岩井圭也 『科捜研の砦』2024/08/08

最後の鑑定人』の主人公、土門誠の科捜研時代のお話。


「科学警察研究所」、科警研は千葉県柏市にある警察庁の附属機関で、新手法の開発や警察業務に関する研究、技官の指導法に比重をおいている。
「科学捜査研究所」は各都道府県警察本部の刑事部に設置され、管内で発生した事案に関する鑑定が主である。

科捜研には<鑑識の神様>と言われている科捜研副所長の加賀正之警視と彼の直下で働いている技官、土門誠がいる。
この二人のタッグは<科捜研の砦>と言われている。

「罪の花」
科学警察研究所でスーパーインポーズ法の鑑定手法の開発をしている尾藤宏香は千葉県警からの依頼で身元がわからない白骨遺体の鑑定をすることになる。しかし、児玉という刑事は科学捜査研究所の土門誠にも発見現場周辺の状況から遺体の身元推定に役立つ情報を探索してもらっていた。
尾藤は同年代で全国の警察組織に名を轟かせている土門に対し、妙な対抗意識を持つ。
そんな尾藤のところに土門から聞きたいことがあるとメールが届く。
早速、土門に電話をするが、「科捜研の砦」と言われている彼に興味を持った尾藤は彼と共に現場に赴くことにする。

「路側帯の亡霊」
交通捜査課の三浦耕太郎は転落事故の鑑定を科捜研に依頼していたが、なかなか報告が上がってこなくて苛ついていた。
事故は三人の大学生が飲んだ勢いで、コンパクトカーに乗り、限界までスピードを出す度胸試しをしていて、カーブでハンドルを切りすぎて、ガードレールに突っ込み、一人が死亡、二人は首や腰の打撲というものだった。
馬鹿な大学生が酒を呑んで起こした、よくある事故だと思う三浦だったが、土門は証言と一致しない箇所があるという。

「見えない毒」
東洋工業大学理学部講師、菅野真衣は土門がX線回析装置を借りにくるのに立ち会う。いつもとは違い、土門は特殊な事例なので菅野の力を借りたいという。
案件はITエンジニアで一人暮らしの二十代の男性の死因特定だ。
急性心臓死の可能性があるが、二十代の若者には珍しい死因だ。
食事に毒物が混入していたおそれがないか、調べても原因物質は見つからなかった。
土門は亡くなった男性の部屋から見つかった正体不明の粉末が気になり、X線回析装置で分析をしようと思ったらしい。
菅野は事件性がないと思われる遺体の死因に、土門がこれほどまで執拗に追及する理由が気になり、土門に訊く。

「神は殺さない」
尾籠宏香は室長から呼び出される。警視庁からの至急の案件を担当してもらいたいというのだ。
東京都北区の木造アパートから火が出て、出火元の二階の部屋から男性一名の遺体が見つかった。
出火原因は寝たばこ、死因は一酸化炭素中毒と推定された。
しかし、遺体には一酸化炭素中毒で特徴的な鮮紅色の死斑が観察されなかった。
警視庁は「事件性はなし」として処理しようとしたが、土門はこの判断に反対し、血液分析を行うべきだと主張した。だが、土門の提案に加賀副所長が難色を示した。
尾藤は土門の真っ当な提案に何故加賀が反対したのか、そして、科捜研には土門がいるのに、何故科警研で遺体の死因特定をするのか、訝しく思う。
室長によると、亡くなった人は加賀と何らかの関係があったというが…。

なんと土門が結婚します。
相手は気になりますよね。内緒ですが、わたしはなんとなく予想がつきました。
それにしても土門の結婚生活は不思議な感じです。こんな感じで続くのか。
そういえば『最後の鑑定人』に彼の妻は出てきてましたっけ?

土門や加賀の隠された過去が出てきて、それが事件に関係してきます。
特に最後の「神は殺さない」は、あくまでも科学を信じ続ける土門の矜恃がよくわかるお話です。表には出さないけど、どれほど心の中で苦しみ泣いていることか。

「私が科捜研を辞める時が来るとしたら、それは科学を信頼できなくなった時です」
「人は嘘をつきますが、科学は嘘をつきません」

こう言っていた土門が科捜研を辞めて民間の鑑定所を開設したのは、この事件があったからかもしれませんね。
『最後の鑑定人』を読んでいなくても大丈夫ですので、興味を持った方は読んでみて下さい。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://coco.asablo.jp/blog/2024/08/08/9707691/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。