面白い時代小説三冊2023/02/06



畠中恵 『わが殿』
畠中さんの初めての史実に基づいた小説です。
殿とは越前国大野藩七代目藩主・土井利忠。
主人公はその殿に仕える、わずか八十石の内山家の長男・七郎右衛門。
幕末期にはほとんどの藩が財政赤字に苦しんでいたが、大野藩も例外ではなかった。藩主・利忠は藩政改革を行い、藩の財政を立て直そうとする。その時白羽の矢が立ったのが金勘定に優れた七郎右衛門だった。
彼は幕府から大きな借金をし、面谷鉱山で新鉱脈探しを行い、金を作る。一方藩主は面扶持を断行する。
しかし借金がどうにかなるという見通しがつくと、藩校明倫館を作るために金が必要になる。そうこうするうちに江戸城が、その二年後に江戸の上屋敷、中屋敷が火事で燃え、立て直しを余儀なくされたりと、金は出て行くばかり。
七郎右衛門は命を狙われ、恨み嫉みで嫌な思いをすることもあったが、打ち出の小槌とはよく言ったもので、誰も考えないような金策を次々と考えていく。
やがて黒船が到来し、時代は移り変わっていく。

七郎右衛門に絶大な信頼を寄せる藩主と「殿、命」と仕える七郎右衛門の関係がいいです。偉大な功績を残した君主のもとには素晴らしい家来がいるのですね。七郎右衛門の才能を発掘し、登用した殿の見る目の確かさは流石です。
淡々とした書き方で、話が長く、途中で飽きちゃうこともありましたが、江戸時代の藩がいかに財政赤字に苦しんでいたのかがよくわかりました。
こうしておけば幕府にたてつく暇がないですものね。
福井はまだ行ったことがないので行って、天空の城「越前大野城」を見てみたいです。

泉ゆたか 『春告げ桜 眠り医者ぐっすり庵』
藍は生まれ育った茶農家の”千寿園”で西ヶ原の名物となるお茶を作り出すという研究に打ち込んでいる。
そんな藍のところに『万屋一代記』という格言集で人気を博した商売人の万屋一心がやって来る。
千寿園は滝野川の京料理を出すことで有名な高級料亭「桜屋」に千寿園の茶葉を仕入れてもらおうと画策しており、一心が桜屋と話をつけてくれたのだ。
藍が一心と一緒に桜屋に行き女将と話していると、桜屋は一心に江戸者たちが喜ぶような桜の宴を考えるように頼んでいたことがわかる。
そこで一心がとんでもないことを言い出す。
藍に三月ほど桜屋で働きながら、お江戸の客を魅了する催しを見つけろというのだ。
女中たちと一切変わらぬ扱いで働き始める藍だったが…。

藍は桜屋の女将と江戸対京のお茶対決をします。
京は宇治茶が有名ですが、東京のお茶って何がありましたっけ?
狭山茶は有名ですけど、埼玉県ですよね。
今回は眠り医者が付け足しみたいでしたが、お茶がとても美味しそうでした。
この頃ほうじ茶ばかり飲んでいますが、たまにはゆっくりと煎茶を飲むのもいいかも。もちろん和菓子は必須ですww。

横山起也 『編み物ざむらい』
黒瀬感九郎は凸橋家から召し放ちになり、父から勘当を申し渡され、行くところもなく、大川のほとりで得意の編み物をしていた。
そこで女が浪人たちに因縁をつけられているのに遭遇し助けようとして怪我をしてしまう。
女は御前、彼女を助けに来た異形の侍は能代寿之丞といい、なんと手妻師だという。感九郎は彼らの住む「墨長屋敷」に連れられていき、しばらく世話になることになる。屋敷には彼らのほかに戯作者のコキリという女がいて、感九郎が編み物をすると知ると、最上級の絹糸で手袋を編んでくれと言い出す。「仕組み」のために必要なのだという。
成り行きから感九郎は彼らの仕事に協力することになる。

題名が面白いので、読んでみました。
江戸時代に編み物をする侍がいたなんて、驚きですよね。
本によるとメリヤスが入ってきたのは安土桃山時代、織田信長や豊臣秀吉の時代から江戸初期にかけてで、南蛮から来た宣教師がもたらし、刀の柄袋やメリヤス足袋、手袋から襦袢や股引まで編んでいたそうです。
感九郎には、ここには書きませんが編み物以外にも特殊能力があります。
墨長屋敷のメンバーもキャラ立ちしてますが、感九郎の婚約者のマオさんはいいキャラです。
侍はこうであらねばならぬとギチギチと締め付けられた江戸時代を舞台にした痛快な時代小説です。

今回読んだ三冊はどれもオススメです。
一冊というと、『編み物ざむらい』かな。是非読んでみてください。

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