佐々涼子 『駆け込み寺の男ー玄秀盛ー』2020/08/28



佐々さんの出生作。
ひょっとしたら、テレビのドキュメンタリーで駆け込み寺のことをやっていたのではないかしら?見たような・・・。
私の記憶違いかもしれませんが、同じような場所が他にはないですよね。

新宿歌舞伎町と言えば、女性が一人で歩くには勇気のいる場所(私だけ?)のような感じでしたが、今はそうでもないのかしら?
大学生の時に一人で歩いていたら、私でもスカウトマンに声を掛けられました。
未だになんか猥雑な怖い町って感じです。(変な本の読み過ぎかも)
この歌舞伎町に「日本駆け込み寺」があります。
「日本駆け込み寺」はDV、虐待、借金、ストーカーなどの深刻な問題を抱える人が最後に助けを求めて駆け込み場所です。
その代表が玄秀盛です。(今は理事になったようです)
佐々さんは初めて本を書く対象として玄を選んだのです。

玄は不幸な少年時代を過ごしています。
彼の父親は韓国の済州島からの密入国者で、外人登録も住民票も持っていませんでした。母親は在日韓国人の娘で、弦が物心つく頃には二人は別居していました。
彼らにとって玄はいらない子。
5歳になってやっと出生届が出され、互いに面倒を見るのが嫌で玄を押しつけ合っていました。
母は男出入りが激しく、父には方々に女がいました。
どちらの家にいっても世話をしてくれる人はいません。
小さい時から腹いっぱい食べたことがありません。
小学校1、2年生の頃から万引きをします。「盗まなければ死んでしまう」のですから。小学校4年からは新聞配達をしています。
家では毎日の暴力は当たり前、普通のことでした。
こんな家から出て自由になることが彼の望みでした。

学校も彼にとっては心安まる場所ではありませんでした。
言葉は聞き流しますが、暴力は別です。
大勢で囲まれた時は大人しく殴られていますが、彼らが一人になった時、家の前で待ち伏せし反撃します。
普通の子にとって自分を出せ、守られるはずの家は、玄には彼らの弱みに見えるのです。

こういう悲惨な少年時代を過ごした玄は17歳で盗みは止め、様々な職業を経てから人夫だしをやり、「銭ゲバ」の世界へと入っていきます。
武勇伝(本で読んでね)は色々とあり、エグい金儲けをしていますが、何故金儲けを止め、人助けの道へと入っていったのでしょうか。
きっかけとなるのは、血液検査です。
検査でHTLV-1(レトロウイルス)感染がわかり、いつ発症するかわからない時限爆弾を抱えるていることがわかったからです。
彼がすごいのは、駆け込み寺をするために彼が持っているすべてのものを手放したということです。
なかなかできないことです。
もともと持っている人は持っているものを手放せなく、そのことが弱みになります。
もともと持っていなかった彼にとって、手放すことはなんてことのないこと。
これが彼の強みです。

人を救うということは、普通の人にはできません。
その人の人生をそのまま引き受けるということですから。
彼に比べれば、自分がいかにちっぽけな存在かがわかります。
悩みも、彼曰く「鼻くそ」のような悩み。その通りです。
玄の心の闇に比べれば、どんな人の悩みも鼻くそにもならないかも(笑)。

本の中で気になったのは佐々さんが書いている、「この国(日本)は一度失敗した人間にはきわめて不寛容で冷たい」です。

「心の成熟よりも、優秀な労働者になることを重視され、人間が過度に均質化されたこの国では、一度イメージが「穢れて」しまえば、規格外とされて疎まれ、仕事を探すことも、地域で暮らすことも、非常な困難になる」

日本の均質化がいい方向へ向かえばいいのですが、コロナ禍の今、これが人の排除へと向かっているような感じがします。
人に対する不寛容さが攻撃的になっていかなければいいのですが。

2019年6月頃の新聞記事によると、「日本駆け込み寺」は資金難で出資者を募集していると書いてありました。
HPを見るとクラウドファンディングをしていますが、なかなか資金が集まっていないようです。
「日本駆け込み寺」以外にも受刑者が働く居酒屋(餃子屋?)などを経営していたので、そちらの方で借金がかさんだのでしょうか。
いいスポンサーが現れるといいのですが。

玄という男を追い切れていないという所もありますが、佐々さんの初々しい処女作です。
もしあなたに悩みがあったら、読んでみるといいでしょう。
そして自分の悩みが「鼻くそ」に過ぎないと思えたらいいですね。


5ヶ月ぶりのテイクアウトです。


夫がケンタッキーフライドチキンを買ってきました。
お腹が空いていたので、2本食べてしまった後です(笑)。
久しぶりのフライドチキンは美味しかったです。

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