読んだ時代小説(文庫本)2023/11/22



森明日香 『おくり絵師』
おふゆは五年前、母が亡くなる間際に、亡父が江戸の絵師だったので、兄弟子の歌川国藤のところへ行くようにと言われ、仙台から江戸に出てきた。
それから国藤の住み込みの弟子となり、冬女と名乗るのを許されたが、この頃、自分の絵が描けずに悩んでいる。
絵が上手くなりたい思いは誰よりも強い。
だが、何を描きたいのかがわからないのだ。
自分にしか描けないと、胸をはれるものがないのだ。
そんな時に「死絵」に出会う。
一方、幼少時に仙台で知り合い、おふゆの思い人である旅芸人上がりの役者、市之進は浅草の芝小屋の夏興行「東海道四谷怪談」で主役の伊右衛門を演じることになる。

「死絵」とは人気の高い「死んだ役者の姿を描いた絵」すなわち『追善の絵』のことです。
女であるが故に絵師として悩み苦しむおふゆでしたが、「死絵」と出会い、自分がどういう絵を描きたいかがわかります。
お話の展開はすぐに分ってしまいますが、涙なくしては読めませんでした。

山本巧次 『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう<10> 抹茶の香る密室草庵』
現代から江戸へタイムトラベルしている女親分・おゆうこと関口優佳。
彼女が今回挑むのは密室殺人。茶問屋の清水屋が根津の寮の茶室で殺される。
この時、同じ株仲間の茶問屋の三人が冥加金のことで相談があると招かれていたが、その誰もが清水屋を殺せたはずがないのだ。
切羽詰まったおゆうは友人で江戸では千住の先生と呼ばれている宇田川聡史の助けを借り、真相に迫る。

宇田川も大胆になって、今回は穴開け用ドリルとファイバースコープ、超小型ロボットなどを江戸時代に運びこみます。大がかりな割にあまり役に立っていないような気もしますが、笑。
宇田川は南町奉行所定廻り同心の鵜飼伝三郎の秘密に気づいたようです。
さて、互いの秘密を知った伝三郎と宇田川はどうするのか。
おゆうとの三角関係はどうなるのか。楽しみですね。
ア、今回遠山の金さんが特別出演です。

坂井希久子 『つばき餡 花暦居酒屋ぜんや』
前回、大変な目にあったお花も落ち着き、やっとぜんやに日常が戻ってきた。
しかし、お梅と俵屋の若旦那との縁談は進まず、やきもきするお花。
彼女の気持ちを揺るがせかねないことが起こるが、どうやらお花も少し大人になったようだ。
そんな時に大奥勤めをしているはずの只次郎の姪のお栄がぜんやに現れる。
上様のお手つきになりそうだったので、病を得たということで暇をもらったと言う。お花は自分とは違う型破りなお栄をどう扱ったらいいのか戸惑うばかり…。

お花がだんだんと素直になり、落ち着いてきたと思ったのですが、お栄と接してから、またいじけの虫が出てきたようです。まあ、そんなに人は変れないですよね。お花が主人公のはずですが、ぜんやはこれからしばらくお栄に振り回されそうです。

有馬美季子 『おぼろ菓子 深川夫婦捕物帖』
齢二十六のお純は深川蛤町で飯屋<川野>をやっている。齢三十一の亭主の弥助は同心の林田に仕える岡っ引き。二人は七年前のある事件がきっかけで知り合い、その二年後に夫婦となった。
<第一話 花魁慕情>
ある日、吉原の妓楼の仮宅で花魁が殺された。現場には血文字の「月千」と菓子と思われる塊が遺されていた。弥助はお純の味覚と食の知識を頼りに捜査を続ける。
<第二話 つなぐ縁>
お純は十二の時に吉原に売られたが容姿に難点があり、台所の下働きにまわされる。しかし、いつの間にかお純の作る料理が評判になり、十六の時に仕出し料理屋へ移る。そして十八の時に、米問屋、栄口屋の大旦那に料理の腕と素直な人柄と気配りが認められ、身請けされ、栄口屋の台所で働くことになる。
ある日、栄口屋の孫、遙太郎が行方不明になる。その時、やって来たのが同心の林田誠一郎と岡っ引きの弥助だった。
お純は遙太郎のことが心配で、自ら思いあたるところへ行って調べてみる。

