「プロスペローの本」を観る2025/05/01



原題:「PROSPERO'S BOOKS」

1991年イギリス・フランス・イタリア映画 126分

脚本・監督:ピーター・グリーナウェイ

原作:ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』

撮影:サッシャ・ヴィエルニ

美術:ベン・ヴァン・オズ、ヤン・ロールフス

音楽:マイケル・ナイマン

編集:マリナ・ボドビル

衣裳:ワダエミ


出演:

ジョン・ギールグッド(ミラノ大公プロスペロー)

マイケル・クラーク(妖精キャリバン)

ミシェル・ブラン(ナポリ王アロンゾ―)

エルランド・ヨセフソン(ナポリ王の忠臣ゴンザーロー)

イザベル・パスコー(プロスペローの娘ミランダ)

トム・ベル(プロスペローの弟アントーニオ)

ケネス・クラナム(セバスチャン)

マーク・ライランス(ファーディナンド)


かつてミラノ大公だったプロスペローは12年前にナポリ王アロンゾーと共謀した弟のアントーニオに国を追放され、娘のミランダと絶海の孤島に漂着する。

プロスペローは友人のゴンザーローから譲り受けた24冊の魔法の本を読み、強大な魔法の力を持つようになり、孤島に小イタリア王国を築き上げる。


ある日、プロスペローは島の怪物キャリバンや妖精エアリエルを使い、「テンペスト」という壮大な復讐劇を書くことを思い立つ。


久しぶりにピーター・グリーナウェイの世界に浸ろうと思い、映画館に足を運びました。

シェイクスピアの『テンペスト』が原作で、音楽がマイケル・ナイマンなんて、ワクワクしませんか。

これでもかというように、色彩と音楽がスクリーンから溢れてきます。

出てくるのは全裸や半裸の妖精たちで、人間は主人公のプロスペローと娘のミランダ、そして嵐で島に流されてきた者のみ。

次々とプロスペローが読んできた本、「水の本」、「神話の本」、「幾何学の本」・・・などが話の流れと共に開かれていきます。


プロスペローを演じるのは、シェイクスピア俳優のジョン・ギールグッド。

物語はすべて彼の台詞のみ。

これぞシェイクスピア俳優という台詞まわしです。

もう見られませんが、彼の舞台を一度見てみたかったです。


とにかく映像美に圧倒されます。

美しい絵画が永遠に続いていくという感じで、そこにナイマンの音楽が組み合わさると、豪華絢爛。しかし、少しバランスが崩れると醜悪になるというギリギリの線です。

好き嫌いが分かれる映画でしょう。


ピーター・グリーナウェイの映画をみてみようと思った方は、下の予告篇を見てみて下さい。嫌悪感がわかなかったら、大丈夫でしょう(たぶん)。


「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティブ 美を患った美術師」日本版オリジナル予告篇


アン・クリーヴス 『沈黙』2025/05/03

イギリスの南西部デヴォン州が舞台の警部マシュー・ヴェン・シリーズの二作目。
一作目は『哀惜』なので、タイトルはこれからも漢字二字でいくみたいですね。


ウェスタコムの芸術家たちのコミューンで男性が殺されていた。
見つけたのは吹きガラス職人の娘で、作業場で父親を見つけた。
バーンスタプル署の部長刑事ジェン・ラファティは昨夜の友人のパーティで彼と話していた。
彼、ナイジェル・ヨウは元医師で現在はノース・デヴァン患者協会の所長をしていた。
ジェンに話をしたいことがあると言われたが、飲んでいたので、次の日に電話をもらうことになっていた。

マシューたちが調べていくと、死の直前までヨウが自殺をした青年のことで<国民保険サービス>を調べていたことがわかる。
青年は自殺を教唆するサイトにアクセスしていた。
殺人と何らかの繋がりがあるのか。

地道な聞き込みを進めていくが、次の殺人が起こる。

読みながら、読んだことがあるような気がしていました。
kindleで原書を買っていたので見てみると、読み終わっていました。
ブログに書くのを忘れていたようです。
ちゃんと内容がわかって読んでいたようなので、よかったですわww。
読み終わってから考えてみると、原題が『The Heron's Cry (鷺の鳴き声)』なのに日本語のタイトルは『沈黙』。内容と合っているのかしらねぇ。

