堂場瞬一 『凍結捜査』2024/03/16

「捜査」シリーズの五作目。
わたしは間違えて、この本から読んでしまい、前の事件が気になったので、一作目に戻り、『検証捜査』を読みました。
読んでも知りたかったことは詳細に書いていないので、肩すかしを食わせられましたが。


一月のある日、道警函館中央署刑事一課の保井凛は、後輩の浅井真由の電話で起こされる。
大沼で殺しがあったというのだ。
非番ではあったが、たまたま函館に来ていた警視庁捜査一課の刑事、神谷悟郎を部屋に残し、凛は現場に駆けつける。

死体は後頭部から二発撃たれており、身元は免許証から判明していた。
平田和己、三十三歳。
名前を聞いてすぐに凛は平井が婦女暴行事件の容疑者だったことを思い出す。
事件は昨年の七月に起り、被害届が取り下げられたため、捜査は中途半端で終わり、その直後に平田は札幌から姿を消していた。

実を言うと、凛は暴行事件を担当した札幌の所轄の刑事から、平田が函館に来ているという情報を得ていた。
被害届を出した女性、水野珠希は事件後、函館の実家に戻っていた。
そのため凛は平田の所在を監察し、動向に注意を払うと共に、珠希に注意を促していたのだ。
珠希はその日の朝、書き置きを残し、姿を消していた。

捜査に進展はなく、季節は冬から初夏へと変わっていく。
そんな頃に、東京のホテルで殺人事件が起る。
被害者は後頭部に二発撃ち込まれているという。
神谷は函館の事件との類似点に気づく。
被害者は偽名で泊まっていたが、バッグにあった運転免許証から水野珠希であることがわかる。

凛は東京で道警と警視庁の連絡役となり、神谷は北海道へ飛ぶ。
事件は意外な様相を呈してくる。


ちょっとネタバレになりますが、高校時代まで北海道に住んでいたというのに、わたしは北海道の近代史や現代史のことはほとんど知りません。
もちろん、学校でも学びませんでした。
桜木紫乃さんの本を読んで、初めてそういう過去があったのかと思ったのです。
北方領土なんて聞いても、自分とは関係ないと思っていましたもの(恥)。
ロシアとの関係は複雑で、計り知れないものがありますね。

函館の寒~い冬の様子がよく書かれています。
読みながら、昔、冬に函館に行って、坂道で滑りそうになったことを思い出しました。
北海道生まれ、それも冬に生まれたわたしですが、よく転びますwww。
雪の降る寒いところには二度と行きたくも住みたくもありません。
北海道の冬にサングラスが必要だと神谷が言っていましたが、その通りです。
眩しくて大変ですよ。特にわたしは緑内障ということもありますが。
外国の方が雪を見て喜んでいるといいますが、冬の暮らしを知らないからですね。
函館に行きたい方は春の雪がとけ、新緑が出た後にしましょうね。

こんなことが本当にあり得るのかと思うところもありますが、これ以上書くとネタバレになるので、止めます。
そうそう、支援課の村野さんが出てきて、凛に疎まれています、笑。
村野さん、可哀想。
永井さんがフランスに行かれるそうで、次はフランスでのお話みたいですね。
これから順番に二冊目から四冊目を読んでから、最終巻の六冊目を読もうと思いますが、ひょっとして、『検証捜査』を読んだ後なら二作目から五作目は読む順番が違っても問題ないのかもしれないですね。だから兄弟編ってわけかも。
凛と神谷の事件を詳しく知りたいので、番外編でいいので、書いて欲しいです。

堂場さんのシリーズ物は、外国物と比べると猟奇的なところがないので、安心して読めます。
このシリーズもオススメのひとつです。

堂場瞬一 『検証捜査』2024/03/11

「捜査」シリーズの一作目。


神谷悟郎は伊豆大島の大島署刑事課の刑事。
本土でしくじり、左遷されて二年以上になる。
暇潰しにいつものように釣りをしていると、部下の谷本が来て、警視庁の刑事部長から電話がかかって来たという。
谷本の携帯で電話をしてみると、特命だからすぐに戻って神奈川県警に出頭しろとのこと。

神谷を迎えたのが警察庁刑事企画課の永井理事官。
彼に連れて行かれたのが、古いビルの一室で、そこが特命班の捜査本部だという。
特命班のメンバーは他県警から集められた六人、警察庁の永井と警視庁の神谷、福岡県警捜査一課の皆川慶一郎、埼玉県警捜査一課の桜内省吾、道警刑事企画課の女性刑事、保井凛、大阪府警の監察官の島村。
永井によると、三年前、女性三人が連続して乱暴され、殺された戸塚事件が無罪判決になる見込みで、彼らはその事件の検証捜査をするという。

神奈川県警の妨害にも関わらず、だんだんと明らかになる神奈川県警の杜撰な捜査と隠蔽行為。
やがて戸塚事件が神谷の左遷のきっかけとなった事件と繋がりがあることがわかってくる。
一旦は諦めた神谷だったが…。

