北村薫 『街の灯』2008/06/09

北村薫の書くミステリーは人が死なないものです。
人を傷つけないミステリーです。
読んだ後、心が温かくなります。

昭和7年の東京。
士族の出である花村家の令嬢、英子のところに、女運転手として別宮みつ子が来ます。
ちょうど『虚栄の市』を読んでいたところだったので、英子は彼女をベッキーさんと呼ぶことにします。
ベッキーさんは女性でありながら、聡明で武道はできるし、ピストルまで撃てます。この頃の女性としては、希有な人です。
英子はお嬢様のわりに、いろいろと考えるのが好きな人で、何か疑問があると、考えずにはいられないのです。
ベッキーさんをお供に、謎解きをしていきます。

なんと言っても、この本の楽しみは、昭和初期の東京の様子です。
士族や皇族のお嬢様達の奥ゆかしいこと。
一度でも良いから、「ごきげんよう」とか言ってみたいものですわ。
銀座の場面なんかは、今と比較しながら読みました。
服部時計店の時計塔の中に入れたそうです。
今も時計塔は残っていて、和光になっています。
昭和の香りを味わえる、ほんわかしたミステリーです。