このシリーズは、わたしには”シェットランド四重奏”四部作と同様に殺人事件を解くことがメインではなくて、美しいデヴォン州の風景描写とそこに暮らす人々の人生の機微を読むものです。
デヴォン州に行ってみたくなりました。

三作目の「The Raging Storm」は2023年に出版されているようで、読んでみようかどうか考え中です。

修善寺に行く2025/05/06

昨年の連休にどこに行ったのか記憶にないので、ブログをみてみると、立川に行っていました。
一時間ぐらいで行けたのでよかったのですが、今回、よく考えずに修善寺まで行ってしまいました。
そもそも美容院の店長さんが修善寺のホテルの食事がすごくいいと薦めてくれたのが始まりです。
ちょうどドッグフレンドリールームが空いていて、決めちゃいました。
しかし、連休中は止めた方がよかったです。
3時間ぐらいで着けるかなと思っていたら、4時間以上もかかってしまいました。
途中までナビ子(使えないカーナビゲーションのことをこう呼ぶ)は高速には乗らずに下の道で行くように指示します。
一時間ぐらいの間隔でコンビニでトイレを借りつつ犬を外に出せたので、下の道でもよかったのですがね。


高速に入ってすぐのPA(名前を忘れたw)に犬がくつろげる場所がありました。
やや狭いけど、犬用ゴミ箱があってありがたいです。
ここまでは兄犬はご機嫌でした。

なんとかホテルに着きました。
最後が山道だったので、兄は車酔いのためか機嫌が悪く、いつもは吠えないのにクレートの中で吠えています。
抱くと静かになったのですが、ホテルの従業員の女性は犬が嫌そうでした。


粗相をしないように部屋に入るとすぐにおしめをします。
へや中をかぎまわる兄犬。やっと落ち着いたようです。
この後、静かにクレートの中で寝ていました。
残念なことに、床が滑るようですし、犬がドアから出ないようにするフェンスもありません。
ここより軽井沢の同じ系統のホテルの方が犬連れにはお薦めですね。

夕食は、メインが八種類(かな?)の中から選べ、後はビュッフェです。


私は鹿肉、夫はTボーンステーキ(写真)を頼みました。
ビュッフェは品数が少なかったですが、味はまあまあでした。
どうも期待しすぎたみたいですww。

次の日は修善寺温泉に行ってみました。
修善寺温泉は1200年前に弘法大師が発見した温泉だそうです。
鎌倉時代には「源氏興亡の哀史を秘めた舞台」になりました。
修禅寺の横の駐車場(500円)に入れました。

