古内一絵 『二十一時の渋谷で キネマトグラフィカ』2021/12/30

『キネマトグラフィカ』の続編。
私のように『キネマトグラフィカ』を読んでいなくても大丈夫です。


時は平成から令和へ。
老舗映画会社・銀都活劇(通称:銀活)が大手IT企業傘下の映像配信会社に買収された。
社内の雰囲気は最悪で、一応社員全員が残れるという話だったが…。

DVD宣伝チームのチーム長・砂原江見は迷っていた。
これからもこの会社で働き続けられるのか。
受け入れ先の映像配信会社が欲しいのは、人ではなく、銀活が保有する日本映画黄金時代からの膨大な数のソフトなのだ。
昔を思い返しながらカルチャー誌をめくっていると、懐かしい顔が…。
カジノヒデキ。
結婚していた時、家を飛び出し、何が上映されているかも知らずに入った劇場で行われていたのが、カジノヒデキのトークショーで、その後上映されたのが『サザンクロス』。
そして今、『サザンクロス』を制作・配給していた映画会社に江見はいるのだ。
昔とかわらないカジノヒデキの姿を見ているうちに、江見の気持ちは決まった。
やってやろうじゃないか。
”デジタルリマスター、ブルーレイ&DVD販促企画 さよなら銀活、九十年代トリビュート”。

やがて様々な人たちの思いのこもった”さよなら銀活、九十年代トリビュート”は形になっていく…。

読んでいくと、胸が痛くなりました。
働き方を小説に出てきたように大雑把に二つに分け、江見や麗羅、咲子たちvs由紀子や美子たちとすると、どちらかと言えば私は江見たちの側でした。
由紀子たちのような表だった嫌がらせはありませんでした。
でも内容は覚えていませんでしたが、同僚の女性から何か嫌だなぁと思われることを言われたことがあります。
天然の私は知らずに周りから浮いていたんでしょうね。
江見たちのような後生に残る仕事を出来なかったのが残念ですけど、笑。

登場人物たちが語る言葉が胸に突き刺さります。
「たった一度の人生。自分が決めたように生きてなにが悪い。そんな義務や自己犠牲を負わされてたまるものか」
「どれだけ時代が変っても、人が心の奥底で女に望むのは、”母性”という名で美化された自己犠牲だ」

時代が令和になっても、まだまだ変っていない日本社会。
その中でいかに女性も男性も生き易い世の中を作り上げていくのかがこれからの課題ですよね。
江見たちの姿にこれからの女性の姿を重ねつつ、彼女たちにエールを送ります。

古内さんは映画会社に勤務なさっていたんですね。
江見たちの思いは彼女の思いでもあるのでしょうか。