矢口敦子 『償い』2008/05/20

『家族の行方』を読んで、もっと読みたいと思い、次は『償い』を読んでみました。
『家族の行方』よりもこっちの方がお勧めですが、出てくる人が私にとっては不思議な人たちです。
何か妙なこだわりがあるというか、なんでこんなこと気にするんだろうという感じです。

主人公の日高は、元脳外科医。
大学病院に勤めていて、教授の娘と結婚し、順調にいくと教授になれるはずでした。
しかし、義父が早くに死んでしまい、大学病院での地位はおぼつかなくなり、そのために一層仕事に熱中し、家庭をおろそかにしてきました。
心配な患者がいた時に、妻が電話をかけてきます。
息子の様子がおかしいから、すぐに帰ってきて欲しいというのです。
日高は妻の要求をはねつけてしまい、結局息子は助かりませんでした。
息子のことがあってすぐに、はじめて執刀医として手術をし、使ったヒト乾燥硬膜に問題がありヤコブ病なってしまったKさんが亡くなります。
そして、その次の日に、他の医師が型違いの血液を輸血した責任を取らされ、大学病院を止めさせられます。
日高が妻に大学病院を首になったことを言うと、妻は十三階から飛び降りてしまいます。
それから日高はホームレスとして、彷徨います。

日高は埼玉県光市に辿り着きます。
その町で、医学生だったときに、男の子を助けたことがありました。
ある日、日高は火災の第一発見者となります。
この時に知り合ったのが、刑事一課の山岸徹男です。
山岸は日高に警察の犬になるように勧めます。
その頃光市に殺人事件がいくつか起きていました。
日高は何故かそれらの事件が気にかかって仕方がありません。
図書館でいろいろと調べているときに、自分がかつて助けた男の子と再会します。
今は高校生になっているその子は、人の悲しみを感じるという、不思議な力を持っているようです。
調べていくうちに、自分が助けた子が殺人を犯しているのではないかと、日高は疑い始めます。
その子を助けなければ、事件は起こらなかったのでは・・・。
自分が執刀しなければ、Kさんは後でヤコブ病にかかって苦しむことがなかったのでは・・・。
自分が家に帰っていれば、息子は助かったのでは・・・。
日高はそう思って苦しみます。
でもね、そんなこと思ったって、人間には限界というものがあります。
なんでもわかるわけがないしね。
わかると思う方が、傲慢ですよね。
途中から日高の悩みがわからなくなりました。
「ここからは神の領域」というものが人生にはあるように思うのです。
そのことをいくら考えたって、思い至らないものなのです。

日高の立場にどれぐらい感情移入できるかによって、この本の感想が違うと思います。