「狂言 狐塚、 能 阿漕」を観る2007/09/22

国立能楽堂で能と狂言を観てきました。
前に訪れた矢来能楽堂は古い能楽堂で、それなりの雰囲気はあったのですが、流石国立。前の席の背に字幕スーパーがついていて、便利でした。
シテの人の声が聞きづらいなどと前回書きましたが、仕方がないことが判明しました。

あ、ここでことわっておきます。私は日本古典芸能の素人です。全くわかりません。
間違って読み始めたエキスパートの方は、これ以降読まなくてもいいと思います。
たぶん間違っていたり、変なことを書きますから・・・。

そう、面を被っているからですね。
『阿漕(あこぎ)』に出てくる漁師は「痩男」と呼ばれる、「窶れはて執心を表す陰惨な形相の面」を付けてるのです。 『敦盛』の若々しい美しい面とは違います。
私的には若く美男子の方がいいですが・・・。

『狐塚(きつねづか)』は主とおなじみの太郎冠者、次郎冠者の三人で演じる狂言です。
今年の秋は豊作で、主人は大喜び。
けれど狐塚にある田んぼを鳥が荒らしているのが気になります。
そこで太郎冠者と次郎冠者を呼び、鳥を追い払いにいくようにと命令します。
二人は鳴子をならしながら、狐塚まで行き、日がくれるまで鳥を追っていました。
とっぷりと日が暮れたので、主人が用意してくれた庵で休んでいると、なんと主人が酒をもってやってきます。
これは怪しい。人間の格好をしているけれど、たぶん狐が化けてだましに来たに違いない。
そう思った二人は注がれた酒を飲むフリをして、話で主人の気をそらせ、そっと捨てます。
主人はずいぶん飲むのが早いなと訝りながらも、酒を勧めます。
二人は狐がなかなか正体を現さないので、嫌いな煙でいぶりだそうとするのですが・・・。

『阿漕』は『鵜飼』『善知鳥(うとう)』と並んで、「三卑賤」と言われているそうです。
『敦盛』が貴族階級の人、『阿漕』はしがない一般市民の漁師ですから、卑賤ですか・・・。
能は三部に別れています。
二つしか観ていないので、その二つについてしかわかりませんが。まず始めに、ワキ(脇役)が出てきて、そこにシテ(主役)が人間の姿をして現れ話をします。
その後、急にいなくなり、変だと思っていると、里人、アイ(間狂言の人)が出てきてその事情を話し、最後は霊の姿をしたシテが現れ、今までの恨み辛み等を蕩々と話すのです。
最後の部分が見物ですね。
動きがあり、観てておもしろいのです。

『阿漕』は、西国方の僧が伊勢太神宮へ参詣に向かうところから始まります。(他のバーションではただの旅人というものもあるそうです)
伊勢の海、阿漕が浦にさしかかると、ちょうど釣りに来た老人と出会います。僧がここが

「伊勢の海阿漕が浦に引く網も度重なればあらわれにけり」

と古歌に読まれた場所かと聞くと、老人はその通りだと答えます。
重ねて、何故阿漕が浦って言うのかと尋ねると・・・。
ここはお伊勢さんに奉納する魚だけを獲るところで、禁漁区になっていたと話し出します。
ところが阿漕という漁師は夜な夜な忍び込み、魚を獲っていたのですが、ついに見つかってしまい、罰として生きたまま海に沈められてしまったのです。
阿漕は地獄に堕ちてしまい、苦しんでいるので、彼を弔ってやってほしい、とここまで話したところで、突風が吹き、老人はどこかに行ってしまいます。
その後に会った里人に事情を聞くと、さっきの老人が言っていたのと同じことを教えてくれました。
それではということで、弔いを始めると・・・。
網を持ち漁師の姿をした阿漕の霊が現れ、生前と同じように漁を始めます。
死んでも密漁は止められないのですね。業というものでしょうか。
すると、波が猛火となり、阿漕は熱さに苦しみ、網に引く魚は悪魚毒蛇となります。
阿漕はこの罪を助けて欲しいと頼みながら、波の内に入ってしまいます。
なんとも因果な話ではないですか。

今回気に入った(?)のが、小鼓と大鼓の二人です。
両人共に60~70代で、お年にかかわらず、あの鼓を叩く音が若々しいのです。
なんというのでしょうか、掛け声でいいのでしょうか、が印象的でした。
だみ声(失礼)、いえいえ、なんとも風情のある声でした。

ロビーに書店が来ていて、『まんがで楽しむ能・狂言』と『まんがで楽しむ能の名曲七〇番』を買ってきました。
まず最初はマンガで知るということで、便利な世の中です。
そうそう流石国立、パンフレットも九月に行うすべての能・狂言の解説と詞章が載っていて、560円はすごくお得です。
感心するところが、全くの素人の感覚ですみません。
でも、いつも来ているらしい、隣に座ったおばさまは途中寝ていました。
最後まで寝ないで観ていた私はえらいですよね。エヘン。

せっかく買ったので『まんがで楽しむ能・狂言』から。
有名な彫刻家のザッキンは能は「我慢できん。俺は出る」と言って出て行ったそう。
画家のブナールは、婦人に「君なんか行くといいね。良い修業だよ」と言ったそうな。
婦人曰く、「一日で死んでしまうわよ」
彼らに比べると、私は出て行かないだけいいわよね、笑。