筑前助広 『颯の太刀』2024/05/15



上州新田郡太田宿まで一人旅をしていた筧求馬は、旅装の手代に助けを求められる。手代に着いて行くと、四人の浪人が待っていた。
初めての真剣での立ち会いではあったが、求馬はなんとか対処できたが、そこにもう一人、浪人が現れる。
その浪人は求馬に、「おぬしは斬る価値がない」と言いすて、商家の主人と手代を殺して去って行った。
求馬、十六歳、初めて知る、己の無力さ。

求馬は旗本である芳賀家の生まれであったが、母が低い身分の正室の下女であっため、母は里に戻され、彼を産み、すぐに亡くなった。
実の祖父、芳賀宮内は天涯孤独の身となった求馬を哀れみ、引き取って旧知の筧三蔵の養子とした。
宮内は「腰の二刀は、弱き者を守る為にある。武士が米を作らず偉そうにしているのは、いざという時に死ぬためだ」と求馬に武士たる者の役目を教えた。
養父の三蔵は偏屈な性格や稽古の荒さゆえに、江戸の剣客から〔剣鬼〕と呼ばれ、避けられていた。

求馬は十八歳になった。三蔵は一年前に他界した。
深妙流筧道場を継いだが、門人はいない。
無外流花尾道場での代稽古からの帰り道で、求馬は若い娘が曲者に襲われているのに遭遇する。
忌々しい二年前の屈辱と羞恥を思い出す求馬。
真剣が、斬り合いが、強い相手が怖い。
このまま臆病な負け犬のままでいるのか。
俺は逃げない男になるのだ。

求馬は初めて人を斬り、娘を助ける。
娘の名は茉名。追われる身で、行く当ても身の隠し処もないというので、自宅道場に連れ帰る。
しかし、鷲塚旭伝と名乗る者が現れ、茉名は求馬の命と引き換えに我が身を差し出し、連れ去られてしまう。
自らを負け犬と称し、自分のふがいなさを歎いている時に、茉名の密偵の音若と浪人の楡沼三之丞がやって来て、求馬を小村井村の外れにある商人の寮に連れて行く。
そこで求馬は幕政を牽引する男の嫡子に会い、剣の腕を認められ、茉名の身の上と事情を知らされる。
自分の不甲斐なさから茉名を奪われたと思う求馬は、幽閉されている茉名を救い、その後、命を狙う者たちから茉名を守り、蓮台寺へ送り届けることを決意する。

谷中の用心棒』とは違い、主人公はまだ剣士としては半人前。
ありきたりではありますが、心寄せるお姫様を無事にお国に送り届けるために戦います。
実ることはない恋とは知りながら、死をものともせずに戦う姿が好ましいです。
でも、自分を卑下し過ぎなところがちょっと気になります。
こういう言葉は今はNGですが、しいて使わせていただきます。
女々しいですww。
茉名の方が凜々しいです。流石です。
まあ、このお話は求馬の剣士としての成長物語ですから、仕方ないかもしれません。
求馬が谷中の用心棒の大楽みたいになるには時間がかかりますね。

このお話もシリーズ化し、求馬が公儀御用役として活躍していくのでしょうね。
そして、その合間に茉名からSOSが来て、白馬の騎士、求馬は駆けつけるのでしょう。
今後の求馬の成長と活躍が楽しみです。

読んだ時代小説二冊2024/05/02



テッセン(クレマチス)が満開です。


つるバラも綺麗な姿を見せてくれています。
あっという間に五月です。
20度以上の日が続き、春を通り越して夏が来そうです。



風野真知雄 『魔食味見方同心一 豪快クジラの活きづくり』
「第一話 化かされそば」
殺された兄の仇討ちを成し遂げた月浦魚之進は兄嫁に心を寄せていたが、八州廻り同心・犬飼小源太の娘のおのぶと出会ってから、いつの間にかおのぶのことが好きになっていることに気づき、おのぶに求愛する。
どちらの親も大喜びで、二人は求愛の三日後に祝言を挙げる。はや、笑。
ある日、岡っ引きの麻次が化かされそばの話を聞き込んでくる。
深川の海辺橋のたもとに出ていた屋台の店で、うどんを頼んだのが、食っているうちに、いつの間にかそばになり、おやじだったはずの店の者が、きれいな女になり、そして、巾着に入っていた銭がぜんぶなくなっていたそうだ。
魚之進は麻次とともに深川に向かう。
「第二話 化粧寿司」
おのぶが鎌倉河岸にできた<化粧寿司>を食べてみたいと言い出す。
見た目もいいし、味もいいという。
並ぶのはおのぶに任せ、魚之進は店の裏口をのぞくと、外に立っている男と店の中にいる女が話しているのが聞えた。女は化粧師はやめたというのに、男は寿司と化粧師の両方をやればいいとしつこく女に言っている。
気になった魚之進は化粧師について調べてみると、化粧寿司の女はおきわといい、顔を別人のように変えることができることがわかる。
化粧の裏に隠された悪事を暴こうとする魚之進。
「第三話 カラスの黒鍋」
馬喰町の一膳飯屋で昼飯を食っていると、隣の縁台から「カラスを食っているやつらがいるんだよ」という声が聞えてきた。
魚之進が声をかけると、神田川の川原で鍋で煮たやつを食っていたという。
川原まで行ってみると、男が四人集まって鍋を囲んでいる。
彼らは食い詰めて奥州から江戸に来たという。咎めだてするほどではないと思う魚之進だったが、カラスは本当に食べられるのかが気になる。
お奉行が言っていた魔食会になんでも食う人がいるらしいので、紹介してもらい会いに行く。
「第四話 クジラのいきづくり」
魚之進はおのぶと秋祭りがおこなわれている小網町の神社にやって来た。
タコのぶつ切り焼きを食べて金を払い、「豪快だな」と声をかけると、あんちゃんにこの世で最高に豪快な食いものはクジラの活きづくりだと言われる。
クジラ漁師が銛を打ったところに、客たちがクジラの背中によじ登り、皮を切り、刺身を取って味わうというのだ。
奉行に話を聞くと、魔食会の面々も、何人か体験しており、死人も出ているという。死人は皆、溺死だったらしい。
仕切っているのが、潜りの八蔵というやくざの親分と聞き、気になった魚之進は調べてみることにする。

