青山美智子 『お探し物は図書室まで』2021/02/10



小学校の横にある「羽鳥コミュニティハウス」では様々な講座や催しが行われています。そこには集会室の他に図書室があります。図書室には高校を卒業後、司書補の資格を取ろうとしている図書室スタッフと主にレファレンスをしている司書がいます。
司書の小町さゆりはものすごく大きい女性で、一見とっつきにくいのですが、「何をお探し?」という一言で、やってきた人たちにどっしりとした安心感を与えます。

転職をしようかどうか迷っている総合スーパー・エデンの婦人服売り場の店員やアンティーク雑貨屋をやりたいと思っている家具メーカーの経理部で働く男性、産休で戻って来たら資料部にまわされた元雑誌編集者の女性、絵で身を立てようと思っていたけど挫折してニートをしている男性、長年お菓子の会社に勤め定年退職をしてから何をしたらいいのかわからなくなった男性が図書室にやってきます。
小町さんは彼らの探している本のリストと共に1冊、何の関係もなさそうな本を紹介し、付録としてひたすら毛玉に針を刺して作ったぬいぐるみ(ニードルフェルトっていうのかな?)を1つくれます。(表紙の動物たちがこれです。私は付録よりもおまけの方が好きだな、笑)
不思議なことにこの1冊の本が、読んだ人に新しい世界の扉を開かせることになるのです。

こんな司書さんが図書館にいてくれたらいいなぁと思います。
私にはどんな本を紹介してくれるのかしら?
どんなぬいぐるみをくれるのかしら?
小町さんはてきとうにインスピレーションで選んでいるらしいです。
本も付録の意味も、自分で探し当てるもの。
「作り手の狙いとは関係のないところで、そこに書かれた幾ばくかの言葉を、読んだ人が自分自身に紐づけてその人だけの何かを得るんです」と言っています。

定年退職した人には草野心平の詩集を紹介していました。
その中から知らない詩が出ていましたが、とっても心に染みる詩です。載せておきましょう。

 窓  草野心平

波はよせ。
波はかへし。
波は古びた石垣をなめ。
陽の照らないこの入り江に。
波はよせ。
波はかへし。
下駄や藁屑や。
油のすぢ。
波は古びた石垣をなめ。
波はよせ。
波はかへし。
波はここから内海につづき。
外洋につづき。
はるかの遠い外洋から。
波はよせ。
波はかへし。
波は涯しらぬ外洋にもどり。
雪や。
霙や。
晴天や。
億万の年をつかれもなく。
波はよせ。
波はかへし。
波は古びた石垣をなめ。
愛や憎悪や悪徳の。
その鬱憤の暗い入江に。
波はよせ。
波はかへし。
波は古びた石垣をなめ。
みつめる潮の干満や。
みつめる世界のきのふやけふ。
ああ。
波はよせ。
波はかへし。
波は古びた石垣をなめ。

東北かどこかの海辺の家の窓から寄せては返す波を見つめている老人。
彼(彼女)は自分の辿ってきた人生を振り返っている…。
というような感じを想像しましたけれど、この本の中で若い娘さんが、「民宿に泊まっていて、窓を開けたら海!」という風景を想像していて、びっくり。人それぞれに感じ方も違いますからねぇ。それが面白いですね。

草野心平といえば蛙の詩というイメージしかありませんでしたが、他の詩も読んでみたいなと思いました。

初めて読んだ作家さんでしたが、お勧めです。
人生に迷っていたり、悩んでいたりする人が読むと、何か答えがもらえるかもしれませんね。

今週のお取り寄せのおやつ。


イギリスの「SHORTBREAD HOUSE OF EDINBURGH」のショートブレッドです。好みの味と食感でした。美味しいので小さい缶入りも頼んでしまいました。