駿河台のロシア正教会の信徒でした。
りんは政子と共に教会を訪れ、宣教師ニコライに紹介されます。
ニコライの人柄に触れ、彼に傾倒するようになり、いつしかりんは洗礼を受けるまでになります。

そんな頃、工部美術学校ではホンタネジーが国に帰り、代わりにやってきた教師たちの画技が劣るため、次々と生徒がやめていっていました。
りんは助手となり、学費を免除されていたため、やめるにやめられず苦しんでいました。
そんなりんの様子に気づいた政子は彼女に「学校はいずれ通り過ぎるべき橋」だと言って諭すのでした。

政子からりんが学校をやめたことを聞いた主教ニコラスはりんに意外な申し出をします。ロシアのサントペテルブルクに絵の勉強に行きなさいというのです。

明治13年(1880年)、りんはノヴォデーヴィッチ女子修道院の聖像画工房で学ぶことになります。
教会の思惑とは違い西洋画を学びたいという思いからロシアに渡ったりんは、困惑します。修道院に寄宿しながら美術学校に通うものだと思っていたのですから。
最初に手渡された手本は明暗法も遠近法も用いられていない、前時代な絵でした。
りんの反発心が発揮されます。
こんなりんですから、だんだんと周りからも疎んじられ、りんはりんで思い通りに学べないというストレスから体に変調をきたすようになります。
やがて肝臓を患ったため二年で日本に戻されることになります。

戻った日本ではロシア留学をしたということでもてはやされますが、りんは帰国後7年間イコンを描きませんでした…。

西洋画を学び、描きたいというりんが何かに導かれるようにイコンを描くようになっていくというのが不思議ですね。
これこそ運命、神の思し召しというものなのでしょうか。
りんの中に気づきがもたらされるまで、それだけの月日が必要だったのですね。

ロシア正教とローマカトリックとプロテスタントとの違いなど全く理解していませんが、ロシア正教ではイコンが信仰の上で重要な役割を果たしているようです。
本の中に書いてありましたが、聖像画とは「単に宗教的主題を描いた絵画」ではなく、「聖像画は人びとの信心、崇敬を媒介するものだ。窓だ。この窓を通して、祈る者は神と生神女、聖人たちと一体になる。ゆえに画師は独自の解釈を排し、古式を守らねばならない」のだそうです。
イコン画家はイコンに自分の名を記しません。イコンは自分のために描くのではないからです。
イコンを描くためには、「我」を捨てることが必要で、りんには難しいことだったのでしょうね。

                                 「ハリストス復活」 1891年

りんの描くイコンは日本人に受け入れやすかったようです。ガリガリに痩せたキリストよりも、このようなキリストの方がいいですものね。
日本の漫画にも通じるかわいらしさです。
これが彼女のできた最終的な妥協点なのでしょうね。

りんの生涯だけではなく、日本のロシア正教会の歴史や御茶ノ水にあるニコライ堂が身近に感じられた作品でした。

笠間には「白凛居」という山下りん記念館があるそうですが、残念ながら昨年1月から閉館しているようです。
ニコライ堂も拝観できるのですが、今は休止中だそうです。

髙田郁 『あきない世傳金と銀 11 風待ち篇』2021/08/23



「湯帷子」を藍染めの「浴衣」として売り出し、江戸中の話題となった五鈴屋でしたが、時は宝暦十年、辰の年。江戸の街に大火事が続きます。
五鈴屋は焼けずにすみましたが、心配なのは日本橋音羽屋に嫁いだ妹の結のこと。
井筒屋三代目保晴から妹の無事を聞きホッとしたのもつかの間、偶然出逢った結は幸に「私を憐れに思うてはるのなら、いずれ悔いることになりますやろ」と囁きます…。

そんな頃、賢輔は『火の用心』の拍子木を柄にした紋様の図案を考えます。
幸はその柄を浅草太物仲間に見せ、仲間たちで一斉に売り出しをしたいと言います。すなわち「型染め技は共有して、仲間のどの店でも藍染め浴衣地」を売れるようにするということです。
幸は浴衣地を一時の流行りではなく、「息長く愛用され、後の世にも伝えられる」ものとしたかったのです。
しかしこの計画も何者かの繰綿の買い占めにより白生地が不足し、頓挫しそうになります。

同じ頃、中村座の顔見世興行で演じられることになっていた『娘道成寺』が他のものと入れかえられてしまい、菊栄の簪の披露目ができなくなってしまいます。
横槍を入れたのは…。

どんな困難に逢っても「買うての幸い、売っての幸せ」を突き通し、一人一人のお客様との縁を大事にする五鈴屋に、次々と救いの手が…。

時代小説でありながら、商売のやり方も教えてくれます。
私は商売人ではないので、幸のやり方がいいのか悪いのかわかりませんが、お客としてはこういうお店で買いたいと思います。
今回はそれほど大きな危機にはなりませんでしたが、次回にドカーンと大きなものがきそうな感じが…。


先週夫がワクチン接種2回目をしました。
腕が痛く、ちょっと怠いだけで他に何も副反応がありませんでした。
副反応のありなしで抗体価に違いはないそうですが、酒飲みは抗体価が上がりにくいという噂があるのが気になります。
この頃30~50代の男性でコロナ感染した人で亡くなる人が増えてますから。
これからワクチン接種2回目の私も副反応が軽いでしょう(と思いたい)。


「ママ、そんなこと言っていて大丈夫?僕はママと遊べなくなるのが嫌です」
と言いつつも、ごはんが食べられれば文句のない兄です。


「ママ、僕は絶対に遊べないのは嫌です。〇〇ちをまき散らして、ワンワン五月蠅くしてやる~ぅ」
と言って本当に嫌がらせをするのが弟です、笑。