桐野夏生 『燕は戻ってこない』2022/04/02



桜の中にいた鳥。ヒヨドリでしょうか?

桐野さんの最新作です。


北海道の小さな町に生まれ育ち、介護の仕事をしてお金を貯め、憧れの東京にやってきたリキ。学歴もキャリアも生活基盤も持っていないので、非正規の病院事務の仕事にしか就けず、29歳になっても超貧乏生活を送っている。
同僚で仲良しのテルにいいお金になるからと卵子提供を勧められ、アメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に行ってみると、代理母出産を持ちかけられる。リキは高額な報酬にひかれ、承知してしまう。

代理母出産の相手は、草桶夫妻。夫はバレエ界の「サラブレッド」と言われていたバレエダンサーの草桶基。43歳になった今は引退して、元バレリーナだった母親のバレエ教室で教えている。
妻はイラストレーターをしている44歳の悠子。不育症と卵子の老化により妊娠を諦めた。
悠子は子どものいない生活でもいいと思い始めていたのだが、基が代理母出産に乗る気になり、押し切られる。

女性たちは自分の身体に関することでもあるので、真剣に悩み、考えています。
しかし男は「自分のDNAがどう作用するか実験してみたい」とかなんとか…。
調べてみると実際に代理母出産を請け負うエージェントがあるんですね。
テレビタレントとプロレスラー夫妻の代理母出産が話題になったのが、2003年頃ですから、あれから19年経ちます。そういえば彼女も「〇〇の優秀な遺伝子を遺したい」とか言っていましたね。生まれたお子さんは現在はアメリカにいるようですが、代理母出産をどう思っているのでしょうね。

最初はなんだこの人と思った悠子の友人のりりこですが、結構まともなことを言う魅力的な人です。彼女の言葉に私は同意します。

「夢の世界はそれぞれ違う。だけど、私は夢の世界は、他人に負担を強いてまで作るものではないと思っている」

意外な最後でしたが、その先に貧困の連鎖しか考えられず、暗澹とした気持ちになりました。

本にも書いてありましたが、ウクライナでは代理出産をする人が多いそうです。
BBCニュースで「ウクライナ侵攻で複雑化する代理出産 代理母も親も難しい決断」という記事がありました。
興味のある方は読んでみてください。

歌田年 『紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪』2022/04/03

一作目が結構面白かったので、二作目も期待して読みました。
三つの短編からなる日常に潜む謎解きです。
物に関する蘊蓄が好きな人にお勧め。今回はアメコミやコスプレ、フィギア関係です。


<FILE01:猫と子供の円舞曲>
八月最後の金曜日、新宿にある渡部紙鑑定事務所の紙鑑定士兼紙営業士、渡部圭の事務所に小学校低学年ぐらいの少女、古戸梨花がやってきます。
梨花が持ち込んだのは、紙粘土らしきもの。いくら紙鑑定士だからといって紙粘土は専門外ですが、渡部は一応話を聞いてみます。
梨花によると、近所の野良猫が片目をつぶされているのを見つけた。そばにこれが落ちていて、猫の毛と血がついていたというのです。
彼女が心配しているのは、この紙粘土の塊がクラスメイトの谷君のもので、彼が猫を虐待した犯人ではないかということでした。
梨花のことがほっておけず、千円(小学生から取るのか!)で引き受ける渡部でした。

<FILE02:誰が為の英雄>
九月半ば、渡部は野良猫虐待事件で世話になった團文禰に事件の経過を報告にいきます。その時、團がアメコミ(American comics)『B.O.D.Y.GUARDS』に出てくるブルー・ライダーのフィギュアを納品に行くというので、送っていくことにします。
その三日後、團から電話が来ます。フィギュアは母親が誕生日の息子に贈ったもので、息子は気に入らなかったようだ。息子の部屋から持ち帰る時に母親がフィギュアを階段から落としてしまい、修理を頼まれ、家まで取りに行った。どこが気に入らなかったのか、母親と話しているうちに、息子がアメコミ、『B.O.D.Y.GUARDS』の二巻が不良品だと言い、何冊も買いに行かされていることがわかった。ついては渡部に調べて貰いたいと言うのです。
雑誌は紙ですから、渡部の出番です。どこが不良品なのか、わかるか渡部。

