時実新子 『悪女の玉手箱』2008/07/14

時実新子さんは川柳作家です。
1987年『有夫恋(ゆうふれん)』で有名になりました。
『有夫恋』とはその名の通り、夫のある身で恋した女の性愛を描いた句集です。
50代の女が恋をするなどということを、若かった私は思いもしなかったことです。
彼女の人生を知るにつれ、それも仕方のないものであったと思い至りました。

1929年生まれの彼女は、17歳の時に顔も知らない相手と結婚させられます。
結婚の翌年には子供が生まれますが、夫は暴力をふるう人でした。
唯一姑はいい人で、手先が器用で、彼女に家事を教えくれました。
その代わりに新子さんは字がきれいで、文も上手かったので、手紙を書いてあげたりしたそうです。

嫁ぎ来て十年恋はまだ知らず
人の世に許されざるは美しき
子を寝かせやっと私の私なり
妻をころしてゆらりゆらりと訪ね来よ

私たちの時代は恋愛は自由で、好きな人と結婚ができる時代です。
しかし、彼女の青春時代は親の決めた人と一緒になるということが一般的な時代でした。
たいていの人は諦め、それなりの人生を送ったことでしょう。
50代は彼女にとって、失った青春をふたたび生きるというものだったのでしょう。

『悪女の玉手箱』には、少女時代の事や再婚した夫の事などが書かれています。

まちがいだったわたくしの五十代
同情はまっぴら夫を庇い立つ
さよならのように夫の指握る

彼女は前夫が亡くなってから2年経ち、58歳で再婚します。
彼女の生きがいは夫。
そのことを何のてらいもなく彼女は言い切ります。その潔いこと。

私のボケさ加減がわかるのですが、実は週間朝日の川柳をたまに読むのが好きでした。
先週、選者が変わっているのに、やっと気づいたのです。
そして調べてみると、新子さんは昨年3月10日に亡くなっていました。
彼女は川柳をより身近にした功労者であったと思います。
彼女の生きざまのすごさは、私が書くより、彼女の書いたエッセイなどでお読みください。