「彼が愛したケーキ職人」を観る2021/09/02

ドイツとイスラエルが制作した映画です。


(ネタバレあり)

トーマスはベルリンでカフェを営むケーキ職人です。
エルサレムからのビジネスマン・オーレンは出張のたびにトーマスのカフェに立ち寄っていました。
ある日、オーレンは息子の誕生日のプレゼントに何がいいか、トーマスに相談してきます。
トーマスは小型の鉄道模型を勧め、後で店まで連れて行ってあげることにします。

それから1年。オーレンは出張ごとにトーマスの部屋に泊まっていくようになっていました。
いつも土産としてトーマスの作ったクッキーを買って行きます。
その日もいつもと同じように「一ヶ月後に」と言って部屋を出て行ったオーレンでしたが、クッキーとカギを忘れていきました。
トーマスは何回もオーレンに電話をしますが、通じず、折り返しの電話もきません。一ヶ月経っても連絡はありません。
心配になったトーマスはオーレンのベルリンのオフィスを訪ねます。
そこで告げられたのは、オーレンはエルサレムで自動車事故を起こし、亡くなったということでした。

オーレンの妻のアナトはエルサレムでカフェを開いていました。
そのカフェにトーマスが現れ、ダブルエスプレッソとサンドイッチを頼みます。
彼はアナトにベルリンから来たことを話し、求人をしていないかと尋ねますが、ないと断られます。
それからトーマスはたびたびカフェを訪れるようになります。

そんなある日、アナトはトーマスに「まだ仕事を探している?」と聞いてきます。
週2、3回、午前中に働らかないかと言うのです。もちろんトーマスはその申し出に飛びつきます。
トーマスが皿洗いをしている時に、オーレンの兄のモティがやって来て、何もドイツ人を雇わなくてもいいだろうとアナトに言います。

アナトの息子・イタイの誕生日に、仕事の延長を頼まれます。
トーマスはイタイのためのビスケットを焼いていると、モティに見つかり、「非ユダヤ人はオーブンを使えない。知られたらコーシャが取り消しになり、店はやっていけない」と言われ、クッキーを捨てられます。
アナトにまで「頼まれたこと以外はやらないで」と言われ、落ち込むトーマス。
しかし翌日アナトにクッキーが美味しかったので、店に出したいと言われます。

イタイとも仲良くなり、店では彼の作るクッキーとケーキが評判になっていました。
あんなにトーマスを雇うことに反対していたモティですが、親切なところもあり、トーマスにアパートを紹介してくれます。
ユダヤ人専用でしたが彼のコネで特別に住めることになります。

そんな頃、アナトに家に食事に来ないかと誘われます。
ケーキを作り、持っていきましたが、イタイはケーキを食べようとはしません。
モティからトーマス(非ユダヤ人)の作ったものは食べるなと言われていたからです。
これ以降アナトはモティからの電話を無視するようになります。
電話に出ないので、会いにやってきたモティにアナトは言います。
息子に信仰を押しつけないでと。

義母(オーレンの母)が突然店にやって来ます。
息子はドイツ語が得意だったことを話し、息子を知っているかと聞かれますが、トーマスは知らないと答えます。
義母を家まで送ると、荷物を家の中まで運んでくれと言われ、帰る時に手料理を渡されます。
その後、安息日に来るようにと誘われ、家に行くと、オーレンの部屋まで見せてくれます。

カフェに30個のケーキの予約が入ります。
二人でケーキを作っていると、突然、アナトはトーマスにキスをしてきます。
最初はためらうトーマスでしたが…。

アナトと親しくなったトーマスは自分の天涯孤独の生い立ちを話します。
アナトは夫に好きな人のいるベルリンに移住すると告げられたことを話します。
その日、アナトに家を追い出されたオーレンは、ホテルに泊まろうとして事故にあったのでした。

やがてアナトは買い物のメモと夫の遺品の中にあるメモの筆跡が同じことに気づき、夫のスマートフォンの電源を入れ、残されたメッセージを聞きます…。


最初はトーマスの白い肌でぽっちゃり体型が嫌だったのですが、途中から全く気にならなくなりました。
愛する人の町に行って、彼の家庭にまで押し入るのも、普通なら嫌悪感を持ってもいいのに、全くそういうことはありませんでした。
孤独なトーマスがオーレンの死を受け入れるために必要な儀式のようなものだったと思えるからでしょうね。
祖母が亡くなってから天涯孤独になったトーマスにとってオーレンはたった一人の愛する人、家族でしたが、図らずもオーレンが死ぬことによりトーマスに新しい家族を残すことになり、これからそれがトーマスの生きる糧になっていくのかもしれません。そう願いたくなる映画でした。

とても好きな映画です。
絶対不倫反対…などという人にはお勧めしませんが、良作だと思います。