桐野夏生 『日没』2020/11/14

チョコレートドーナツ』が舞台化される記念として、映画がアンコール上映されるそうです。
渋谷パルコ8階のホワイトシネクイントで12月11日から24日までです。
スクリーンで見ると、アラン・カミングの歌うシーンがなお一層感動的だと思います。お暇があったら見に行ってください。



小説家のマッツ夢井は「文化文芸倫理向上委員会」からの召喚状を受け取ります。
一体これは何なのだろう?
そう思って色々と調べたり、人に聞いたりしたのですが、何をやっている委員会なのか全くわかりません。
弟の信弥によると、最近、作家がよく自殺をしているようです。
この委員会が関係しているのか・・・?
いなくなった猫のコンブを探すビラを作り、貼っていると、見知らぬ電話が来ます。「文化文芸倫理向上委員会」の者と名乗る男からでした。
彼からも詳しいことが聞けず、取りあえず指定された駅に行き、講習というものに出ることにします。
次の日、コンブがゴミ捨て場で死んでいるという電話が来ます。

マッツが連れて行かれたのは、断崖に建つ海辺の療養所でした。
名前ではなくB98と呼ばれ、一人部屋にはテレビもなく、人と話すのは禁じられ、携帯電話も通じず、食事は呼ばれて行くか、部屋で食べるしかなく、やっていいのは散歩と望まれた作品を書くことだけ。
今まで書いていた小説が偏向的なので、「社会に適応した小説」、つまり心洗われる物語とか、映画の原作になるような、素晴らしい物語を書けというのです。
口答えや言いつけを守らなければ減点され、それだけ収容日数が伸びます。
マッツはその日のうちに減点7になってしまいました。

講習というのは名ばかりで、療養所というのは収容所。
いつまで続くのかわからない軟禁生活。
「更生」すると本当に出られるのか?
一体誰が味方なのか?

最後に光りが見えたかと思ったら、次なる地獄?救い?が・・・。

戦中の政治犯や赤狩りやら、某国(複数)を思い出させられる内容です。
これがこれからの日本で現実にならないことを祈るばかりです。