中山七里 『境界線』2021/01/16

中山七里12月連続刊行の最後の一冊です。と言っても、1月に犬養刑事が活躍する『ラスプーチンの庭』が出ますから、多作ですね。


護られなかった者たちへ』に続く「宮城県警シリーズ」の第2弾です。

宮城県警捜査一課の警部・笘篠誠一郎は気仙沼の海岸で女の死体が見つかったとの連絡を受ける。
運転免許証に書かれていた名前は「笘篠奈津美」。
それは東日本大震災で津波によって流され、行方不明になっている笘篠の妻の名だった。

あれから七年。
検死後遺体の確認をすると、全く似ても似つかない別人の顔で、妻の名前が偽造された免許証に使われていたのだ。
その女性は自殺したものと思われたが、一体誰が妻の個人情報を悪用したのか。
所轄への捜査協力ということで、笘篠は捜査に乗り出す。

そんな頃、仙台市内で新たな他殺遺体が発見される。
男性の遺体で、胸の一撃が致命傷で、鼻から下は破壊され、両手の指は切断されていた。
社員証と運転免許証から天野明彦という名前であることがわかる。
会社に連絡し、社員に遺体を確認してもらい話を聞くと、家族は震災で亡くしたと言っていたとのこと。
しかし、家に電話をすると、妻と名乗る女性が出た。
妻に遺体を確認してもらうと、赤の他人であることがわかる。
笘篠の妻と同じく、天野も震災で津波に流され行方不明になっており、行方不明になって七年が経過しているのに、失踪宣告の申し立てがされていなかった。

この二件の事件に関連があると確信した笘篠は捜査を進めていく。
やがて捜査線上にある男の名が浮かんでくる。

東日本大震災から10年。
どれほど沢山の人たちが震災を境に人生を狂わせられたことでしょうか。
はたして事件が解決した後、笘篠の心に平穏は訪れたのでしょうか。

ドンデン返しはありませんでしたが、震災やその後の街の様子が綿密に書かれていて、とてもやるせなくなりました。
復興への道はコロナ禍でより遠くなっているのかもしれませんね。