近江泉美 『教授のパン屋さん ベーカリーエウリカの謎解きレシピ』 ― 2025/05/21

薔薇が満開で、どこかのバラ園に行きたくなりますが、混んでいるのでしょうね。
近所のお庭で我慢しますわ。

熱くなったので、わんこたちが水を飲むようになりました。
兄は普通のドッグフードじゃなくウエットフード+野菜類になると痩せ始めたので、ドッグフードを水でふやけさせてやるようにしました。
吐かないかと心配でしたが、大丈夫でした。
アスリートのヨーキー弟はソファに飛び乗っていたのですが、この頃やらなくなりました。
兄は6月で13歳、弟は8月で11歳。お年なのです。
札幌にある美味しそうなパン屋さんのお話かと思って読んでみました。

おれこと福丸あさひは仕事が休みの日に気分転換としてパンの食べ歩きをしている。
昔、おばあちゃんが『フクマルパン』というパン屋を営んでいたので、おやつといえばパンだった。
ある休日に福丸はパン屋巡りをしようと札幌市時計台の方へ歩いていた。
すると幻のベーカリーといわれている、神出鬼没の移動式パン屋<ベーカリーエウリカ>の看板を見つける。
<ベーカリーエウリカ>の店主は、四、五十代の濃いグレーのスーツを着た英国紳士を思わせる男性だった。
早速、クランベリーとクリームチーズのパンを買い、その場で食べてみると、「ふつう」だった。
つい声が出てしまい、「ふつう」とは何だと店主に絡まれている時に、警察がやって来て、尋問される。
着ていた派手なパーカーのせいで、昨晩、観光客にケガをさせた犯人と思われたのだ。
困っていると、紳士にパンを改良するアイデアを授けてくれるなら、無実の証明をしてやろうといわれる。
お願いすると、紳士は何だかんだとパンと工学の蘊蓄をたれ、脱線するので、ただの変人かと思っていると、三つの質問をしてきて、答えを聞いた後に見事に福丸が無実であることを証明する。
その上、驚いたことに、福丸の職業まで当ててしまう。
この紳士は亘理一二三という国立大学工学部の教授で、大学に副業申請をして、パン屋を営んでいた。
紳士は「工学とパンはよく似ている」といって説明するのだが、福丸にはちんぷんかんぶん。(私もw)
このことが縁となり、紳士がホームズであさひがワトソンという関係ができあがり、パンと工学を組み合わせ、推理し謎を解いていく。
クリームパン、チョココロネ、ちくわパン、あんパンと美味しそうな日本のパンが出てきます。
私は北海道出身ですが、ちくわパンは食べたことがないです。
1983年に札幌市豊平区の「どんぐり」というパン屋さんが開発したそうで、このお店は今もあるそうです。

こんな感じのパンらしいです。(写真はフジパンのHPよりお借りしました)
フジパンは明太マヨのようですが、元祖はツナマヨみたいです。
ちなみに「エウリカ(Eureka)」とはギリシャ語で「わかった!」、「発見した!」という意味です。
いかにも亘理教授がつけそうですね。
シリーズ物らしいので、次も美味しいパンが出てくるでしょう。
お腹が空いていると、無性にパンが食べたくなるので、気をつけて読んでくださいね。
リース・ボウエン 『貧乏お嬢さまと消えた女王』 ― 2025/05/20
『貧乏お嬢さまと毒入りタルト』に続く「英国王妃の事件ファイル」シリーズの
18巻目。
ジョージーは結婚して王位継承権を放棄したはずですから、もはや「英国王妃」ではないですし、それに既婚者ですから、「お嬢さま」も変ですね。
原語では「A Royal Spyness Mystery」シリーズとなっています。

