新川帆立 『目には目を』2025/03/06



土木作業員、少年Aの死体が寮の部屋で発見された。
容疑者はすぐに見つかった。自首したのだ。
容疑者の娘は少年Aに殺されたが、少年Aは十五歳だったので、少年院に一年三カ月入っただけで退院していた。
人を殺して、たった一年三カ月入っただけで、許されるのはおかしい。
死には死をもって償ってもらう。
そう思った容疑者はインターネット上で少年Aの情報を集め、Aと同じ時期をN少年院ですごした少年Bからの情報提供でAの所在を特定し、殺害したと語ったという。
裁判で犯行動機を聞かれ、容疑者はハンムラビ法典の「目には目を」を引用した。
そのため被害者家族が加害者に復讐した稀有な例として、この事件は「目には目を」事件と呼ばれるようになる。

フリーのルポライター、仮谷苑子は他の多くの少年は罰を受けていないのに、なぜ、少年Aだけが殺されたのか。少年Aは運が悪かったのか。あるいは殺されるだけの事情があったのかという疑問を持ち、「目には目を」事件の関係者の証言をもとに、少年法のベールに包まれた事件の真相を解明しようと思った。

少年Aと同じ時期にN少年院ミドリ班にいた少年は六人。
①大坂雅也(仮名):先輩に命じられ、名前も知らない少年に暴行を働き、翌朝、少年は死亡。弟が子役で有名だった。目立ちたがり屋。少年院が楽しかったという。
②堂城武史(仮名):中3の時に十歳ぐらいの女の子をトイレに連れ込みいたずらしようとするが、叫ばれたので殺す。IQ76。「根は優しい」と幼なじみはいう。
③小堺隼人(仮名):受験に失敗し、自殺しようとして誤って母親をナイフで刺してしまう。自分は利口で天才ゆえ、生きづらいと思っている。
④進藤正義(仮名):14歳で特殊詐欺の受け子で逮捕されるが不処分。中学の女子更衣室に隠しカメラを仕掛け盗撮し、保護観察処分。18歳で暴力団員に金を払えと恫喝され、大きな屋敷に盗みに入り、家主に見つかり逃亡し、窃盗未遂で少年院に入る。大声で話し、社交的だが、虚言癖があるという。
⑤雨宮太一(仮名):妹の友だちの女の子と男の子を殺し、切り刻んで、つなぎ合わせて民家の前においた元猟奇殺人犯。タワマンに住み、YouTuberをしている。
⑥岩田優輔(仮名):吃音を気にして高校からしゃべらなくなる。醜形恐怖症と男性器が小さいことに悩んでいる。高校1年の夏休みから母親や姉に暴力を振るうようになり、高校2年の時に母に暴力を振るうのを止めようとした姉を殴り、鑑別所から少年院に送られる。姉は未だに植物状態。今は父親と暮らし、話せるようになっている。

この6人のうち、誰が被害者で、誰が密告者なのか。
仮谷苑子の隠された意図はなんなのか。
意外な事実が明らかになる。


各少年たちの話を読んでいくと、この子たちとの意思の疎通は難しいだろうなと思いました。
厳しい見方をすると、自分がしたことを客観的には見られないようですし、被害者と被害者家族に対して悪いことをしたとか罪を償おうとか、それほど思っていないように感じました。
少年院の職員の方々は大変ですね。

読んでいて、どうしても私にはわからなかったのが、少年Aの母親です。
少年Aは少女を殺しているんですよ。そうでなければ、少女の母親は少年Aを殺さなかったはずです。
それなのに、そのことは棚に上げ、「じぶんの息子が学校で虐められていた。ストレスがたまっていたんだ。少年院で自分の罪と向き合っていたはずだ。殺さなくてもいいじゃないか。これからというときだったのに」とか言っています。
そして、加害者には手が出せないので、「自分の子を裏切った情報提供者に報いを受けさせなくてはならない」と思うのです。
なんかこの論理の飛躍が私には理解できませんでした。

今までの新川さんとは全く違う作品です。
興味がある方は読んでみてください。


<今週のおやつ>


ガトーフェスタハラダのグーテ・デ・レーヌとグーテ・デ・ロワ プレミアム ノワゼットです。
グーテ・デ・レーヌは薄くスライスしたガトーラスクでレーズンクリームを挟んだもの。
ノワゼットの方はクーベルチュールミルクチョコレートにノワゼットのペーストを練り込んだものをガトーラスクにコーティングしたもので、すごく甘いです。