ほしおさなえ 『東京のぼる坂くだる坂』2021/09/19



学術書の編集者の蓉子は、仕事や用事などで行ったついでに、坂を訪れています。

五年前に七十六歳で亡くなった父が異様に坂好きで、生涯に二十回以上も引っ越しをして、いつも坂の、それも名のある坂の近くに住んでいました。
父は蓉子が八歳の時に家を出て行き、それからは蓉子宛に転居通知をよこし、そこには新しい住所とともに必ず坂の名前が書いてありました。
父が出て行ってから一度も会いに行ったことがありません。
遺言状の最後のメッセージになぜか父がこれまで住んできた坂の一覧が記されていました。

何故父は坂のリストを遺したのか。
坂は彼にとって、どんな意味があったのか…。

坂を訪れながら、父のことを思い、そこで出逢った人たちと話すことで、少しずつ父のことがわかってきます。

幼い蓉子になぞなぞとして「東京の坂で、のぼり坂とくだり坂、どっちが多いか」と聞いた父。
坂をおりていくだけの父と止まったままの母…。
蓉子は生きているかぎり、のぼったりくだったりしながら歩いて行くしかないのだと思うのでした。


小説ですが、エッセイかなと思えるところもあり、ひょっとしてほしおさんの個人的なことも書いてあるのかなと思いながら読んでいました。
1つ1つの坂の説明が多く、詳細なイラストもあるので、お散歩のガイドブックとして読んでみてもいいかもしれません。
説明が長過ぎるところは、端折って読みましたけど、笑。
本に出てくる坂なんか行ったことはないと思って読んでいたら、近くまで行っていたことが結構ありました。
福山雅治の歌で有名な桜坂も出てきますよ。

人の幸福と不幸は同じだけと言いますけど、どうなんでしょう。
坂ののぼりくだりと同じように同じでしょうか。
人によってどちらかが多かったり少なかったりするようにも思いますが、どちらにしても私たちは蓉子と同じように死ぬまで歩き続けて行くしかないのでしょうね。

コロナ禍が終わったら、この本に出てくる17の坂をゆっくり歩いてみたいと思いました。