第一話の夫婦の会話が何やら不自然で、読むのを止めようかと思いました。
岡っ引きのくせに妻に相談し過ぎです。これならお純が岡っ引きをした方がいいんじゃないですか、笑。
第二話は夫婦になるきっかけになった事件の話なので、不自然な夫婦の会話がなくて読みやすかったです。
シリーズになるのでしょうが、たぶん続きは読まないな…。

<おまけの漫画>
小説ではないですが、漫画で怒りっぽい方に参考にしてもらいたいものがあります。『Shrink ~精神科医ヨワイ~11巻』です。
アンガーマネジメントに関するお話で、ここに出てくる男性のような人が職場や家庭にいませんか?
この漫画はパニック障害や鬱病、発達障害、PTSD、産後うつ、摂食障害、パーソナリティ障害、アルコール依存症など現代の心の病をわかりやすく描いています。
気になったら是非読んでみて下さい。

高瀬乃一 『貸本屋おせん』2023/11/15



文化年間、せんは女ながらも江戸浅草で貸本屋「梅鉢屋」を営んでいる。
せんの父、平治は腕のいい彫師だったが、出版のお触書に反した咎で反木の削り落としにあう。その後、母は男と出ていき、父はせんが十二歳の時に自死した。
天涯孤独の身となったせんは周りの助けもあり、なんとかやっている。

第一話:をりをり よみ耽り
得意客の井田屋から紹介された小料理屋「大筒屋」の蔵にある本をせんは見せてもらい、写本をつくる許しを得、通うようになる。
そういう頃、地本問屋の南場屋にせんが奉行所に目をつけられていると言われる。
ある夜、せんは襲われるが、賊は一体誰なのか?

第二話:板木どろぼう
地本問屋の南場屋で、曲亭馬琴の新作の版板が盗まれる。
怪しいのが新作を相反している伊勢屋。
せんは南場屋から頼まれ、伊勢屋に探りを入れることになる。

第三話:幽霊さわぎ
美人女将として有名なお志津の店、七五三屋の元手代、新之助が中宿で血まみれになって死んでいた。世間はお志津の夫、平兵衛の幽霊の仕業ではないかと噂している。
せんは、新之助が店から盗んだ錦絵とは知らずに、隈八十から錦絵を手に入れ、その錦絵に描かれている団扇の地紙部分の文字が書き加えられているのに気づく。
ただの落書きか、由緒ある書き入れかが気になり、七五三屋を覗いていると、番頭から声をかけられる。

第四話:松の糸
せんは刃物屋「うぶけ八十亀」の惣領息子、公之介から、老舗の料理屋「竹膳」の出戻り娘お松に惚れたが、お松は『雲隠』という本を探してくれたら一緒になってもいいと言っているので、『雲隠』を探してくれと頼まれる。それが源氏物語の『雲隠』なら、幻の帖。あるかどうかわからないのだが…。

第五話:火付け
吉原で火事騒ぎがあり妓楼が焼け落ちたため、「桂屋」が東本願寺の門前で営業を始めた。せんは「桂屋」の仮宅に貸本を置かせてもらっている。
ある日、小千代というお針の娘が足抜けした。せんは彼女に式亭三馬の『両禿対仇討』を貸していた。
せんは桂屋に雇われている卑劣極まりない若い者たちよりも先に小千代を探そうするが…。

男に頼らず、自分の力で生きていこうとするせんの心意気がいいですねぇ。
幼馴染みの青菜売り、登はいつでも嫁に来いと言っているのに、せんは絶対に応じません。
そういう片意地を張ったところとか、悪党にも負けないところなどが全く嫌みがないです。同じように女で頑張っている『貸しもの屋お庸』のお庸と比べると、この違いは何でしょうね。
せんなら応援したくなります。

江戸時代に貸本屋があることは知っていましたが、本をどうやって作り、手に入れていたのか知らなかったので、読んでわかりました。
他の時代のお話が少ないせいかもしれませんが、やっぱり江戸時代は面白いですね。
少しのミステリの味付けが好ましいです。
シリーズになるといいですね。

