乃南アサ 『チーム・オベリベリ』2020/08/01

北海道(蝦夷地)は明治時代に開拓されました。
開拓したのは主に貧窮した士族たちや新天地を求めた一般の移民などでした。
私の祖母は、実家は山形の士族で、屯田兵として北海道に来たと言っていました。
ようするに下級士族で食いっぱぐれたので、屯田兵になって蝦夷地に来たということですね(笑)。
長男は山形に残り、それ以外の人たちが移民になったようです。
彼女は明治30年代か40年代に北海道で生まれた、生粋の道産子。
屯田兵の開拓は明治37年に終わっているので、生まれた頃はそれほど過酷な生活ではなかったでしょうね。

実は私の通っていた北海道の学校では開拓の歴史について全く教えてくれませんでした。
今はどうかわかりませんが、私の頃はそうでした。
祖母が生きていれば色々と聞けたのですが、もう亡くなってしまったので聞けません。
今になるとそれがちょっと残念です。


この『チーム・オベリベリ』では、晩成社の幹部三人と彼らと共に十勝地方にやってきた人々が入植してからの7年間の生活が、渡辺カネの視点から描かれています。

カネは結婚前の姓は鈴木といい、鈴木家は元上田藩に仕える武士でしたが、廃藩置県後上京し、父の事業が失敗した後、父の仕事の都合で横浜に住んでいました。
父と兄と共にキリスト教に入信していたので、その縁で共立女学校で学び、卒業後は舎監兼教員として学校に残っていました。

牧師になった兄の銃太郎が罷免になり、神学校で一緒だった依田勉三とワッデル塾で知り合った渡辺勝と共に北海道開拓に行くと言い出します。
父の親長も銃太郎たちと北海道に行こうかと考え始めていました。
ある日、父はカネに嫁に行く気がないかと尋ねます。
相手は渡辺勝でした。
彼は元尾張藩に仕える武士の長男で、伊豆の豆陽学校で英語教師をしていました。
カネは母の反対を押し切り、勝と結婚し北海道へ行くことをにします。
勝の前の縁談は、勝が北海道開拓へ行くことになり破談になったそうです。
いくらなんでも普通の女性なら、並の苦労ではないことがわかっているのに結婚して北海道へ行こうなんて思いませんよね。
カネは体の丈夫な開拓精神旺盛な女性だったようです。

オベリベリ(現在の帯広市)での生活は過酷でした。
厳しい自然環境、大量の蚊やブヨ、粗末な住居と食事・・・。
作物はバッタや霜で駄目になり、洪水、野火が起こり、医師も産婆もおらず、人々はマラリアで苦しんでいました。
開拓の苦難に負け、帰ろうとしても帰ることさえできません。
カネはそういう人々のことを思い、慰め、励まします。
野良仕事や家事の合間に学びたい子供たち、和人であろうがアイヌであろうが、を集めて勉強を教えます。
子供達の中には後に札幌農学校に入学する子まで出てきました。

一方、晩成社の方はというと、代表の依田勉三はいつも不在で、オベリベリの開拓は幹部である銃太郎と勝に任されていました。
勉三は豪農の次男坊で、何事も簡単に諦めず、粘り強く色々なことに挑戦するといういい所もありましたが、お金に苦労したことがないため、如何せんお坊ちゃま気質が抜けず、人の意見を聞かない、人の気持ちを慮ることさえできない男でした。
晩成社は依田一族が株主で出資しているため、勉三は常に社則に従うことを尊び、株主に配当を支払うため、不作の時でさえ「年貢として」収穫物を社に納めるように言います。
彼にとって開拓している人達はあくまでも年貢を納める小作人なのです。
幹部の銃太郎や勝も仲間ではなく、所詮は小作人扱いなのです。
彼らは晩成社は会社なら、それに属する人は社員で仲間、チームではないかと思って勉三に着いてきたのですが・・・。

やがて勉三はオイカマナイ(現在の大樹町晩成)に居を移し、牧畜を始めます。
銃太郎はアイヌの娘と結婚し、しばらくして晩成社を辞め、シブサラ(現在の芽室町西土狩)に移ります。
勝は依田一族に世話になったことがあったため、晩成社を辞めるに辞められず、鬱屈し、もともと飲み過ぎだったのですが、より深酒をするようになっていきます。
彼は酒の上で失敗することが多く、カネが意に沿わないことを言うと怒鳴ったりするようになっていました。
彼女の話し相手はただ一人、天主さまでした。

晩成社は失敗しましたが、開拓魂は受け継がれていったようです。
晩成社が勉三のような男ではなく、カネのような人に任せられていたなら、成功していたかもしれませんね。
人は口ばかりの人ではなく、共にいてくれる人を信用しますもの。

ちなみに、私の好きな六花亭のお菓子「マルセイバターサンド」は晩成社が十勝で最初期に製造したバターの商標「マルセイバタ」にちなんだものだそうです。
晩成社の成の字を丸で囲んで「マルセイ」、パッケージも、そのラベルを模したデザインだそうです。(GoodDay北海道による)


パッケージをじっくり見たことがなかったので、気づきませんでした。
歴史があるんですねぇ。

知らなかった晩成社による北海道十勝の開拓の歴史を教えてくれる、とっても分厚い本(667ページ)でした(笑)。
北海道開拓の歴史を知りたい方は読んでみて下さい。
いい手引き書になることでしょう。

アイヌ民族博物館「ウポポイ」が開館したというので、行きたいと思っていたら、コロナで行くどころではなくなりました。
いつか行ける日を楽しみに待ちますわ。