凪良ゆう 『汝、星のごとく』2022/10/04

『流浪の月』で本屋大賞を受賞した凪良さんの新作。


瀬戸内海の小島で暮らしている十七歳の青埜櫂と井上暁海。

櫂は京都からこの島に転校して来た。
男出入りの多い母が男を追って来たのだが、結局は男に捨てられた。
男に振られるたびに泣いて縋ってくる母の面倒をみるのはもう御免だ。
櫂の夢はサイトで出会った久住尚人とコンビを組み、櫂が原作、尚人が作画で漫画を描いてプロの漫画家になること。
漫画は『ここではない世界』へ自分を飛ばすツール。

暁海の父は女を作り、家には帰って来ない。
母は怒りと憂鬱に塞ぎ込み、メンタルクリニックに通っている。
暁海は思う。
父と母が離婚したら、専業主婦の母と私の生活はどうなるのか。
進学どころではなくなる。
一年先の未来さえ見えない…。

こういう二人が出会い、愛し合うが、彼らは母という毒親から離れられない。捨てられない。
やがて二人の心はすれ違い、人生を別々に過ごすことになるが…。


暁海の父の相手、瞳子さんの言葉がいいです。

「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの」
「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でもわたしの経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない」
「…もちろんお金で買えないものはある。でもお金があるから自由でいられることもある。たとえば誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それはすごく大事なことだと思う」

櫂も暁海もやさしい。でもそのやさしさが自分たちを縛り、苦しめる。
母親と共依存関係なんでしょうね。
読みながら毒親なんか捨てて、自分たちの人生を歩きなさいよと何度も言いたくなりました。
小説では彼らをサポートしてくれる人たちがいたから、結末は不幸だけど、幸せなものになりました。
現実的に考えると、そういう人とはなかなか出会えないものです。
特に北原先生のような奇特な人など滅多にいませんよね。

『流浪の月』に通じるものがあるお話でした。
作家さんの読ませる技は凄いです。
また本屋大賞にノミネートされそうな小説です。