アイルランド貴族ダーシー・オマーラと結婚し、息子を授かったジョージーは、愛する夫と息子の世話をしながら自分の家で静かな日々を送っていた。
それなのにダーシーがエドワード国王に呼び出され、とんでもないことを押し付けられる。
エドワードはシンプソン夫人と結婚することを決断し、議会に貴賎結婚を提案するという。
このことが公になると、シンプソン夫人はマスコミに追い回されるので、彼女を世間の目から隠しておくために、彼女を預かって欲しいと頼まれたのだ。
何しろシンプソン夫人の満足するようなものを出せるようなお金はないし、しかもジョージーはシンプソン夫人が嫌いだ。
なんとも迷惑な話だ。
それだけでもウンザリするのに、義理の姉のラノク公爵夫人のフィグが手紙をよこし、息子が入学する候補の学校を見学しにやって来るというのだ。
それだけではない、屋敷の主のサー・ヒューバートがハリウッドの撮影隊を引き連れて帰って来た。
彼が撮影を許可したばかりに、屋敷は厚かましい撮影隊にどんどん占拠されていく。
そんな最中に、シンプソン夫人と映画の子役がいなくなる。
シンプソン夫人はともかくとして、少女は誘拐されたのか・・・。
エドワード8世が二度の離婚歴のあるシンプソン夫人と結婚するために退位したのが、1936年12月11日だというので、ジョージーが大変な思いをしたのが、この年ですね。
退位後、ウィンザー公爵夫妻となった二人はナチス政権から目をつけられます。
ドイツ人の実業家と付き合っているジョージーの母がどうなるのか、ジョージーたちは心配していますが、おいおい書かれるでしょう。
それにしても人の都合も聞かずにやって来て、えらそうにする兄の嫁が嫌です。
貴族の方々はいつもそんな感じで親戚の屋敷に押しかけるもんなんですかね。
映画の方々も相当ずうずうしいですけど。
ダーシーもジョージーも人がよさ過ぎです。
19巻目の『From Cradle to Grave』が今年の11月に出版されます。
ロンドンで起きている連続殺人事件を解決するように、ジョージーはゾゾに頼まれるようです。
日本語の題名がどうなるのか、楽しみです。
<今週のおやつ>

エシレの「パルミエ・エシレ」。
一度は食べてみたいと思っていたのですが、いつもすぐに売り切れてしまい、買えませんでした。
近頃、買えるようになっていたので、早速に頼んでみました。
けっして美味しくないという訳ではないですが、どちらかというと私はガレットやサブレの方が好きです。
「シスター探偵ボニファス」を観る ― 2025/05/19
「ブラウン神父」シリーズのスピンオフ版の「シスター探偵ボニファス」を大分前に観て書くのを忘れていたので、「獣医ヤコブズの事件簿」を書くついでに書いておきます。
シスター・ボニファスは「ブラウン神父」の原作の小説には登場しません。
ドラマ「ブラウン神父」シリーズでは、シーズン1のエピソード6「The Bride of Christ(キリストの花嫁)」に登場しているというのですが、私の記憶にはありません(恥)。

