烏丸尚奇 『呪いと殺しは飯のタネ 伝記作家・烏丸尚奇の調査録』2022/05/01

フランスでは5月1日は「ミュゲ(muguet)の日」と呼ばれ、愛する人やお世話になっている人にスズランを送る習慣があるそうです。
そんな訳で、スズランの写真を載せておきます。


「Je porte bonheur(私は幸せを運ぶ)」って言って渡すといいって。



第20回「このミステリーがすごい!大賞」隠し玉作品。
「このミス」は外れが多い(と私だけが思っている)のだけど、この作品は当たりでした。
烏丸さんは現役の医師だそうです。

デビュー作で自分の過去のトラウマを素材にして王道のミステリーを書き、賞を取り、そこそこ売れたのだが、その後アイディア欠乏症になってしまった烏丸尚奇は、今は伝記小説を書いて暮らしている。それでもまあまあ売れている。

新渡戸稲造を最後に伝記小説を書くのを止めようと思い、編集者・尾長澪を自宅に呼んだ日、ある大企業の創始者・深山波平の伝記執筆依頼が来ているのを知らされる。
報酬額は予想額の三倍以上だったが断る。しかし金銭以外に「貴方の浸かっているぬるま湯に、火花飛び散る裸電線を放り込むような刺激を約束します」と書いた紙があり、烏丸は「感電死するほどの刺激」に惹かれ、引き受けることにする。

<要項>に書かれている「10月1日から一ヶ月間、故人の残した邸宅に滞在し、執筆に専念すること」に基づき、烏丸は深山波平の出身地であり、晩年を過ごした長野県蝶野森市に電車で向かう。
電車の中で出逢った蝶野森市に住んでいる青年に、「深山家は呪われている」と言われ、俄然興味を持つ烏丸。
深山家の屋敷に滞在しながら調べていくと、波平の妻は自殺、次女は失踪。波平が心筋梗塞で亡くなった後、残された長女は植物状態になっていた。
しばらくして烏丸は隠された怪しげな部屋を見つける。

グロい内容が含まれますので、それが嫌な方は読まない方がいいです。
私もそういうのが嫌いですが、それでも最後まで面白く読み進めていけました。
夫も面白かったと言っています。
もしかしてシリーズになって、あの人が…、なんて思ったりしますが、そういえば有栖川有栖みたいに作者と主人公の名前が一緒ですね。
何か意味があるのかしら?


<今日のわんこ>


お散歩先で水を飲まそうとすると、そっぽを向く兄犬。
湿気が多いので、喉は乾かないのかな。


相変わらず携帯のカメラを向けると見ないようにする兄犬です。
今日は数匹の犬に会い、吠えまくっていた兄(ごめんなさい)。
弟はそんな兄が怖いようです。
今日は散歩の最初からママに抱いて貰おうとしたり、何回もママが来るまで歩こうとしない弟犬でした。

グリア・ヘンドリック&サラ・ペッカネン 『完璧すぎる結婚』2022/05/02



テッセンだと思うのですが、花びらの数が多いです。


ネリーはラーニング・ラダー保育園で教えている。
同じ保育園で働いているサムと部屋をシェアし、副業として夜にウエイトレスをしている。
彼女は九つ上の裕福なヘッジファンド・マネージャーのリチャードと婚約しており、もうすぐ結婚式だ。
リチャードは誰が見ても完璧な男で、友人のサムから「彼が完璧すぎておかしいと思ったことはないの?」と言われるほどだった。
しかし彼との結婚が決まった頃から無言電話がかかってくるようになる。

リチャードの前妻、ヴァネッサは結婚が破綻してから伯母に世話になりながら、デパートで販売の仕事をしている。
ある日、職場に知り合いの女性が現れ、リチャードが離婚の原因になった女性と婚約したことを知らされる。
驚いたヴァネッサは結婚を阻止しようと婚約者に会いに行くが…。

この本はミステリーではありません。サスペンスです。
最初はネリーがこの前読んだスワンソンの女主人公と同じようなメンヘラ女かと思いました。
途中から何故ヴァネッサが結婚阻止に必死になるのかが明らかになっていきます。
ちょっとネタばらしをすると、嫉妬からではないのよ。
そして最後に意外なことがわかり、そういうことかと納得。
詳しくは書きませんが、結局のところ完璧な結婚なんてあり得ないのね、という当たり前の感想です、笑。

<今週のおやつ>


豆源のおかきと豆です。中に入っているものが前と同じものが多いので、ちょっと飽きてきたかな。

<今日のわんこ>
連休はどこにも行かないので、毎日パパママと二匹でお散歩です。
今日は歩いている時に兄がちょろちょろしていました。


二匹で競って水を飲みます。


弟が飲み終わったので、ゆっくりと兄が飲みます。


珍しく兄がカメラの方を見ました。


「もう水はいりません」とそっぽを向く兄弟。


兄はカメラを見ないようにしています。弟は何をしているのか?