まず、修禅寺に行きます。
私は「修善寺」だと思っていたのですが、「修禅寺」なのですね。
曹洞宗の禅寺なので、「禅」なのかしら。


天気がよくて、暑いくらいです。


川が流れていて、右側にとっこの湯の河原湯(足場)が見えます。


修禅寺に向かいます。人が多そうなので、兄はママのスリングに、弟はパパが抱きます。
修禅寺は平安時代の807年に弘法大師空海により開創されたそうです。


山門から入ると左側にトイレがあり、お百度石と鐘楼堂があります。
手水舎には温泉が流れているそうです。


本堂。
「だるま石」を見るのを忘れました。


壇信徒会館の前のお地蔵さま。


ここにもお地蔵さまがいます。


米子に行ってからお地蔵さまが気になります。


弘法大師像。


藤の花のご朱印。
隣に日枝神社があるので、行きました。
ここも弘法大師の建立だそうです。


鳥居をくぐると、巨木があります。


木のパワーをもらいました。


境内に夫婦杉があります。ここは子宝祈願の神社です。


逆光でしたw。


自販機?見てみると、絵馬を売っています。
社務所が開いていないことが多いのでしょうかね。


県の天然記念物の「一位樫」。


朱塗りの虎渓橋を渡って指月殿に行きます。
コーヒーの匂いが漂う場所をすぎて斜面を上っていきます。


十三士の墓。
鎌倉幕府2代将軍源頼家の家臣で、頼家が暗殺された後に謀叛を企てたのが発覚して殺されたか、殉死したそうです。


源頼家の墓。


お願い石。持ち上げると重かった。願は叶わないのか・・・。


なんか色々とありましたww。
みなさん、右側に行かずに斜面を上っていきます。
私は上るのが嫌なので、古い建物の方へ行ってみました。


伊豆最古の木造建築物といわれている、暗殺された頼家の冥福を祈って母政子が修禅寺に寄進した「指月堂」があるではないですか。
みなさん、ここを見ないで何を見に行ったのでしょう。
禅宗式という珍しい様式の丈六釈迦如来座像が安置されています。
右手に蓮の花を持っています。


竹林の小径に行くと、人気らしく、人が増えます。


半鐘かな。


狭い範囲に橋が2つかかっています。
若い人が多いですね。

最後に源範頼の墓に行きました。


源範頼は源頼朝の異母弟で、義経の異母兄だそうです。


のどかな風景です。

一時間ぐらいで全部を回りました。
犬がいないとお店にも入れるので、二時間以上はかかるでしょうね。
お昼のために持って帰られる食べ物がないかと探したのですが、ないです。コンビニで何か買いましょう。

一服してから歩き足りないわんこたちのために、ホテルのドッグランに行きました。
ドッグランから富士山が見えました。


ドッグランは斜面で、狭いので、大型犬は物足りないでしょうね。


そろそろおやつを欲しがっているようです。


パパ、下さい。
兄がいつもおやつをくれるママの方を見ています。


パパ、早く、下さい。


兄はお行儀よくお座りしていますが、待てない弟は・・・。


おやつを平らげた弟はサッサと去ります。
ちゃっかりしてますねぇ。

風が強かったのですが、ベンチに座っていると、気持ちがいいです。
緑が多いと癒されますね。

部屋でしばらく休み、夕食に行きました。
昨夜よりも人が多いのか、ビュッフェを食べ終わったのにメインがなかなか来ません。
やっと届いたお肉は焼き過ぎ。残念。


食事後に外に出てみると、富士山が見えました。

翌日は小室山に行ってから帰ることにしました。
しかし・・・。


10時半頃に着いたのに、道路まで並んでいます。
聞いてみると、リフトに乗るまで45分から一時間かかるとのことです。
わんこたちがいるので、諦めました。
車酔いし始めたのか、兄の機嫌がメチャ悪いです。


つつじ園の方に行ってみましたが、つつじは咲き終わり、少ししか咲いていません。


つつじが咲くときれいでしょうね。

始めは家に三時ぐらいに着ける予定だったのに、とんでもありませんでした。
走っているうちに渋滞にはまってしまいました。


大磯PAには犬用ゴミ箱がある、犬が休めるスペースがあります。
子どもも遊んでいました。
車から下りると兄は元気になります。


他の犬が来始めたので、そろそろ車に戻りましょう。
結局、また渋滞にはまり、家に着いたのは五時近くになりました。

家に帰ってからの兄の便が緩くなっています。
実は持っていったウエットのドッグフードを開けると水がこぼれてきたのが気になっています。別のお店で買った時は全く水っぽくなかったのです。
通販で買ったドッグフードの保管が悪かったのかもしれないので、しばらく別の物を食べさせて様子をみます。

修善寺はちょっと遠かったです。
次は連休は避けて、二時間以内で行けるところにします。

麻見和史 『最後の告発』2025/05/07

旅行から帰ってからもわんこたちは元気です。
心配だった兄は朝ごはんを食べた後に大量のブツを排出しました。
よかった、よかったwww。

ママにはフルーツアレルギー疑惑がありましたが、たまにしか症状がでないので、気にしないでいました。
今回ホテルの朝食でフルーツを食べている時に、喉にブツブツができました。
食べたのは、イチゴ、パイナップル、メロン、ぶどうを2個または2切れずつです。ぶどうが一番あやしいかな。
バラ科(りんご、いちご、さくらんぼ、ももなど)の果物に反応を引き起こす可能性がありそうですが、今朝いちごを食べても大丈夫でした。
少量を食べるように気をつけますわ。