中島要 『誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々』2023/10/06



江戸日本橋の筆墨問屋白井屋の店主・太兵衛は三代目にして店を大店にした人物。
商売には長けてるが、女癖が悪く、若い女を次々と妾にしていたが、隠居してから妾とは手を切り、五十九で亡くなるまでの四年間は妻と仲良く物見遊山に出かけていたが…。

太兵衛の妻、お清は亡くなってからも夫に妾がいたことがわかり、大激怒。
それからは好き勝手に出歩くようになり、勘当された娘のお秀のところや自分と同じ身の上の屋台の蕎麦屋に入り浸るようになる。
息子の太一郎は世間体が悪いのが気になり、注意するが、言うことを聞かない。
そのため姉のお秀に母に意見してくれと頼む。

太兵衛とお清の娘、お秀は浮世絵師と恋仲になり、親の反対を押し切って家を飛び出した。娘が生まれ、これからという時に亭主が亡くなり、親に頼ることもできず、仕立物をして細々と暮らしている。
父の葬式には呼ばれたが、なかなか実家は敷居が高い。
母がくれるお金でなんとか暮らしを保っている。

太兵衛とお清の息子の太一郎は困っている。
商人として父に及ばないことはわかっていたが、父が死んでから周りの態度が変わってきたのだ。
そんな時に息子の一之助の育て方を巡って夫婦の間で言い争うことが増えてきた。
一之助がこのままつらいことから逃げているようでは立派な五代目になれないと思う太一郎は一之助に厳しく当たるのだが…。

太一郎の妻のお真紀は実家の畳表問屋野田屋のことで困っていた。
店は弟の万作が継いでいるのだが、妻のお律との間に子ができないのに、女中との間に家継ぎの子が産まれたというのだ。
お律はお真紀よりひとつ下で、妹のように親しくしていたが、彼女が弟の子を孕ったというので、お律の呉服屋との縁談が流れ、それ以来口をきいていない。
それなのにお律はお真紀に泣きついてきた上に嫌みまでいう始末。

太一郎とお真紀の子、一之助は隠居した祖父の太兵衛とおしゃべりをするようになっていた。
勘当した娘に対する太兵衛の気持ちを父に話してから、叔母のお秀とその娘のお美代が店に来るようになり、お美代と親しくなる。
何物にもとらわれない、好き勝手に生きているお美代は彼の憧れだった。
母と祖母は一之助の気持ちに気づき、心配していた。

お秀の娘のお美代は蕎麦屋の店主にいい舌をしているとほめられことから、料理人になることにする。
十四で深川八幡門前の料理屋「なか乃」で奉公を始める。
そんな時に、蕎麦屋の主人の娘で幼馴染みのお民が、男手ひとつで育ててくれた父を捨て、十年前に出ていき、金貸しの妾をしている母と一緒に暮らすと聞く。
男の薄情さを知り、嫁入りをせずに料理人になろうと固く誓うお美代。

こんな白井屋の人々の複雑な心境を描いた作品です。
「隣の芝はよく見える」とは言ったもので、誰もが他人と比べて自分は不幸だと思いがちです。
幸福か不幸かは自分が決めるだけで、本当のところはわかりません。
どんな状況になろうが、自分は幸福だと思えると、運も上がっていくかもしれませんね。

それにしても江戸時代の女性は生きづらいですね。
 
「男は商人として秀でていれば、他はどうでもいいのだろうか。
 女は妻として、母として、嫁として、すべてできて当たり前とされるのに。
 望んで女に生まれたわけではないのに、この差は一体何なのか」

「男なんて己の思い通りにならなければ、妻や娘を捨てる薄情者だ。どんな男と所帯を持っても不幸になるだけだろう」

などと女の怨嗟が満ちています。
結構私も愚痴る方ですが、人の振り見て我が振り直せで、気をつけますわ。
軽いタッチで書かれていますから、男性は心配せずに読んでください、笑。
これから白井屋の方々がどうなるのか、興味があります。特にお美代は嫁に行かずに本当に料理人になるのでしょうか。
半端な終わり方だったので、続編を読んでスッキリしたいです。


<今日のおやつ>


「これは何?」と思うでしょう。
『言葉の園のお菓子番 復活祭の卵』に出てきた、「HIGASHIYAの棗(なつめ)バター」です。
棗の上に発酵バター、クルミがのっている果子(と書くそうです)です。
バターの味が濃厚で、棗はどこだろう…。
味のわからない私なので、明日もう一粒食べてみて、味を確認しますわwww。

