ルイーズ・ペニー 『スリー・パインズ村の不思議な事件』2008/07/26

新シリーズです。帯に色々と新人賞を取っていることが書いてありました。
犯罪がめったにない、カナダの村、スリー・パインズに起こった殺人事件を、性格がよく、有能なケベック州警察殺人課警部のアルマン・ガマシュが解決していきます。

元教師のジェーン・ニールが森で、矢で射られて死んでいるのが見つかりました。
狩猟事故なのか故意の殺人事件なのか、ガマシュ達は迷います。
調べても、これといったことはなく、唯一関係ありそうなのが、ジェーンが死ぬ前にした二つのことです。
一つ目は、子どもがゲイ・カップルに糞をなげつけたのを怒鳴りつけたことと、二つ目は、絵を描くことを公然の秘密にしていたのに、「フェア・デイ」という絵を展覧会に出品したことです。

ガマシュはただ村をまわり、村の景色を愛で、村人の話を聞くだけです。
アメリカのミステリーに登場する、派手な科学捜査は出てきません。
この本の魅力は、カナダの村の景色と登場する人たちなのです。
ジェーンの隣人で友人、芸術家のクララとピーター夫婦。
ピーターの友人のベン。
ゲイ・カップルでビストロを経営しているオリヴィエとガブリ。
マシュー家族。ジェーンの姪、ヨランド一家。
父親の期待を一心に受け、上昇志向が強すぎて、周りが見えない刑事イベット。
そして、ガマシュの良き片腕、ジャン・ギー・ボーヴォワール。
一見人の良い、騙しやすいおじさんかと思えるのですが、ガマシュはよく見ているんです。
唯一の欠点は、イベットのような落ちこぼれ刑事をどうにかしようとすることです。
側にいるボーヴォワールはそれがわかるから、心配なのです。

本の中に結構哲学的な会話がありました。本屋のマーナとガマシュの会話です。

「人生とは喪失である」
「親を失う、愛する人を失う、仕事を失う、それゆえ、こうしたものや人よりも、人生において高い意味をもつものを見つけなければならない。さもないと自分自身を失ってしまう」
「永遠につづくものなどなく、変化は避けられない、ということを受け入れられれば、それに順応できれば、もっと幸せになれるのよ」
「問題は彼ら自身のものであり、解決するのも彼ら自身なのです。自分で抜け出すしかないんです」
「自分だけが、自分の人生を変えられ、方向転換できるのよ」
「多くの人たちは自分の問題を愛しているんです。成長して人生をうまくやっていかなくてよいというあらゆる種類の口実になるから」
「人生は変化です。人間が成長せず、進化していなければ、同じところにじっと立っているだけ、それ以外の世界はどんどん変化しているのに。こうした人々の大半はひじょうに未熟です。彼らは”静止した”人生を送り、ただ待っているんです」「誰かが救ってくれるのを。」

現在起こっている犯罪のほとんどが、自分自身の問題を誰か他の人(特に親)や社会のせいにして起こるような気がします。
問題は外にあり、自分自身は悪くない。
自分を見つめるのは、辛いですからねぇ。
色々と考えさせられました。