それにしても神谷はカッとなりすぎです。
一度で懲りずに、またやるとは、ちゃんとカルシウム取ってますか、笑。
大島に島流しになってから刺を失ってしまったとか言っているけど、そんなことないですよ。
訳ありの保井はツンツンし過ぎ。
そのまま行くのかと思ったら、何故か四十二歳のバツイチ中年男の神谷に心を許しちゃうなんて、ちょっと信じられません。
世の中の中年男性の望みを叶えているのかしらww。
神谷を追って大島まで行くのは、わたしなんかは不自然だと思いますけど。
まあ、話が進まないので、仕方ないですか。

などと文句を言っていますが、お話としては面白いです。
警察が本当にこんな感じだと、我々は困りますけどね。
このシリーズ、お勧めです。
わたしのように順番を間違えずにお読みください(またやっちゃったのよ、笑)。

一応出版された順番を書いておきますね。
①検証捜査 (2013年集英社文庫)
②複合捜査 (2014年集英社文庫)
③共犯捜査 (2016年集英社文庫)
④時限捜査 (2017年集英社文庫)
⑤凍結捜査 (2019年集英社文庫)
⑥共謀捜査 (2020年集英社文庫)


<今日のおやつ>
甘い物は禁止とかいいながら、イチゴの美味しい季節ですので、ついつい食べてしまいます。


YATSUDOKIのイチゴのパフェみたいなもの。ちょっと物足りないかな?
某カフェのイチゴのパフェ、食べに行きたいわぁ。
行こうかな…。

水村舟 『県警の守護神 警務部監察課訟務係』2024/03/01

第二回警察小説新人賞受賞作。
第一回でも最終選考に残っていたそうです。


<第一部 H署地域課>
桐島千隼はメダリストでもある、元競輪選手の新人警察官。

ある日、女性の悲鳴が聞えたとの通報があり、千隼と牧島巡査部長はパトカーで出動する。
途中で少年が乗っているオートバイと出会う。
少年はパトカーの行く手を遮るように蛇行運転をはじめ、バランスを崩し、オートバイは倒れ、少年は振り落とされてしまう。
千隼は牧島に止められたが、少年を助けに行くと…。

千隼が気づくと、そこは病院だった。
スマホで事故のことを調べてみると、千隼が向かっていた現場の記事が載っていた。駆けつけた女性警察官が拳銃を一発発砲したというのだ。
防犯カメラに発砲の瞬間が写っていたらしく、動画がネット上に拡散していた。

バイク事故のことを調べると、バイク事故の現場に車が突っ込み、バイクを運転していた少年と、居合わせた警察官が撥ねられ、車は現場から逃走し、少年は搬送先の病院で死亡が確認されたという。

とんでもないことが起る。
千隼が少年の遺族から、事故の責任を問われ、訴訟を起こされたのだ。
千隼は警察署内での勤務を言い渡される。
しかし、いつまで待っても本部の裁判担当は現れない。
千隼が警務部監察課の訟務担当係に電話をしてみると、警察学校の教官だった瀬賀俊秀警部補が電話に出た。
千隼は心身の不調を訴えているので、総務担当に面会させることができないと、副署長に言われたというのだ。
愕然とする千隼。

翌日、瀬賀と荒城巡査長がH署にやって来る。
荒城は裁判官から転職した、弁護士資格を持った警察官で、訴訟のプロだという。
彼の真実よりも勝利を求める強引なやり方に千隼はことごとく反発していくが‥。

<第二部 本部観察課訟務係>
千隼は瀬賀の後任として県警本部観察課訟務係に転属した。
ある日、裁判所から訴状が送られてくる。
訴訟代理人は丸山京子弁護士、訴えられたのは国田リオ巡査。
千隼が事故にあった日に向かっていた現場の事件だ。

瀬賀は勝つためには手段を選ばない。
千隼は不正には手を貸したくない。

調査を進めるうちに、発砲事件は千隼の事故とも関わっていることがわかる。
そして、次々と明らかになっていく、H署の隠蔽行為。
はたして千隼たちは勝てるのか。

民事訴訟というものは、真実でなくても、裁判官に真実だと思われればいいんですね。
「警察官の行為が違法認定された裁判例は、すぐに広まる。悪しき前例になる。こういうことをすると訴えられて負けるのか……と、警察官の行動を萎縮させるタネをひとつふやしてしまうんだ」、「俺たちは、ひとりの警察官を護るのと同時に、警察組織を、ひいては国民を護っている」と荒城が言うのもわかりますが、千隼と同様に頷けないものがあります。
民事訴訟は罪を裁くものではないというのはわかりますけど、それにしてもねぇ。

新人作家さんが書いたものとしては面白かったです。
でも、千隼や瀬賀、青山などの登場人物たちのキャラが今ひとつ、魅力的ではなかったのが惜しいです。
第一回では瀬賀を主人公にしていたらしいのですが、考えなしに突っ走る千隼よりも瀬賀を主人公にした方が、書きようによっては面白いんではないかしら。
ひょっとして、コミカルなミステリを狙っている?
わたしはまっとうな警察小説が好きなので、このままコミカル路線でいくのなら、残念ですが、次は読まないかもしれません。
警察官に対する訴訟を取り上げるという発想は面白いんですけどね。