読んだシリーズ(文庫本)2023/09/23



ほしおさなえ 『言葉の園のお菓子番 復活祭の卵』
祖母が通っていた連句会・ひとつばたごに自らも通うことになった一葉は、祖母と同じようにお菓子番となる。
その縁からブックカフェ「あずきブックス」で働くことになる。
イベントの企画の担当となり、11月にトークイベントで短歌を取り上げることになる。
参加者はもちろんのこと、「あずきブックス」の従業員たちも短歌を作らなければならなくなり、急遽短歌の読書会を始める。
そんな頃、睡月さんから連句の大会の話があり、ひとつばたごでは二座出すことになる。
一葉も参加することにするが、心配なことも…。

どれだけ読んでも連句はわかりません。自分で実際にやってみないことには理解できないのかもしれませんね。ましてや短歌も作れません。
自分のことは棚に上げますが、この本を読んで興味を持った人は是非作ってみてください。
自分の意外な才能を見つけるかも。

ひとつだけよくわからなかったのが、連句会の主宰・航人さんの過去をメンバーの人が一葉に話すことです。いくら一葉の祖母が関係していたからといって、若い一葉に話すことではないと思いました。

新しいお菓子が出てきました。
土佐屋のいもようかん、大吾の爾比久良、HIGASHIYAの棗バター、銀座鈴屋の栗甘納糖。
棗バターが食べてみたいです。

長月天音 『世界をめぐるチキンスープ 神楽坂のスパイス・ボックス3』
神楽坂の路地にある「スパイス・ボックス」は姉妹がやっているスパイス専門料理店。
体調が不調な人が食べると、元気になるお料理が出てきます。
子ども連れのファミリー層がお店に来ていないことに気づいた二人は、よくお茶に来る常連さんがたまたま食事をしにやって来たことを機会に、子どもでもスパイス料理が食べられることをアピールします。

出てくるお料理はどれも美味しそうで、チョコバナナのロティがどんなものか興味があります。クレープじゃなくてロティにチョコとバナナが包まれているのかな。
とにかく読むと無性にスパイスのきいたインドのカレーが食べたくなりました。

坂井希久子 『粋な色 野暮な色 江戸彩り見立て帖』
お彩は塚田屋で呉服の色見立てをしている。
当主の刈安に流行色を作れとけしかけられ、右近と共に深川鼠を流行らせようとするが、なかなかそうは簡単にいかない。
できないと右近は店から追い出される。
辰巳芸者に無料で深川鼠の着物を配り、着て貰おうとするが上手く行かず。
策は尽きたかのように見えたが…。

色見本を片手に読みたくなるシリーズです。
深川鼠は「薄い青緑みの灰色」。
日本には色の名前が沢山あります。
鼠色では浅葱鼠、紺鼠、空色鼠、鈍色、錫色、溝鼠、素鼠…。
短歌同様、これも素晴らしい文化だと思いますが、今は忘れられていますね。
昔の日本人は色彩感覚が鋭かったのでしょうか。

風野真知雄 『わるじい義剣帖(1)またですか』
孫の桃子と会えなくなってから一月、暇を持て余す愛坂桃太郎。
屋敷に帰っても、特にやることはなく、面白いことを工夫している。
<猫釣り>や<犬外し>をしたり、牛の種つけを見たりするが、退屈だ。
そんな時に、珠子と桃子が身を寄せている雨宮五十郎の役宅の向かいの長屋で人が殺された。
愛する孫に危険が及ぶかもしれない。
そう思った桃太郎は、これ幸いと桃子に会いに行く。
雨宮は頼りにならないから、いよいよ桃太郎の出番だ。

新しいシリーズの始まりです。
いつまで経っても桃太郎さんの桃子ラブは尽きることがありません。
それが生きがいだから、仕方ありませんね。
なんともユーモラスな桃太郎がよくて、ついつい読んでしまうシリーズです。
どうぞ長く続けて下さい。

髙田郁 『契り橋 あきない世傳金と銀 特別巻上』2023/09/03

兄わんこが昨日から三回もご飯を吐いています。
トリミングに行った次の日に公園に行ったので、疲れたのかもしれません。
ドッグフードのカリカリではなく、缶詰の柔らかいフードを食べさせて様子を見てみようと思います。
11歳で年なので、あまり無理をさせないようにしないとダメですね。
見かけが若そうなので、ママは油断していました。