どっしりと落ち着いて立っている兄とあっちこっちウロウロしている弟です、笑。


満開のツツジとわんこを撮ろうと思ったら、トラックが来てしまい、こんなのしか撮れませんでした。
兄はツツジを食べようと思って近付こうとしていますwww。

名取佐和子 『図書室のはこぶね』2022/05/03

高校の体育祭までの一週間を描いた青春ミステリー。


野亜高校三年の百瀬花音は女バレのエースだった。しかし足を怪我してしまい、運動全般にドクターストップがかけられた。
そんなわけで、体育祭には参加できない。もちろん野亜高校体育祭名物の”土曜日ダンス”、略して”土ダン”にも。

花音は体育祭の前の一週間、図書委員の友人から頼まれ、代打として図書当番をすることになる。
図書室に行ってみると、同じ三年の図書委員・俵朔太郎がいて、花音は彼と共に図書当番をすることになる。
初日の月曜日にケストナーの『飛ぶ教室』を見つける。
同じ本が書架にもあり、不思議に思って本をめくってみると、

「方舟どもはいらない
 大きな腕白ども 土ダンをぶっつぶせ!」

と書かれたルーズリーフの切れ端が入っていた。
もしかして暗号?そう思った花音は体育祭に出られない鬱憤から、この暗号を解いてみようと思う。

朔太郎を引き込み、花音は『飛ぶ教室』の謎を解き始める。
やがて『飛ぶ教室』は10年前に借りられており、書かれていた言葉は当時の図書委員たちと関係していることがわかる。
「土ダンをぶっつぶせ」とは…。

「土ダン」とは野亜高校の創立当初から四十年以上つづく伝統種目。在校生はもちろん在校生の家族や卒業生、さらには地元の人たちも楽しみにしている。土ダンを踊ることが野亜高校体育祭に参加することだと言って差し支えないと言うほどの名物競技である。
ベイシティーローラーズの「Saturday Night」の音楽と振付は全員同じだが、隊列の組み方や移動方法、テーマに添った衣装などでクラスの個性が発揮され、それが審査される。

日本では同調圧力が強いですよね。
考えてみると、学校が同調圧力の最たるところですね。
みんな同じように行動しなければならないし、それを乱す人は許されないのですもの。
この本の中で奈良君が女装をして土ダンをするのが嫌だと言って逃げ回っていました。彼以外にも女装が嫌な人はいると思います。でもみんながするからと諦めて、自分の気持ちを押し殺してやる。みんなそうなのだから、お前も文句を言わずにやれ。できないならハブにするぞ…って感じは恐ろしですねぇ。
「その枠組みにきちんとおさまれる人だけが参加できる」、「乗る者を選別したノアの方舟」みたいな土ダンですか。(ネタバレが嫌なら剥がさないでね)
高校生の時に土ダンみたいなものがあったら、私は参加したくなかっただろうなぁ。

気になったので書いておきますが、花音は『飛ぶ教室』を誰が借りたかを調べましたが、それはしてはいけないことです。
「図書館は利用者の秘密を守る」(「図書館の自由に関する宣言」より)で書かれているようにプライバシーの侵害になるからです。
これがなければ話が始まらなかったことはわかりますが、なんとなくモヤモヤしました。

高校の体育祭を楽しんだ人も楽しめなかった人も是非読んでみて下さい。
お勧めの本です。

高円寺付近をお散歩2022/05/04

ちょっと遠出ということで、この前は阿佐ヶ谷だったので、今度は高円寺に行ってみました。
まず桃園川緑地を歩き、この前行けなかった馬橋稲荷神社へ。(高円寺駅よりも阿佐ヶ谷駅の方が近いです)意外といい雰囲気の遊歩道です。