いつも面白い題名に感心している風野さんのシリーズものです。
こんな食べ物、本当にあるのかと思えるものばかりです。
風野さんの創作なのか、本当に江戸時代にあったのか、気になります。


筑前助広 『谷中の用心棒 萩尾大楽 外道宿決斗始末』
御禁制品である阿芙蓉(アヘン)の密輸を行っていた玄海党を潰した萩尾大楽は、故郷の斯摩藩姪浜に用心棒道場を開いた。
予想だにしなかったことだが、玄海党という重石がなくなったことで、福岡・博多の秩序が失われ、第二の玄海党にならんと覇を唱える集団がいくつも現れ、治安が悪化していた。
そんな中、第二の玄海党になり、阿芙蓉を含む抜け荷の道を奪取し、玄海党が瓦解して空白地となった博多を支配しようという野望を持つ男がいた。
その男は自分の野望の前に立ちはだかる大楽を亡き者にするために、薩摩藩主と手を組み、刺客を送りこむ。
大楽たちの命を賭けた戦いが始まる。

大楽は無欲で、玄海党に勝っても権力を持とうとはしませんでした。
それが彼の美学なのでしょうね。
前回は玄海党との戦いでしたが、今回はその後釜を狙う破落戸集団、丑寅会との戦いです。
戦いの場面を楽しみにしていたのですが、とっても短くて、残念。
あっけなく終わってしまいました。
男臭さがプンプン香る、珍しいハードボイルド風時代小説です。
そういう小説がお好きなら、読んでみて下さい。

西條奈加 『姥玉みっつ』2024/04/26

昨年、別のお宅の庭に咲いていたナニワイバラが、他の家の庭にも咲いているのを見つけました。


育てやすい花なのでしょうか。


モッコウバラの黄色とコバノランタナの紫がきれいです。
一軒家なら庭に好きなものを植えられるのですが、マンションだと色々と規約があって、残念ながら勝手に庭に植物を植えたりできません。
こうして他のお宅の花を見て、季節の移り変わりを楽しんでいます。



お麓は静かな余生を送ろうと思っていた。
そこに運よく打ってつけの仕事が舞い込む。
名主宅の書役だ。
給金は下働きの女中と変わらぬ程度だが、店賃なしで『おはぎ長屋』に住める。
これで老後の安泰は約束された。心ゆくまで閑かさを味わえるなどと思っていたら、一年後にとんでもないことになる。
というのも、八歳の時に手習い所で出会った幼馴染みのお菅とお修が毎日欠かさず訪ねてきてはどうでもいい話をしゃべり散すのだ。
そのため仕事が滞る。
そうこうするうちに、お管がお麓の長屋に転がり込み、半年後にはお修が同じ長屋に住み始めた。
嫌だといったのに、毎日一緒に朝食を食べることになる。

お管は二年前に亭主を亡くし、息子たちに世話になっていたが、嫁たちに厄介者あつかいされ、お麓のところに転がり込んだのだ。
お修は若い頃は水茶屋で働き、とうが立ってからは料理屋の仲居を務め、三十路半ばに湯島の金物問屋、戸田家の後妻に収まったが、亭主が亡くなり、なさぬ仲の娘とその亭主に戸田家から追い出され、隠居家に移されそうになっていたという。

そんなある日、お管が裏の萩ノ原で人を見つけたと言って飛び込んで来た。
母と娘の親子で、亭主から命からがら逃げて来たという。
二日後の朝に、母親は亡くなる。
娘は声が出せないので、彼らの素性はわからない。
お麓や名主と大家は反対したが、お管はきく耳をもたず、娘の面倒をみるといってきかない。
感情だけで突っ走り、後先なぞ考えないのがお管だ。
結局、子供は「迷子」あつかいとなり、おはぎ長屋で預かることになる。
とりあえず名前を「お萩」とした。

お萩を預かることになった三人の婆たちは師匠となり、お修は着物の選び方と買物案内、お管は料理や掃除の仕方、お麓は読み書きを教えることにする。
お麓はお萩と接するうちに、彼女は良家の娘で、自分たちを謀っているのではないかと思うようになる。