1960年代初頭のお話で、舞台はコッツウォルズにあるグレートスローターという架空の村です。
さて、登場人物たちの紹介をしましょう。
シスター・ボニファスは、セント・ヴィンセント修道院の修道女で、なんとIQが 156もあります。
オックスフォード大学で化学か法医学・微生物系を専門に学んだらしく、博士号を持っています。
高度な科学知識を持つ法医学の専門家として警察の顧問をしています。
M15(英国情報局保安部)からの誘いがあったらしいのですが、断って修道女になったという異色の女性です。
現場にペスパ(スクーター)で現れたりと、奇抜な行動を取りがちで、コミカルな姿が見られますが、殺人現場では常に冷静で、小さな証拠や不審な点を見逃しません。
それでいながら人間に対する理解力や共感力が優れているのが、彼女の魅力のひとつになっています。
可愛らしい声で早口なのが特徴です。彼女の作るワインは美味しいのかな?
修道院は彼女が警察の仕事をするのを問題にしていないみたいです。
実際にはあり得ない話ですが、ドラマですから。
写真でシスター・ボニファスの右側にいる男性は元陸軍将校のサム・ギレスピー警部補です。
初めはシスター・ボニファスの科学捜査に懐疑的だったのですが、だんだんと彼女に信頼を寄せるようになります。
堅物で、いつもシスター・ボニファスに翻弄されている感じで、女性に弱いのかしらww。
左側の男性はバミューダ警察から出向しているフェリックス・リビングストン巡査部長です。
彼はロンドンで勤務のはずが、何の手違いかグレートスローターに勤務することになってしまったという不運な方です。
そのうちロンドンに行けるはずと思っていたのですが、シスター・ボニファスの魅力と能力に感銘を受け、グレートスローターでもいいかと思い始めたようです。
ちょっとエリートの出来る奴感があるのが玉に瑕。
ギレスピー警部補の隣にいる、1960年代には珍しい女性警察官は、肉屋の娘でもあるペギー・ボタンです。
真面目な勤務態度で好感が持てます。
彼女はもしシリーズが続けば、だんだんと存在感を増していきそうです。
そしてリビングストン巡査部長の隣にいる女性は新聞記者のルース・ペニーです。
とても野心的な女性で、事件が起こるとギレスピーたちの周りを嗅ぎまわり、警察を出し抜こうとします。
ギレスピーは彼女のことが気になるようですが、どうなるのかな。
この他にギレスピーとリビングストンの下宿の大家で不味い料理を作るクラム夫人や修道院の方々が毎回登場します。
シーズン1だけで終わるのかと思っていたら、なんと昨年にシーズン3とクリスマススペシャルが放送され、シーズン4も撮っているようです。
「なんでシスターが・・・」とか、あまり考えずに、観るといいでしょう。
全体的に明るいトーンで、登場人物たちもいい人ばかり。
それなのに、事件がよく起こりますが、ドラマですからwww。
なおPrime Videoではシーズン1しか観られませんので。
「獣医ヤコブスの事件簿」を観る ― 2025/05/18
Prime Videoでは「ボッシュ:受け継がれるもの」のシーズン3が観られるようになっていますが、楽しみに取っておき、わんこが可愛い「獣医ヤコブスの事件簿」の方を見てみました。
「獣医ヤコブスの事件簿」シーズン1エピソード1~3

2014年から現在まで続いているドイツの大人気クライムドラマシリーズだそうです。期待以上に面白かったです。
Prime Videoではエピソード1~3しか観られないのが残念。
続きはシネフィルWOWOWプラスで観られるみたいです。
かつてハンブルグで警察官をしていたハウケ・ヤコブスは獣医として新しい人生を始めるために、海沿いの村シュヴァニッツにやって来る。
古い船を買って住み、地元の獣医が亡くなったので、動物病院を引き継ぎ、そこで働いていた助手のユーレ・クリスティアンゼンを雇った。
ヤコブスは人間嫌いというが、どうも訳ありで、身を隠すためにシュヴァニッツに来たようだ。
<エピソード1 ヨウムの証言>
ヤコブスは村に来た早々、警察に追われていた暴走車が海に飛び込むのを目撃する。車に乗っていたのは、偶然にも村の獣医で、現場に居合わせた警察官のローナ・フォークトに、死んだ獣医の動物病院を引き継いではどうかと言われる。
翌日、海辺を散歩している時に、漂着した船を見つける。浜辺には足跡が残されていた。好奇心から船の中に入ると、男が2人、死んでいた。
ヤコブスの身元を調べ、元警官だと知ったローナはヤコブスを事件に巻き込む。
<エピソード2 7年目のバイキングの呪い>
シュヴァニッツでは7年に一度、2月24日と25日の二日間にバイキングのヴィルデ・スヴェンが村人たちを呪い殺すと言う伝説がある。
7年前に命を落としたのはローナの親友のメラニーで、事故死と言われているが、ローナは疑問視していた。
今年も犠牲者が出る。犠牲者は自宅のベッドの上で亡くなっていたにもかかわらず溺死で、メラニーが事故死した時に現場に居合わせていた人物だった。
ローナは足を挫いたことを理由にして、ヤコブスに二日間だけ警官に戻ってくれと頼み、一緒に捜査を始める。
<エピソード3 愛犬ホリー撃たれる>
ある日の朝、ローナの父のレイマー・フォークトが入居している施設で銃声が聞こえた。ヤコブスが急いで行ってみると、一人の男が倒れていた。彼はヤコブスに紙にくるまれた金属片を託して亡くなる。
ヤコブスがローナに金属片を渡し、船に戻ると、何者かが家探しをした形跡があり、見知らぬ男に銃を向けられる。
一方、ローナは父親が家を売るらしいと聞き、実家に行き、一丁の銃と四冊のパスポートを見つける。パスポートの写真は父なのに名前が違っている。
施設で起こった殺人事件で使われていた銃が、諜報機関の人間が以前起こした事件で使われていたことがわかり、ローナは自分の父親の過去に疑惑を持つ。
ヤコブスの飼っている大きなわんこの犬種はなんなんでしょうね。