<今日のわんこ>


お座りして、遊んでくれと訴えているヨーキー。


兄は相変わらずグルグル回って、一人遊びをしています、笑。

今野敏 『一夜 隠蔽捜査10』2024/02/27



小田原署に行方不明者届が出る。行方不明者は北上輝記という小説家。
神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のところに、わざわざ阿久津重人参事官が報告に来た。
そもそも竜崎は小説なんか読まないし、大きな文学賞を取った著名人かどうか、そんなことは関係ない。
竜崎のスタンスでは、誰であろうが、特異行方不明者であれば、すみやかに捜査するだけだ。
北上のファンである副署長が気づき、署長に報告し、あっという間に署内に広まったらしい。
竜崎は箝口令を引くように指示を出す。
しかし、その後、本部長に呼び出される。
本部長は誘拐かもしれないので特殊班(SIS)を動かそうと思っているという。
著名人というのは面倒なものだと思う竜崎。
マスコミだけではなく、身近にいるファンまでもが騒ぐのだから。

その夜、家に帰った竜崎は電話で呼び出される。
北上が車で連れ去られるところを目撃した者がいて、誘拐らしいというのだ。
捜査本部が発足し、SISの出番となる。

そこに誘拐事件の捜査の手伝いをしたいと、小田原市内に住む梅林賢という小説家がやって来る。
副署長曰く、梅林は北上と同じくらい有名だ。
課長は追返せというが、物好きな竜崎は会ってみることにする。

梅林はミステリを書いているエンタメ作家で、北上は文芸作品を書いているという。
梅林は北上の行方が気になり、出版社の文庫担当で、北上と梅林の両方を担当している赤井という編集者に電話をしたとのこと。
竜崎は警察から赤井に連絡を取ることにして、一応、梅林の携帯番号を聞いておく。

気になった竜崎は警視庁の刑事部長である伊丹に電話をして、北上と梅林のことを聞いてみると、もちろん彼は知っていた。梅林の大ファンだという。
彼に会ったことを言うと、伊丹は俺も会いたかったと言う。
伊丹は、杉並区久我山で起きた殺人事件の捜査で忙しいようだ。

誘拐事件の方は犯人から何も連絡はなく、誘拐の目的も、北上の安否もわからないままだったが、しばらくすると、SNSに北上が誘拐されたという書き込みがある。
その後、犯人を名乗る男から電話で、世間に誘拐のことを公表しろという要求が来る。

なんとも不可解な誘拐事件を、竜崎は梅林の助言を参考にしながら捜査していくが…。

竜崎、面白すぎ。東大を出てるけれど、小説なんか全く読んだことないそうです。
そもそも誰かのファンになったことがないそう。
驚いた本部長が「刑事部長、宇宙人じゃないよね?」なんて訊くんですから、笑。
伊丹刑事部長の方が人間的ですね。意外とわたし、伊丹刑事部長、好きです。
そうそう、奥さんに「他の仕事をやりたいと思ったことがないの?」と訊かれ、「ない」と即答しましたねぇ。
そして、「そもそも俺は、自分が警察官であるという前提で物事を考えている。だから、他の職業のことなど、考えたこともない」なんて。
う~ん、竜崎みたいな夫は、わたしは嫌だぞ。
「おまえは、俺が警察官であることに、何か不満があるのか?」と言われ、「ない」と答えた妻の冴子さん、最高ですwww。

今回、竜崎の家にある問題が起りますが、ここには書きません。
そうそう、大学とは何ぞやと思っている人に、いい言葉が出てきました。
要するに大学は「四年間居場所を与えられ」るところ、「何でも考えられる四年間」なんですね。
題名の『一夜』は小田原の「石垣山一夜城」から取ったようです。
詳しくは本に書いてありますので。

男性ファンの多い、隠蔽捜査シリーズですが、今回は理想の上司である竜崎の活躍が少なかったので、少し物足りなかったです。
『ジェンダー・クライム』とか『彷徨う者たち』のようなガチなものを読んだ後だったから尚そう思ったのかも。

夫とテレビドラマ化したとしたら、竜崎と冴子、どの俳優さんがいいかと話しています。
誰がピッタリでしょうね。

中山七里 『彷徨う者たち』2024/02/24

護られなかった者たちへ』、『境界線』に続く、宮城県警シリーズの第三弾。


2018年8月15日。
宮城県本吉郡南三陸町歌津吉野沢の仮設住宅で他殺死体が見つかる。
発見場所は出入り口がすべて施錠されていた。
密室殺人なのか?
被害者は町役場の仮設住民の担当者、掛川勇児。
吉野沢の住民は災害公営住宅への移転が進み、仮設住宅には三世帯しか残っていない。
宮城県警の笘篠誠一郎刑事と蓮田将悟刑事は、掛川と仮設住民との間に何かトラブルがあったのではないかと考え、捜査を始める。