<FILE03:偽りの刃の断罪>
十一月半ば、前回の重大事件で知り合った神奈川県警の石橋和夫刑事が事務所にやって来ます。
ある家が強盗に襲われ、夫が刺殺され、家の一部が焼かれた。夫婦とコスプレ趣味を通じて交流のあった春見という男に嫌疑がかけられている。
春見の無罪を信じる石橋は、この事件ではコスプレがカギになると思うので、渡部に知恵を貸して欲しいというのです。
わからないことは専門家に聞け、というわけで、またまた團に会いにいく渡部でした、笑。

前作では「伝説のモデラー」土生井が考えて、渡部が彼の意のままに動き回りました。今回も土生井が出てきますが、残念ながらちょっとだけです。
彼の代わりが、フィギュア作家の團です。彼もいいキャラしてます。
ミステリーとしては軽目ですが、登場人物たちがいい感じで、終わりがほんわかしているし、蘊蓄も面白く、楽しめました。
続編も出そうですね。次は因縁の<自然堂紙パルプ商会>とのことでしょうか。


今月のおやつ。


豆源のおかきと豆類です。
甘いおやつとしょっぱいおやつは各月一回、パンは月2回ぐらいの割合で頼んでいます。

日本のミステリー三作2022/04/04



内藤了 『TRACE 東京駅おもてうら交番・堀北恵平』
東京都丸の内署の新人女性警察官堀北恵平は、警官になって初めての夏休みを取り、故郷の長野に帰省しました。といってもたった二泊ですけど。
彼女は警察署の同僚だけではなく、ペイさんやメリーさん、ダミさんにもお土産を買って帰ります。優しい子ですね、恵平は。
恵平のお土産のみすゞ飴と栗餡風味堂の『くり風味』、食べてみたいです。

さて、「うら交番に行った警察官は1年以内に命を落とす」が本当ならば、恵平と先輩刑事、平野に残されているのはあと二ヶ月です。
そんな頃、SSBC(捜査支援分析センター)の浦野がやって来ます。
恵平たちはうら交番の柏村巡査の遺品に入っていた毛髪と爪を民間のDNA検査機関に送っていました。
浦野によると、そのDNAが未解決の不法就労の外国人女性失踪事件に関係する女性が持っていた名刺に残っていたDNAと一致したというのです。
浦野は女性たちの失踪の影に犯罪抹消ビジネスが関係しているという仮説を立てていました。
闇サイト『匣』、通称『ターンボックス』と何らかの関わりがあるのか…。
そんな時に、つい先日起こった八重洲口男性転落事件が思わぬ展開を見せます。

悲しい別れがありましたが、シリーズもいよいよ大詰め。
次は『LAST 東京駅おもてうら交番・堀北恵平』ですから、シリーズが終わるのでしょうね。名残惜しいです。

今野敏 『キンモクセイ』
警察庁警備局警備企画課の隼瀬順平は、さまざまな省庁に採用された同期が集まる情報交換を兼ねた飲み会に行く。
その時に話題になったのが最近起こった法務省の官僚が自宅の近くで遺体となって発見されたという事件のことだった。
事件のことを詳しく知らなかった隼瀬は、刑事局にいる後輩の岸本に電話をして訊いてみる。
被害者は法務省のキャリアで35歳の神谷道雄で、額を一発、拳銃で撃たれていたというが、昨夜聞いた以上のことはわからなかった。
ところが隼瀬は急に本庁に呼び出される。
被疑者が白人らしく、外事一課と三課が動き出したというのだ。
隼瀬たちは専任のチームを作って事に当たることになるが、次の日、外事一課と三課は早々に手を引き、専任チームは解散となり、警視庁の捜査態勢が縮小される。
このことを妙に思った同僚の水木は課長に内緒で調査を続けると隼瀬に告げる。

その夜、隼瀬はこの前会ったばかりの同期の外務省に勤めている木菟田と厚生労働省に勤めている燕谷と飲む。
この時、木菟田から警視庁がアメリカの情報機関に情報提供を要請したことを、燕谷からは殺された神谷が日米合同委員会に関わっていたことを知らされる。

