西條奈加 『よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記』2022/07/01



高校生の滝本望は両親が転勤で札幌に行ったため、神楽坂にいる祖母の家にやっかいになっている。
祖母のお蔦は元芸者で、映画にも出ていた元女優で、今は多喜本履物店を営んでいる。
粋で気が強く、面倒くさがり屋なのに、ご近所衆から頼られる人気者で、神楽坂商店街には若かりし頃銀幕スターだった祖母のファンがいて、ファンクラブを結成しているほどだ。
そんなお蔦のところにいつものように事件が持ち込まれる。

「よろずを引くもの」
神楽坂商店街では頻発する万引きに手を焼いていた。
そんなある日、菓子舗伊万里の主人が逃げる万引犯を捕まえようとして、怪我をしてしまう。
望と木下薬局の孫・洋平は万引き犯を捕まえるために、犯人の似顔絵を描くことにするが…。

「ガッタメラータの腕」
望が所属する美術部で、部長の穴水が作ったガッタメラータの腕、広げたエプロンをもち上げた両腕が紛失する。
望がお蔦にそのことを語ると、彼女はエプロンを見たくなかったから、目の前からどけただけではないかと言う。
それを聞き、望は犯人をあぶり出すために、あることを思いつく。

「いもくり銀杏」
『鈴木フラワー』の央子が多喜本履物店に二人の小さなこどもを連れてくる。
二人は三、四日前と服が同じで、お風呂に入った様子もなく、不審に思った央子が事情を聞くと、母親は旅行に行っていると答えたと言うのだ。
お蔦たちはとりあえず二人を神楽坂署に連れて行くが…。

「山椒母さん」
望が学校から帰ると、お蔦がテンパっていた。珍しいことなので、何だろうと思ったら、芸者時代の知り合いの勝乃姐さんと彼女の置屋のお母さんが来ているという。
お母さんこと原田十喜子は、置屋を飛び出して行方知らずになってしまった初乃を探して欲しいらしい。

「孤高の猫」
野良猫ハイドンがいなくなった。神楽坂商店街の若手が十人集まり、神楽坂中を走り回り、ハイドンを探すが、見つからない。
最後にハイドンを見た人は後ろ足の片方を引きずっていたと言う。
それを聞き洋平がひらめく。

「金の菟」
お蔦は今は餃子屋をしている女優時代の知り合いから、結婚祝いに映画監督からもらった純金製の兔の置物を探してもらいたいと頼まれる。
兔は見つかったが…。

「幸せの形」
望の祖父の末弟・乾原奉介のサプライズ誕生会が開かれることになる。
望は料理を作りつつ、奉介の娘・楓にケーキ作りを教えることになる。

西條奈加さんと言えば時代小説という印象ですが、こういう今風なお話も書いています。
今回は残念ながら時代小説ほど面白いとは思いませんでした。
クレプトマニア(窃盗症、病的窃盗)や育児放棄など社会問題を扱ったものもありますが、ありきたりで深みがなく、あっさり終わったという感じです。
ミステリーというほどではないし、望が駆けずり回り、最後をお蔦が締めるというのが定番だけど、前のお話の方がもっと面白かったような気がします。
もっとお蔦さんが前面に出てくれるといいのですが。

そうそう望君が作るお料理が本格的で、びっくりしました。
奉介さんの誕生日に二種類のブルスケッタに、スペアリブの和風フライ、アクアパッツァなんて、こんなに作れる高校生ってなかなかいないと思いますよ。
欲しい息子の第一位ですね、笑。