警視庁文書捜査官シリーズの11作目。


二月二十四日に警視庁捜査一課の科学捜査係文書解読班に一通の手紙が届いた。
それは再捜査の依頼と犯行の予告とも取れる手紙だった。
二枚目の便箋に七年前、東京都昭島市にすむ男性が行方不明になり、知人の男性の行動に不審な点があるので、調べてみるべきだと書かれており、二枚の写真が同封されていた。
文書解読班の班長・鳴海理沙は財津係長に許可を求め、捜査を始める。

三月六日に、また手紙が届く。
今度は二年前、足立区西新井で起きた殺人事件のことが書かれていた。
容疑者と見られる男はサラ金から借金をしており、強盗をするだけの動機があり、逃走して現在も行方不明だが、建設工事に関わっているらしいと書かれており、その男の写真が同封されていた。
文章や筆跡から、前回と同じ通報者だと考えられた。
鳴海は自分たちを指名しているのだから、その人物の期待に応えたいと、続けての捜査を申し出る。

そして、三月十三日に三通目の手紙が届く。
そこには四年前、北区王子在住のフリーアルバイターの女性が行方不明になっており、趣味の写真サークルで知り合った男性が彼女を殺害した疑いがあり、男性が額装していた風景写真が手がかりになるだろうと書かれていた。
鳴海たちは再々度捜査を始める。

「善良な市民」を名乗る差出人はいったい何者なのか。
何故、文書解読班に手紙をよこしたのか。
そして、真の目的はなんなのか。

疑惑を持ちながらも、文書解読班は捜査に取り組むが、捜査は意外な展開を見せる。

今回は文書解読に関係ない事件でした。
足でかせぐタイプの矢代と夏目がせっせと動き回り、情報を集め、最後に鳴海が閃いて事件を解決するという感じです。
そんなに事件現場に謎の文書は残されていませんから、仕方ないですね。
主人公が鳴海から矢代に変わったのかな?
四月の組織の改編や異動関係で何かありそうなことをほのめかしているので、次回に明らかになりそうです。
私は財津係長が異動し、代わりに国木田哲夫警部補が文書解読班に異動してくるのではと予想していますが、どうでしょうね。


警視庁文書捜査官シリーズ
④『灰の轍 警視庁文書捜査官』
⑤『影の斜塔 警視庁文書捜査官』
⑥『愚者の檻 警視庁文書捜査官』
⑦『銀翼の死角 警視庁文書捜査官』
⑧『茨の墓標 警視庁文書捜査官』
⑨『琥珀の闇 警視庁文書捜査官』
⑩『追憶の彼女 警視庁文書捜査官』
⑪『最後の告発 警視庁文書捜査官』(本書)

「教皇選挙」を観る2025/05/09

もともと観ようと思っていたら、タイムリーに本物のローマ教皇がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。
コンクラーベは無事に終わり、四回目で新しくアメリカ出身のプレボスト枢機卿が選ばれ、レオ14世と名乗るそうです。

映画館は珍しく満席でした。
原作はロバート・ハリスの『Conclabe』で、原題も同じです。
今回の日本語のタイトルはわかりやすくていいんじゃないでしょうか。


教皇が心臓発作で急逝する。
彼と親しかったローレンス枢機卿は次の教皇を選ぶ「コンクラーベ」を執り仕切ることになる。

「コンクラーベ」のために世界中からバチカンに枢機卿と修道女たちが集まる。

初めから予期せぬことが起こる。
前教皇から秘密裏に枢機卿に任命されたというカブール教区のベニテス枢機卿が やって来たのだ。
そして隔離寸前に、亡くなる直前に教皇に会っていた次期教皇候補であるトランブレ枢機卿が破門されていたという情報がもたらされる。本当なのか。

コンクラーベが始まる。
昔ながらの価値観を持つ教会に戻るべきだという保守派とリベラルで革新派の戦いだ。

ローレンスは親友でもある革新派のベリーニ枢機卿を推しているが、なかなか彼に票は集まらない。
彼が警戒しているのは、イタリア人で保守派、人種差別主義者のテデスコ枢機卿だ。