ワイマラナーかしら?名前がホリーなので、メスなんですか。
麻薬犬みたいに教えられた臭いがあるところにちゃんとお座りして知らせます。
とても頭のいい仔です。
他にもヨウムやプードル、牛、馬、カメ、アライグマなどの動物が出てきます。
ヨウムやカメ、アライグマは狭い場所で飼われていたので、ヤコブスが引き取ります。
牛は餌を食べなくなり、馬は厩舎から出なくなったので往診して診ます。
一番可哀想だったのが、プードルとアライグマ。
プードルは子供がいたずらで刺した釘がいっぱい刺さったソーセージを食べてしまい、開腹手術をします。
頭にきたヤコブスは飼い主に死んだと嘘をつき、プードルを助けます。
アライグマは育てられないからと少年に託されたのに、不慮の事故で亡くなってしまいます。
アライグマに会いに来た少年に本当のことが言えず、嘘をつくヤコブスですが、こういう嘘はついても許せますね。
動物愛が強い助手のユーレは赤毛の可愛い女性で、初めからヤコブスのことが気に入ったみたいで、一生懸命ヤコブスに粉をかけていますが、報われるのかなぁ?
警察官のローナは優秀みたいですが、小さな町だからか、警察官がローナ、一人しかいないです。そのためいつも一人で行動しています。危ないですねぇ。
ドイツってこんな感じなんですかね。
何か起こると、他の町から応援が来ますが、もう一人いた方がいいと思いますけどね。
それにしても検察医は何をしているのだか、いつもいません。
そのため獣医だというのにヤコブスが呼ばれ、結局は捜査協力してしまいます。
ローナにとっては渡りに船ですね。
ちょっとコミカルなところもあるドラマですが、事件は「刑事ヴァランダー」などで扱われていたものと同じくシリアスなものです。
気になったのが、ヤコブスがいつ獣医の資格を取ったのかです。
シーズンが進むごとに、ヤコブスの過去が明らかになっていくと思うので、そのうちにわかるのでしょうね、たぶん。
続きを見たいけれど、Prime Videoで観られるようになるまで待ちますわ。
鳴海響一 『湘南機動鑑識隊 朝比奈小雪』 ― 2025/05/17
鳴海さんの新しいシリーズです。

朝比奈小雪は鑑識体制の強化を目的に新設された機動鑑識隊江の島分駐所の新米鑑識員。
機動鑑識隊は湘南地域で発生した事件に二十四時間対応する遊軍部隊だ。
小雪は江ノ島生まれで、今も江ノ島に住んでいる。
美術大学を出てから二年間は県警総務部広報県民課の事務職員をやっていたが、途中から警察官になりたくなり、警察官試験を受け採用された。
警察学校を卒業し、麻生署の交番勤務を経て、今年の四月に希望の刑事部機動鑑識隊に異動できた。
小雪の属する機動鑑識隊、縮めて機鑑隊のメンバーは池田班長と平井、戸川、磯辺、そして小雪の五名だ。
小雪は初めての出動でヘマをしてしまう。
マンションの5階の自室から転落したらしいマルガイ(被害者)を見て気を失ってしまったのだ。
その上、被害者の部屋にシャム猫の首が置かれているのを見て、意識を失った際に嘔吐してしまう。現場を汚してしまったのだ。
一ヶ月半が過ぎた頃、小雪の努力が実り、「手先が器用な新人鑑識」として認められるようになる。
異動してから三カ月経ち、少しだけ仕事に慣れてきた頃、変死している一人暮らしの老人の家で小雪は奇妙な足跡を見つける。
侵入者のうちの一人の足跡に迷いがないのだ。
小雪はこの『迷いなき男』が気になる。
それから半月も経たないうちに、小雪はまた『迷いなき男』と出会う。
現場に現れた捜査一課特命係の向井警部補は小雪の推理に関心を持つが・・・。
小雪は鑑識をするよりも刑事になった方がよさそうに思えますが、これからどうなって行くのか、一作目ですから様子見しましょう。
彼女のお父さんが有名な画家で、絵筆の扱いになれているので、娘にメイクをする場面が出てきて、笑ってしまいました。
これからもお父さんが登場してくれるといいですね。
同僚にはいけ好かない先輩がいますが、上司には恵まれているようなので、小雪もそのうちに戦力になるでしょう。
小雪の好きな絵はオランダのエレイン・デ・クーニングの≪無題(闘牛)≫でアーディゾン美術館にあるそうです。