馬橋稲荷神社へは参道を通らなくても境内へ行けました。
こういう通路ができているのです。(東参道鳥居があります)


ここを通ると、すぐに社殿に出られました。


思っていたよりも立派な神社です。


随神門(社殿側)。


髄神門(正参道側)。


手水舎。龍がいます。


二の鳥居(龍の鳥居)。
この神社の創建は鎌倉末期と言われているそうです。
とってもいい気を感じました。おみくじを引くと、大吉でした。

引き返して東参道から駅の方に戻り、高円寺氷川神社へ。


この神社の中に日本唯一の気象神社があります。


御由緒によると、「1944年(昭和19年)4月、大日本帝国陸軍の陸軍気象部(杉並区馬橋地区)の構内に造営されました。戦後の新堂指令で撤去されるはずの気象神社でしたが、調査漏れにより残存。先々代宮司の山本実が受入を決断して、高円寺氷川神社に遷座されること」になったようです。

近くに高円寺がありますが、中は見られないというので、行きませんでした。(夫が言っていたので、本当かどうかわかりませんが)。

高円寺に来た理由のひとつが台湾カステラの購入です。
この神社の近くに台湾カステラのお店「新カステラ」があるので、買いに行きました。お店の前にお客さんが待っています。一組入ると、一組待つという感じです。


プレーンハーフと今月のカステラ、ほうれん草ハーフを買ってみました。


ブラブラと高円寺を歩いていると、鯉のぼりを見つけました。


どうも風呂屋の鯉のぼりみたいです。


「なみのゆ」という風呂屋でした。

暑かったので、ほどほどにして帰ってきました。
阿佐ヶ谷とは違って若い人の多い町のようです。

梓澤要 『方丈の孤月 鴨長明伝』2022/05/05



鴨長明というと、『方丈記』を書いた人というだけで、どんな人なのか知りませんでした。なんとなくお坊さんで悟りを開いた偉い人みたいかなと思っていたのですが、結構偏屈な世をすねた人だったみたいです。

鴨長明は平安時代末期から鎌倉時代前期の歌人・随筆家。本来は「ちょうめい」ではなく「ながあきら」と読むそうです。
賀茂御祖神社(下鴨社)の神官・鴨長継の次男として生まれます。
母は長明が三歳の時に亡くなりました。
父の長継は十七歳という若さで下鴨社正禰宜惣官となります。
長継は人付き合いの上手い、明るい人だったようですが、長明は口数の少ない陰気な性格の子どもでした。
それでも歌の集まりと琵琶の稽古だけは熱心に通っていたようです。

十八歳頃に長継が病のため職を辞して引退。代わりに又従兄にあたる鴨祐季が正禰宜になります。長継は祐季に息子らの養育を頼み、後を継いで正禰宜になれるように導くと神前で誓わせます。
長明は父の命により、下鴨社社家一族の本家・菊宮家の娘・修子の婿になります。
長明が二十歳頃に長継は亡くなり、長明は後ろ盾を亡くし「みなしご」になります。その上菊宮家には馴染めず、その鬱憤を晴らすために歌の集いに積極的に出るようになります。
その後河合社の禰宜職推挙に落選。祐季が長継との密約を無視し、自分の息子を推挙したからです。

不幸は続くもので、父が亡くなってから五年後に兄の長守が突然亡くなります。
長明二十三歳。ここで一念発起…しません。

家司の右近のいう言葉が長明のことをよく表しています。
「好きな歌と琵琶には異常なほど熱中して勤めもおろそかにする」
「お家のことでちょっといやなことがあるとすぐ逃げて、何事もなかったかのようにとりつくろう。自分には関係なかったかのようにとりつくろう」
「僻みっぽくて、依怙地で、自尊心ばかり強い、つくづく面倒なお方だ」

平安から鎌倉へ時代が移り変わり、大火事、大飢饉、大地震、疫病などの災禍が起こり、長明の愛人が出産で亡くなり、菊宮家から追い出されたりと不幸が続きますが、長明は和歌では認められ、勅撰歌人になり、後鳥羽院に和歌所寄人に任命されます。彼が栄華を極めた時でした。
しかし後鳥羽院が長明を河合社の神官に推挙しようとすると、同族の鴨祐兼に反対され、実現しなかったことから世を拗ねてしまい、長明は『新古今和歌集』の編纂を途中で投げ出し、出家してしまいます。(五十歳頃)

