桜木紫乃 『人生劇場』2025/04/11



猛夫は昭和十三年に室蘭の蒲鉾職人の新川彦太郎とタミ夫婦の四人兄弟の次男として生まれた。
タミは長男の一郎だけを可愛がり、猛夫たちが一郎に苛められていると言っても信じず、告げ口すると反対に叱りつけた。
どこにも行き場のない猛夫の唯一の居場所は、タミの十五も年の離れた姉、カツのところだ。
カツは幕西の置屋にいたのを夫に身請けしてもらい、商才があったようで、夫の魚屋から駅前食堂へと商売の幅を広げ、松乃家旅館の女将にまでなった。
妹が生まれてから、猛夫はカツの元で暮らすようになる。
カツは猛夫を養子に欲しかったが、タミは許さなかった。

中学校卒業後、カツは高校進学を進めたが、猛夫は理容師になるために札幌に出る。しかし、馴染めず、挫折して室蘭に戻る。
昭和三十年の春、新川一家は長男の一郎が作った借金のため夜逃げする。
一郎は一人で行方をくらまし、猛夫は何も知らされず、置いてきぼりだった。
病気のカツのために、立ち直った猛夫は旅館の近所にある、猛夫が理容師になろうと思うきっかけになった藤堂の理髪店で床屋の修行を始める。
二十歳になる年の春、猛夫は理容学校の通信教育を終える。
あとは国家試験に受かるばかりというときに、カツが亡くなる。

釧路にいた兄の一郎が交通事故で死んだという知らせが来る。
藤堂に諭され、猛夫は釧路に行く。
猛夫は父の彦太郎が言ったことに驚く。
「お前は今日から、新川家の長男だから…」

一郎の借金と一家の出奔ゆえに室蘭で店を持てない猛夫は、釧路にある藤堂の兄弟弟子の島原の店で国家試験に合格し、独立するまで世話になる。
店を持つと同時に国家試験の同期会で知り合った杉山里美と結婚する。

理容師として独立して子が出来ても、猛夫は落ち着かず、金を散財し、気にくわなけりゃ里見を殴る。
八方ふさがりの人生。
生きる拠り所は、カツの旅館で働いていた駒子だけ。

その先にあるのは何なのか…。


猛夫のモデルが桜木さんの実父だそうです。
自分の父親をよくこれほど客観して書けましたね。あっぱれです。

人間は親に愛されなくても、他に愛してくれる人がいればどうにかなると思いたいのですが、猛夫は最後まで駄目でしたね。
カツや駒子の愛情は無駄だったのでしょうか。
女たちに甘えるばかりで、カツが亡くなってからの猛夫は本性が出てしまったのでしょうか。里見に対するDVには驚きました。
まあ、最後の最後には落ち着いたようですが、里見はよく辛抱しましたね。
今なら手に職を持っているのですから、猛夫はすぐに捨てられたでしょう。
昭和では離婚は滅多にできませんものね。
昭和って男が好き勝手をやり、女は耐えるという時代だったのでしょうか。
自分の両親はどうだったのか、思い返してみますが、そういうところがあったかどうか、覚えていません(恥)。
とにかく里美と結婚してからの猛夫には呆れるばかりで、同情も共感も何もできません。
こういう人もいるんだろうなぁと達観視するしかないですね。
里見は生身の女で、カツと駒子は菩薩です。

いかにもずっと待っていた桜木姐さんの作品という感じです。
一人の馬鹿な男の人生航路を楽しんで下さい。



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