しばらくしてお萩を里子にもらいたいという話が出る。
もちろんお管は大反対。
お麓は里子の話に胡散臭さを感じ、裏がないか調べてみる…。

三人三様の婆さまたちですね。
お麓は嫌とはいいつつも、結局はすべてを受け入れてしまう、強くでられないお人良し。
お管は世話好きで情に厚いのはいいのですが、何でも自分の意のままにしようとする人で、一緒にいると疲れそう。
お修は金にうるさいところがあるけど吝嗇家ではなく、気兼ねなく人にふるまう、身なり以外にはこだわりのない人で、いい男に弱く、ちょっと毒舌家。
この三人に名主の杢兵衛と大家の多恵蔵、建具師の糸吉、貸本屋の豆勘、そして歌会の師匠で境川家の家中の椿原一哉という脇役たちが登場し、みんな一体となり、お萩を救うために立ち上がります。
気持ちの悪くなるところが多少ありますが、概して痛快な人情ものです。

「感情は身の内に留めておくと、たちまち腐り出す。恨みつらみや怒りとなってわだかまる」そうですので、まめに発散しましょうね、笑。

三人の婆さまたちが旅に出るという続きがあるといいですね。

あさのあつこ 『碧空の音』2024/04/17

闇医者おゑん秘録帖シリーズの四作目。


おゑんのところにお竹という女がやって来て、子どもを産ませてくれとおゑんに頼んだ。彼女は何かを怖がっていた。
二日後、お竹の陣痛が始まった。
しかし、男の子を産んだ後に、お竹は亡くなる。
子どもはしばらくおゑんのところで育てて、しばらくしてから里子に出されるが、おゑんは躊躇していた。
というのも、前に里子に出した子が亡くなっていたのだ。
夫婦に子ができた頃から邪険に扱われ、近所では虐め殺されたのではないかと噂していた。
子どもたちが幸せに元気に育つために、おゑんは策を練っていた。

そんな頃、吉原の首代・甲三郎がやって来る。
惣名主・川口屋平左衛門がおゑんに来て貰いたいと言っているという。
行ってみると、座敷持ち女郎の桐葉に子を産ませて貰いたいという。
彼女は大店の主人に身請けされることが決まっていて、その主人の子を身籠もっているというのに、産みたくないと自死しようとしたらしい。
おゑんは桐葉を預かることにするが、なんとも不可解な女だ。くるくると人が変わるみたいなのだ。
大店の主人の女房にはなりたいが、頑なに子は産みたくないと言う。
おゑんは桐葉の過去が関係しているのではないかと思い、探ってみることにする。

おゑんは今で言う産婦人科の医師みたいなもんで、彼女のところに主に女性たちは子どもを堕ろしに来ます。
女性はみな堕ろしたいわけではないのです。できれば産みたいのですが、色々なしがらみがあるのです。
そんな彼女たちにおゑんは子を生かすかどうか決めさせます。
今回は子を生かすために、おゑんが頑張る姿が神々しいですね。

何やら陰のある甲三郎がこれからおゑんとどう絡んでいくのか、楽しみです。
彼の過去が気になります。
おゑん同様にとんでもないことが隠されていそうです。

お勧めのシリーズですので、気になったら手に取ってみてください。

闇医者おゑん秘録帖 (2013年2月)
④闇医師おゑん秘録帖 碧空の音

馳月基矢 『儚き君と 蛇杖院かけだし診療録4』&『風 蛇杖院かけだし診療録5』2024/03/31

「蛇杖院かけだし診療録」シリーズの四冊目と五作目です。


旗本の次男坊の長山瑞之助は悪いかぜにかかり、医師から匙を投げられたのにもかかわらず、蛇杖院で助けられたことから、小児科医への道を歩むことにした。
今は蛇杖院で見習い医師として働いている。

ある日、瑞之助は蛇杖院の僧医である岩慶に連れられ、蛇杖院のある小梅村から武蔵国多摩郡日野宿の石田村にある千波寺にやって来た。
千波寺で世話をされている全身の力が失われていく病に冒されたそよという患者を、蛇杖院で預かって面倒を見ることになったので、迎えに行ったのだ。

おそよの病の進行を止める手立てを探すが、見つからない。
瑞之助は日中はおそよの側にいて、できるだけおそよが痛みを感じないようにと心を砕いていた。
彼の献身ぶりを見て、蛇杖院の人々は心配するが、瑞之助は意に介さなかった。

蛇杖院が流行り病の源になるとか、おそよが患う奇病についての嫌な噂が広がっていく。

おそよは呉服を商う加賀屋の一人娘だったが、十年前に疫病神強盗に入られ、店の者たちは皆、殺され、おそよだけが助かった。
その時に賊を引き入れた小卯吉という男がおそよが蛇杖院にいるという噂を聞き、十年前の復讐を企てていた。
奉行所はかつて見逃した小卯吉が再び暗躍しているのを知り、悪党どもを一網打尽に捕らえようと画策していた。
おそよは自ら囮になることを申し出る。

瑞之助は自らの思いを封印し、おそよとはあくまでも医師見習いと患者として接しようとしていましたが、おそよはどうだったのでしょうね。
おそよとの悲しい別れを通し、彼は医師として、一回り大きくなれたのかもしれません。


瑞之助の姉の和恵が手紙を寄越し、正月五日に会うことになる。
やって来たのは和恵と姪の喜美、そして喜美の許嫁の沖野駒千代。
駒千代は病弱で、重篤な喘息に苦しんでいるので、蛇杖院で療養させて欲しいというのだ。

駒千代の面倒を瑞之助が見ることになるが、駒千代は瑞之助とは口をきこうともせず、言うこともきかない。
瑞之助は彼をどう扱ったらいいかわからず、振り回されて疲弊するばかりで、治療は進まない。