『あきない世傳金と銀』が終わり、待ち望んでいた特別巻が出ました。
四つのお話が載っています。

「第一話 風を抱く」
出奔した五鈴屋五代目店主、惣次は江戸で名を新六とかえ、古手売りで身を立てようと思っていた。しかしある事をきっかけに両替商井筒屋の主人に見込まれ、銭両替の仕事をすることになる。

「第二話 はた結び」
五鈴屋江戸本店の支配人、佐助は住み込みの女衆を探すために口入れ屋を回っていた。何の因果か、初めて入った口入れ屋で、昔の思い人とそっくりの女に出会う。

「第三話 百代の過客」
近頃、小頭役のお竹は自分の老いを自覚せざるおえなくなった。なにしろ針に糸が通せなくなったのだ。
そんな折に、引退し、郷里に戻るという近江屋の支配人、久助に、いっしょに旅をして、里帰りをしてはどうかと誘われる。
このことをきっかけにお竹は自分の老い先を考え始める。
一方、手代の大七も人生の分かれ目に来ていたが、奉公の掟があり、本人の意志でどうにかなるものではなかった。

「第四話 契り橋」
賢輔にそろそろ九代目徳兵衛になってはどうかという話が舞い込む。
しかし、賢輔には秘めた想いがあった。その想いにどう決着をつけるか悩む賢輔だったが…。

それぞれ五鈴屋のお馴染みの4人を描いた作品です。
惣次は横暴な嫌な男だと思っていまいたが、淋しい男だったのですね。
そんな彼に、少しでも幸せな時があってよかったと思いました。
自分の思いを幸に話していたら、別の人生があったかもしれませんね。

誰にも人には知られていない過去があり、今のような時代じゃないから、心に蓋をしてしまって置かなければならない思いが沢山あったのでしょうね。
しんみりとした気持ちになる短編集です。

『あきない世傳金と銀』のファン待望の新刊です。
下巻はいつでるのか、調べてもわかりませんでした。いつ出るのでしょう。
早く読みたいです。

時代小説シリーズ(文庫本)2023/08/31



根津潤太郎 『看取り医独庵 漆黒坂』
      『看取り医独庵 墨田桜』
題名がよくないですねぇ。看取り医なんて言うから、温厚なおじいさん医師を想像してしまいます。
ところが独庵は仙台藩の元藩医で、江戸で町医者をしている壮年の名医ですが、裏の顔があるんです。
馬庭念流の遣い手で、悪者を一刀両断にしちゃうんです。
医師は人の命を助けるのが仕事なのに、悪者なら切り殺してもいいんですかね。
これが気にならなければ、面白いお話です。
『看取り医独庵 漆黒坂』では小石川養生所に潜む悪を暴き、『看取り医独庵 墨田桜』では三上藩の世継ぎ問題に関わります。
そうそう気になる人がいました。絵師の久米吉です。独庵から指示を受け、情報収集にいそしんでいますが、独庵とはどういう関係なんでしょうね。
これから明らかになっていくのかしら?

根津さんは70歳の神経内科医だそうです。
三巻目に出てきた白内障の手術は江戸時代に実際に行なわれていたということです。インタビューが載っていたので、興味のある方はこちらをご覧ください。

和田はつ子 『さむらい魚 料理人季蔵捕物控』
さむらい魚とは太刀魚のことだそうです。
今回大食らいで食通の北町奉行所の烏谷から持ち込まれたのは、珊瑚の密輸に関わる殺人事件です。
相変わらず美味しそうなお料理がでてきますが、捕物控なので、お料理のレシピはいいから事件と思い人瑠璃との関係をもっと描いて欲しいです。
ずっとこのまま、何も進展がない状態で続いていくのかしら?
次も読むかどうか、考えどころです。

赤星あかり 『居酒屋こまりの恋々帖 ときめきの椿揚げ』
読み始めてから、しまったと思いました。
一巻目で主人公のこまりと合わないから、二巻目は止めたと思ったのを忘れていたのです。
今回のこまりはそれほど嫌ではなく、料理人のヤスとの丁々発止の会話がよかったです。
第四話の加賀藩から将軍家に献上される氷のお話が季節柄興味深かったです。
かき氷、食べたいなぁ。
都立大学のちもとの味処はお休みしているようです。残念。


