ピーター・トレメイン 『憐れみをなす者』2021/03/06

修道女フィデルマ・シリーズの新刊。
七世紀アイルランド、五王国の時代。
アイルランドにキリスト教がもたらされて二百年が経ち、しだいにローマ・カトリックの思想が浸透し始めていますが、まだアイルランド古来の信仰や習慣が根強く残っています。


主人公のフィデルマはモアン王国の王コルグーの妹で、古代アイルランドの法典<ブレホン法>を修めたドーリィー(法廷弁護士)であり、学問における最高位に次ぐ地位であるアンルー(上位弁護士・裁判官)の資格を持ちます。
二十八歳で赤毛に綠の瞳のすらりとした長身の美人。語学も堪能、歴史や文学の知識も広く、記憶力も抜群。馬に乗り、歌も上手い、護身術まで身に付けている才色兼備で文武両道の姫君でありシスターです。(後書きより)
今回は船に乗りますが、船酔いまでしないというのは、ちょっとすごすぎですね。

フィデルマは一人で巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラを目指す聖地巡礼の旅に出ます。
というのも、一緒に事件を解決してきたサクソン人修道士エイダルフに対する自分の気持ちを知り、そしてこれからも修道女としての人生を送りたいのか、法律の道を究めたいのかを考え、あらゆるしがらみを置いて人生を整理し直したかったからです。

フィデルマが乗ったカオジロガン号の船長はマラハッドといい、彼に聞いたところ、船には彼女の他に修道女が四人、修道士が六人乗っているということです。巡礼団は12人か13人で旅をするのが普通です。不思議に思ったフィデルマが尋ねてみると、一人は途中であきらめ、もう一人は朝、波止場に姿を現さなかったと言うのです。
自分の素姓は内緒にしておこうと思っていたのですが、船に乗ることになった経緯を話しているうちにマラハッドに知られてしまいます。
いつも思うのですが、フィデルマは性格的に傲慢なところがあり、自分が王の妹で高貴な身分であることをそれとなく自慢しているように思えます。彼女のいけないところですね。

給仕係のウェンブリットに案内され、下甲板の客室に入ろうという時に、思いもかけない男に声をかけられます。
それは、忘れようとし、忘れられたと思っていた初めての恋人、キアンでした。
10年前、18歳になったフィデルマはキアンに恋をします。しかしキアンは「女性を口説き落とすまでを楽しむ質」の男で、学業までも捨てたフィデルマをもて遊び、他の女と結婚するために彼女を捨てたのです。
彼は大王の警護団団員でしたが、腕を怪我したためバンゴア修道院で修道士になり、これから行く聖ヤコブ大聖堂の近くにいるモーモヘックという薬師に腕を診てもらう目的で巡礼に参加したのです。
話をしようというキアンを振り払い、部屋に入った途端に呻き声に驚かされます。
そこにはシスター・ムィラゲルという若い修道女がいて、船酔いで苦しんでいるようでした。彼女は心配して声をかけるフィデルマを部屋から追い出します。

正午に食事に行き、他の修道女と修道士に会いますが、なんとも変った一行で、彼らの間にはなんだかもめ事がありそうです。これが神に仕える人たちなのかと思えるような感じで面食らうフィデルマ。キアンだけでも面倒なのに…。

その夜、時化がやって来ます。
フィデルマはキアンとのことを思い出しながら、うつらうつらしているとうちに寝てしまいます。本当に船に強いのですねぇ。羨ましい。
次の日の朝、真っ白な濃い霧が船をすっぽりと包んでいました。
甲板で出会ったマラハッドがフィデルマにシスター・ムィラゲルが行方不明だと告げます。結局彼女は時化のさなかに看板にあがって海に落ちたことになりますが、船酔いで寝棚からおきあがることさえ出来なかったはずなのに、と不審に思うフィデルマ。

シスター・ムィラゲルのことを聞き、混乱し騒ぎ出す修道女と修道士にフィデルマは、船の持ち主がマラハッドで、船籍がアードモアであることを確かめてから、この船はアイルランドの法律に従うべき立場であり、『海に関する法律』が当てはまり、この船の船長であるマラハッドは船に乗っている全員を統べる立場にあることを指摘し、黙らせます。

しばらくしてウエンブリットがフィデルマにシスター・ムィラゲルの船室の寝台の下に隠してあった血のついた法衣を見つけたと知らせてきます。どうも事故ですまされないようです。
フィデルマはマラハッドに、船長である彼が船から転落した理由を法的機関に報告する義務があり、その家族や親類から賠償を請求されることもあることを伝え、彼の依頼を受けてフィデルマが聞きこみ調査をすることを承知させます。

早速調査に乗り出すフィデルマでしたが、なかなか一筋縄にいきません。
キアンを巡る女たちの争い、横恋慕、嫉妬心など様々な感情が渦巻いています。
海賊船や難破船に遭遇したりしているうちに、海に落ちたと思われていた修道女の刺死体が船室で見つかります。
果たしてフィデルマは船旅の終わりまでに犯人を見つけることができるのでしょうか。

この時代には修道士と修道女が同じ修道院で暮らしており、結婚し子どもを育てる人たちもいたそうです。
それにしてもこの本に出てくる修道士と修道女はあまりにも世俗的な方々です。
修道院に入らなくてもいいでしょうにと言いたくなりますわ。
フィデルマに黒歴史があったことは知っていましたが、相手のキアンがあまりにも愚劣な男で、なんでそんな男に・・・と思いましたが、若さ故のことですかぁ。
スーパーウーマンのフィデルマンにも弱点があったということで、笑。
エイダルフとはどうなるのか、興味があります。
本国ではこのシリーズは32冊出版されているようですが、日本では9冊目なので、この調子でいくと全部翻訳されるまで20年以上もかかってしまいます。
アガサ・シリーズは簡単な英語だったので読めたのですが、フィデルマ・シリーズは固有名詞が難しそうです。
これは人名?地名?王国名?なんて迷いそうで、読めるかどうか自信がないです。
とりあえず、10冊目の『Our Lady of Darkness』でも読んでみましょうか。
今はアン・クリーヴスの『Wild Fire』を読み始めたので、そのうちということで。


どうも弟はどうしたら可愛らしく写るかを知っているようです。


カメラを向けるとすぐに舌を出します。


兄はカメラなんか知らんという顔をします。毛布で嫌々をした後なので、耳の毛がボサボサです、笑。


僕って可愛いでしょ、という弟にちょっかいを出している兄です。

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