なんとも言えない絵です。私には苦手な抽象画だわww。
美術館で見たかどうか、記憶にありません。
今のところヒロインの小雪にあまり魅力は感じていませんが、鑑識の仕事に興味があるので、続けて読んでみるつもりです。
畠中恵 『ああうれしい』 ― 2025/05/15
まんまことシリーズの十作目。

江戸、神田の町名主の跡取り息子の高橋麻之助は町名主・西森金吾の娘・お和歌と結婚し、息子の宗吾を授かる。
だが、相談事は待ってはくれず、相も変わらずの生活をしている。
高利貸しの丸三から、お虎と夫婦になりたいが、お虎に妻になれないと言われたと相談され、猫探しをし、大店の主から”ああ嬉しい”と思わせて欲しいと頼まれ、縁談の相手探しとかんざしの盗人探しをし、最後は風邪をひいて一波乱。
いつになったら父のような町名主になれるのか。
麻之助の悩みは尽きない。
このシリーズも長く続いています。
シリーズ物をすべて読んでいくのは大変なので、麻之助も落ち着いたことですので、ここらで読むのを止めようと思います。
麻之助が父親の跡を継ぎ、いい町名主になれますように、これからも祈っていきますわww。
<シリーズの順番>
④『ときぐすり』
⑤『まったなし』
⑥『ひとめぼれ』
⑦『かわたれどき』
⑧『いわいごと』
⑨『おやごころ』
⑩『ああうれしい』(本書)
「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」を観る ― 2025/05/14

原題は「Lee」。
実在したリー・ミラーの主に1937年から1945年までを描いた映画です。
リーの一生を簡単に紹介します。
リー・ミラーは本名エリザベス・ミラー。
1907年、アメリカのニューヨーク州キポキプシー生まれのファッションモデル、写真家、戦争特派員で、芸術写真と戦争報道の両方で重要な足跡を残した。
中産階級の家庭で育ち、父親のセオドア・ミラーはアマチュアの写真家でエンジニア。娘のリーをモデルにして撮影をし、ティーンネイジャーになるまで娘のヌード写真を撮っていたという。娘を溺愛しており、リーにはファーザーコンプレックスがあったようだ。彼はリーに写真技術の基礎を教えた。
映画でも触れられているが、七歳の時に知り合いの家で性的虐待にあって、性病に感染したという。
この事が後の彼女に深い影響を及ぼしたのは明らかだ。
十九歳の時にニューヨークで交通事故に遭いそうになったときに、偶然(?)ヴォーグ誌の編集者のコンデ・ナストに助けられ、これが縁でモデルとなり活躍する。
しかし、彼女の写真が生理用品の広告に使用されたことからモデル業を辞めざるえなくなる。
1929年に単身パリに渡り、マン・レイに弟子入りし、やがて男女の関係になり、彼のミューズとなる。
この時にパブロ・ピカソやジャン・コクトーなどと知り合う。
三年ほど関係は続くが、マン・レイと別れた後、1934年にエジプト人の大富豪、アジス・エルイ・ベイと結婚し、カイロに行く。
1937年、イギリスのシュールレアリストで画商のローランド・ペンローズと出会い、1939年、イギリスへ渡り、ロンドンでペンローズと暮らす。
1940年からイギリス版ヴォーグでカメラマンとして活躍する。
1942年、リーはヴォーグ誌の従軍記者として、ライフ誌のカメラマン、デイブ・シャーマンと組み、ヨーロッパ大陸に渡り、連合軍と共にヨーロッパ各地の前線に赴く。ノルマンディー上陸作戦、パリ解放、ダッハウ強制収容所の解放など激動の現場を記録していく。
この時に写したダッハウ強制収容所の写真やヒトラーの自宅の浴槽で写した写真が有名である。