<きょうのわんこ>


兄犬をママのベッドに連れてくると、犬用毛布の上、ママの脚の間でこんなになって寝ます。
可愛いけど、邪魔なんです、笑。

ヨーキー弟は寝るのも、トイレをするのも、人に見られないようにします。
兄のようにグルグル回らなく、急にするので、トイレの躾が難しかったです。
ヨーキーの習性なのか、個性なのか?

畠中恵 『いつまで』2023/08/07

しゃばけシリーズの最新刊。


若だんなはいつものように離れで暇をしていたので、少しでも店のお役に立ちたいと、薬升を考えた。
これが厄災を引き起こすとは…。

薬升のお祝いをしていると、西からやって来た火幻がやって来て、彼の住んでいる二階屋に西国から来た妖達が集まって困っているという。
そういう時に、若だんなが場久がいないことに気づく。
場久は悪夢を食う漠で、寄席で人気の噺家だ。
とりあえず火幻を一軒家に泊めることにし、みんなで場久を探すが、場久はなかなか見つからない。

次の日、火幻が一旦二階屋に帰った時に、二階に西の妖たちに名は知られているが、江戸では知られていない”以津真天(いつまで)”が入り込んでいた。
何故江戸に来たのか疑問に思った火幻が尋ねると、火幻が気に入らないからで、場久がいなくなったのは、火幻がここにいるからだという。
二人の妖は戦いを始め、困った若だんなたちは彼らを影に落とす。
ところが今度は火幻が行方不明になる。

その夜、若だんなのところに以津真天が現れる。
彼がいるのは悪夢の中で、妖達を助ける為、悪夢へ入れと若だんなをあおる。
意を決した若だんなが悪夢の中に飛び込むと、目覚めた先は五年後の江戸だった。

若だんなは五年も行方不明で、長崎屋は薬升を商売敵の大久呂屋に盗まれ、経営不振に陥っていた。
しばらく広徳寺に身を寄せることにするが、どうする若だんな。

妖でも嫉妬心があるんですね。みんな仲良くすればいいのにね。
若だんなはどんなことをされても、相手に対して慈悲の心があるんですねぇ。
いい人過ぎますよ。

今回は長編で読みごたえがありました。
妖たちが若だんなを思うように、若だんなも妖たちを大事に思っていることがよくわかりました。
どう転んでも長崎屋は安泰ですwww。

畠中恵 『おやごころ』2023/08/04



神田町名主の跡取り息子、高橋麻之助が主人公のまんまことシリーズの最新刊。
前妻のお寿ずの死から立ち直り、お和歌と祝言をあげた麻之助ですが、忙しくて目が回りそうです。
いつの間にか支配町が四町も増えていて、何故自分が関わらなければならないのか、わけのわからない仕事が次から次へとやって来るのです。

「たのまれごと」
奉行所勤めの友、相馬吉五郎がやってきて、ある旗本の嫡男が悪行に走り、家が潰れると、当主が悩んでいるので、相馬家は忙しいので麻之助に手を貸してほしいという。
引き受けた麻之助だが、出かけようとすると、妻のお和歌に福松屋の袋物を買ってきて欲しいと頼まれる。お和歌が欲しいんじゃなくて、お和歌の友のお駒が欲しいんだとか。
吉五郎の頼みだけでも大変なのに、なんでお駒の頼みまで引き受けなければならないのかと思う麻之助だった。

「こころのこり」
父の宗右衛門にまとめて三件の相談事を押っつけられた麻之助。
三件ともに大店で上方に店主がいるので、やって来たのは店を率いている三人の大番頭たち。
三人が言うことには、大事な物を失ったというのだ。
とりあえず困り事は何か聞く麻之助。

「よめごりょう」
妻お和歌の父、西森町名主の金吾が従兄弟の息子、太助とともに高橋家にやって来る。
太助はお和歌が勝手に嫁入りしたことが、気にくわないという。
お和歌との縁談はなかったのに、何故?

