知野みさき 『飛燕の簪』&『妻紅』2022/08/01

知野さんの女職人を描いた「神田職人えにし譚」シリーズです。


咲は縫箔師。刺繍と金銀の箔を糊で貼る摺箔を併せて裂地に模様を施す職人です。
父親は蒔絵師でしたが、七歳の時に疫病で亡くなり、その後母親は着物の仕立てを内職にしていました。
十歳の時に咲は縫箔師・弥四郎のもとへ奉公に出され、母親譲りの縫い物の腕が弥四郎の目に留まり、三年後に女弟子となり、その翌年に母親は風邪をこじらせて亡くなります。
既に十歳になっていた弟の太一は塗物師へ弟子入りし、七歳だった妹の雪は咲が引き取り、十歳で旅籠に奉公に出しました。
弥四郎には子どもがおらず、養子にしていた一番弟子の圭吾と咲を結婚させようとしましたが、圭吾が咲に「妻」であることを、咲は縫箔を続けることを望んだため、破談になりました。
通いで三年弥四郎のもとで過ごした後、圭吾が妻帯するのと前後して、咲は独り立ちしました。

咲は美弥が主である枡田屋に品物を置かせて貰っています。
店には美弥のお眼鏡に適った物しか置いてありません。
枡田屋に品物を置かせて貰ってから、咲は縫箔の仕事に専念でき、凝った物を作れるようになりました。

ある日、枡田屋の帰りに入った小物屋で、簪が目に入ります。
それは銀の平打ちに飛燕の意匠の簪で、珍しく燕の後ろに木蓮が彫ってあります。
近頃評判の修次の作だと言いますが、値段が高かったため、買いませんでした。
しかしその簪が気になり、翌日にもう一度見に行きます。
見せて貰うと、簪が値下げされて、昨日の半額だといいます。
いただきますと言おうとすると、男にその簪を奪われます。
なんとその男は簪を作った修次でした。
彼は簪は出来損ないで、銘は偽物だと言います。
咲と修次が話している最中に、簪を双子の子どもがかっさらっていきます。
子どもたちを追う、修次と咲。
小伝馬町の稲荷神社まで追いかけて行くと、一人の男児がいて、盗まれた簪を持っていました。
彼は吉原に奉公へ行く姉に餞別をやりたいと神様にお願いしたら、くれたと言うのです。
話を聞いた修次は二日後に簪を直して、渡すと言いますが…。

この時から咲と修次は同じ職人として互いに認め合う関係になります。
簪を盗んだ双子はしろとましろと言い、咲と修次は秘かに彼らが稲荷神社の狐神ではないかと思っています。

第一話では咲は童子と木蓮の袱紗と白萩の櫛入れを心を込めて作ります。
第二話では長く離れ離れになっていた姉妹が、梅の背守りがきっかけとなり再会します。
そして第三話では妹の雪と大工の小太郎との恋を、咲が作った財布が仲立ちします。
咲は自分が作った品物から繋がる縁を大事にし、人と人の心を結んでいきます。


<第一話:守り袋>
蕎麦屋・柳川に蕎麦を食べに行ったところ、店の前で入るのを躊躇している女を見て、咲は声をかけます。
ちょうどその時、しろとましろがやって来ます。彼らは女が隠し持っているものに興味を持ち、見せるように言います。
それは色あせた古い守り袋でした。

別の日に咲が柳川に行こうと思って歩いていると、しろとましろを連れた修次が声をかけてきます。一緒に柳川に行くと、男が一人、店に怒鳴り込んで来ました。
彼は店主の清蔵の娘・おゆうを捜しているようです。
しろとましろがその人が守り袋を持っているかどうか男に聞きます。
咲が叱ったが後の祭り…。

<第二話:二羽の雀>
咲が作った竹に雀の財布を枡田屋の店主・美弥は気に入ったようです。
しばらくして、枡田屋の手代の志郎が咲の長屋にやってきて、竹に雀の財布をもう一つ注文します。財布は志郎が美弥への贈り物にしようと思って隠しておいたのに、いない間に売れてしまったそうです。
引き受ける咲ですが、美弥と志郎が想い合っていることを察している咲は、思い切って志郎の気持ちを聞きますが…。

その後、咲は美弥の元姑のお寿に偶然出会い、彼女が友人に頼み、あの財布を買いに行ってもらったことがわかります。お寿も彼らの気持ちを知っているようで、協力して欲しいと頼まれます。
世話焼き咲の本領発揮です。

<第三話:妻紅>
枡田屋に行くと、護身刀を入れる袋を頼まれます。
ちょうど修次も来ていて、刀身を見た修次は断るように勧めます。
修次の様子から何か曰くがありそうだと思う咲と美弥。
注文主はお篠と言い、昨日修次の長屋にいた女だということがわかります。
咲は品川宿まで篠に会いに行きます。

修次の過去がいよいよ明らかに…。

「妻紅」とは鳳仙花のことです。
爪を花で赤く染めたところから「爪紅」とか、小骨が喉に刺さった時に、この花の種を飲めば骨が柔らかくなって取れることから「骨抜き」とも言うようです。

咲と修次に馴染んできたしろとましろが本当に可愛らしいです。
修次と咲の仲はなかなか進みません。咲は本当に身持ちがいい女ですね。
昔も今も女が職を持つということは大変なことなのがわかります。
上絵師シリーズと共に楽しみなシリーズになりました。

<今週のおやつ>


なかなか痩せないといいつつ、買ってしまった台湾のお菓子とつまみです。
マンゴーケーキよりも定番のパイナップルケーキの方が美味しいです。
グリンピースが意外と美味しかったです。

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