和歌だけでも認められているのですから、それで満足すればいいのに、よほど神官職に未練があったのですね。
それなら熱心に仕事をすればいいのに、しもせず、なんかよくわからない人です。
おぼっちゃん気質でしょうかね。
ままならない人生でも、本人次第でどうにかなったように思えるのですが。
彼の性格だと言ってしまえばお終いですけど、笑。

最期は『方丈記』で書かれている日野の終の棲家で六十二歳で亡くなります。
色々と不平不満の多い人生でしたけど、それなりに満足して亡くなったと思いたいです。
この本を読んでから再度『方丈記』を読むと、前とは違った読み方ができそうです。

今とは違い神官が出家するのってこの時代にはアリなんですね。

<今日のわんこ>
暑そうだったので、いつもより早めに出かけました。


相変わらず競って飲んでいます。


今日は90度ですね、笑。


珍しく、二匹でそろって飲んでいます。


今日は機嫌がいいのか、兄は携帯を向けても前を向いていました。(お見苦しいスネを見せてしまって、すみませんwww)。

薬丸岳 『刑事弁護人』2022/05/06



亡き父の跡を継ぎ、弁護士になった持月凜子は、埼玉県警の警察官・垂水涼香が起こしたホスト殺害事件を手掛けることになる。
殺人事件の弁護は初めてということもあり、同じ事務所の西と弁護にあたることになる。

垂水は三ヶ月前に駅でホストの加納怜治に誘われ、ホストクラブに通うようになる。もちろん偽名を使い、職業も偽り、連絡先は教えてはいない。
その日は非番の日で、たまたま所沢駅前にいる加納を見かけ、バンドのデモテープを聞いて感想を聞かせてほしいと部屋に誘われた。
部屋に行くと、ナイフで脅され、ベッドに押し倒されたので、そこにあった酒の瓶で加納を殴ってしまったと言うのだ。

凛子と西は関係者に話を訊いていく。
そうすると涼香の供述が虚偽であることが明らかになっていく。
何故涼香は虚偽の供述をしたのか。
西は「真実」を知ろうと事件の真相に迫っていくが…。

二転三転とし、一筋縄ではいかない事件の真相でした。
罪を憎んで人を憎まずとか言うけれど、被害者やその遺族の立場からすると、そんなこと言ってられませんよね。
じゃあ何故弁護士が必要なのか。
凛子の父親の言葉に答えがありそうです。

「被疑者や被告人には弁護人以外に誰も味方がいない。味方どころか自分の話に耳を傾けてくれる存在もいないことが多い。(中略)罪を犯すまでに追い詰められた人のほとんどは、信頼を寄せられる家族や知人がいない。
彼ら彼女らの話を訊いてあげられるのは弁護人しかいないのだ」
「・・・罪を犯した者に自分がやってしまったことを深く考えさせ、事件と向き合わせ、二度とこのような過ちを起こさないように諭せるのは、被疑者や被告人の言葉に必死になって耳を傾けた、最も身近にいる弁護人だけではないだろうか」

ちいさな違和感や疑問にひとつひとつ当たっていく弁護人の姿に感服しました。
凛子も西も心に傷を持ちながら、刑事弁護人として歩んで行こうとしています。
彼らのトラウマとなった過去の出来事や次の活躍も読んでみたいです。
続編も考えているそうなので、楽しみに待ちます。
とても厚い本(約500頁)ですが、お勧めですので、頑張って読んでみて下さい。

門井慶喜 『銀河鉄道の父』2022/05/07

犬たちとお散歩に出かけてすぐに雨がポツポツと降って来ました。
残念ですが、お散歩を止めて戻って来ました。
途中の家に綺麗に咲く薔薇の花が。


入り口に薔薇のアーチ。


鉢植えのピンクの薔薇。


こちらも鉢植えです。
庭に鉢植えの薔薇を置くだけでもいいかも。
問題は水やりです。薔薇って水切れすると枯れちゃいますよね。
うっかり者の私は水をやるのを忘れがちです(恥)。
どうやら私は「緑の指」は持っていないようです。


銀河鉄道と言えば宮沢賢治ですね。
この本は父親の政次郎から見た賢治の一生を描いたものです。
政次郎、立派な父となるために頑張るって感じです。

私の中で宮沢賢治とはどういう人かというと、貧しい農家出身で、農民のために農業技術を教えながら詩や童話を執筆をしていた偉人。
幼い妹が亡くなる時に『永訣の朝』を、自らを克己するために、「雨ニモマケズ」を書いた人という感じです。
この本を読んで、如何に私は賢治のことを知らなかったか、思い知らされました。