「麻之助走る」
お和歌に子ができた。麻之助は前妻のお寿ずのことがあるから、心配でたまらなく、走って心配を散らそうとしていた。
そんな麻之助のところに、町名主の友、八木清十郎がやって来る。
玄関に持ち込まれる揉め事が奇妙に減っている町名主がいるのが気になるというのだ。
そういえば麻之助も走っている時に、何か引っかかった事があったことを思い出すが、何かはっきりしない。
この二つは関係があるのか?

「終わったこと」
風邪を引き、寝込んでいる麻之助のところに吉五郎が女二人を伴い、見舞いにやって来る。
女は吉五郎の元許婚、一葉と八丁堀与力川野家の息女、美衣で、美衣は破談の後、元許婚の八丁堀内与力、鳥井虎五朗につきまとわれているという。
虎五朗はつきまといなどしていないと言っているが、美衣は虎五朗が彼女につきまとっているのではないかと疑っている。
吉五郎は八丁堀は忙しいので、麻之助につきまといの件に答えを出し、終わらせてくれと頼む。
町人なのに、何故、自分に頼むのかと思う麻之助だったが、断り切れずに引き受けてしまう。

「おやごころ」
めでたく麻之助は親となる。
そんな頃、麻之助は何もしていないのに、彼が二件の親子の揉め事を見事に解決したという噂が出回る。
その噂を聞いた町年寄の樽屋から麻之助は日本橋の縫箔屋羽奈屋の親子の厄介な揉め事を押しつけられる。

無事に親となった麻之助ですが、頼りなさげなので、鍛えるつもりなのか、次々と厄介事を押しつけられます。
麻之助は困りつつも、友の助けもあり、何とか解決していきます。
昔のぐうたら息子のような感じが好きだったのですが、ちょっと雰囲気が変わってきていますね。
今回はあまりお話に集中出来ませんでした。
シリーズで続いていくのはいいのですが、止め時もありますよね。
ちょっとこのシリーズに飽きてきたのかな…。


<今日のわんこ>
ママがパソコンを使っていると、兄はいつもママの膝で寝ています。


眠くて目がくっつきそう。


おやすみなさい…。

読んだ文庫本2023/07/13

読んだ本がたまっているので、一気に紹介します。
どれもお勧めです。


伊坂幸太郎 『逆ソクラテス』
昨年、読みたいと思ったのですが、図書館の予約がとんでもなく多かったので、文庫本になるのを待っていました。
主人公が小学生というのは伊坂さんの作品では初めてではないでしょうか。
五編の短編集ですが、書き上げるのに十年以上かかったという、なかなか深い内容の本です。題名にソクラテスが入っていますから、哲学的でもあり倫理的でもあり、今までの先入観が崩される内容です。
自分の大事なものを貶されて、納得がいかなかったら、勇気を出して「僕はそうは思わない」と言いましょうね。

白尾悠 『サード・キッチン』
1998年、都立高校を卒業し、アメリカの大学に留学した尚美は英会話の苦手意識からうまくコミュニケーションができないがために友人ができず、留学資金を出してくれた叔母さんとの約束で、全教科でAを取るために図書館に籠もり、一人勉学に励む毎日だった。
しかし、ある日、寮の隣室のアンドレアと仲良くなり、マイノリティの学生食堂、サード・キッチンに招かれる。
そこで様々な差別や多様性に接し、韓国と日本の歴史についてきちんと学んでいないことや自らの中に潜む、無知や無自覚から来る差別意識を知ることにより、彼女は変わっていく。

尚美のことがよくわかります。私も留学したら、彼女みたいになると思います。
英会話、苦手なんです。日本語でよく喋る人は、他の言語でもよく喋ると聞いたことがありますけど。英会話教師に慣れだと言われましたが、どうなんでしょうね。
日本でやっとこの頃、多様性が話題になるようになりましたが、日本にいるとピンときませんよね。この本を読むと、少しはわかると思います。

矢崎存美 『湯治場のぶたぶた』
真面目な本の後に、ホッとする本を紹介しましょう。
そうです、ぶたぶたさんです。
今回のぶたぶたさんはカウンセラー兼里沼温泉という湯治場の経営者。
彼の作る普通のお料理がとっても美味しそう。カレー、肉じゃが、白菜と山の茸の鍋…。スイーツもいいですぇね。スイートポテトとコーヒー。涎が…。
こういう湯治場があれば、お金の続く限り泊まりたいです。
あなたもぶたぶたさんに癒やされてください。