そんな頃、蛇杖院に対して恨みを持つ者たちが、蛇杖院を潰そうと謀を巡らしていた。

果たして瑞之助と駒千代の心が通い、治療がうまくいくのか?
そして、蛇杖院はどうなるのか…。

たびたびおそよの面影を思い出す瑞之助。
彼はやっと自分の気持ちと素直に向き合えるようになりました。
小児科医になりたいとは言っていましたが、駒千代のような性格がひにくれている(ゴメン)子どもと接するのは初めてなので、大分苦労します。
仕方がないですね。
これからも色々な患者がやって来ますから、頑張りましょうね。

一人の患者と真摯に向き合う瑞之助を描くのはいいのですが、二冊共に最後に大捕物がありました。
このパターンは次も続くのでしょうか?
特に捕物はなくてもいいような感じですけどね。

シリーズの最初から載せておきます。

④『儚き君と 蛇杖院かけだし診療録』
⑤『風 蛇杖院かけだし診療録』


<今日のわんこ>
残念ながら、パパが公園に連れて行ってくれませんでした。


それでもお散歩は楽しいみたいです。


20度を超えると暑く、暑さに弱いヨーキーはハァハァしてます。

松下隆一 『侠』2024/03/29

何でこの本を借りたのかなと思いながら読み終わり、本のことを調べてみると、太田愛さんの『未明の砦』と共に第26回大藪春彦賞を取っていました。
この二冊、まったく違うジャンルなのに、同じ賞を取ったのですね。


銀平は古里の蕎麦を出す蕎麦屋を営んで三十年。元名うての博奕打ち。
半年前から腹痛が起き、父親と同じ症状ゆえ、死を覚悟している。
儲けを考えず、蕎麦を作るのは一日二十杯、一杯十文という破格な値段だ。
小さなボロ小屋の店なので、来るのは小者や夜鷹、物乞いの親子などの常連客ばかり。

ある日、銀平が昔人足として働いていた忠兵衛の息子の丑吉がやって来る。
銀平にこれから所場代を取るといった後に、久しぶりに八州博奕をやらないかというのだ。
銀平は断る。

それから銀平のところに思いもかけない人が現れる。
逃げた元女房のおようだ。おようはあまりいい暮らしをしていないようだ。

ちょうどその頃、賭場のあがりを盗んだ清太という若者が店に転がり込む。
銀平は盗んだ金を返しに行き、清太の代わりに自分の命を差し出そうとするが、忠兵衛に恩のある権蔵親分は金が戻ったからと、話を終わらせる。

銀平は行き場のない清太を蕎麦屋で働かせる。
清太は思いがけず商売っ気があり、店は繁盛していくが、常連客は来なくなる。

銀平はおようともう一度やり直そうと思い、会いにいくが…。

自分の命の終わりを意識し、若者の未来に自分の命を託そうとするのですが、若者は思慮が浅く、大馬鹿ものです。
銀平さん、一世一代の大博奕ですね。
でも、捨てたもんじゃない。お天道様はちゃんと見ている。

思った通りにお話が進み、意外性はありませんでした。
作者は脚本家の方らしく、スイスイ読んでいけます。
時代小説の初心者の方は読みやすいと思います。
人情物時代小説がお好きな方向けのお話です。

髙田郁 『幾世の鈴 あきない世傳 金と銀 特別巻下』2024/03/25

「あきない世傳 金と銀」シリーズの特別巻『契り橋 あきない世傳 金と銀 特別巻上』に引き続き、下がやっと出ました。
といっても、わたしはしばらく寝せておきましたけど、笑。


第一話 暖簾
明和九年。
五十四歳の周助は五十鈴屋の八代目を継いでから十七年になる。
彼はかつて「桔梗屋」の番頭をしていた。「桔梗屋」は無くなり、五鈴屋高島店の支配人として迎えられ、今は八代目ではあるが、彼は桔梗屋再建の願いを抱いていた。
如月に、江戸で未曾有の大火災、「行人坂の大火」があった。
五鈴屋江戸本店は焼失したが、幸いなことに主従の誰も欠けず、四つの蔵も無事だった。
五鈴屋江戸本店は来夏から再建に取りかかるという。
実は大川に町橋が架かるのを待ってから、賢輔が七代目(幸)と夫婦になって、九代目を継ぐという話になっていた。
この話はどうなるのかと思う周助。
そんな時に六代目徳兵衛こと智蔵の隠し子が見つかる。

第二話 菊日和
大阪から江戸に移って二十三年。幸が江戸を発った。
菊栄は惜しくてならなかったが、幸の「幸」を願わずにはいられなかった。
幸が江戸を去った後、本両替商「井筒屋」の店主、三代目保晴、幸の二人目の夫でもと五鈴屋五代目徳兵衛、が菊栄の心の支え。
彼女は小間物商「菊栄」の店主として、新たな流行りを生み出そうと奔走する。

第三話 行合の空
かつては江戸屈指の本両替商、音羽屋忠兵衛の後添いで、呉服商「日本橋音羽屋」の女店主だった結は、播磨国、赤穂郡の東の端、揖西との境にいた。
忠兵衛は旅籠「千種屋」の主で、娘が二人いる。
今の境遇に満足している忠兵衛に対し、結は未だ出来た姉、幸への嫉妬や憎しみに囚われていたが…。