次々と教皇候補たちのスキャンダルが明らかになり、ローレンスは頭を悩ませる。

一体誰が選ばれるのか・・・。


「コンクラーベ」は新しい教皇の死去または辞任の後に行われる教皇選挙のことです。80歳未満の枢機卿が選挙権を持っていて、彼らは投票者でも候補者でもあります。
候補者の定員は120名以内と言われていますが、今回は133人が参加したので、定員の上限は決まっていないみたいです。
投票総数の三分の二以上の有効得票数を得る人物が選出されるまで繰り返されるそうです。

男ばかりの映画でしたが、赤や白の色が印象的で、コンクラーベの舞台である建物が荘厳だったので、あまり気になりませんでした。(広場に広がる白い傘の場面がきれいでした)
それよりも修道女たちが枢機卿たちの面倒をみていた方が気になりました。
女が枢機卿になれないのなら、修道士たちがやればいいんじゃないの。
スマホとかタバコとか扱う姿が、現世に生きている私たちと同じなんです。
禁欲の誓いはどうなっているのかな。
枢機卿とは言え人間ですから、色々な欲があるんですね。
今回の選挙でも私たちには窺い知れない様々な取り引きや争いがあったのでしょうね。
プレボスト枢機卿は教皇になったら「レオ」にしようと決めていたのねw。
アジア人の教皇が選出されるのはいつなのかしら。

思っていたよりも面白い映画でした。
「コンクラーベ」に興味があるなら、見に行っても損はない映画です。

そういえば、シスター・アグネスがイザベラ・ロッセリーニだとはわかりませんでした。
教皇を描いた映画に『2人のローマ教皇』というのがあります。
ほのぼの(?)とする映画なので、いっしょに見てみてもいいかも。

佐藤正午 『熟柿』2025/05/10



伯母の葬儀の後、大雨の中、帰途についた身重のかおりは、泥酔状態で眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねた。
車から下りて確かめずに運転を続けたため、轢き逃げの罪に問われ、栃木の刑務所で息子を産む。
警察官だっった夫は仕事を辞める。
二年半の矯正生活の後、再開した夫に離婚届を突きつけられた。
息子には会わせてもらえなかった。

しばらくしてかおりは友人にそそのかされ、息子会いたさのあまり、息子の幼稚園に行く。
もう少しで会えるという時に取り返しのつかない間違いを犯してしまう。

それからも息子に会いたいという思いがつのり、小学校の入学式に行くが、阻止されてしまう。

かおりは決心する。
息子のために自分は死んだ母となる。
そして、息子のために一億円の生命保険に入ると。

それからのかおりは、千葉県のスーパー銭湯から山梨県の石和温泉の旅館、岐阜県のパン工場、大阪府のパチンコ店、そして福岡県のホテルで働く。
息子への思いを胸に・・・。


久しぶりの佐藤正午さんです。
これといった展開はないけれど、罪を犯した女が息子への思いを捨て切れず、彷徨う様子が切なかったです。
人生は思いがけないことをきっかけに、よくも悪くもなるのです。
夫の狡さが嫌でした。
彼がかおりと一緒に人生をやり直そうとすれば、彼女はこれほど悩み苦しまなくてすんだのに。
それでも、未熟で不器用ながら一生懸命仕事をする彼女の姿を見てくれる人はいます。
それが救いです。
最後に光が見えましたが、どうなるのか。
ちゃんとチャンスを握って離さないで欲しいものです。

