読んだ時代小説(文庫本)2024/06/23



知野みさき 『照らす鬼灯 上絵師律の似面絵帖』

律が夫の涼太と滝野川村まで忌問に行った帰りに、律の母の美和が辻斬りにあった場所で美和の冥福を祈ろうとしたところ、大阪から来た余助という男と出会う。
友人が辻斬りに殺されたという。
その夜、旅籠で追剥に襲われた親子を助けたという余助に再会する。

それから五日後、池見屋を訪ねた律は名指しで二人の客が着物を求めて来たと聞かされる。
しかし、女将の類は一人は断り、もう一人も断ろうかと迷っているという。
というのも意匠は「地獄」。自分を裏切ったおかみへの意趣返しに地獄絵を入れた死装束を仕立てたいというのだ。
描こうとしたが、描けず、結局、律は断る。
地獄絵や死装束を考えているうちに両親と行った鬼灯市を思い出した律は、鬼灯の絵を描いてみようと思う。
そんな律に亡き娘の供養として梅見の宴に着る鶯の着物の注文が入る。

その頃、茶葉屋・青陽堂に七朗と健生という二人の新しい奉公人が入る。
律には弟子入りしたいという男が現れる。
そして、余助がいきなりやって来る。
彼は律が描いた似面絵を見、知っている男だという。
たまたまやって来た定廻り同心の広瀬保次郎に紹介するが、余助は早々に帰って行く。
広瀬は余助に胡散臭さを感じたようだ。

そんなある日、涼太が出かけたまま翌朝になっても帰って来ない。
律が心配していると、「りょうた」という者が川に落ち、死亡したと話しているのが聞える。
急いで近くの番屋に駆け込むと…。

どんな意匠の着物かと想像するのが楽しみなシリーズです。
今回、律は沢山の似面絵を描いているので、途中で誰が誰か、わからなくなりそうでした。
相変わらず涼太は御用聞きの仕事を手伝い、落ち着きません。
若旦那なんだから茶葉屋の仕事を優先しないとね。
私としては着物にまつわる人情話を書いて欲しいのですけど…。

次にもう一つの女職人シリーズ「神田職人えにし譚」が読めるのを楽しみに待っていますわ。

このシリーズの一巻から載せておきます。

①『落ちぬ椿 上絵師律の似面絵帖』
②『舞う百日紅 上絵師律の似面絵帖』
③『雪華燃ゆ 上絵師律の似面絵帖』
④『巡る桜 上絵師律の似面絵帖』
⑤『つなぐ鞠 上絵師律の似面絵帖』
⑥『駆ける百合 上絵師律の似面絵帖』
⑦『しのぶ彼岸花 上絵師律の似面絵帖』
⑧『告ぐ雷鳥 上絵師律の似面絵帖』
⑨『結ぶ菊 上絵師律の似面絵帖』
⑩『照らす鬼灯 上絵師律の似面絵帖』


篠綾子 『幽霊草 小烏神社奇譚』

竜晴と泰山たちが旅から帰り、小烏神社に穏やかな日々が戻っていた。
そんなある日、気狐の玉水が妖狐に憑かれる。
伊勢家を祟った二尾の狐が舞い戻ってきたのかと警戒する竜晴。

そんな頃に、竜晴たちが留守の間に訪ねてきた少女の小ぎんがやって来る。
姉のおぎんを探して欲しいという。
小ぎんはおぎんが行方知らずになったのが何年前かも、どこの山でかも、二人はどこに暮らしていたのかも言えない。
別の日に姉の大切にしていたものを持ってきてもらい、竜晴が術をかけてみると、姉が亡くなっているのがわかる。

同じ頃、江戸の町で男たちが突然行方知らずになり、その場所に銀竜草の花が咲いているという事件が起きる。
銀竜草は小ぎんにゆかりの草であるため、小ぎんがこの件に関わっているのではないかと竜晴は心配する。

今回も悲しい出来事がありました。
今はそうではないかもしれませんが、物のなかった昔は物を今以上に大事にしたので、物に念がこもり、付喪神なんかになったんでしょうかね。
そうそう、気狐ってなんだって思ったでしょう。
調べてみました。
狐の妖怪には格付けがあるそうです。
「天狐→仙狐→空狐→気狐→野狐」で、天狐は神と等しい存在で、野狐は悪事を働く低級妖怪だそうです。
玉水は修業の身の気狐だったのですが、お話の最後に気狐の倍の神通力が使える空狐になりました。出世しましたねぇ。

このシリーズの一巻から載せておきます。

①『弟切草 小烏神社奇譚』
②『梅雨葵 小烏神社奇譚』
③『蛇含草 小烏神社奇譚』
④『狐の眉刷毛 小烏神社奇譚』
⑤『猫戯らし 小烏神社奇譚』
⑥『吾亦紅 小烏神社奇譚』
⑦『梔子の木 小烏神社奇譚』
⑧『龍の髭 小烏神社奇譚』
⑨『幽霊草 小烏神社奇譚』

花の名前が題名になっていますが、読めますか?
今回の「幽霊草」は「銀竜草」のことで、葉緑体を持たないため真っ白で、薄暗い場所に咲くので、「幽霊草」とも呼ばれているようです。
日本全土に分布していると言いますが、私は見たことありません。