戦後もミラーはヨーロッパにとどまり、戦後の様子も写真に収める。
1947年にエルイ・ベイと正式に離婚し、ペンローズと結婚し、9月に息子のアントニーを産む。
1949年にサセックスのファーリー・ファームに居を構える。
1950年代にはヴォーグから離れ、写真家としての活動をほぼ止める。
リーは心的外傷後ストレス障害、うつ病、アルコール依存などの問題を抱えるようになっていた。
リーは写真の代わりに料理の世界に創造性を注ぐようになる。
フランス料理に通じ、独自のレシピを持ち、自宅に来たピカソやマックス・エルンストなどの芸術家や知識人の訪問客に実践的な料理を振る舞った。
「料理こそが自分の”サルベージ(救済)”だった」と語っていたそうだ。
1977年、イギリスのチディングリで逝去。
息子のアンソニーは母が育児に関心がないように見え、甘えようとしても冷たく扱われ、母を恐れていたという。
リーの死後、彼は実家の屋根裏で未整理のネガ、手紙、戦争写真、日記などを見つけ、母の戦争での壮絶な経験や隠された苦悩を知ることになる。
それからのアンソニーは母の人生と作品を世に広める活動をしている。
現在もイギリス・サセックスのファーリー・ファーム(Farleys House & Gallery)
を拠点に、リー・ミラーのアーカイブを管理し、展覧会や書籍を通じてリーの業績を伝えている。
アンソニーは伝記『The Lives of Lee Miller(リー・ミラー:自分を愛したヴィーナス)』を書いている。
彼はこの映画の制作に協力し、リーの複雑な人物像を描くことに貢献し、「母の人生を通して、ようやく本当の母を知った」と語っている。

初日に見に行ったのではないのですが、入場者プレゼントのステッカーをもらいました。
リーはこのローライフレックスの二眼レフカメラでダッハウ強制収容所や戦場の惨状を収めたようです。
主演のケイト・ウィンスレットが映画の制作総指揮をした、渾身の出来の映画です。
リー・ミラーという女性が戦場に行き、自ら傷つきながらも、何故、撮らずにいられなかったかを描いた映画です。
目をそらしたくなるような場面が多々ありますが、それが戦争なのです。
ポール・エリュアールの詩「自由(Liberté)」がでてきます。
昔、読んだ、好きな詩です。
ネットで探すと出てきますので、読んでみて下さい。
参考:
読んだ文庫本(時代小説) ― 2025/05/12