本のカバーが好みです。
「熟柿」とは「よく熟した柿」のことですが、「時機到来をじっと待つ」ことでもあります。
じっくりと小説を読みたい方向けの本です。


<今週のおやつ>


シズカ洋菓子店のNo.34 Spring Biscuits。
いつもよりも甘いような気がしましたが、私の味覚のせいかも。

読んだ文庫本(日本文学)2025/05/11



高瀬隼子 『おいしいごはんが食べられますように』
第167回芥川賞受賞作品。
どこの会社にでもありそうなことが書かれています。
体が弱いを理由になんでも許されてしまう芦川と彼女を批判的に見てはいるが、言い出せずにいるがんばり屋の押尾。
食べることに無頓着な二谷は芦川と付き合ってはいるが、彼女の押し付けがましさに辟易しつつも、受け入れている。
二谷と押尾はたまに一緒に飲みに行き、芦川のことを話のダシにしている。
二人はよくわからない関係ですね。
私自身は押尾側で、芦川風の女性がいつも大変な仕事から逃げているのを見て、なんだかなぁ・・・と思っていましたが、いっしょに仕事をしたのは一年間だったので、よかったです。
普通の男性は芦川風女性が好きなのよ。女性に仕事を求めていない。
私の時代はそうだったのだけど、今もそうなんですねぇ。
色々と思い出すことがありましたが、小説としてどうなんでしょう。
私は芥川賞受賞作品とは相性が悪いので、いい作品かどうかわかりませんが。

小路幸也 『小説家の姉と』
僕こと朗人には五歳年上の姉、美笑がいる。彼女は二十歳の時に、小説を書いてることを家族の誰も知らなかったのだが、新人賞を受賞し、小説家になり、二十一歳で小金井市の実家を出て、都内のマンションで一人暮らしを始めた。
僕が大学二年生になって一ヶ月経った頃、姉から防犯のために一緒に住んで欲しいと頼まれる。
断る理由もなく、一緒に暮らし始めるが、実はこれは姉のはかりごとだった。

なんか仲の良い姉と弟でいいですねぇ。朗人みたいな弟ならいてもいいかも。
小路さんですから、大きな出来事がこれといってない、ふんわかしたお話です。
朗人君、将来、何ができるか、何をしたいか、はっきりするといいね。

ほしおさなえ 『言葉の園のお菓子番 大切な場所』
一葉が亡くなった祖母が通っていた連句会「ひとつばたご」で連句を初めてから二年半が経つ。
一葉が「きりん座」の同人誌に父親のことを書いたことがきっかけに、父親はまた写真を撮り始める。大輔といい繋がりが持てたようだ。
ひとつばたこでも文芸マーケットで販売する雑誌を作ることになったり、SNSで連句会を開催するという企画が持ち上がる。
「あずきブックス」ではイベントで詩の朗読会が行われる。

次々と人の輪が広がっていく様子がいいですね。
実際の日常生活ではこんな風に広がっていくことは滅多にないですよね。
一葉は恵まれています。
今回、連句会の様子が少なかったので、次回は増やして欲しいです。

<シリーズの順番>
①『言葉の園のお菓子番 見えない花
②『言葉の園のお菓子番 孤独な月
③『言葉の園のお菓子番 森に行く夢
④『言葉の園のお菓子番 復活祭の卵
⑤『言葉の園のお菓子番 未来への手紙
⑥『言葉の園のお菓子番 大切な場所』(本書)

読んだ文庫本(時代小説)2025/05/12



鷹井伶 『てきてき 浪華おなご医師と緒方洪庵』
亜弥の生家は下総の古河で薬種を商っていた。十三の時に姉の代わりに、大阪の高名な蘭学者の息子で今は遊学中の男との縁談で大阪に行く。
姑になる定は日本初の蘭和辞典を完成させた海上随鷗の娘で、蘭学にも医学にも通じ、長年医師として稼ぎ、夫の天游を支えていた。
定は息子の嫁にいずれ自分のような医者になってもらい、息子の嫁として手助けをさせたいと思っていた。
亜弥は学問好きで、父より本草や陰陽五行など本道の基本を教わっており、蘭学を学びたいと思っていたので、この縁談に飛びついた。
定は亜弥を緒方洪庵の適塾に入れる。
男のなりをして亜弥は適塾に通い始めるが、小ぼんをはじめとする他の男性塾生たちと親しく交わうようになる。
やがて洪庵にも認められ、往診の手伝いをするようになるが・・・。

1838年に緒方洪庵が開設した適塾ですが、女性の塾生は実際にはいなかったそうです。
いたらどうだったかと考えると、亜弥のようにはいかないように思います。
やっぱり男からの嫌がらせがあり、通えなくなったのではないでしょうか。
悪く考え過ぎですかね。