第四話 幾世の鈴
五鈴屋が創業百年を迎えた翌年の天明五年、幸は還暦となる。
次なる百年へ、「買うての幸い、売っての幸せ」を受け継ぎ、末長く五鈴屋の暖簾を守り、売り手も買い手も幸せにする商いを、続けていってほしいと願う。
そのためにどうしたらいいのか。
そして、次の十代目を誰に任せたらいいのか…。

菊栄さんと惣ぼんさんは同志みたいなもんですね。
そうそう、一番心配だった幸の妹、結のその後が書かれていて、ホッとしました。
あのままでいると、餓鬼道に落ちるところでした。
まだまだ諦念の心に達することはないかもしれませんが、そこにある幸せをしっかりと捕まえていて欲しいと思います。
いつか姉妹が会えるといいですね。

店の再建よりも焼け出された人たちのことを優先したり、御用金が打ち切りになったのに、尼崎藩にそのまま貸し付けたりと、幸は目先の利益を追いません。
「万里一空」の精神でしょうか。
よい十代目が決まったようです。

ラストにふさわしいお話でした。
作者によると、これからも五鈴屋の後継者たちのお話を書き続けるそうです。
楽しみに待ちましょうね。

読んだ時代小説シリーズ(文庫本)2024/02/29



見かけない花が咲いていました。ロドレイアという花でしょうか?


散歩で写真を撮ろうとすると、横を向く弟ですが、珍しく顔を向けてくれました。
歯がそろっていて、絶対に噛みませんが、手からおやつをやるときは噛まれそうで怖いです。

さて、今回は主人公が思慮分別のある大人の時代小説シリーズです。
主人公が若い女性よりも、酸いも甘いも噛み分けている大人の方がお話としては面白いです。


知野みさき 『相槌 神田職人えにし譚<6>』
「第一話:雪の果て」
縫箔師の咲の妹、雪が大工の小太郎と祝言を挙げる。
その頃、咲は妹が奉公にでるので、餞別にと守り袋を頼まれる。

「第二話:友誼」
瑞光堂に出来上がった匂い袋を届けに行くと、前に住んでいた長屋の住人、お素とお駿に出会う。
駿は大の噂好きで、咲のことを根掘り葉掘り訊こうとする。困った咲に同じ長屋の駕籠舁き典馬が助け舟を出してくれた。しかし、次の日、駿はわざわざ咲の長屋までやって来る。今度は修次に助けられる。
しろとましろの双子のところに幼馴染みの花野がやって来たので、彼らは江戸を案内しているらしい。
咲は孫への江戸土産として孔雀の羽の意匠の守り袋を頼まれる。

「第三話:相槌」
柳川で手習い指南所の師匠のお壱と知り合いになり、彼女から駿が咲の根も葉もない噂話をしていることを知る。
咲の所に親方の三四郎がやって来て、急ぎの注文を引き受けてしまったが、二人の弟子を使えなくなったので、仕事を手伝ってもらえないかと言う。複雑な気持ちではあったが、咲は引き受ける。
同じ頃、咲と修次は吉原の玉屋の秋海に贈る秋海棠の意匠の簪と簪入れを頼まれていた。
意匠に迷った咲は壱に頼んで、秋海に会わせてもらうが…。

ひとつひとつのお話の中に様々な人間模様が描かれており、最後はしあわせな終わり方です。
修次との仲は進みませんが、神鹿(?)らしき花野が言った二人への注文がどんなものか、次が楽しみです。

風野真知雄 『わるじい義剣帖 <二>ふしぎだな』
「第一章:こそこそ医者」
孫の桃子が熱を出した。じいじの愛坂桃太郎は騒ぐが、母親の珠子は慌てもしない。いつも頼む医者の慈庵は箱根に行っており、別の医者を探すと、魚屋が名医を連れてくる。医者は柳の枝を置いて帰っていくが、桃太郎は怪しく思い、医者の後をつける。医者はそば屋の卯右衛門の店子で、向井永大というらしい。桃太郎は卯卯右衛門に向井が本当に医者かどうか確かめる。そして色々な人々に当たっていくと、向井に五両盗まれたと言う話が出てくる。

女絵師お貞を殺した下手人はまだ捕まらない。桃太郎はお貞の錦絵を調べていくうちに途中で絵柄が急に変わっていることに気づく。

「第二章:よみがえった汁粉」
桃子の手を引きながら、以前住んでいた坂本町に行くと、人だかりがある。三十年前に流行っていただるま汁粉が、三十年ぶりに復活したというのだ。なんとまあ、桃太郎の妻の千賀やそば屋の卯右衛門までもが並んでいる。
ところが翌日、友の朝比奈と一緒に食べに行くと、閉店していた。
桃太郎はおきゃあとおぎゃあの二人と卯右衛門に頼まれ、何故閉店したのか調べることになる。

お貞殺しの件では、雨宮からお貞が変な神様を拝んでいたことを聞く。
驚いたことにおぎんがお貞の友だちだったという。

「第三章:子どもの酔っ払い」
桃太郎が山王旅所の裏手の芭蕉堂のわきを通りかかった時、呂律が回っていない、酔っ払いの言葉が聞えて来た。声は子どものものだ。おかしいと思い見てみると、七、八歳くらいの町人の子が、どこかの手代になりきって話している。桃太郎が話しかけると、逃げるように立ち去ってしまった。
翌日、桃子と歩いていると、後ろから酔っ払いの真似をしていた子どもと父親がやって来る。どうやら子どもの名は福助と言うらしい。
それから一刻ほどして、山王旅所の境内で福助を見かける。
武士の子に蹴られた友だちの仕返しをしているようだ。
福助に興味を持った桃太郎は、子を知るには親を見ろ、ということで父親のほうを探ってみることにする。

