寺地はるな 『水を縫う』2020/09/02

いつの間にか、9月。
今年の夏を返して欲しいですね。


松岡清澄は手芸、特に刺繍が好きな高校一年生の男の子。
父母は彼が1歳の時に離婚しており、市役所に勤めている母と祖母と、結婚を控えた姉と暮らしています。
小・中学校と手芸好きなため友達がいませんでした。
手芸好きというと、「ゲイ?」と思われ、誰も寄ってこなかったのです。
高校生になって二人、友達ができました。

清澄の姉の水青は学習塾の事務をしています。
小学校6年生の時の事件をきっかけに、女の子らしい可愛い服を着るのを止めました。
結婚しますが、式は挙げたくありません。
彼の親に懇願され、仕方なくレストランウェディングをすることにします。
清澄がウエディングドレスを縫ってくれることになります。

清澄と水青の母・さつ子は真面目を絵に描いたような人。
間違うことがなにしろ嫌い。だから口癖は「やめとき」。
常に世間の常識から外れないようにしており、子供にもそれをしいています。
清澄の手芸好きが気にくいません。
彼には普通の男の子のすることをして欲しいのです。
清澄は生まれた時から手のかかる、自分勝手な子でした。
この頃益々扱いずらくなってきています。
彼が父親の全と同じようになるのではないかと恐れています。
その点、娘の水青は堅実な娘で、安心です。

父の全は生活破綻者。
いつもフワフワ生きています。
お金があれば、あっただけ使います。
彼には夢があったのですが、それも叶わず、元妻から落伍者の烙印を押されています。
今は友達の黒田に拾われ、彼の縫製工場で働き、彼の家に居候し、生活の面倒をみてもらっています。

祖母の文枝は大学に行きたかったのですが、嫁に行くのだから学問は必要ないという親の考えを察し、諦めました。
彼女は親たちの「男の世界」と「女の世界」に違和感を持って生きていました。
本当は大学に行って、バリバリ働きたかったのです。
だから娘のさつ子のやることには口出ししないできました。
彼女の好きなように生きて欲しかったからです。
清澄が手芸を教えて欲しいと言ってきた時は、嬉しかったです。

こんな家族が水青の結婚を機にひとつになっていきます。
どんなドレスにも駄目だしする水青。
さて、清澄たちが作ったドレスは・・・。

色々といい言葉が出てきます。

「女らしいとか男らしいということ自体もよくわからない。そんなめんどくさいもん、いる?と思わずにいられない」
生き方に女らしいとか男らしいとかはいりませんし、好きなものにも女らしいとか男らしいはいりませんよね。

「学校以上に「個性を尊重すること、伸ばすこと」に向いていない場所は、たぶんない」
その通り、と言いたくなる人が沢山いるでしょうね。
今の学校は教師一人でみる生徒が多すぎます。半分以下になると大分違うと思います。

「自分に合った服は、着ている人の背筋を伸ばす。服はただ身体を覆うための布ではない。世界と互角に立ち向かうための力だ」
合った服を探すのが難しいのです。私なんか未だにわからないもの。

一番好きな言葉は、「失敗する権利」です。
概して親というものは自分が過去に失敗したから、子供には失敗してほしくないと思い、先回りして失敗しないようにしますよね。
そういうことをされると、子供には苦痛なんです。
自分のしたいことができなくなるんですから。
何度でも失敗したっていいんです。
やらない後悔よりやる後悔の方がいいというでしょ。
文枝がさつ子に言った、「あんた自身の人生は、失敗やったのかしら?」は心にグサっときますよね。

文枝さんが74歳になって初めて始める水泳のように、何歳になっても好きなことをやるという気持ちが大事ですね。
「なにもせんかったら、ゼロ年のまま」。
「男だから、とか、何歳だから、あるいは日本人だから、とか、そういうことをなぎ倒して」好きなことをして生きていきたいですね。

特にYA(ヤングアダルト:主に中高生)の人たちに読んでもらいたい本です。

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