次の日、隼瀬は水木に「キンモクセイ」を知っているかと聞かれる。
神谷が殺害される前日に同僚にその言葉を伝えたと言うのだ。
隼瀬は「キンモクセイ」のことを訊くために岸本に会うが、その次の日、岸本は自宅で首を吊っているのが見つかる。

やがて隼瀬が話を聞いた刑事が異動で飛ばされ、隼瀬は岸本を殺した容疑で逮捕されそうになる。
誰が味方で、誰が敵なのか。
果たして隼瀬は敵の手から逃げ切れるのか…。

若手官僚には会ったことがないので、どういう人たちかわかりませんが、こんな風に集まって、色々と情報交換をし、天下国家を論じているんですかね。
気になったのが日米合同委員会と日米地位協定。詳しく調べてみると、色々とありそう。
隠蔽捜査シリーズに比べると、最後が今一でした。

鏑木蓮 『見えない轍 心療内科医・本宮慶太郎の事件カルテ』
心療内科クリニックを開設して二年になる本宮慶太郎のところに、棚辺春来と母親の春美が来院する。
春来は九月三十日の夕刊に載っていた記事を読んでからご飯が食べられないという。その記事というのは、スーパーマーケットのアルバイト店員小倉由那が自宅アパートで遺体となって発見され、自殺の可能性が高いというものだった。
春来は学校帰りの電車の窓から毎日彼女を見ており、自殺ではない、何故なら亡くなった日に春来に手を振り、ガッツポーズを送ってくれたからだと言うのだ。
小倉のことを調べてみると春来と約束する本宮だった。

早速本宮は経営コンサルタントをしている友人の沢渡恭一に相談してみる。
沢渡は毎読新聞で上のポストについている大学時代の後輩に頼んで、サツ廻りの若い記者に調べさせると言ってくれるが…。

心療内科の医師がこんな探偵まがいなことをすることが、ちょっと不自然でした。
一人一人の患者のためにこんなことやってちゃ、仕事にならないですよね、笑。

お勧めは『東京駅おもてうら交番・堀北恵』です。
『MASK 東京駅おもてうら交番・堀北恵』から順番にお読みください。


<今日のわんこ>


フィラリアの検査のついでに血液検査をしました。
弟は問題はありませんでしたが、兄は中性脂肪が高く、肝臓の値も高くなっています。
今年10歳。そろそろ健康に問題が出てくる時期ですね。
弟のように動き回るといいのですが…。

澤田瞳子 『落花』2022/04/05



父の敦美親王に疎まれ、長男でありながら幼くして仁和寺に入れられ僧となった寛朝は、梵唄(ぼんばい)で父を見返そうと思い精進した。
やがて二十二歳の若さにもかかわらず、仁和寺の誇る梵唄僧として京洛に名を知られるようになる。
しかし寛朝は満足できず、楽人・豊原是緒から「至誠の声」の教えを受けるために、従僕の千歳を含む十数名の供に守られ、京を離れ、板東へと赴く。

豊原是緒は常陸国分寺で心慶という僧となり、傀儡女船の女たちに楽の手ほどきをしていた。
寛朝が名乗り出ても、人違いだと言いはり、寛朝を避けるばかり。
心慶は傀儡女の一人、あこやを特別に思っており、彼女に無明という琵琶を与えていた。
その琵琶は千歳が立身出世のために探し求めていた天下十逸物のひとつ、有明だった。

武蔵国庁で平将門と運命的な出会いをした寛朝は、豪放磊落な将門に強く魅了され、彼の放つ戦場の音に心惹かれていく…。

戦場の様子や平将門が生き生きと描かれています。
主人公は平将門と琵琶で、寛朝は狂言回しかな。
大河ドラマを見たことがないので、なんとも言えませんが、加藤剛が演じた将門はこんな感じだったのでしょうか?
江戸時代が好きでしたが、意外と武士が活躍する時代も面白そうですね。

ちなみに寛朝は平安中期の真言宗の僧で、986年に日本で三番目に大僧正になった、真言声明の中興の祖と言われている人です。
平将門が関東で反乱を起こした際に自ら関東に下向し、祈祷をし、その時に祈祷した不動明王を本尊として創建されたのが成田山新勝寺だそうです。

澤田さんは『若冲』と『火定』とこの本で三度直木賞候補になり、やっと『星落ちて、なお』で直木賞を取ったのですね。
『若冲』や『火定』で取っても良かったと思いますが、他のどの本が直木賞になったのかしら?


