夏川草介 『始まりの木』2021/10/09



『神様のカルテ』など医療系の小説を書く夏川さんが書いた民俗学者とその弟子のお話です。

藤崎千佳は東京にある国立東々大学文学部で民俗学を学ぶ大学院生です。
指導教官は偏屈で変わり者として知られている准教授の古屋神寺郎。
彼は左足が悪く、いつも学生に荷物を持たせ、ステッキをつき日本国中をフィールドワークで歩き回っています。

古屋との出会いは大学二年生の時でした。
図書館から出たときに雨に降られ軒先に立っていると、年齢不詳の男が出てきて、鞄から取り出した折りたたみ傘を千佳に差し出したのです。
傘を返しに行くと、千佳が持っていた『遠野物語』が濡れないように貸したと言うのです。
傘と引き換えに渡されたのは、『民俗学と遠野』という手製のテキストで、講義は毎週水曜日二時限目。
この出会いで千佳は初めて民俗学を知り、古屋に強く惹かれたのでした。

フィールドワークで弘前、京都、長野、高知など様々なところに行き、そこで古屋が語る言葉が千佳に民俗学という学問を究めることを促していきます。
彼は「人生をかけて」民俗学をやっており、民俗学は「人生の岐路に立ったとき、その判断を助ける材料は提供してくれる学問」だと言います。
現在の「精神的極貧状態とでも言うべき時代」に「神を感じることができなくなった日本人は、どこへ行くのか」…。

古屋は40代らしいのですが、彼の風貌と語り口がおじいさんの様で、ちょっと違和感がありました。
学生にあんなこと言っていたら、セクハラやパワハラで訴えられそうですね、笑。
夏川さんの小説には浮世離れした人が結構でてきますから、現代の『遠野物語』のようなものだと思って読むと良いかもしれません。
(「不思議をめぐる対談 上橋菜穂子×夏川草介 民俗学とファンタジー」)

学内にバーがある大学って本当にあるのかしら?
そう思って調べたら、なんと、東大農学部弥生キャンパスの「東京大学向々岡ファカルティハウス」に「S」というバーがあるということです。
アレ、食べログに閉店って書いてあるわ。東大もオンライン授業になってしまったからかしら。

読んでいると旅に出たくなりました。
「床もみじ」や「紅葉のトンネル」、見たいです。