森明日香 『恋女房 おくり絵師』2025/07/18

「おくり絵師」シリーズの四作目。


「第一話 恋女房」
昨年の十月の大地震で、おふゆの師匠歌川国藤の店舗と工房が焼失した。
国藤は女房と弟子とともに娘のお夏の嫁ぎ先に身を寄せていたが、生計を立て直すために神田須田町に居を構えた。しかし、世の中に絵を買う余裕はない。

そんなところに、岡っ引きの源八がやって来る。町奉行の同心梶原がおふゆを呼んでいるという。梶原は薬研堀の長屋で女が殺されており、その部屋に住む錺職の貞一が殺したと思われるが、貞一は雲隠れしているので、長屋の者たちから話を聞いて、彼の似顔を描いてくれと言う。
貞一はしばらくして見つかる。梶原は貞一のためにおふゆに、いまは亡き貞一の女房おさとの死絵を描くように頼む。

「第二話 腕くらべ」
元菓子屋「卯の屋」の若旦那で、大地震後、行商をしている寅蔵がおふゆに、自分がお世話になっている菓子屋「巳吉屋」が元旦に奉公人に配る菓子折の掛け紙に絵を描く絵師を探していると教えてくれた。
次の日、巳吉屋に行ってみると、目星はついていて、声をかけた手前こちらから断れないので、腕くらべをしないかと言い出す。
相手はおふゆよりも年下の絵師だというので、おふゆはやることにする。

「第三話 白梅の文」
おふゆが三島町で地本問屋を営んでいる佐野屋に絵を届けに行った折に、佐野屋は間に立つからと、おふゆに年の暮れに腕くらべをした相手の住まいを教えてくれた。
相手は高名な絵師の娘で、天賦の才とともに、美貌にも恵まれているらしい。
国藤と同じ流派で行き来はなかったが、仲違いをしているわけではないので、おふゆに気楽に会ってみろと国藤は言う。
おふゆが会いに行くと、全くおふゆとは違う娘がいた。

大地震後、悪戦苦闘する国藤たちでしたが、光明が見えてきました。
今回は死絵は第一話のみでしたが、これからのおふゆの生き方に関わるお話でした。
体が丈夫で寝込むことのないおふゆが病気になり、死を間近かに感じ、自分はこの世を離れる怖さやこの世に留まる喜びも知らなかった、「自分の描く絵は浅かった」と気づきます。
同じ年頃のお友だち兼ライバルもできます。
これからの彼女の描く絵は今まで以上に素晴らしいものになるでしょう。

本の中のいい言葉を載せておきます。
師匠の言葉:「誇りは自らを支えるが、傲りは身を滅ぼす」
おふゆの言葉:「頑なな心は、人を袋小路に追い込む」

シリーズの順番
②『牡丹ちる おくり絵師』
③『夜の金糸雀 おくり絵師』
④『恋女房 おくり絵師』(本書)

コメント

_ ろき ― 2025/07/18 19時46分53秒

安政江戸地震ですか? 生活の立て直しが大変そう。
お友達兼ライバルができるとお互い切磋琢磨して、いいですね。

誇りが傲りにならないよう、自ら戒めたいですね。

_ coco ― 2025/07/19 06時51分06秒

ろきさん、時期的に安政の大地震ですね。庶民は暮らしを立て直すために必死です。
本書では、地震が原因ではないですが、北斎の娘のお栄が行方不明になっています。

絵の依頼もなくなり、どんな些細な仕事でも引き受けて描いていた国藤が言った言葉は重いですね。

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