名取佐和子 『図書室のはこぶね』2022/05/03

高校の体育祭までの一週間を描いた青春ミステリー。


野亜高校三年の百瀬花音は女バレのエースだった。しかし足を怪我してしまい、運動全般にドクターストップがかけられた。
そんなわけで、体育祭には参加できない。もちろん野亜高校体育祭名物の”土曜日ダンス”、略して”土ダン”にも。

花音は体育祭の前の一週間、図書委員の友人から頼まれ、代打として図書当番をすることになる。
図書室に行ってみると、同じ三年の図書委員・俵朔太郎がいて、花音は彼と共に図書当番をすることになる。
初日の月曜日にケストナーの『飛ぶ教室』を見つける。
同じ本が書架にもあり、不思議に思って本をめくってみると、

「方舟どもはいらない
 大きな腕白ども 土ダンをぶっつぶせ!」

と書かれたルーズリーフの切れ端が入っていた。
もしかして暗号?そう思った花音は体育祭に出られない鬱憤から、この暗号を解いてみようと思う。

朔太郎を引き込み、花音は『飛ぶ教室』の謎を解き始める。
やがて『飛ぶ教室』は10年前に借りられており、書かれていた言葉は当時の図書委員たちと関係していることがわかる。
「土ダンをぶっつぶせ」とは…。

「土ダン」とは野亜高校の創立当初から四十年以上つづく伝統種目。在校生はもちろん在校生の家族や卒業生、さらには地元の人たちも楽しみにしている。土ダンを踊ることが野亜高校体育祭に参加することだと言って差し支えないと言うほどの名物競技である。
ベイシティーローラーズの「Saturday Night」の音楽と振付は全員同じだが、隊列の組み方や移動方法、テーマに添った衣装などでクラスの個性が発揮され、それが審査される。

日本では同調圧力が強いですよね。
考えてみると、学校が同調圧力の最たるところですね。
みんな同じように行動しなければならないし、それを乱す人は許されないのですもの。
この本の中で奈良君が女装をして土ダンをするのが嫌だと言って逃げ回っていました。彼以外にも女装が嫌な人はいると思います。でもみんながするからと諦めて、自分の気持ちを押し殺してやる。みんなそうなのだから、お前も文句を言わずにやれ。できないならハブにするぞ…って感じは恐ろしですねぇ。
「その枠組みにきちんとおさまれる人だけが参加できる」、「乗る者を選別したノアの方舟」みたいな土ダンですか。(ネタバレが嫌なら剥がさないでね)
高校生の時に土ダンみたいなものがあったら、私は参加したくなかっただろうなぁ。

気になったので書いておきますが、花音は『飛ぶ教室』を誰が借りたかを調べましたが、それはしてはいけないことです。
「図書館は利用者の秘密を守る」(「図書館の自由に関する宣言」より)で書かれているようにプライバシーの侵害になるからです。
これがなければ話が始まらなかったことはわかりますが、なんとなくモヤモヤしました。

高校の体育祭を楽しんだ人も楽しめなかった人も是非読んでみて下さい。
お勧めの本です。