鷹井伶 『てきてき 浪華おなご医師と緒方洪庵』
亜弥の生家は下総の古河で薬種を商っていた。十三の時に姉の代わりに、大阪の高名な蘭学者の息子で今は遊学中の男との縁談で大阪に行く。
姑になる定は日本初の蘭和辞典を完成させた海上随鷗の娘で、蘭学にも医学にも通じ、長年医師として稼ぎ、夫の天游を支えていた。
定は息子の嫁にいずれ自分のような医者になってもらい、息子の嫁として手助けをさせたいと思っていた。
亜弥は学問好きで、父より本草や陰陽五行など本道の基本を教わっており、蘭学を学びたいと思っていたので、この縁談に飛びついた。
定は亜弥を緒方洪庵の適塾に入れる。
男のなりをして亜弥は適塾に通い始めるが、小ぼんをはじめとする他の男性塾生たちと親しく交わうようになる。
やがて洪庵にも認められ、往診の手伝いをするようになるが・・・。
1838年に緒方洪庵が開設した適塾ですが、女性の塾生は実際にはいなかったそうです。
いたらどうだったかと考えると、亜弥のようにはいかないように思います。
やっぱり男からの嫌がらせがあり、通えなくなったのではないでしょうか。
悪く考え過ぎですかね。
高田在子 『茶屋占い師がらん堂 狐祓い』
最福神社門前の茶屋「たまや」の一角で開かれている占い処「がらん堂」の占い師・一条宇之助のところに様々な悩みを持つお客がやって来る。
女遊びが趣味の男と所帯を持つことを躊躇している女、息子が嘘をつくようになり、狐に取り憑かれたのではないかと心配する母親、道場主を決める試合に勝てるかどうか占いに来た武士、役者と親しくなるにはどうしたらいいかを占いに来た男・・・。
宇乃助はどのお客にも全身全霊で話を聞き、「占った相手が幸せになるために、一歩踏み出す勇気を与える」ために助言を与えていく。
茶屋占い師がらん堂シリーズの四作目。
「たまや」の娘のすずが主人公で進むのかと思ったら、違いました。
宇乃助がメインで、すずはそばにいるだけです。
すずは人が嘘をついているかどうかわかるという能力を持っていますが、今のところ役に立っていません。
この後、どうなるのかちょっと心配ですが、題名が「がらん堂」ですから問題ないですよねww。
<シリーズの順番>
①~③『茶屋占い師がらん堂』、『茶屋占い師がらん堂 招き猫』、『茶屋占い師がらん堂 異国の皿』
風野真知雄 『魔食 味見方同心(四)おにぎり寿司は男か女か』
今回、南町奉行所味見方に属する隠密同心の月浦魚之進が扱う奇妙な食べ物は、「おにぎり寿司」と食べると子どもが授かるという「子どもうどん」、ゾウの鼻の「ゾウ煮」、どじょう屋の「怪獣椀」です。
魚之進、何やら会津藩と薩摩藩に関わる陰謀に巻き込まれそうです。
毎回言っていますが、よく考えつくと感心しています。
「おにぎり寿司」が1番食べたいかな。店主が殺されちゃうのがなんですがw。
「子どもうどん」はキノコ、タケノコ、カズノコ、タラコ、きな粉、卵が入っているんですって。きな粉はいらないけど、まずくはなさそう。
「ゾウ煮」と「怪獣椀」はいりません。
次はどんな料理が出るのか、楽しみです。
<ChatGPTで遊んでみる>
動物を人間にできると聞いて、わんこたちの写真を二枚使って一枚の写真にしてもらいました。
すると・・・。

