本多孝好 『アフター・サイレンス』2021/10/14

「MOMENT」や「dele」シリーズを書いた本多さんの新刊です。


高階唯子は大学の研究員で、県警の委託で被害者支援の一環としてカウンセリングを行っています。
クライエントは事件被害者やその家族ーー夫を殺された妻、誘拐された少女、兄をひき殺された外国籍の少年、娘を殺され、余命幾ばくもない老人、姉を殺され、加害者に復讐した少年など。
唯子は語られない悩みや苦悩を抱えるクライエントに寄り添い、受容し、是認し、何らかの解決に導いて行こうとします。
実は唯子は加害者の家族でした。未だに犯罪を犯した父を許せないでいます。
被害者の息子と繋がりがありますが、その繋がりは歪なものでした。

私の偏見ですが、カウンセラーになる人は自分自身が悩み苦しんだ経験からカウンセラーになることを選んだような気がします。
そうでなければクライエントの気持ちがわからず、寄り添えないからです。
そのことはカウンセラーの強みですが、いき過ぎると、唯子のように暴走しがちになると思います。
どこまでクライエントに介入していくのか、線を引くのが難しいでしょうね。
彼女の持つ危うさが刑事の仲上の存在で保たれていったことが救いでした。

罪は許されることがあるのか、被害者家族と加害者家族の心理的、社会的問題など答えのでない、これからもずっと考え続けていかなければならないことがテーマですが、ミステリーとして読むと、謎を含む事件が唯子が関わることによって解き明かされていく過程が面白かったです。

本の中から。
「人の心を氷山にたとえたのはフロイトだ。心は氷山のようなもの、その七分の一を水面の上に出して漂う、と。人の心の七分の六は他人にはおろか、自分にすら見えない。他者とわかり合えた。そう思ったところで、それは七分の一だけのこと。私たちはいつだって得たいのしれない七分の六を抱えて生きている。それでも「大丈夫」と偽りながら、日々と過ごしていくしかない」