まず、賢治の生家は裕福な古着屋兼質屋でした。
祖父の喜助が始めた家業を父親の政次郎が継ぎ、繁栄させます。
政次郎は成績優秀で、進学したかったのですが、喜助が質屋には学問はいらないと言ったため進学できませんでした。そのためかどうかわかりませんが、地元の軍医や弁護士などとともに、毎年夏季講習会を開いては、東京から浄土真宗の著名な僧侶や知識人を招いていたようです。

賢治は政次郎とイチの長男として岩手県花巻市に生まれます。
弟が一人、妹が三人います。
七歳の時に赤痢で入院します。この時政次郎は病院に泊まり込んで賢治の世話をし、自身も感染して大腸カタルを起こし、生涯胃腸が弱くなります。
今時の父親ならわかりませんが、明治時代の父親が子どもの看病なんて、ありえないですよね。

賢治は野山を駆けまわり、自由きままな幼少期を過ごします。
特に石が好きで、四年生になった頃には妹のトシと珍しい石を集めることに熱中します。そのため「石っこ賢さん」と呼ばれます。

賢治も成績優秀だったので進学を希望するのですが、もちろん祖父は反対します。しかし政次郎が喜助を説得したので、賢治は盛岡中学校に入学できました。
成績は振るわず、卒業時の席次は八十八人中六十番でした。

卒業後、賢治は肥厚性鼻炎の手術を行います。この時も政次郎は病院で看病し、チフスに感染してしまいます。懲りないですね。
退院してから政次郎は賢治に質屋で店番をさせますが、使いものにならず、仕方なく進学を許します。
賢治に質屋の仕事は合わなかったのでしょうが、嫌なことはしたくないという強い思いもあったのでしょうね。
早稲田か慶応かを選ぶと思った父の期待を裏切り、賢治は鉱物学がやりたいがために盛岡高等農林学校に入学します。
同じ年に妹のトシも女学校から東京の日本女子大学校に入学します。

帰省したときに政次郎が賢治に卒業したら何をしたいかと問うと、賢治は「製飴工場を経営したい」と言います。
政次郎、呆れます。「典型的な金持ち息子の夢ではないか。時代の流行に敏感で、柄が大きく、ゆたかな知識の裏打ちがあり、売る苦労を考えていない」と。
賢治は資金を全額、政次郎が出してくれると思っていたのですから。

卒業後、賢治は研究生としてのこり、土性調査をすることになります。
父は仕送りを止めて給料の月二十円で暮らさせようとは思いますが、そうできませんでした。あくまでも子に甘い父です、笑。
実は賢治は中学生の頃から思いつくかぎりの名目を立てて手紙で父に金をせびってきたのです。
トシとはまるっきり違います。トシの生活は堅実で、仕送りに文句ひとつ言わず、少ない仕送りの中から貯金までしているのですから。

しばらくして賢治は肋膜炎を発症します。
そのため農林学校は退学することにし、帰省します。
半年後に今度はトシが肺炎で入院。賢治は母と共に上京し、妹の看病をします。
驚いたのは、賢治がトシの便の始末までしたということです。かつて父がしてくれたことを自分もできると証明したかったのでしょうか。それともそれだけトシのことが好きだったのでしょうか。
退院後、トシと賢治は岩手に帰ります。トシはそれまでの成績がよかったので、見込み点がつき、卒業が認められます。

賢治は人造宝石の製造販売計画を政次郎に話しますが、反対されます。
怒った賢治は政次郎とは口を聞かず、信仰に生きると宣言し、国柱会(法華宗)に入信し、政次郎(浄土真宗門徒)に改宗を迫り、毎日論争を繰り広げます。
この頃健康が回復したトシは母校の花巻女子学校で教諭心得として教壇に立っており、忙しくしていました。
政次郎は思います。ひょっとしたら「最愛の妹をうしなった心のほらあなを日蓮の土で埋めようとしている」のではと。
この後、賢治は家出し、上京します。

