久坂部羊 『善医の罪』2021/01/29



浦安厚世病院の脳卒中センターに脳外科医の白石ルネの患者・横川達男が意識不明の重体で運び込まれました。
もはや意識の回復は絶望的で、脳死の段階でした。
患者は生前から無益な延命治療をしないで欲しいと言っていました。
そのためルネは家族の同意のもと、治療を中止し、抜管することにします。
ところが気管チューブを抜いた後、思いもかけないことが起こります。
通常なら意識を失うはずなのに、患者ののどからかすれた警笛のような音がもれてきたのです。
声を止めるために同僚の医師・山際から筋弛緩剤であるミオブロックを点滴で使うことを教えられ、看護師に指示を与えました。
患者の死後、家族から礼を言われましたが、これでよかったのだろうかと悩むルネでした。

横川が亡くなってから三年が経ちました。
新しく赴任してきた大牟田という麻酔科医は劣等感や妬みから、ことごとくルネを目の敵にし、難癖をつけてきます。
同じようにルネのことが気に入らない看護師の堀田芳江は、三年前の横川のことを大牟田にチクります。
大牟田がカルテと看護記録を調べてみると、筋弛緩剤のミオブロックを点滴で入れたか、静注したかで食い違いがありました。
安楽死の証拠を掴んだと思った大牟田は病院長にルネが安楽死を行い、カルテに嘘の記載をして隠蔽工作をしたことを話し、ルネの懲戒解雇を要求、もし応じなければ、すべてを公表すると脅したのです。
同じ頃、何者かが横川の家族にこのことを密告してきます。家族は弁護士を雇い、賠償金を求めることにします。
保身に走る病院側はルネを守ろうとはせず、反対に彼女にすべての咎を負わそうとします。
マスコミにまでリークされ、いつしか医療業界を揺るがす大問題へと発展していき、ルネは殺人罪で告訴されてしまいます。

主人公のルネは美貌のハーフの女医で大牟田もよくいるタイプの悪役だし、あまりにも登場人物がステレオタイプなのが気になりましたが、このことを別にすれば、読んでいて空恐ろしくなりました。
ちょっとしたやっかみから口にしたことがだんだんと大きくなり、社会をも揺るがす大事件になっていくのですもの。
病院側は真実がどうかよりも、自分たちの身に火の粉がかからないようにと立ち回り、マスコミは面白おかしく、あることないことを書き立てて事件を大事にし、検察は有罪ありきで、真実を自分たちの都合のよいように歪曲し…救いはどこに?
日本社会は尊厳死に片足をかけているけど、まだ安楽死を論じるまでいっていないですね。

久坂部さんの本は医療に関していろいろと考えさせられる作品が多いので、気になる作品があったら是非読んでみてください。
公認サイトはここです。

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