アラ、美女二人!
犬はメスと決まっているのでしょうか。
次は別の二匹で写っている一枚の写真ではどうなるのかと再度やってもらうと・・・。

こっちの方が家のわんこたちらしいかな。
でも、ひょっとしてこの子たちも女の子なんではないでしょうか。
最後に二枚の写真を使って一枚の絵にしてもらいました。

↑これがもとになる写真です。

右側の弟がヨークシャテリアだとわかりませんね。
本物よりも育ちの良さそうなわんこですww。
読んだ文庫本(日本文学) ― 2025/05/11

高瀬隼子 『おいしいごはんが食べられますように』
第167回芥川賞受賞作品。
どこの会社にでもありそうなことが書かれています。
体が弱いを理由になんでも許されてしまう芦川と彼女を批判的に見てはいるが、言い出せずにいるがんばり屋の押尾。
食べることに無頓着な二谷は芦川と付き合ってはいるが、彼女の押し付けがましさに辟易しつつも、受け入れている。
二谷と押尾はたまに一緒に飲みに行き、芦川のことを話のダシにしている。
二人はよくわからない関係ですね。
私自身は押尾側で、芦川風の女性がいつも大変な仕事から逃げているのを見て、なんだかなぁ・・・と思っていましたが、いっしょに仕事をしたのは一年間だったので、よかったです。
普通の男性は芦川風女性が好きなのよ。女性に仕事を求めていない。
私の時代はそうだったのだけど、今もそうなんですねぇ。
色々と思い出すことがありましたが、小説としてどうなんでしょう。
私は芥川賞受賞作品とは相性が悪いので、いい作品かどうかわかりませんが。
小路幸也 『小説家の姉と』
僕こと朗人には五歳年上の姉、美笑がいる。彼女は二十歳の時に、小説を書いてることを家族の誰も知らなかったのだが、新人賞を受賞し、小説家になり、二十一歳で小金井市の実家を出て、都内のマンションで一人暮らしを始めた。
僕が大学二年生になって一ヶ月経った頃、姉から防犯のために一緒に住んで欲しいと頼まれる。
断る理由もなく、一緒に暮らし始めるが、実はこれは姉のはかりごとだった。
なんか仲の良い姉と弟でいいですねぇ。朗人みたいな弟ならいてもいいかも。
小路さんですから、大きな出来事がこれといってない、ふんわかしたお話です。
朗人君、将来、何ができるか、何をしたいか、はっきりするといいね。
ほしおさなえ 『言葉の園のお菓子番 大切な場所』
一葉が亡くなった祖母が通っていた連句会「ひとつばたご」で連句を初めてから二年半が経つ。
一葉が「きりん座」の同人誌に父親のことを書いたことがきっかけに、父親はまた写真を撮り始める。大輔といい繋がりが持てたようだ。
ひとつばたこでも文芸マーケットで販売する雑誌を作ることになったり、SNSで連句会を開催するという企画が持ち上がる。
「あずきブックス」ではイベントで詩の朗読会が行われる。
次々と人の輪が広がっていく様子がいいですね。
実際の日常生活ではこんな風に広がっていくことは滅多にないですよね。
一葉は恵まれています。
今回、連句会の様子が少なかったので、次回は増やして欲しいです。
<シリーズの順番>
①『言葉の園のお菓子番 見えない花』
②『言葉の園のお菓子番 孤独な月』
③『言葉の園のお菓子番 森に行く夢』
④『言葉の園のお菓子番 復活祭の卵』
⑤『言葉の園のお菓子番 未来への手紙』
⑥『言葉の園のお菓子番 大切な場所』(本書)
佐藤正午 『熟柿』 ― 2025/05/10

伯母の葬儀の後、大雨の中、帰途についた身重のかおりは、泥酔状態で眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねた。
車から下りて確かめずに運転を続けたため、轢き逃げの罪に問われ、栃木の刑務所で息子を産む。
警察官だっった夫は仕事を辞める。
二年半の矯正生活の後、再開した夫に離婚届を突きつけられた。
息子には会わせてもらえなかった。
しばらくしてかおりは友人にそそのかされ、息子会いたさのあまり、息子の幼稚園に行く。
もう少しで会えるという時に取り返しのつかない間違いを犯してしまう。
それからも息子に会いたいという思いがつのり、小学校の入学式に行くが、阻止されてしまう。
かおりは決心する。
息子のために自分は死んだ母となる。
そして、息子のために一億円の生命保険に入ると。
それからのかおりは、千葉県のスーパー銭湯から山梨県の石和温泉の旅館、岐阜県のパン工場、大阪府のパチンコ店、そして福岡県のホテルで働く。
息子への思いを胸に・・・。
久しぶりの佐藤正午さんです。
これといった展開はないけれど、罪を犯した女が息子への思いを捨て切れず、彷徨う様子が切なかったです。
人生は思いがけないことをきっかけに、よくも悪くもなるのです。
夫の狡さが嫌でした。
彼がかおりと一緒に人生をやり直そうとすれば、彼女はこれほど悩み苦しまなくてすんだのに。
それでも、未熟で不器用ながら一生懸命仕事をする彼女の姿を見てくれる人はいます。
それが救いです。
最後に光が見えましたが、どうなるのか。
ちゃんとチャンスを握って離さないで欲しいものです。
本のカバーが好みです。
「熟柿」とは「よく熟した柿」のことですが、「時機到来をじっと待つ」ことでもあります。
じっくりと小説を読みたい方向けの本です。
<今週のおやつ>

シズカ洋菓子店のNo.34 Spring Biscuits。
いつもよりも甘いような気がしましたが、私の味覚のせいかも。
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