七ヶ月後、賢治は大きなトランクを持って家に戻ってきます。
トシが喀血し、結核が再発したからです。
彼は東京で下宿をしながら働き、トシに勧められた童話を執筆していました。
その時に作った『風の又三郎』をトシに聞かせてからも、賢治は稗貫農学校の仕事の合間に童話を書き、トシのところにその童話を聞かせに通っていました。
トシは24歳で亡くなります。
トシは幼い時に亡くなったという私の思い込みは間違いでした。
どうもトシは賢治にとって妹以上の大きな存在だったようです。

賢治の書いた『雪渡り』が雑誌「愛国婦人」に載りました。
弟の清六に任せて東京の出版社に原稿を見てもらいますが、どこからも断られました。
その後「岩手毎日新聞」に詩と童話が掲載され、政次郎は百部も新聞を買って、親戚や知人に配ります。ホント親バカですね、笑。
賢治は『春と修羅』という本を出版したと言って持ってきますが、近所の納豆屋から金を借りて自費出版していたことがわかります。
呆れた政次郎でしたが、『春と修羅』を読んで、賢治は「ことばの人造宝石」をつくりあげた、「賢治は詩人として、いや人間として、遺憾なき自立を果たした」と思います。
でも売れるのか、この本は…と思う政次郎。

その後賢治は『注文の多い料理店』を出し、四年四ヶ月勤めた学校を辞め、一人暮らしをするために家を出てトシの病棟となっていた桜の家に引越します。
桜の家で賢治は羅須地人協会を設立し、原稿を書き、開墾し、レコードコンサートや読書会を開き、子どもに童話を聞かせ、セロを弾き…気ままに暮らしていました。
しかしそういう生活も長続きしませんでした。結核が再発したのです。
家に帰るように言う政次郎でしたが、賢治は家に帰ろうとはしませんでした。

読みながらお父さんの親馬鹿さ加減に呆れました。
こんなにも息子を溺愛する父はいたでしょうか。
「親の心子知らず」とか「三代目は身上を潰す」とはよく言ったもので、宮沢賢治そのものではないですか。(弟が家を継いだので、潰れませんでしたが)
親をいいように扱い、金を引き出せるだけ引き出し、自分の思い通りにならないからと拗ね、一体君はなんなのと言いたくなりました、笑。

まあ、門井さんの創作が大部分でしょうから、なんとも言えませんが、賢治が金持ちの息子だったことと妹ととても仲が良かったということは本当でしょうね。
夭折したトシが惜しいと思いました。生きていたら、どんな女性になっていたことか。
あ、賢治がいるから、賢治がまとわりついて離れさせてくれなかったかもね、笑。
彼の家族のことを知ってから、もう一度作品を読み直すと、違う見方ができそうです。

「お江戸甘味処 谷中はつねや」シリーズ2022/05/08

美味しそうな和菓子が出てくるシリーズです。


倉阪鬼一郎 『かえり花 お江戸甘味処 はつねや』
嘉永三年(一八五〇年)の早春、感応寺の門前町に新たな見世がのれんを出しました。「甘味処 はつねや」です。
上野黒門町の老舗菓子屋「花月堂」で十年間修行を積んだ音松と、父の跡を継ぎ外回りの振り売りをしていたおはつが夫婦になり、のれん分けをしてもらい、見世を出したのです。
しかし門出の日は大雪。表通りには老舗の「伊勢屋」と「名月庵」が見世を構えており、新参者のはつねやを目の敵にし、嫌がらせをする始末。
さて、はつねやはどうなるのか…。

倉阪鬼一郎 『腕くらべ お江戸甘味処 はつねや』
隠居の惣兵衛や仲良し娘三人組などのような常連客がつき、はつねやの商売も順調でした。
年が明けて、花月堂から思いがけない話が持ち込まれます。
腕くらべに出てみないかというのです。
花月堂のあるじの義父が出るらしく、彼と競って勝っても負けても後生が悪いので、音松に代わりに出ないかというのです。
失うものがなにもなく、出るだけほまれと、音吉は腕くらべに出ることにします。
対するのは、江戸中に名がとどろく老舗、麹町の鶴亀堂、浅草の紅梅屋、そして日頃からはつねやに意地悪をしている谷中の伊勢屋です。
初戦の相手は、伊勢屋になります。
勝負はどうなるのか…。