「第四章:帯切り屋」
桃太郎が妾にしようと思っていた(笑)、おぎんが殺された。
おぎんはお貞の友人で、お貞同様の殺され方をしている。同じ下手人か、と思う桃太郎。
そんな頃、日本橋界隈で帯切り屋が出る。三年前にも出て、七十人ぐらいが切られたという。
雨宮が関わるお貞殺しとおぎん殺し、そして二度目の帯切り屋の下手人が挙らずじまいになりそうだということで、珠子も八丁堀の通りを歩きにくかろうと思った桃太郎は帯切り屋のほうを手伝ってやることにする。

相変わらずの孫の桃子ラブのじいじこと桃太郎です。
なかなか捕まらないお貞とおぎん殺しの下手人ですが、次回に何か動きがありそうです。

和田はつ子 『信長餅 料理人季蔵捕物控』
いつものように日本橋にある季蔵の一善飯屋塩梅屋に北町奉行の烏谷がやって来る。今回の役目は料理番が突然いなくなった稲穂屋敷に夕餉を届けてほしいというものだった。

稲穂屋敷はなんとも不可解な屋敷だ。家名もなく、歴代の物書同心の日誌にはあるが奉行所に集められている資料にない。屋敷の者たちは屋敷から外へは一歩もでてはいない。何人の者たちが主に仕えているのかもわからない。市井の小町娘たちが跡継ぎを産むためにさらわれているという草子が書かれている。主には人の顔がなく、鬼の面をつけているという話も語り継がれている。草子に書かれている鬼の面の主は実は人食い鬼で、人肉を肴に酒を飲むという血まみれの酒池肉林を好む大悪党に書かれているという。

その頃、浅草観音の境内で首と胴体が離れている小柄な男の骸が見つかる。
顔には鬼の能面が被せられていた。
田端は鬼刑骸ではないかと言う。鬼刑骸とは、稲穂屋敷の掟を破った者に科された刑罰である。
季蔵はその骸が行方不明の料理人もものではないかと思う。

そういう時に、廻船問屋長崎屋の主、五平が塩梅屋にやって来る。
彼が大変世話になった酒問屋上千屋の新酒を積んだ樽廻船が難破し、師走始めに入るはずだった新酒を失くしてしまった。上千屋の息子は放蕩者で、呑む打つ買うの生活を続けており、そうこうするうちに主の白右衛門が倒れてしまい、思いあまった娘のお嵯峨が五平を頼ってきた。それで五平は余計な助言をしてしまったという。お嵯峨に、びんずる大黒という神様を見つけ、特効薬を願って授かると、驚くほどの長寿をまっとうした患者がいるという話をしたのだ。
お嵯峨はびんずる大黒のある破れ寺を探し、特効薬を手にいれた。「何かわたしにできるお礼をさせてください」という文を添えると、特効薬と金子に「父親の薬を授け続けるゆえ、娘は得意な料理で使えよ」という文を添えてきた。そしてある日、駕籠がお嵯峨を迎えに来て、お嵯峨が乗った駕籠は稲穂屋敷に入って行ったそうだ。

季蔵は稲穂屋敷に出向く。
季蔵は稲穂屋敷に綿々と続く秘密を暴き、今回の難所を乗り越えることができるのか。

季蔵の思い人、瑠璃とは進展はないのですが、彼女の描く不思議な絵が気になります。
お嵯峨さんのような女性は素敵ですね。
誰もが幸せな人生を歩んでいけるといいのですが。
米麹を使った料理が美味しそうでした。麹って造り酒屋以外のどこで売っているんでしょう?

読んだ時代小説(文庫本)2024/02/26

主人公が若い女性の軽く読める時代小説、三冊です。


泉ゆたか 『京の恋だより 眠り医者ぐっすり庵』
茶問屋・千寿園の跡継ぎ娘の藍は、京からきた長海和尚の眠りの悩みを解決したことから、京の宇治にある長海和尚の萬福寺で茶のもてなしの心を学ばせてもらうことになる。
旅先では危ない目に遭うが、なんとか無事に京に辿り着く。
萬福寺で兄の松次郎と長崎で医学を学んでいたという医者の幸四郎と出会う。
長海和尚からしばらくの間、幸四郎を手伝いをするように言われる。
仕事に熱心で困っている人に親切な幸四郎に引かれていく藍だった。

長海和尚、いいこと言ってます。
「皆と一緒に苦労して並ぶから楽しい。延々と並んだ末にようやくありつくからこそ、もっと美味しい。生きるとは押し並べてそんなもんですぞ」
「一日一つの新しいこと」
「何事も、腹八分に奮闘し、残りの二分はただ日々を楽しんで生きるのがよろしい」
「その場を離れること(=旅)で、周りを、つまりは己の目を見直すことができる」

京から江戸に帰らなければならない藍は幸四郎への思いをどうするんでしょう。
今回出てきた「すらあぷん」という猫が可愛らしいです。
どんな猫も人を眠りを誘うものなのでしょうか?

