一色さゆりのアートの世界2022/07/21

『コンサバター』シリーズを書いている一色さんの本を三冊紹介します。
アートについて詳しいと思ったら、藝大出身でギャラリー勤務を三年、香港中文大学美術研究科修士課程に在籍し、美術館にお勤めだとか。
そうじゃなきゃ書けない作品ですねぇ。


『ピカソになれない私たち』
漫画の『最後の秘境 東京藝大ー天才たちのカオスな日常ー』とか『ブルーピリオド』、『かくかくしかじか』とかに描かれている美大生の物語。

東京美術大学油絵科四年の森本ゼミはスパルタゼミ。超難解な課題を出し、作品に対する講評は罵詈雑言やダメ出しが続く。
噂によると先輩たちの中には精神的におかしくなったものもいるという。
それでも森本ゼミからはいい人材がいっぱい出ているらしい。

森本ゼミには四人の生徒が所属している。
猪上詩乃は両親ともに東京美術大学を卒業している芸術一家。詩乃は幼い頃から美術館に連れられて行き、造形教室をかけ持ちし、美術系高校に進学し、一浪して東京美術大学に入学した。しかし父は詩乃が絵を描くことに冷淡だ。褒められたことなどない。
詩乃は技術はあるのだが…。

中尾和美は5浪している。ネットで最新の情報を集めるのが趣味で、芸術論をよく語る。積極的にギャラリーに作品の持ち込みをしている。
両親に恩返しをするために、プロとして成功したいという野心があるけれど…。

小野山太郎はゼミで唯一の男子。みんなに隠しているが、もとはグラフィティを描いていた。自分には生来の「才能」が欠落していると自覚していて、他人と競おうとは思っていない。
企業に就職しようかと思っているが…。

汐田望音は離島出身で、幼い頃病気で入院している時に絵を描く楽しさを知り、美術予備校などには通わず、現役で合格した。
純粋に絵が好きな子で、誰に何を言われても気にしない。
クラスの輪に入らず、常にマイペース。
YPP(ヤング・ペインター・プライズ)の大賞を受賞している。ロイヤル・アカデミーから大学院に来ないかと誘われている。

「自分の絵」、「自分の表現」とは何か。
四人は互いに切磋琢磨し、競い合い、他のものの才能に嫉妬し、悩みながらも芸術の道を究めようとする。


『神の値段』
2016年の「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
田中佐和子はメディァはおろか関係者の前にも姿を見せない前衛芸術家・川田無名の専属ギャラリーに勤めている。
父親に誘われて行ったギャラリーのオープニングパーティでギャラリーの経営者の永井唯子と出会い、リクルートされたのだ。

ある日、唯子が無名が1959年に描いたという貴重な作品をギャラリーに持ってくる。
そしてその後しばらくして、唯子が品川の倉庫で遺体として見つかる。
佐和子は無名の作品をどうしようと思っていたのか。
佐和子は何のために倉庫に行ったのか。
無名は生きているのか。
生きているとしたら、無名が唯子を殺したのか。
謎は深まるばかり…。

佐和子は図らずも成り行きからこれらの謎を解いていくことになる。

ミステリーとして読むというよりも、知らない現代美術の世界を垣間見させてくれる作品として読んでいました。
作家の手で製作されたものでなくても、サインさえあれば、それが真作になるなんて、そんなんでいいのかと言いたくなりましたが。


『ジャポニスム謎調査-新聞社文化部旅するコンビ』
日陽新聞社の本社文化部で「文芸アート」を担当している山田文明は、異動してきた雨柳円花とコンビを組み、連載企画を担当することになる。
円花はどんでもない女で、振る舞いは天衣無縫、先輩だという山田にタメ口をきき、服装も変で、社会人失格だぁ。
しかし彼女のインスタは着眼点がおもしろいという評判。
それに円花の祖父は高名な文化人で民俗学の権威、故・雨柳民男だ。

円花と組む企画は円花が企画したもので、<ジャポニスム謎調査>という、日本各地に根づく文化を守る職人やその技術を取材し、日本文化の新たな一面を読者に紹介するというもの。すなわち「アートリップ」。
扱うテーマは硯、大津絵、漱石の肖像写真、灯台、円空仏。

山田は円花と取材で各地をまわるうちに、彼女の豊富な知識や知的好奇心に刺激され、だんだんと円花の良さを知ることになる。

一色さんが書いた本だと気づかずに読んでいました。
アートの世界だけではなく、灯台の存続に関する話題など書く世界が広がっているようです。

どの本もおすすめです。
軽く読めるのが『ジャポニスム謎調査』で、私が一番好きなのは、『ピカソになれない私たち』(表紙が素敵)です。