ちょっと早めのおやつです。


少しずつ、美味しいスイーツが入っています。(並べ方が雑ですね)


食べ過ぎなくていいかも、笑。

阿佐ヶ谷散歩2022/04/07



今日、兄犬と散歩してたら、新品の制服を着た中学校の新入生らしき女の子に「こんにちは」と挨拶されました。
珍しいなと思って(子供に挨拶されることって滅多にないんですもの)「こんにちは」と返すと、「かわいいですね。撫でてもいいですか」と聞いてきました。
運の悪いことにバイクがやってきました。兄はバイクが来ると吠えるんです。
仕方ないので、抱いて背中を撫でて貰いました。
女の子は撫でた後、「ありがとうございました」と言ってくれました。
多摩地方に住んでいる時には散歩に出るたびに子どもたちが声をかけてくれました。今の場所ではそんなことがなかったのですが、今年になって犬に触ってもいいかと聞いてくる子が現れ、驚いています。
犬も人に慣れ、人も犬に慣れ、互いにいい関係になれるといいですね。
実は兄、子どもや若い女性が好きなんです。高齢の方が寄ってくると吠えるんです(すみません)。

地図を見るのが好きで、暇があると見ています。
阿佐ヶ谷駅の近くに欅屋敷があり、どんな屋敷なのか興味を持ちました。
調べてみると、江戸時代の名主、相沢家の屋敷でした。
屋敷と40本あった欅のほとんどが空襲で焼けてしまったそうです。
この土地に病院が建てられる予定で、六月以降から工事になるらしいです。


立派な塀です。


もう工事が進んでいるようで、中が見えないように囲ってありました。
これは蔵かな?


旧杉並信用組合の玄関ポーチ。ここも無くなるのでしょうか。
小学校の側にあった児童館も移動したようです。
阿佐ヶ谷の駅前が栄えなかった理由が地主の反対のせいとか聞いたことがありますが、いよいよ駅前再開発が始まるのですね。

近くにある神明宮は何回か行ったことがあるので、今回はパスしました。


3月の桜の頃に行った時に芝生の手入れをしていました。

駅から少し遠い、村主家長屋門にも行ってみました。


立派な門ですね。左右に大きな木があったらしいのですが、切られています。
村主家もここら辺の地主らしいです。

金太郎の車止めが有名らしいので、探してみました。


金太郎の顔も何種類かあるらしいです。


2個見つけました。遊歩道らしきところにあります。
この標示もいつまであるのかわからないそうです。

そろそろ町歩きを再開したいものです。

砂原浩太朗 『高瀬庄左衛門御留書』2022/04/08

本屋大賞が決まりましたね。
逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』という時流に乗った本です。
先月にKindleで買って少し読み始めたのですが、他の本の方が面白くて、そのままになっていました。気が向いたら読んでみます。

第165回直木賞候補になった『高瀬庄左衛門御留書』は中高年男性の夢を描いたような作品です。


神山藩で郡方を務めていた高瀬庄左衛門は二年前に妻・延を亡くした。
息子の啓一郎は学問で身を立てようと思っていたが叶わず、二十歳で郡方になって三年経つ。秋本という勘定方の下役の娘・志穂を嫁にもらったが、二人はしっくり行っていないようだった。

思いもかけないことに、五日間の郷村廻りに出かけた啓一郎が事故で亡くなる。
志穂は高瀬家に残りたいと言ったが、庄右衛門は四十九日がすぎてから秋本へ戻した。
高瀬の家は存続を許され、郷村廻りは庄左衛門が願い出て引継いだ。
小者の余吾平には暇を出し、庄左衛門は一人暮らしを始める。

そんな時に、志穂が絵を教えて欲しいと、弟の俊次郎を連れてやって来る。
嫁には行きたくないので、団扇絵などを描いて、女ひとりで生きていきたいと言う。
非番の日に志穂と俊次郎と絵を描いてすごすのが、庄左衛門のただひとつの楽しみとなった。

