薬丸岳 『刑事弁護人』2022/05/06



亡き父の跡を継ぎ、弁護士になった持月凜子は、埼玉県警の警察官・垂水涼香が起こしたホスト殺害事件を手掛けることになる。
殺人事件の弁護は初めてということもあり、同じ事務所の西と弁護にあたることになる。

垂水は三ヶ月前に駅でホストの加納怜治に誘われ、ホストクラブに通うようになる。もちろん偽名を使い、職業も偽り、連絡先は教えてはいない。
その日は非番の日で、たまたま所沢駅前にいる加納を見かけ、バンドのデモテープを聞いて感想を聞かせてほしいと部屋に誘われた。
部屋に行くと、ナイフで脅され、ベッドに押し倒されたので、そこにあった酒の瓶で加納を殴ってしまったと言うのだ。

凛子と西は関係者に話を訊いていく。
そうすると涼香の供述が虚偽であることが明らかになっていく。
何故涼香は虚偽の供述をしたのか。
西は「真実」を知ろうと事件の真相に迫っていくが…。

二転三転とし、一筋縄ではいかない事件の真相でした。
罪を憎んで人を憎まずとか言うけれど、被害者やその遺族の立場からすると、そんなこと言ってられませんよね。
じゃあ何故弁護士が必要なのか。
凛子の父親の言葉に答えがありそうです。

「被疑者や被告人には弁護人以外に誰も味方がいない。味方どころか自分の話に耳を傾けてくれる存在もいないことが多い。(中略)罪を犯すまでに追い詰められた人のほとんどは、信頼を寄せられる家族や知人がいない。
彼ら彼女らの話を訊いてあげられるのは弁護人しかいないのだ」
「・・・罪を犯した者に自分がやってしまったことを深く考えさせ、事件と向き合わせ、二度とこのような過ちを起こさないように諭せるのは、被疑者や被告人の言葉に必死になって耳を傾けた、最も身近にいる弁護人だけではないだろうか」

ちいさな違和感や疑問にひとつひとつ当たっていく弁護人の姿に感服しました。
凛子も西も心に傷を持ちながら、刑事弁護人として歩んで行こうとしています。
彼らのトラウマとなった過去の出来事や次の活躍も読んでみたいです。
続編も考えているそうなので、楽しみに待ちます。
とても厚い本(約500頁)ですが、お勧めですので、頑張って読んでみて下さい。