倉阪鬼一郎 『思い出菓子市 お江戸甘味処 はつねや』
はつねやは腕くらべで名が揚がり、やって来る客が増えてきました。
ある日、花月堂のあるじと番頭、戯作者の百々逸三がやって来ます。
江戸で選りすぐりの名菓を集めた見本市を計画していると言うのです。
はつねやも見世を出すことになります。おはつが思い出のお菓子づくりを思いつき、言い出しっぺということではつねやがやることになります。
しかし客はやって来ません。不発に終わるのか…。

倉阪鬼一郎 『光と風の国で お江戸甘味処 はつねや』
音松が紀伊玉浦藩に赴き、半年ほど滞在して、紀州の特産品を活かした菓子をつくることになります。
音松の留守中、はつねやをおはつと振り売りの巳之作、彼と祝言を挙げたばかりのおすみでなんとかやっていくことになります。
はたして音松は藩の銘菓となるような菓子がつくれるのか…。

とにかく読みやすくて、短時間で読み終わってしまいます。
話のオチが早々にわかってしまい、悪人と善人もわかりやすいので、物足りなく思うかもしれませんが、美味しそうな和菓子に免じて許して下さい、笑。
谷中は前によく訪ねた町です。今ある感応寺の辺りにはつねやがあったということですかね。
焼きたての若鮎や冷たくした丁稚羊羹、二種類の松葉焼きが食べたいです。
読み応えのあるものをご希望の方には勧めませんが、軽いものを読みたい時にこんな本もいいかもしれません。

伊坂幸太郎 『マイクロスパイ・アンサンブル』2022/05/09



ピンクの大きい薔薇が咲いていました。
色々な薔薇が見られるので、今の季節が一番好きです。

連休が過ぎ、またCOVID-19の感染者が増えてきましたね。
わが家は連休中に人混みには行きませんでしたから、大丈夫ですが、実は連休前に夫が感染した人と、(本人曰く)5分ぐらい接触しました。
相手がマスクをしていなくて1m以内の接触だったので、夫は心配で、連休中に無料で検査をしているところを探して、検査しに行って来ました。
陰性でしたからいいんですけど、本当に感染していたら、私も感染してしまうんだろうなと思いました。


この本に入っている短編小説は、毎年猪苗代湖で行われている音楽フェス「オハラ☆ブレイク」で、会場に来た人に小冊子として配布していたものだそうです。
出てくる歌詞は、実際に歌われているものらしいです。
残念ながら私の知らないバンドですが。
YouTubeなどで探して聞きながら読むと楽しいかも。

あっちとこっちのお話です。
こっちが今のこの世界だとしたら、あっちは扉を通っていく別の世界。

こっちは失恋した松嶋君の世界。
やっと就職した会社で苦労し、心身共にボロ雑巾状態。
いつも謝ってばかりいる門倉課長や先輩社員の松嶋さんと交流するうちに、松嶋君は変わって行きます。

あっちはスパイ活動をしているぼくとエージェント・ハルトの世界。
彼らは敵の施設に侵入し、任務を遂行していきます。

現実の世界で三つのものが揃った時に扉が現れ、あっちとこっちの世界が交差します。

なんとも不思議なSFっぽいお伽噺のようなほんわかするお話です。
猪苗代湖にはこんなことがあってもいいような、何かがあるのかもしれませんね。
合宿か何かで行ったことがありますが、また行って扉を探したくなりました、笑。

沢山そうだと言いたくなる言葉が出てきます。いくつか載せておきますね。

「人の体型や体質をからかうようなユーモアは、ユーモアと呼ぶのも憚られるほど低次元の笑い」
「プライド?そんなの、ただの言葉だろ」
「人生で大変なことがあっても、たいがいのことはもとに戻るんだ、やり直せる」
「物事の価値は、人それぞれ(中略)同じ人にしたって、昔と今では物差しが変わるからな」

一番好きな言葉はこれかな。

「僕の大好きなあのヒトがちゃんと幸せだったらいいな」

<今日のわんこ(実は昨日)>


相変わらず一緒に飲もうとしています、笑。


満足そうな弟犬。
気温は上がらなくても湿気があって、犬たちは疲れたみたいです。

「私の大好きなこのわんこたちがちゃんと幸せだったらいいな」www。

「ベイクオフ・ジャパン」を観る2022/05/10



「ブリティッシュ・ベイクオフ」を観ながら、日本のアマチュア・ベイカーならもっといいものを作るのに、とか思っていたら、日本版ベイクオフができちゃいました。
(イギリスのみなさん、ごめんなさい。イギリスのベイカーも日本のベイカーも同じ技量でした m(__)m)
オープニング映像や音楽、会場の立地、白いテント、使う調理器具など見事に本場のベイクオフを再現しています。