そんなある日、志穂がもう一人の弟、宗太郎のことで気にかかることがあると相談してくる。

昔の五十歳というと、今の六十代でしょうか。
もう若くはなく、晩年と言っていい歳ですよね。
そんな男に若い女が惚れますか。男性の夢ですよねぇ(笑)。
まあ半次とか立花弦之助などという若者が慕っているので、庄左衛門はいい人なのでしょう。でも何かねぇ。いらなくない。

後半になると、農民の謀反、昔の因縁、藩の騒動やら色々とあります。
何があろうが、庄左衛門は淡々と受けて立つという感じです。人生を達観しているのね。
作者曰く、「ままならない人生を、ままならないままに生きる人たちの物語」だそうです。
特に中年男性には好きな時代小説になると思います。是非読んでみてください。
私は…嫌いじゃないです、笑。


<今日のわんこ>
見返りわんこ。


彼の嫌いなこと、例えば歯磨きとかブラッシングをすると、ブルブル震えます。
でも好きなことをしていると、こんなにいい顔になります。
犬も好きなことばかりしていたいですよね。

澤田瞳子 『若冲』2022/04/10

散歩をしていると、鯉のぼりが見えました。


三匹、風に吹かれて泳いでいます。
五月五日にはまだ早いのですが、いつから飾るのか決まりはなく、三月三日が過ぎたら飾ることが多いそうです。

20度以下のちょっと涼しい時が好きなのに、もう20度以上になってしまいました。梅雨になると歩けないので、今のうちにせっせと歩きましょうっと。


『若冲』を読んだつもりになっていましたが、よくよく考えると読んでいないようだったので、読んでみました。


源左衛門(若冲)は父が23歳の時に亡くなり、京の錦高倉市場の青物問屋「枡源」を継いだが、商いはすべて母のお清と弟の幸之助、新三郎に任せ、別宅にひきこもり絵を描いていた。
八年前に妻のお三輪が蔵で首をくくってからは、土蔵の見える一間で日がな一日、ひたすら絵を描いている。
異母妹の志乃は知っている。彼の絵が変わったのは、お三輪が死んでからだと。

四十歳になった源左衛門は町役や親類を集め、隠居することを告げる。
ついては弟の幸之助と新三郎には暖簾分けを許し、別家させ、お三輪の弟の弁蔵を志乃の婿にし、枡源を継いでもらうと言うのだ。
お三輪を死に追いやったのが枡源の者たちだと思っている弁蔵は、源左衛門が絵のために家督を捨てるということを聞き、逆上する。
志乃はそんな弁蔵に源左衛門の絵を見せる。源左衛門は道楽でこんな絵を描いているのではないと。
しかし弁蔵は奉公先から逐電して消息を絶ってしまう。

隠居した源左衛門は名を茂右衛門と改める。
ある日、池大雅に裏松光世の屋敷に連れて行かれ、一枚の鴛鴦図を見せられる。
絵の構図も筆運びも茂右衛門と酷似しており、「若冲居士」印が捺されているが、それは茂右衛門の絵ではなかった。
これを描いた者は市川君圭と名乗ったという。
茂右衛門は弁蔵が自分を苦しめんがために、茂右衛門の作と瓜二つの絵を描く贋作師になったのではないかと思いつく。
このままでは己の絵は弁蔵に蹂躙され、乗っ取られてしまうのではないか。
わしを恨むなら恨め。いつしか絵に逃げていた自分は、弁蔵の恨みによって真の画人となるのだ…。
それからの茂右衛門は凄まじい勢いで絵を描き始める。

ネタばらしをすると、実は若冲は生涯独身だったそうです。
本の中では、妻の死への悔恨と義理の弟との確執から、若冲は独自の絵の境地を極めていきます。
小説ですから、史実以外は作家さんの創作でいいのです。
この本は画家若冲の絵の本質に迫る佳作だと思います。

本の中の気になった言葉。
「美しいがゆえに醜く、醜いがゆえに美しい、そないな人の心によう似てますのや。そやから世間のお人はみな知らず知らず、若冲はんの絵に心惹かれはるんやないですやろか」