蓮田は仮設住宅で幼馴染みの四人組の一人、大原知歌と遭遇する。
かつて蓮田と知歌、祝井貢、森見沙羅は腹違い四兄弟と言われるほど、仲がよかった。
しかし、彼らが高校三年の時に、蓮田の地方紙の記者である父親が、祝井建設を経営している貢の父親と呉竹県議会議員の収賄疑惑をスクープし、貢の父親と呉竹は逮捕された。
その後、呉竹の後釜になったのが沙羅の父親の森見善之助だった。
高校卒業後、蓮田は生まれ故郷の南三陸町から仙台市に引越しており、震災の被害は受けなかった。
蓮田は貢に負い目がある上に、震災で自分が家族も財産も何一つ失わなかったことに後ろめたさを感じ、家族を失った彼らと連絡を取れないでいた。
知歌は現在、NPO法人<友&愛>でケアマネージャーをしており、驚いたことに、知歌と貢は付き合っていたはずなのに、貢は沙羅と結婚したという。

捜査は難航する。
笘篠に二課に連れられていった蓮田は、仮設住宅が建っている高台は国が保証する一等地であるため、再開発が公になる前から、公共工事に関わる県議会議員と震災復興の公共工事に関わる地元建設業者の間で贈収賄が行われることがあるので、特定の何人かに注目しているということを聞く。
掛川が殺されたのは、再開発がらみなのか?

地元で大規模な工事を扱える業者といえば祝井建設。
そして、森見県議会議員と貢は義父と婿の関係。
蓮田は貢に会いに行く。

東日本大震災の7年後のお話。
辛い話しになると思ったので、なかなか読み進めていくことができませんでした。

今回の主人公、蓮田は被災者に対して負い目を感じながら生きているため、捜査中に家族のことを聞かれるたびに自分を卑下します。
それだけではなく、今回は友情と警察官としての職務の間で揺らぎます。
そんな蓮田は警察官として失格です。
しかし、そこはベテランの笘篠がわかっていて、そんな蓮田を見守りつつ、ここぞという時に、彼に警察官としての職務を全うするように迫ります。
本心を言うと、もっと笘篠さんに活躍してもらいたかったですわ。

貢とのことは仕方のなかったことだと思います。
その当時、貢が蓮田のことを許せないというのはわかります。
でも、貢は自分の父親のことをどう思っていたのでしょう。
会社の従業員を護るためには、たとえ犯罪だとわかっていても、バレなきゃやってもいいと思っていたのでしょうか。
貢のそういうところが甘いと思います。

被災地の復興に関して、わたしはよく知らないので、何も言えませんが、ただ被災者たちの気持ちに添った復興をしてほしいです。
復興に関して、こう中山さんは書いています。

「新しいものが生まれる蔭にはいつも破壊と消滅がある。そして大抵の者は消え去るものを歯牙にもかけない。(中略)国の方針だろうと大義名分であろうと、美名の下にささやかな願いが駆逐されていいとは思えない。ささやかな願いすら聞き届けられずに何が復興かとも思う」

宮城県警シリーズはこれで完結だそうですが、残念ながら前作に比べると少し物足りなかったです。
蓮田にそれほど感情移入できませんでしたし、ラストが今ひとつで感動できなかったのです。
まあ、震災後の復興の問題点がわかっただけでもいいとしますわ。
三部作だそうですので、是非『護られなかった者たちへ』から読んでみてください。


<今日のわんこ>


晴れたので、みんなでお散歩に行けました。
ママが花の写真を撮っていてみんなより遅れると、弟は何回も座り込んでママを待ちました。


河津桜(?)っぽい花が咲いています。


クリスマスローズも満開に近い咲きっぷりです。


梅はもうそろそろ終わりでしょうか。
明日は雨らしいので、わんこたちと家でまったりと過ごしましょうかね。

天童荒太 『ジェンダー・クライム』2024/02/21

「ジェンダー・クライム」とは「性にまつわる犯罪」。


裸で、両手を後ろに回され、両手首にガムテープを巻かれた状態で、道路から一メートル下の草地に、うつ伏せで横たわった中年男性の遺体が見つかる。
八王子南署に捜査本部が設置される。

八王子南署刑事課強行犯係の捜査員、鞍岡は本庁捜査一課の志波倫吏と組むことになるが、志波は初の捜査会議には出ず、立川大学の法医学教室にいた。
彼はレイプの可能性を指摘し、教授の磯永に調べてもらうと、遺体の肛門に擦過傷らしき痕があり、体内から小さなポリ袋が発見された。
その中には「目には目を」と書いた紙が入っていた。

まもなく遺体は佐東正隆、五十四歳のものと判明する。
佐東の息子の進人は準強制性交、つまり集団レイプの加害者だった。
三年前、十九歳だった進人を含めて四人が被害者の飲み物にレイプドラッグを入れ、犯行におよんだ。
四人のうち、余根田と楠元が暴行し、佐東と芳川は未遂だと否定していたという。
佐東は見張り役で、レイプドラッグを入れたと言われている。
全員が実行犯として検察に送られたが、起訴は見送られた。

怨恨のせんで調べることになるが、なぜ三年も経ってからなのか。
なぜ直接犯行に関わった奴らじゃないのか。
疑問は多い。

準強制性交の加害者たちと佐東進人の居所を突きとめ、話を聞き、被害女性と、その周辺の聞き込みをすることになる。

警察小説ではありますが、謝辞を読むと、天童さんがこのお話に込めた思いが明確にわかります。
この本は「ジェンダー」について書かれた、「ジェンダー」について考えるきっかけになる本です。
是非多くの人に読んでもらいたいと思います。