中島久枝 『おでかけ料理人 佐菜とおばあさまの物語』
佐菜はおばあさまと二人で味噌屋の角を曲がった奥にある家に住んでいる。
佐菜は日本橋の老舗「三益屋」の娘だったが、佐菜の母が亡くなり、父が後添いをもらったことから、おばあさまとともに室町の別邸に移った。その後、父が亡くなり、三益屋が店を閉じてしまい、ひと月前に神田に越して来たのだ。
自分たちで暮らしを立てなければならなくなったので、おばあさまは手習い所をはじめ、佐菜は内気で客とろくに話も出来なかったが、おかねの煮売り家で働くことになる。佐菜は料理が好きで、手先が器用で、いい目と耳を持っていた。

ある日、おかねに言われて佐菜が作った白和えと大根の葉の炒め物を店で売ることになる。
そうすると、家に来て朝餉に白和えをつくって欲しいという依頼がくる。
食の細い専太郎という子が白和えを気にいったというのだ。
佐菜は専太郎にふさわしい料理を考え、作って食べさせる。
少しずつ佐菜が家に来て料理をしてくれることが広まり、依頼が来るようになる。おかねたちに勧められて、佐菜はおでかけ料理人の看板を出すことにする。

佐菜が心配には無駄な心配と必要な心配があり、自分には無駄な心配が多いが、心配したようなことはなにも起らなかったと言っていますが、その通りですね。
わたしも無駄な心配が多かったですww。
おばあさまが「家の味というのはね、自分たちがどこから来たのかってことの証ですよ。その人の心棒です」って言っていますが、そういうものなのでしょうかね。
故郷の味ってわたしにあるかしらと思ってしまいました。

蛸飯とか筍料理が美味しそうです。
江戸時代にも出張料理人がいたのでしょうか?
一度でもいいから頼んでみたいですけど、なにしろ汚い家なので、できませんわねぇ(恥)。

平谷美樹 『貸し物屋お庸謎解き帖 髪結いの亭主』
貸し物屋湊屋の両国出店の店主、お庸が貸し物の蔭に隠れた謎に挑むシリーズ。
今回の貸し物は、髪結いの道具を入れる台箱、割れた鼈甲の櫛、石斑魚(うぐい)釣り用の六尺くらいの竿と道具一式、ボロボロの拍子木、大火鉢と夜具。
お庸は十八になり、この頃大人びてきていて、前のようなヤンチャはしなくなりました。湊屋本店主の清五郎への思いも封印しちゃうみたい。
普通の女の子になっちゃうようです。なんだかつまらないですね。

そういえば、侍以外の若い男性が主人公の時代小説ってあるかしら?
わたしはあまり読んでいないみたいです。


<今日の美味しいもの>


久しぶりのスコーンです。
これは固いスコーンで、朝ごはんにOIKOSヨーグルトを付けて食べました。
カップのヨーグルトで無糖ってあまり売っていないですね。

人生、いろいろありますという本(文庫本)2024/01/18



もも吉は京都祇園の元芸妓で一見さんお断りの甘味処「もも吉庵」を営んでいる。
メニューは四季おりおりの麩もちぜんざいだけ。
「もも吉庵」に今日も悩みを抱えた人たちが相談に来る。

「第一話 幸せの四つ葉探して京の春」
昼は個人タクシードライバー、夜は祇園甲部の芸妓という美都子が幼馴染みの建仁寺の塔頭・満福院副住職の隠善と甘いもんを食べにいった帰りに、駐車しておいた美都子のタクシーに無理矢理乗り込んできた女性とその旦那、そして幼いこども。
女性は切羽詰まった感じで、何か緊急事態かと思った美都子は彼らを乗せると、彼女は「前のタクシーを追ってください」という。どういうこと?

「第二話 空豆に商う心教えられ」
京大出身の皆川遙風は第一志望のメガバンクから内定をもらっていたが、銀行が経営破綻したため採用の取り消しになる。就活戦線は既に終盤を迎えており、ゼミの教授の勧めに応じて京都に本社のある京洛信用金庫に就職した。ゼミの同期は日本を代表する大手の銀行や保険会社に勤めているのに、自分はここで燻ったままで一生を終えるのかと思うと苛立ちを覚えてしまう。
そんな時にやっと融資の仕事ができるようになるが、遙風は最初の融資に失敗してしまう。支店長は案内係の朝倉に与信審査の方法を遙風に教えてやってくれと頼む。すると朝倉は遙風を京麩の半兵衛麩へと連れて行く。

「第三話 祇園会の会議は踊るおもてなし」
「風神堂」の斉藤朱音と若王子美紗は「祇園祭黒子会」の会議の幹事を任される。
「祇園祭黒子会」とは、祇園祭の裏側で、黒子のように見えないところで働く有志の集まりだ。第一回会議が開かれ、会議は紛糾し、議長を務めた明智夢遊は困ってしまう。というのも力になってくれると言っていた庭師の山科仁斎がことの発端になったのだ。朱音は夢遊のために、場を和ませようと策を巡らせる。

「第四話 おむすびに込めた愛あり萩ゆる」
渡辺真凜は困っていた。小学一年の娘、彩矢が遠足におむすびを持って行きたいと言い張るのだ。真凜にとっておむすびはトラウマで、作ることも食べることもできない。
そんな頃、父が昔いっしょに暮らしたことのある陶子に指輪を渡して欲しいと言って亡くなる。陶子こそトラウマを引き起こした張本人。ためらいながらも真凜は父のスマホに入っていたもも吉の電話番号に電話をし、陶子の居場所を訊くが…。

