李琴峰 『星月夜』2020/10/08

日本語教師たちの間で評判になっているという本を読んでみました。


日本で出会った二人の女性のお話。
(ネタバレあり)

台湾人の柳凝月は日本の大学で非常勤講師として日本語を教えています。
そこで出会ったのが、新疆ウイグル自治区出身で日本の大学院入学を目指す玉麗吐孜(ユーリートゥーズー)。
二人は付き合い始めます。

ある日、玉麗吐孜の元恋人で同居人が部屋を出て行くと言い出し、カツカツの暮らしをしていた彼女にとっては一大事でした。
付き合い始めたばかりの柳凝月に同居の話をするのもまだ早いし・・・。
そこで思い出したのが、コンビニのバイトで知り合った日本人の絵美。
彼女にルームメイトにならないかとメールしてみました。

そんな頃、柳凝月の両親が日本にやってきます。
彼らは柳凝月が日本で暮らすことに反対でしたが、柳凝月は親がした幼い頃の仕打ちを許せず、日本に逃げてきたのです。
「子供は殴らなければ良い大人になれない」というのが親世代の育て方。
親の気に入らないことをすると、針金ハンガーで叩かれ、その痕がミミズ腫れになり、真夏でも長袖で学校にいっていました。
親の言うとおりに勉強し、良い成績を取り、良い大学に入り、高級の仕事をしてお金を沢山稼ぐことが正しいことだったのです。
両親は子供ができたら、私たちの気持ちもわかると言うのですが、子供を持つことはないとは言えませんでした。

玉麗吐孜は絵美と会って同居の返事を聞くことになります。
しかし、その日、スマートフォンを忘れてきてしまい、待ち合わせの場所がわからず、交番で道を尋ねたのが、運の尽き。
口調から日本人でないとわかったので、在留カードを出せと言われます。
在留カードは携帯と一緒に家に忘れてきていました。
それから唾液検査、訊問、写真撮影・・・。
途中から絵美が来てくれましたが、警察は手を緩めません。
やっと解放された時、友達の結婚式で台湾に行っていた柳凝月が空港から駆けつけてきましたが、玉麗吐孜は彼女を帰してしまいます。

大学院入試はすべて不合格。
このまま日本にいていいのか悩む玉麗吐孜。
中国当局のウイグル弾圧が激化しており、自分が日本に来たために家族の命が危険にさらされています。
国に帰ると二度と国から出られません。

異国で母国から離れ、自由を満喫しているようでいて、生国からはけっして逃れならない。
共通の言語を持っていても、互いに理解し合えない。
生国、家族、そして隠しているセクシュアリティー。
二人の未来に光はあるのでしょうか。

玉麗吐孜の元恋人で元同居人の李倩の言葉が心に残りました。

「国内の雰囲気から逃げたかったの。上海人、漢民族、女、九〇後、そんな色んなカテゴリーに分類されるのが息苦しかった」
「でも日本に来て気付いたの。どこに逃げたって無駄だって。あるカテゴリーから逃げ出せたとしても、結局また別のカテゴリーに当て嵌められてしまう。何より、カテゴリーの中にいないと安心できない自分がいる」

新疆ウイグル自治区の人たちの現状は詳しく知りませんでした、というか自分には関係ないと、知ろうとしていなかったのかもしれません。
在留カードを携帯していないだけで、ここに書かれているようなことが行われているなどということも初めて知りました。
「無知」よりも「無関心」であることが問題ですね。
私の中にある差別意識についても考えさせられた本です。

外国語を学ぶ者として、日本語教師である柳凝月の「日本では日本語の発音がつたないためにその人が尊重されないことがあるから、発音の習得は重要だ」という意見にある程度同意します。
日本語だけではなく、どの外国語でもそうだと思います。
日本でなくても、どこの国でもつたない発音ではバカにされることが多々ありますもの。
例えばアメリカの大学の食堂で「vegetable」とか「strawberry」を日本語的に「ベジタブル」、「ストロベリー」と発音した日本人が笑われたり、インドの空港の免税店でダンヒルのタバコを買おうとして売ってもらえなかったりしたのを実際に見たことがあります。
日本人が英語を話せるようになりたいというのは、日常生活で使える英語ということでしょう。そのためには発音は大事です。
今年から(だよね)小学校から英語教育が必須になったので、発音の上手い人が増えていくことでしょう(たぶん)。



弟犬はパパの立てる音が嫌いです。
この前は納豆を食べる音。
ご飯に乗せて食べるのではなく、納豆だけ食べる時に出る音が嫌みたいで、吠えていました(笑)。
オメメの腫れ物はすっかり引っ込みましたが、また出るのでしょうか?