わたしが仕事に就いた頃は「ジェンダー」などという言葉はなく、職場では当たり前のようにお茶くみをやらされていました。
今でも覚えているのが、上司に「○○さんはお茶を入れてくれれば、何もしなくていいよ」とニコニコしながら言われたことです。
初めは冗談かと思いましたが、真面目にそう思っていたのです。
ちなみに仕事は男女差のない専門職でしたけどね。
何十年か経って、駅でばったり会った時に、彼はわたしを見て、実に嬉しそうな顔をしました。
アラ、わたしあの言葉を聞いてから彼につっけんどんな態度を取っていたはずですけど、笑。

本の中に、ある女性が<わたしの主人はわたしだから、夫のことを「主人」とは呼ばないことにした>というエピソードがありますが、わたしは昔に読んだ本の中に同じようなことが書いてあり、なるほどと思ったので、配偶者に「主人」とか「旦那」は使いません。

天童さんはこう書いています。

「そうした対等でない関係を裏に秘めた言葉を、無意識に使う(暗に求められている)文化が、女性や子どもが被害を受ける犯罪やハラスメントを生む要因の一つになっている…と言われても、多くの人は戸惑うばかりだろう。
 だが、言葉は、人の暮らしや社会の在り方を、縛ったり、ある方向へ導いたりする力がある。ささやかでも、呼び方一つの影響は小さくない。
 そんなことを鬱々と考えている日々のあいだにも、女性が被害に遭う事件が次々と起っていた。しかも、マスコミや一部の政治家・文化人は、加害者ではなく、むしろ被害者を責めるという、信じられないような不条理な事態も生じていた」

ジェンダー・ギャップはわたしの頃よりも少しずつよくなっていると思いたい。
でも、「ジェンダー・ギャップ・レポート2023」で日本は146ヶ国中125位です。
男女平等を阻む社会的、文化的なものがまだ根強く残っているのでしょうね。
わたし自身のジェンダー・バイアスとの戦いも続きますww。

ジェンダーなどと聞くと、拒否反応を持つ人がいるかもしれません。
性暴力は「魂の殺人」と言われており、書かれている被害者の痛ましさに目を覆いたくなるかもしれまん。
それでも、警察小説としてもいい線行っていると思いますので、一読の価値はあります。

わたしは主人公の鞍岡と志波のペアや、ここには紹介しませんでしたが、生活安全課の依田課長と館花未宇巡査のその後を読みたいです。
最後は何とかうまくおさまりましたが、根本的なことは何も解決していませんし、彼らのキャラが好きなんです。
天童さんはミステリ作家ではないので、これが最初で最後になる可能性が強いですけどね。

わたしの今年のベストになりそうな本です。
そうそう、天童さんが影響を受け、この本を書くきっかけになったらしいレベッカ・ソルニットの『説教したがる男たち』も読んでみたいと思いました。

加納朋子 『1(One)』2024/02/19

<駒子>シリーズ、『ななつのこ』『魔法飛行』、『スペース』に続く四作目。
二十年ぶりの新作ということです。


「ゼロ」
ゼロはレイちゃんのわんこ。
彼女が大学生になった春に一家に迎え入れられた。
大学生になってレイちゃんはパン屋でアルバイトを始める。
ところが、そのバイト先にストーカー男が現れる。
ゼロは知っていた。そのストーカー男はゼロたちのお散歩の時に跡を付けていた奴だと。
ゼロはレイちゃんのために一肌脱ぐ。

「1(One)前編」
ぼくはぼくだけの犬が欲しかった。
小学校一年生の夏に山の多い町に引越した。
隣の家が白い大型犬、シロを飼っていた。
シロはケンちゃんの犬で、生後六ヶ月ぐらいの時に彼の祖父が山で拾ってきたという。ぼくはケンちゃんと一緒にシロの面倒をみる。
シロは散歩に行くと山の方へ行きたがる。
たぶんいっしょに暮らしていた黒犬に会いたいのだ。
ある日の夜、黒犬がシロを迎えに来る。

「1(One)中編」
わが家に犬と赤ちゃんがやって来た。
楽しいわが家だが、実は妻はあることを画策し、行動にうつしていた。
しかし、洞察力のある夫はそれに気づき、止める。
だが、因果応報。

「1(One)後編」
ワンはわが家の犬。世界一有能で忠実な愛犬。
「一(ワン)」とは、無限大の可能性を秘めた数字。
彼は幼い家族のために戦う。

どこが<駒子>シリーズなんだろうと思って読んでいたら、あるところでポンと謎が解けました。
この本は犬好きの人、特にYAや小学生におすすめです。
前の本を読んでいなくても大丈夫ですよ。

犬といえば、四国犬が次々に人を噛んだというニュースがありましたね。
はっきり言って、犬ではなく、飼い主が悪いです。
コロナ禍にペットを飼う人が増えたといいますが、マナーはどうでしょう?