「第五話 京セリは雪解けを待ち耐えて生き」
元芸妓、もも雛こと陽向とゲーム会社、サンガエンペラーの社長をしている夫の内山爽馬は苦境に立たされていた。
常務の谷川が会社の金を私的流用し、無謀な投機をしたため、巨額な損失を被り、二度の不渡りを出していた。その上、内山が命令したという告発文のようなものを谷川がネット上にアップしたのだ。
自暴自棄になった内山にもも吉は自分の辛い過去を話す。

人の悩みは様々。そんな人たちにもも吉はそっと寄り添い、的確なアドバイスを施します。
第一話では自分の心次第で物事の見方が変わることを教えてくれます。
第二話には商いをする時に役立つ教えが書かれています。
第三話では朱音がまたまた活躍してくれます。わたしとしては夢遊さんの気持ちに応えて欲しいな。
第四話では陶子の隠された思いが明らかになります。
第五話は涙なくして読めません(たぶん)。
もも吉が世の中のままならぬことを、『出会いもん』として考え、生きてきたのです。そんな彼女だからこそ、沢山の人たちにいいアドバイスができるのでしょう。
最後に食いしん坊の隠源住職の言葉を書いておきます。

「まず自分が幸せにならんと、他人を幸せにでけへんさかいなぁ」

巻末に京都の美味しいお店が載っていますので、ご参考に。


日本橋二十一屋通称「牡丹堂」で働く小萩は、小萩庵でお客の依頼に基づいたお菓子を考え、作っている。

「鹿の子の思い」
ある日、小萩庵に紺屋(染物屋)の十歳の娘、茜がやって来る。
彼女の店で働いている職人の岩蔵に、自分の父親になってもらいたいという願いを込めたお菓子を作って欲しいという。
小萩は彼女の母が得意だという鹿の子絞りにかけた鹿の子と、一見無骨で内側に軽やかで繊細なものをもつ岩蔵を表す練り羊羹の二つを作り、茜の書いた文を添え、岩蔵に持っていくが…。

「黒茶、花茶に合うお菓子は?」
二十一屋は西国の大名、山野辺藩の御用を賜っている。このほど新しい留守居役が着任することになり、顔合わせの場を持つこととなる。
しかし、その日は札差の箔笛の別邸で茶会がある。その茶会では清国のお茶を三種類出すという。そのためお茶に合うお菓子を三種類考え、作らなければならない。
その上、葬式饅頭百個も頼まれる。
顔合わせの当日、二十一屋は総勢七人で山野辺番の髪屋敷に行くが、途中で三人が抜け出す。
しかし、それが見つかり、新しい留守居役から咎められる。絶体絶命の危機。

「とびきりかたい、かりんとう」
小萩庵に国学者・学而の妻、お香とその娘のお花がやって来る。学而が煙草を吸いすぎるので、控えてもらうためのお菓子をお願いしたいという。
話し合いの結果、お菓子の他に謎をかけた和歌を添えることになる。
小萩がお菓子を届に行くと、文治郎という男がいて、禁煙に失敗した学而をからかう。そのため学而はへそを曲げてしまう。せっかくの妻と娘の心遣いがダメになってしまうのか?

「吉原芸者の紅羊羹」
小萩庵に吉原芸者の千代菊がやって来る。このたび二挺鼓の打ち手としてのお許しをいただいたので、自前芸者になるお披露目のお菓子を頼みたいのだという。
別の日、見世で饅頭を買い、ここで食べたいという若い娘が現れる。母が病気で長くないという手紙を出しても返事がない姉をたずねて、はるばる越後から来たという。姉は竜泉の百川で働いていると言うので、お萩は簡単な地図を描いて渡す。
翌日、千代菊のところにお菓子の見本を持って行くと、昨日の娘が現れる。なんと千代菊が彼女の姉だった。娘は米といい、母に顔を見せてやってくれと言うが、千代菊はお披露目があるし、お座敷がかかっているので帰れないと断るが、米は納得しない。その翌日、千代菊が残りの半金をもって来る。
はたしてお披露目はされるのか…。

出てくる和菓子がとても美味しそうで、食べたいです。
初めは頼りなかった小萩がだんだんと一人前になり、人の心がわかるようになってきて、いいお菓子を提案できるようになっています。

茜の言う、「あたしが考える幸せっていうのはさ、にこにこ笑って今日もいい日だったねってご飯を食べることだよ」には驚きました。若いのにわかってらっしゃる。
どの人も他の人の幸せを思った行動をとるのですが、それがうまくいかないのは、人生の機微ってものでしょうか。
最後の「吉原芸者の紅羊羹」には泣かされました。

そうそう茶会に出されるお茶は、「緑茶 碧螺春」と「茉莉花茶 福州白龍珠」、「黒茶 正山頂普洱茶王」です。
「緑茶 碧螺春」は中国十大銘茶の一つで、江蘇省蘇州市の洞庭山で生産される非発酵茶。香りは非常に濃厚で、ほのかに花果の香りがして、淹れた湯の色は青く住んでいて、味は濃厚で後味もいいそうです。
「茉莉花茶 福州白龍珠」はジャスミン茶のことです。
「黒茶 正山頂普洱茶王」はプーラール茶かな?癖があって、好き好きですよね。

これからも小萩庵に次はどんな訳アリお客が来て、どんなお菓子を作るのか、楽しみです。

二冊ともシリーズ物ですが、シリーズが進むにつれて面白くなっていっています。