新川帆立 『先祖探偵』2022/08/29



邑楽風子は五歳の時に母に捨てられた。
その時、母から言われていたように母の名前も自分の名前も答えなかったので、町役場の人に拾われた町の名を名字にし、名前をつけられた。
自分の先祖を探す助けになると思い、谷中で先祖探偵を始めた。

先祖探偵の仕事は、先祖をたどっていくことで、戸籍は一番古い明治十九年のまでたどることができる。
必要なら戸籍に載っている場所に行き、住んでいる人の話を聞いたり、寺にある過去帳を見たり、地元の資料館に行って調査をする。

依頼は、会ったことのない曾祖父探しと夏休みの課題で父方の祖先をたどる少女の手助け、嫁の先祖調べ、無戸籍の人の日本人であることを証明する資料探しの4つです。そして最終話では、風子自身の親探しとなります。
それぞれ、章ごとに幽霊戸籍や棄児戸籍、焼失戸籍、無国籍、棄民戸籍などを扱っています。

「棄児」と「棄民」の違いがわかりずらいと思います。
「棄児」は保護者から捨てられ、父母や出生地を知ることのできない子のことで、「棄民」は戦乱、災害などで困窮しているのに、国家に救済されず、見捨てられた人々のことです。
この小説では沖縄出身のブラジル移民の人が戦争のゴタゴタで棄民になり、無国籍になっています。沖縄では戦争のため戸籍の焼失が甚大だったのです。
棄児だとすぐに戸籍は取れますが、棄民や無戸籍では予備知識がないと自力で戸籍の手続きをするのは至難の業だそうです。

今まで「戸籍なんている?」と思っていましたが、あるとないのとでは雲泥の差。
社会問題として深く取り上げていないけど、無国籍者の問題は私たちが知らないだけなのです。
『元彼の遺言状』の時のようなインパクトはなかったけれど、面白かったです。