どこの道にも犬のうんちが落ちています。
リードをつけずに犬と歩いている飼い主がいます。
兄犬は住宅街の道でリードをつけていない犬に二回、追いかけられましたが、それを見ていた飼い主は謝罪もしませんでした。
家の近くを犬たちと散歩しているときに、三匹の大型犬に吠えられ、襲いかかられそうになり、怖かったです。
大型犬を連れていたのは小柄な女性が二人で、一生懸命に犬たちをなだめようとしていましたが、なにしろ犬の力が強いので、抑えるのが大変そうでした。
もし持っているリードが外れたら、その犬たちはわたしとわんこに襲いかかって来たでしょう。とにかくすぐにわんこを抱えて逃げましたよ。
それから時間をずらすようにしましたが、何故か会ってしまいます。
それ以来、その犬たちがいないかよく確かめ、道を選んで散歩をしています。
この頃、会わなくなったのでホッとしています。
大型犬を飼おうと思う人はよく考えてください。
犬の力って思った以上に強いんです。あなたは犬を抑えられますか?
うちの三キロの犬だって、力いっぱいに止めないとダメな時がたまにですがあります。そういう時にママの重い体重が役立ちますけどね、笑。

そうそう、マンションの植栽のところで猫の餌付けをしている人がいるので、止めて欲しいという回覧板が来ていました。
うちの庭をどこかの猫がおトイレにしているみたいで、した後の糞は持って帰って欲しいですわ。
マンションと言えば、エレベーターの中に動物(だよね?)の糞があったことがあるそうです。

まあ、マナー違反は次々と出てきますね。
犬を飼っているわたしでさえ、これぐらいあるのですから、ペットを飼っていない方はもっと頭に来たことがあるでしょう。

これからもご迷惑をおかけしないようにしますから、よろしくお願いいたします。


「おねがいします、ワン」ペコリン。

これからペットを飼いたい人へ、本の中にあった言葉を載せておきます。

「わかっているかい?犬だけじゃない。生き物を飼うということは、命に責任を持つということだ。それは決して、いいことや楽しいことばかりじゃない。面倒くさいこと、思うようにいかないこと、不便なこと、がっかりすることもたくさんある。犬のために、別の楽しいことやしたいことを諦めたりね。ちゃんと飼おうとすればお金だってたくさん必要になる。その分、我慢しなきゃならないことだって出てくる」

一応ミステリの中に入れておきましたが、ミステリというよりも、家族とわんこの絆を感じさせられる、心暖まるお話です。
『ななつのこ』から読み直したくなりました。

一色さゆり 『ルーブル美術館の天才修復士 コンサバターⅣ』2024/02/16

コンサバター・シリーズの四巻目。
コンサバターとは絵画などの文化財を修復保存する仕事をする人のことです。
絵画は好きだけど、それほど詳しくないという方向きの本です。


「第一章 ニケの指輪」
糸川晴香はロンドンからパリへ向かった。
一ヶ月もの間音信不通になっていたパートナーのケント・スギモトから連絡が来たからだ。
パリに着くとすぐに、晴香はスギモトがいると思われるルーヴル美術館に行く。
すると≪サモトラケのニケ≫が展示されていたホールは現在修復作業中のため封鎖されているという注意書きがあった。
案の定、そこにスギモトがいた。


何故晴香に黙って姿を消したのか、スギモトが言うには、ルーヴル美術館にはフランス人しか職員として受け入れないという表向きのルールがあり、英国からスギモトを招く手続きが極秘で進められていて、年が明けてようやく正式に、修復プロジェクトに単発で加わることが決まり、仕事上のパートナーである晴香を呼び寄せる許可も下りたからだという。
しかし、そう簡単に晴香が受け入れられるわけがなかった。
常勤職の修復士で、ニケの修復プロジェクトの責任者のマルタンは晴香に冷たかった。

修復中のニケの襞の隙間に金の指輪が見つかる。
指輪の内側にギリシャ語の格言、『翼はひとつでは飛べない』という文字が刻印されていた。
マルタンに内緒で指輪を持ち出したスギモトは、指輪の持ち主を探し当てる。

「第二章 芸術家たちのカフェ」
≪サモトラケのニケ≫の修復チームから不服申し立てがあり、晴香がロンドンに帰らされる可能性が出てくる。
晴香とスギモトが滞在しているモンパルナスのアパルトマンの側に一軒のカフェがある。
そのカフェはまるでチェスの盤上のようだ。
オーナーによると、カフェは1920年に彼の曾祖母により創業され、彼女はチェスの名手で、客ともよくチェスをしていたそうだ。
晴香とスギモトは、彼らが修復士であることを知ったオーナーから店に飾ってあるチェスの絵画の鑑定とケアを頼まれるが、晴香は女店主の肖像画も合わせて修復することを提案する。
チェスの絵画はピカソが1911年に描いた≪チェス≫とよく似ているが、偽物なのか?