場所は那須の「那須ファームヴィレッジ」のようですが、イギリスの風景に似ています。カメラを引くと、田んぼが見えるのはご愛敬。

司会者は坂井真紀と工藤阿須加。
二人ともどういう人が知らなかったのですが、悪くないです。
特に工藤君のファッションとお寒いギャクが見物です(いい意味で)。
二人ともコメディアンじゃないし、メル&スーのようにしなくても十分です。

審査員はパティシエの鎧塚俊彦とパン職人の石川芳美。
鎧塚さんは川嶋なおみさんの夫として知っていますが、優しい口調で相手を傷つけないように言葉を選んで講評し、こうするといいよと親切に教えてくれ、とっても心暖かい人だと思いました。好印象です。
石川さんのことは知らなかったのですが、菓子職人のフランス人の旦那様と一緒に
「メゾン ランドゥメンヌ」というお店をフランスと日本でオープンしている実業家でもあるようです。
彼女の人生は波瀾万丈。こちらを見てみて下さい。素敵な方です。
彼女にフランス語で「excellent(最高に美味しい)」と言われた時のベイカーはとっても嬉しそうです。
ポールとメアリーのような絶妙な絡みはないですが、なくても気になりません。

番組のアマチュアベイカーは最初は10人。エピソードが進むごとに一人ずつ番組を去っていきます。
ベイカーたちはとっても個性的。大学生のイケメン君や日系三世のブラジル人、マッチョな商社マン、真っ赤な髪が印象的な女性、奥さんのお弁当を毎日作る愛妻家、最年長のお菓子作り一年目の男性など様々です。
今回は途中で棄権した人がいたので、エピソード5では脱落者はいませんでした。

各エピソードには3つのチャレンジ、①オリジナルチャレンジ ②テクニカルチャレンジ ③ショーストッパーチャレンジ、があります。
制限時間があるため、作り直しなんかすると、大変なことになります。
特にテクニカルチャレンジが難しいです。何故かというと、番組側が用意した基本レシピと材料で作らなければならないからです。
レシピには焼き時間や発酵時間など書いていないらしいです。
ベイカーたちはチェルシー・バンズとかババ・オ・ラムが出てきた時に、知らない物だったので相当悩んでいました。

何を作ったか紹介しましょう。
エピソード1・「ケーキ」:①ロールケーキ ②スフレチーズケーキ、
              ③セレブレーションケーキ
エピソード2・「ペストリー」:①セイボリーパイ ②レモンメレンゲタルト
                ③シュー生地
エピソード3・「ブレッド」:①フォカッチャ ②バルカ ③パンデコレ
エピソード4・「チョコレート」:①チョコレートバー ②オペラ
                 ③チョコレートケーキ
エピソード5・「ブリティッシュ・ウィーク」
             ①バッテンバーグケーキ ②チェルシーバンズ
             ③アフタヌーンティーセット
エピソード6・「デザート」:①ミラーグレーズケーキ ②ババ・オ・ラム
               ③3Dゼリーアート
エピソード7・「パティスリー」:①エクレア ②モンブラン ③マカロンケーキ
エピソード8・「ファイナル」:①ショートケーキ ②ヴィーガンメロンパン
                ③ジャパニーズウェディングケーキ

ゼリーが固まらなかったり、形が歪になったり、シュガーペーストが切れたりと色々なハプニングがあり、見ていると可哀想になります。
最初はとんでもないものを作っていても、番組が進むうちに成長して、素晴らしいものを作りあげていく姿に感動します。
一応コンテストなのですが、他の人を蹴落とそうとかする人が一人もいなくて、足りない器具を貸し合ったり、レシピでわからないことを話し合ったりと和気あいあいの雰囲気です。
ベイカーが去るときなんか、惜しんで泣いている人もいます。

イギリスの番組の雰囲気を変えずに、日本風な味付けをしたという感じです。
お菓子作りが好きなら、是非このベイクオフ・ジャパンとブリティッシュ・ベイクオフを見てみてください。
イギリスのベイカーたちも日本のベイカー同様にいいもの作ってますよ。
お勧めの番組です。