高田在子 『茶屋占い師がらん堂 狐祓い』
最福神社門前の茶屋「たまや」の一角で開かれている占い処「がらん堂」の占い師・一条宇之助のところに様々な悩みを持つお客がやって来る。
女遊びが趣味の男と所帯を持つことを躊躇している女、息子が嘘をつくようになり、狐に取り憑かれたのではないかと心配する母親、道場主を決める試合に勝てるかどうか占いに来た武士、役者と親しくなるにはどうしたらいいかを占いに来た男・・・。
宇乃助はどのお客にも全身全霊で話を聞き、「占った相手が幸せになるために、一歩踏み出す勇気を与える」ために助言を与えていく。

茶屋占い師がらん堂シリーズの四作目。
「たまや」の娘のすずが主人公で進むのかと思ったら、違いました。
宇乃助がメインで、すずはそばにいるだけです。
すずは人が嘘をついているかどうかわかるという能力を持っていますが、今のところ役に立っていません。
この後、どうなるのかちょっと心配ですが、題名が「がらん堂」ですから問題ないですよねww。

<シリーズの順番>
①~③『茶屋占い師がらん堂』、『茶屋占い師がらん堂 招き猫』、『茶屋占い師がらん堂 異国の皿』

風野真知雄 『魔食 味見方同心(四)おにぎり寿司は男か女か』
今回、南町奉行所味見方に属する隠密同心の月浦魚之進が扱う奇妙な食べ物は、「おにぎり寿司」と食べると子どもが授かるという「子どもうどん」、ゾウの鼻の「ゾウ煮」、どじょう屋の「怪獣椀」です。
魚之進、何やら会津藩と薩摩藩に関わる陰謀に巻き込まれそうです。

毎回言っていますが、よく考えつくと感心しています。
「おにぎり寿司」が1番食べたいかな。店主が殺されちゃうのがなんですがw。
「子どもうどん」はキノ、タケノ、カズノ、タラ、きな、卵が入っているんですって。きな粉はいらないけど、まずくはなさそう。
「ゾウ煮」と「怪獣椀」はいりません。
次はどんな料理が出るのか、楽しみです。


<ChatGPTで遊んでみる>
動物を人間にできると聞いて、わんこたちの写真を二枚使って一枚の写真にしてもらいました。
すると・・・。


アラ、美女二人!
犬はメスと決まっているのでしょうか。
次は別の二匹で写っている一枚の写真ではどうなるのかと再度やってもらうと・・・。


こっちの方が家のわんこたちらしいかな。
でも、ひょっとしてこの子たちも女の子なんではないでしょうか。
最後に二枚の写真を使って一枚の絵にしてもらいました。


↑これがもとになる写真です。


右側の弟がヨークシャテリアだとわかりませんね。
本物よりも育ちの良さそうなわんこですww。

「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」を観る2025/05/14



原題は「Lee」。
実在したリー・ミラーの主に1937年から1945年までを描いた映画です。
リーの一生を簡単に紹介します。

リー・ミラーは本名エリザベス・ミラー。
1907年、アメリカのニューヨーク州キポキプシー生まれのファッションモデル、写真家、戦争特派員で、芸術写真と戦争報道の両方で重要な足跡を残した。

中産階級の家庭で育ち、父親のセオドア・ミラーはアマチュアの写真家でエンジニア。娘のリーをモデルにして撮影をし、ティーンネイジャーになるまで娘のヌード写真を撮っていたという。娘を溺愛しており、リーにはファーザーコンプレックスがあったようだ。彼はリーに写真技術の基礎を教えた。
映画でも触れられているが、七歳の時に知り合いの家で性的虐待にあって、性病に感染したという。
この事が後の彼女に深い影響を及ぼしたのは明らかだ。

十九歳の時にニューヨークで交通事故に遭いそうになったときに、偶然(?)ヴォーグ誌の編集者のコンデ・ナストに助けられ、これが縁でモデルとなり活躍する。
しかし、彼女の写真が生理用品の広告に使用されたことからモデル業を辞めざるえなくなる。

1929年に単身パリに渡り、マン・レイに弟子入りし、やがて男女の関係になり、彼のミューズとなる。
この時にパブロ・ピカソやジャン・コクトーなどと知り合う。
三年ほど関係は続くが、マン・レイと別れた後、1934年にエジプト人の大富豪、アジス・エルイ・ベイと結婚し、カイロに行く。
1937年、イギリスのシュールレアリストで画商のローランド・ペンローズと出会い、1939年、イギリスへ渡り、ロンドンでペンローズと暮らす。
1940年からイギリス版ヴォーグでカメラマンとして活躍する。