                          パブロ・ピカソ ≪The chess≫(1911年)

「第三章 汚された風景画」
晴香はマルタンから修復チームに加わって欲しいと言われる。
そんなある日、環境活動家と名乗る女がコローの風景画≪カステル・ガンドルフォの思い出≫に黒い液体をかける。

         ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
     ≪カステル・ガンドルフォの思い出≫(1865~1868年頃)

黒い液体は水性の無害なもので、絵がガラス板付の額縁に入っていたため、大きな問題はなかった。
スギモトは疑問を呈する。
何故、あの女性はコローのあまり有名とは言えない絵を狙ったのだろうか。
そして、晴香は気づかなかったのだが、≪カステル・ガンドルフォの思い出≫は横長なのに、縦長の作品に使われる額縁に入っていたという。
何かの思惑があってそのような額縁が選ばれたのだろうか?

「第四章 ショパンと雨」
スギモトと晴香はルーヴル美術館の館長ルイーズからドラクロワが描いたショパンの肖像画の復元を頼まれる。

この絵は元々はショパンとかつての恋人であったフランスの女流作家ジョルジュ・サンドとともに描かれた二重肖像だとされている。
スケッチによると、ショパンはピアノを演奏し、その傍らでサンドは刺繍をしながら耳を傾けている。
この絵画は未完に終わり、ドラクロワの死後にアトリエで発見され、その際ショパンとサンドの部分が切り離された。
サンドの腰から上の部分を描いたカンヴァスはコペンハーゲンの美術館の管理下に置かれている。


ショパンの姿は顔のみ切り取られ、ルーヴル美術館が所蔵している。


スギモトたちがつきとめた絵に隠された秘密とは…。

実はこの絵はこんな感じではなかったかと複製画が描かれています。


絵としては、あまり…。ドラクロワってこんな感じの絵を描いてましたっけ?

絵を見るのが好きなわたしですが、それほど詳しくないので、こういう本を読みながら知識を蓄えています。
なにしろ記憶力が今一なので、読んでは忘れていますww。

次はレオナルド・ダ・ビンチにかかわる極秘調査だそうで、楽しみですね。

小西マサテル 『名探偵じゃなくても』2024/01/10

第21回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『名探偵のままでいて』の続編。


小学校教師の楓の祖父は元小学校の校長で、「まどふき先生」と呼ばれ、子どもたちに愛されていた。
彼はレビー小体型認知症を患っていて、幻視や記憶障害などがあるが、話を聞いただけで謎を解いてしまうという安楽椅子探偵なのだ。

第一章:サンタクロースを見た男
楓の同僚教師、岩田は小学生の時にサンタクロースを見たことがある。
あるクリスマス・イブの夜、目覚めるとサンタクロースがいて、サンタクロースを追いかけてベランダに行くと、彼は跡形もなく消えていたのだ。
消えたサンタクロースの謎を割烹居酒屋『はる乃』で岩田が楓と四季に話していると、紳士然とした男が話しかけてきた。彼は楓の祖父の教え子だと言う。

第二章:死を繰る男
楓は美咲から連続自殺未遂の話を聞く。
フランソワという若い俳優が自殺し、彼のファンの二人の女性が後追い自殺をしたが、彼らはみな不思議な状態で、不確実な服毒自殺をしていたというのだ。
次なる犠牲者がでないうちにと思った楓は、居酒屋で出会ったK県警の刑事、我妻に連絡する。

第三章:泣いていた男
ある日、我妻は自宅の近くで起った殺人事件に呼び出される。
殺されたのはK県警二課に所属する刑事で、不思議なことが二つあった。
遺体の彼が泣いていたことと、ステンレス製のビールジョッキを手にしていたということ。ダイイングメッセージなのか?

第四章:消えた男、現れた男
この頃、四季の行動がおかしい。連絡がつかないのだ。
ある日、楓と美咲、そして岩田でY基地主催の国際フェスティバルへ行く。
そこで楓は、かつて母のストーカーとなり彼女を殺し、その二十七年後に今度は楓のストーカーになり、拉致しようとした、”親バカさん”こと九鬼を見かける。
彼は無実になり、釈放されていたのだ。
九鬼は楓に「私と楓の邪魔をする男はひとりずつ消していきますからね」と告げる。

終章:時間旅行をした男
美咲から楓はすずという少女に起った”学校の七不思議”を相談され、クリスマス・イブの昼間に祖父のところにすずを連れて行くことにする。

レビー小体型認知症(DLB)のことはよく知りませんが、楓の祖父の主治医がいいことを言っています。
DLBは「あらゆる病気の中で、唯一、時間旅行が可能な病気」で、怖い幻視や苦しい幻視じゃなく、「美しい過去へと旅行できる」限りはいいことなのではないかと。
どうなんでしょうね。少なくとも楓のおじいちゃんは幻視を見ている時は微笑んでいますものね。

登場人物たちにはそれぞれに悲しい過去や現実がありますが、このお話は暗いものではありません。
元小学校教師だったおじいちゃんのキャラクターがそうさせているのではないでしょうか。彼にとって登場人物たちは皆教え子のような、慈しみ、育てていく対象なのですから。
彼が我妻に言った言葉がいいです。

