篠田節子 『田舎のポルシェ』2021/07/02



車に乗って行く2、3日の間の出来事を描いた短編小説3篇。

「田舎のポルシェ」
田舎の人がポルシェに乗っていてもいいのに、わざわざ「田舎の」とつけたのは何故かしらと思ったら、軽トラックのことでした。
軽トラックに「農道のポルシェ」と呼ばれていたものがあったそうです。
スバルが生産していたリアエンジン・リア駆動のRR車の「サンバー」です。
ポルシェと同じ駆動方式だったので「農道のポルシェ」と呼ばれていたのですが、今は生産されていないようです。
なにしろ軽トラックですからねぇ。違いはわかる人にしかわかんないでしょうね。

若い頃東京の実家から飛び出し、今は岐阜の郷土資料館で働く増島翠は、実家で獲れた米百五十キロを引き取らなければならなくなり、友だちの知り合いにハイエースで運んでもらうことにします。
しかしやって来たのがなんともショボい軽トラック。
さらに運転していたのが、坊主頭でツナギを着て、金の鎖が喉元からのぞいている瀬沼という男でした。
ヤンキーか?
不安に思う翠でしたが、話を聞くと意外と苦労人です。
間の悪いことに大型台風が近付いています。
果たして無事に帰ってこれるのか…。

「ボルボ」
ボルボはボルボでも廃車寸前のボルボです。

定年間近に勤めていた印刷会社が潰れ、今は妻に養われている斉藤克英と非鉄金属メーカーを退職した伊能剛男は、妻同士がスポーツジムで知り合ったことから夫婦で食事をする間柄になりました。
イタリア料理屋で、妻たちが席を外した数分間で意気投合し、ボルボに乗って北海道旅行に行くことになります。
伊能は愛車との最後の旅に、学生時代を過ごした北海道を選んだのです。
男二人の気楽な旅だったはずが、だんだんと不穏な旅へと変っていきます。

「ロケバスアリア」
デイサービスセンターに勤める畔上春江は、緊急事態宣言のためすべてのイベントが中止になった地方都市の音楽ホールが一般開放され、破格の値段で貸し出されることを聞き、一大決心をします。
憧れのオペラ歌手・宮藤珠代がリサイタルを開いた湖月堂ホールを借り、彼女が歌った曲を歌い、記念DVDを作ろうと。
孫の運転するロケバスに乗り、孫が頼んだ制作会社のディレクター・神宮寺と共にホールに行きますが…。

同じ車に乗れば、一蓮托生、笑。
「ボルボ」ではいくらなんでもそれは…、ということもありますが、「田舎のポルシェ」は後味よく、その後を期待してしまいますし、「ロケバスアリア」はそんな理由があったのかと納得しました。
ほどよくユーモラスで、少し社会問題も詰め込み、最後はしんみりさせ、篠田さんはうまい作家さんですね。

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