ここからは時代小説シリーズです。

平谷美樹 『貸し物屋お庸謎解き帖<3> 五本の蛇目』
江戸のレンタルショップ「湊屋両国出店」の店主のお庸の店に悩みと秘密を抱えたお客がやって来る。
今回のお客と借り物は、身なりのいい年寄りが借りたいという能管、魚屋になりたいという男が借りる天秤棒、裕福な若い男が借りる蛇目、五本、野良着を着た三十絡みの男が借りたいという生きた猿、お庸が行く湯屋に貸す陰間などです。
いったい何のために借り物をしていくのでしょうね。
お客が怪しいので、追いかけ屋の陰間たちが活躍くてくれます。
伝法なお庸も落ち着き、お客の悩みを聞き、解決していくようになり、このシリーズも安心して読めるようになりました、笑。

風野真知雄 『潜入味見方同心六 肉欲もりもり不精進料理』
今回は風野さんらしい題名が面白いですね。
食にまつわる悪事を調べる味見方担当の月浦魚之進が将軍暗殺を阻むために活躍する様子を描いたお話です。
最初は頼りなかったのですが、この頃は冴えています。
無事に北大路魯明庵を捕らえ、嫁も決まり、いいラストとなりました。
なにやらとぼけた雰囲気が好きなシリーズでした。

篠綾子 『梔子の木 小烏神社奇譚』
近頃江戸に不眠と悪夢に苦しむ患者が増えている。
そのため泰山は原因を突きとめたいと思っているが、如何せん薬が足りないので、梔子の実を使うことにする。
そんな頃、公方さままで不眠に悩むようになる。その上、鵺の鳴き声が聞こえるというのだ。
天海と竜晴は 鵺退治をすることになる。
その一方、町に薬師如来の申し子と呼ばれる少年が現れ、不眠を治すお札を配っているという。
その少年に疑念を抱いた泰山と竜晴は、彼の行方を探ることにするが…。

陰陽師や付喪神など好きなものが出てくるので、楽しみなシリーズです。
大人でも読める江戸物ファンタジーです。

西條奈加 『とりどりみどり』2023/07/10



万両店の廻船問屋『飛鷹屋』の末弟・鷺之介は十一歳。
母は六歳の時に亡くなり、父は店商いを番頭や長男に任せ、自ら船に乗り、各地に赴いているため年に一、二度しか会えない。
彼にはそれぞれ母親が違う兄と三人の姉ーお瀬巳、お日和、お喜路ーがいる。
「女が三人寄ればかしましい」とはよく言ったもので、この三人、遠慮も気遣いもなく、傍若無人、平気で人前で毒舌を吐き、金遣いが荒く、買物や芝居、物見遊山にたびたび出歩いている。
そのたびに鷺之介は付き合わされ、引き回されるので、早く姉たちが嫁に行って、日々穏やかに暮らせることを夢見ている。

姉たちの行く先々でいつも騒ぎが持ち上がり、それを姉たちが解決していくが、鷺之介は姉たちに振り回されるので、こりごり。

姉たちは聡いんだからよく考えて行動すればいいのにと思いました。
まあ、この時代のお嬢さんたちはやることがなくて暇を持て余しているのでしょうから、暇潰しみたいなもんでしょうかね。
それにしても「貧乏人とのつき合いは、ほどほどにしなさいと言ったでしょ」にはまいりました。
最初はなんて嫌な女たちと思いましたが、読み進めていくと、鷺之介が傷つかないように考えて言っているのがわかりました。
姉たちは鷺之介がかわいくて仕方ないのです。
でも、ちょっと過保護ですよ。
鷺之介は優しさや思いやりなどは十分持っているのですから、世の中の酸いも甘さも噛み分けさせて、強い人になるようにしなければね。

最後の家族の秘密には驚かされました。
知っていて言わないということはありですが、黙っていることは大変です。
それだけ相手を思いやっているということですね。
こういう家族っていいですね。

続けて西條さんの小説を読みましたが、どちらも家族のことを描いています。
雨降って地固まるとなるといいですね。
ほっこりとした家族ものを読みたい人におすすめです。