「人生はいつもままならない。それでも前を向き、ハッピーエンドを目指すべきだ。いや、目指さなければならないんだ」

今回は主にヒッチコック作品と古典的なミステリ作品が色々と出てきますので、興味を持ったら読んだり、見たりするといいでしょう。
私の覚え書きとして載せておきますが、抜けているものがあっても許してねww。

ミステリ本:
『サンタクロース殺人事件』 ピエール・ヴェリー
『真珠色のコーヒーカップ』 赤川次郎
『僧正殺人事件』 S・S・ヴァン・ダイン
『そして誰もいなくなった』 アガサ・クリスティ
『ヒルダよ眠れ』 アンドリュウ・ガーヴ
『夏への扉』、『輪廻の蛇』、『時の門』 ロバート・A・ハインライン
『ローマ帽子の謎』 エラリー・クイーン
『Xの悲劇』、『ジャム双子の謎』、『顔』、『間違いの悲劇』 
  エラリー・クイーン
『コーマ、昏睡』 ロビン・クック
『緊急の場合は』、『ジェラシック・パーク』、『アンドロメダ病原体』
  マイケル・クライトン
『大鴉』 E・A・ポー
『10月はたそがれの国』 レイ・ブラッドベリ
『J・ハバクック・ジェフソンの証言』 アーサー・コナン・ドイル
『シンデレラの罠』 セバスチアン・ジャプリゾ
『たんぽぽ娘』 ロバート・F・ヤング

アルフレッド・ヒッチコック監督作品:
『舞台恐怖症』、『私は告白する』、『汚名』、『断崖』、『めまい』、『疑惑の影』、『フレンジー』、『ダイヤルMを廻せ!』、『サイコ』、『ロープ』、『裏窓』、『第3逃亡者』、『救命艇』、『鳥』、『知りすぎていた男』、『暗殺者の家』、『スミス夫妻』、『見知らぬ乗客』、『北北西に進路を取れ』

ドラマ:『刑事コロンボ』
絵本:『あのね、サンタの国ではね…』 嘉納淳子作 黒井健絵

読んでいない本や映画が沢山ありますわ(恥)。
小西さんは全部読んで、見ているのですね。すごいわぁ。
「刑事コロンボ」は見ていたけど、「CAT」が出てきたかどうか、記憶がないです。セリフで「うちのネコが」って言っていたら、猫の名がネコってわからないわよね。

今回も全く謎を解けませんでした。すずちゃんだけわかったかな。
楓が岩田先生と四季のどちらを選ぶのか、思わせぶりで終わっています。
私はどうでもいいのですが、楓のどっちつかずが嫌ですわ。いい加減に決めろよと言いたい。
とにかくおじいちゃんが長生きしてくれれば、それでいいです。
三作目でまた「まどふき先生」に会えるのを楽しみにしています。

伏尾美紀 『数学の女王』2024/01/08



大学院で博士号取得後に警官になった異色の経歴を持つ沢村依里子は階級は警部補で、道警本部警務部付に異動になる。
前回、監察官室に目をつけられたための報復人事かと疑う沢村だったが、配属されて十一日目に、捜査一課の課長補佐、奈良勝也から非常招集を告げられる。
JR新札幌駅の近くの北日本科学大学大学院で爆発が起り、沢村は今から捜査一課配属になり、負傷者が運ばれた病院へ直行するように指示されたのだ。

学長宛ての荷物が運び込まれた学長室で爆発が起ったらしく、テロなのか、個人的な恨みなのか…。
上層部はテロ事件と位置付け、公安案件とする。

沢村の辞令は「警務部付刑事部捜査第一課警部補を命ず」。
ようするに籍は警務部に残したまま、一時的に捜査一課へ出向するということだ。
彼女が配属された特捜第五係のメンバーは警部で課長補佐の奈良、警部補の榊と育休中の浅野、巡査部長の木幡と松山、高坂、花城。
彼らは事件番として事件発生に備えて二十四時間待機状態となる。

なかなか捜査に進展がない中、沢村は奈良に呼ばれ、特命捜査の捜査班長を命じられる。
榊も浅野も家庭の事情で指揮を執れないためだが、経験が乏しい沢村が指揮を執ることに懐疑的な班員たちをまとめていけるのか。

やがて沢村たちはある人物に的を絞る。

犯人が早めにわかってしまい、そこが残念。中だるみもありますが、後半から読むスピードがあがっていきますので、ご心配なく。
そうそう、題名どうにかならなかったのかしらねぇ。

捜査をしながら沢村は自分の中にあるジェンダーバイアスに気づきますが、ジェンダーバイアスは誰にでもありますよね。
大学の学長というと男性を思い浮かべたり、女性は数学が不得意とか…。
私も気をつけるようにしていますが、なかなかバイアスはなくならないものです。
このバイアスも女性の社会進出がもっと進むとなくなっていくのではないかと思いますが、どうでしょうね。

色々と書きたいことがありますが、ネタバレになってしまうので、止めます。
沢村は敵もいますが、瀧本や奈良のような強力な味方がいて、恵まれていますね。
彼女の真摯な姿勢が評価されているのでしょう。
過去の出来事も清算でき、新しい一歩を踏み出せそうです。
今後の彼女の活躍が楽しみです。