             「紫陽花双鶏図」

文中に出てきた紫陽花の絵ってこれですかね。
青い紫陽花が綺麗です。雌になにやら話しかける雄鶏と顔を背ける雌鶏が印象的です。
本の最後の方に出てくる「鳥獣花木図屏風」はこれ(↓)です。

             
2016年の「生誕300年記念 若冲展」には行っていないので、次にある時は行きたいです。展覧会は激混みだったらしいですが、若冲は人気があるのですね。
宮内庁三の丸尚蔵館に「動植綵絵」があるらしいです。
現在新施設移行準備のため閉館していて、令和五年秋に開館予定なので、その頃にはコロナも下火になってて欲しいです。
若冲に出会える美術館」というのがあったので、興味がある方は美術館を探して行ってみるのもいいかも。

江國香織 『ひとりでカラカサさしてゆく』2022/04/11



可愛らしい表紙です。題名も変わっていますね。
登場人物が多く、誰が誰だか分らなくなり、混乱すると思いますのでまとめて書いておきますね。(私だけ?)

大晦日の夜、あるホテルで80代の男女が猟銃自殺をする。
死んだのは篠田完爾、八十六歳と重森勉、八十歳、宮下知佐子、八十二歳。
三人は千九百五〇年代の終わりに美術系の小さな出版社で働いていた。
わかっているのは完爾が癌を患っており、そう長くはなかったこと。

篠田完爾は妻が亡くなり、十年前に秋田へ移住して田舎ぐらしを楽しんでいた。
子どもは息子の東洋、五十七歳と娘の翠、五十二歳。
東洋には妻と二十七歳の娘、葉月がいる。葉月はデンマークの大学でアンデルセンを研究している。
翠は結婚しているが、仕事はしていなく、家事と病院通いの毎日。

宮下知佐子は元編集者。劇作家の夫と結婚していた。
娘の朗子は結婚後子どもを捨て、男とくっついては別れるを繰り返している、男なしではいられない女。子どもたちは夫の祖母の家に引き取られた。
孫の踏子は三十六歳で作家をしている。祖母とは上手く行かず、17歳の時に家を出た。一時期知佐子のところに身を寄せたこともあるが、長いこと音信不通だった。
もう一人の孫の勇樹は三十三歳、獣医。妻の里保はトリマーをしている。
母親と姉とはずっと連絡を取っていない。

重森勉は独身で、出版社を皮切りに、輸入会社社長、クラブ支配人、日本語教師と転々と仕事を変えていた。
勉に後を任された輸入雑貨店の経営者河合順一は、勉のことを上司で恩人、友だちだと思っている。
勉と仲の良かった父、美術評論家の蕨田巌の関係で圭と塁の兄妹は納骨に行く。
彼らは父が死んでから、勉に一度しか会っていない。
圭は離婚間近で、妻の親が経営している喫茶店で離婚してもそのまま働こうかどうか迷っている。
日本語学校で勉にお世話になった教え子たち(藍沫と思涵、浩宇)は勉が眠っている八王子の霊園まで行き、手を合わせる。

家族や知り合いの死をきっかけに、少しずつ変わっていく人の気持ちと日常を描いた作品です。
初っぱなに猟銃自殺が出てきて、江國さんの作風が変わったかと思ったら、変わっていませんでした、笑。
最後まで何故彼らが死んだのかはわかりませんが、死はあくまでも個人的なものですし、受け取り方もそれぞれですもの。
私自身、東洋とか勇樹っぽいところがあるなぁと思いながら読んでいました。
一体この本は何を言いたいのとか問わず、いつものように、江國ワールドを楽しんで読むといいでしょう。

久坂部羊 『R.I.P. 安らかに眠れ』2022/04/13

「R.I.P.」とはラテン語の「requiescat in pace」、英語では「rest in peace」の頭文字を取っています。


村瀬薫子の兄、真也がsnsで出逢った三人の自殺志願者を殺害した容疑で逮捕される。
薫子は優しい兄がそんなことをするはずがないと思うが、兄の口からは微塵も後悔や懺悔の念の言葉は出てこない。
死ぬ以外に苦しみから逃れられない人を死なせてあげただけだと言う。