1942年、リーはヴォーグ誌の従軍記者として、ライフ誌のカメラマン、デイブ・シャーマンと組み、ヨーロッパ大陸に渡り、連合軍と共にヨーロッパ各地の前線に赴く。ノルマンディー上陸作戦、パリ解放、ダッハウ強制収容所の解放など激動の現場を記録していく。
この時に写したダッハウ強制収容所の写真やヒトラーの自宅の浴槽で写した写真が有名である。


戦後もミラーはヨーロッパにとどまり、戦後の様子も写真に収める。
1947年にエルイ・ベイと正式に離婚し、ペンローズと結婚し、9月に息子のアントニーを産む。
1949年にサセックスのファーリー・ファームに居を構える。
1950年代にはヴォーグから離れ、写真家としての活動をほぼ止める。
リーは心的外傷後ストレス障害、うつ病、アルコール依存などの問題を抱えるようになっていた。
リーは写真の代わりに料理の世界に創造性を注ぐようになる。
フランス料理に通じ、独自のレシピを持ち、自宅に来たピカソやマックス・エルンストなどの芸術家や知識人の訪問客に実践的な料理を振る舞った。
「料理こそが自分の”サルベージ(救済)”だった」と語っていたそうだ。
1977年、イギリスのチディングリで逝去。

息子のアンソニーは母が育児に関心がないように見え、甘えようとしても冷たく扱われ、母を恐れていたという。
リーの死後、彼は実家の屋根裏で未整理のネガ、手紙、戦争写真、日記などを見つけ、母の戦争での壮絶な経験や隠された苦悩を知ることになる。
それからのアンソニーは母の人生と作品を世に広める活動をしている。
現在もイギリス・サセックスのファーリー・ファーム(Farleys House & Gallery)
を拠点に、リー・ミラーのアーカイブを管理し、展覧会や書籍を通じてリーの業績を伝えている。

アンソニーは伝記『The Lives of Lee Miller(リー・ミラー:自分を愛したヴィーナス)』を書いている。
彼はこの映画の制作に協力し、リーの複雑な人物像を描くことに貢献し、「母の人生を通して、ようやく本当の母を知った」と語っている。


初日に見に行ったのではないのですが、入場者プレゼントのステッカーをもらいました。
リーはこのローライフレックスの二眼レフカメラでダッハウ強制収容所や戦場の惨状を収めたようです。

主演のケイト・ウィンスレットが映画の制作総指揮をした、渾身の出来の映画です。
リー・ミラーという女性が戦場に行き、自ら傷つきながらも、何故、撮らずにいられなかったかを描いた映画です。
目をそらしたくなるような場面が多々ありますが、それが戦争なのです。

ポール・エリュアールの詩「自由(Liberté)」がでてきます。
昔、読んだ、好きな詩です。
ネットで探すと出てきますので、読んでみて下さい。

参考:

畠中恵 『ああうれしい』2025/05/15

まんまことシリーズの十作目。


江戸、神田の町名主の跡取り息子の高橋麻之助は町名主・西森金吾の娘・お和歌と結婚し、息子の宗吾を授かる。
だが、相談事は待ってはくれず、相も変わらずの生活をしている。

高利貸しの丸三から、お虎と夫婦になりたいが、お虎に妻になれないと言われたと相談され、猫探しをし、大店の主から”ああ嬉しい”と思わせて欲しいと頼まれ、縁談の相手探しとかんざしの盗人探しをし、最後は風邪をひいて一波乱。

いつになったら父のような町名主になれるのか。
麻之助の悩みは尽きない。

このシリーズも長く続いています。
シリーズ物をすべて読んでいくのは大変なので、麻之助も落ち着いたことですので、ここらで読むのを止めようと思います。
麻之助が父親の跡を継ぎ、いい町名主になれますように、これからも祈っていきますわww。

<シリーズの順番>
④『ときぐすり』
⑩『ああうれしい』(本書)