真也が殺した自殺志願者は、失恋の痛手から自殺を決意した女性と脊髄小脳変性症の男性、そして幼少時から自殺願望を持つ少年。
真也は希死天使と名乗り、彼らを自殺に導いたのだった。

薫子は兄が理解できず、事件に関係する人に会い、裁判を傍聴し、手記を書く。
裁判で弁護側は承諾殺人だと主張したが、検察側は死刑を求刑する…。

真也の言葉が重いです。
「もちろん、死んでほしくないという家族の思いは重視されるべきでしょう。しかし、家族の気持ちが大事という人は、忘れていないか。いざ、自分が死ぬ以外にない苦しみに陥ったとき、優先されるのは自分ではなく、家族だということを」

「自分が耐え難い苦痛に苛まれたとき、その苦痛を体験していない家族が、死ぬな、生きてくれと言ったらどれほどつらいか。日本で優先されるのは、常に家族であり、周囲の反応であり、世間の思惑である」

「僕は単純に自殺を肯定しているわけではありません。自殺の全否定を否定したかったのです。全否定は思考停止、相手のことを思っているつもりでも、実は自分の感情を優先している人は多い。生きるのは当然で死ぬことはいっさい認めない。それを疑いもしない人の思いやりのなさが、僕には耐えられないのです」

「ほんとうの思いやりについて、もう少し真剣に考えてみてください」

自殺幇助とか安楽死、尊厳死とかは難しい問題です。
読んでいて五体満足なのに自分で死ねないから殺してくれというのは、それは自分勝手なんじゃないの。殺した相手は殺人罪になってしまうのはいいのか。自分の命なんだから、自分でどうにかしろよと言いたくなりました。
しかしもし脊髄小脳変性症の男性のように身体の自由がだんだんと奪われる難病の人ならどうか。
ちゃんと法令化し、安楽死を容認してもいいように思います。

久坂部さんは医師という立場で、色々と考えてこの本を書かれたのだと思います。
しかし主人公の女性には共感できず、後半途中からミステリー色が入ってきて、最後がアレ?って感じになってしまい、テーマが重かっただけに、残念でした。

本の中に出てきた小説家の久坂葉子のことは知りませんでした。
神戸名門一族の出身で、十九歳で芥川賞の候補になり、二十一歳で鉄道自殺をした人だそうです。
久坂部さんに影響を与えた作家なのでしょうか。
もしかしてペンネームは彼女の名から考えたのかな?


<今日のわんこ>

よく〇んこを失敗し、床の上にのせています。
夫はちゃんとトイレの上でしているけど、胴体が長いから出てしまうんだとい言います。
でもママは知っています。やる気になればちゃんとトイレの上でできることを。


<今週のパン>

美味しいと評判らしい冷凍パンを頼んでみました。
お試しセットなので、種類が豊富ですが、小さいのが難点です。
夫のランチには2個必要みたいです。2個ということは、2種類の具材が必要ということで、面倒だわ。

冷凍パンで美味しいと思ったのは、今のところLIBERTÉ PÂTISSERIE BOULANGERIEのバゲットとAOSANの食パン、墨絵のパンです。
このパンも美味しいといいのですが。

ジッとママを見る弟犬2022/04/14



八重桜が咲いています。
これが終わったら、桜は終わりで、だんだんと暑くなり、梅雨が近付きます。
暑さも梅雨も嫌いなので、早く秋にならないかしらと思ってしまいます、笑。


弟はいつもジーとママたちを見ています。

彼のかまって欲しい=遊んで欲しい。
兄のかまって欲しい=抱いて欲しいor膝の上にいたいor一緒に寝て貰いたいetc.。
兄の要求の方がかなえやすいので、兄がママと一緒にいるのが多くなります。
それがわからず、遊んでくれないので不満を抱いているみたいです。


<今週のおやつ>
駅ビルで台湾カステラを売っていたので、買ってしまいました(恥)。


アールグレイ味を買ってみました。


一晩冷蔵庫に入れておくとしっとりするそうなので、朝ごはんの替わりに食べてみます。