江戸時代にあった職業のお話(文庫本) ― 2025/01/17
読んだ本が溜まっていますが、少しずつ紹介していきます。
今回は江戸時代にあっても、今はない職業についていた人のお話です。

西條奈加 『御師弥五郎 お伊勢参り道中記』
「御師」とは、もともと「御祈祷師」の略で、「おし」または「おんし」と呼び、平安時代から続く、「特定の寺社に属して、参詣者の参拝や宿泊を世話する」神職のような立場です。
伊勢御師(伊勢の場合は「おんし」と読む)は全国各地に派遣され、現地の伊勢講の世話をし、伊勢参りに訪れた時には自分の宿坊で迎え入れて、便宜をはかったそうです。
今で言う「営業マン」や「広告マン」プラス「ツアーガイド」みたいなもんですかね。
弥五郎は大伝馬町の酒問屋、伊勢屋に世話になっている御師の手代頭だ。
命を狙われた材木商の巽屋清兵衛を助けたのが縁で、伊勢詣でをする清兵衛の用心棒として同行を頼まれる。
清兵衛は何物かに命を狙われているようだというのだ。
心当たりはあるようだが、詳しく語ろうとはしない。
弥五郎は十三年ぶりに伊勢に戻ることになる。
できるだけ道中の難を防ぐために、本所相生町の伊勢講の総勢十人の一行と同行することにする。
果たして無事に伊勢まで辿り着けるのか…。
お伊勢参りの道中が面白いです。
一生に一度と思えば、こんなに楽しい旅はないでしょうね。
今は簡単に旅に行けますが、それだけ旅の印象も薄いですよね。
伊勢には京都旅行のついでに何度も行っていますが、今でも思い出すのは、友だちと高速バスに乗って行った時のことです。
朝の四時か五時過ぎに伊勢市駅に着き、外宮に行こうと歩いていたら、おじさん(タクシーの運転手かな?)が話しかけてきて、「こんな朝早くには神様も起きていないよ」とか言われ、車で赤福の本店に連れて行ってくれて、赤福をおごってくれました。親切な人でした。ありがとうございました。
調べてみると、今でも赤福本店は朝の五時からやっていますが、高速バスは八時ごろに着くようです。
弥五郎と清兵衛に絡む謎解きも面白いですが、それ以上に昔のお伊勢参りの様子が生き生きと描かれていますので、是非読んでみて下さい。

森明日香 『夜の金糸雀 おくり絵師』
「第一話 初しぐれ」
歌川国藤の住み込みの弟子であるおふゆの兄弟子、国銀に縁談が持ち込まれる。国銀は日本橋通りの薬種問屋の次男で、父親の金右衛門は神田の薬種問屋に婿入りし、商売しながら絵を描けばいいと言うが、国銀は断る。親子の間に何やらありそうだ。
ある日、おふゆは金右衛門が地本問屋で錦絵を見ているのを見かける。彼が急に胸を押さえうずくなったので、声を掛け、地本問屋の座敷を借りて休ませた。
おふゆは金右衛門が心から息子の国銀を案じているのを感じる。
この後、おふゆは国銀に金右衛門の忘れ物を預けに行き、父親のことを話すが、国銀は減らず口をたたくばかりだった。
そんなある日、国銀と彼の兄の金太郎がやって来る。三日前に突然、父の金右衛門が亡くなり、おふゆに死絵を描いてもらうようにという遺言があったという。
覚悟を決め、おふゆは引き受ける。
「第二話 夜の金糸雀」
おふゆは国藤から預かった絵を佐野屋に持って行った時に、店先で女絵師、応為栄女ことお栄を見かける。
佐野屋にお栄の肉筆画を見せられてから、おふゆはお栄の絵に気を取られ、ぼんやりすることが多くなる。
国藤によると、父親が亡くなった後、お栄は肉筆画を多く描くようになったので、店頭に絵が並ぶことがなくなり、武家や商家の子女に出稽古をしているという。
ある日、佐野屋からおふゆに店に来るようにとの書状が来たので、すぐに駆けつけると、お栄がいた。佐野屋がおふゆに指南してやってくれと言うが、お栄はそっけない。おふゆも頼むと、見て盗め、と言うだけだった。
「第三話 大地燃ゆ」
おふゆが何やら嫌な予感がしていた日に、地震が起る。国藤も妻のおなみも娘のお夏の嫁ぎ先の横山町に行っていていなかった。
兄弟子の岩五郎とおふゆは横山町に行くことにするが、おふゆはいつしか岩五郎とはぐれてしまう。
神社で一晩を過ごし、おふゆは国藤の家屋があった米沢町に戻ると、家屋は押し潰されていて、何も残っていない。
そこに寅蔵が現われ、みんなが無事であることを教えてくれたので、再びおふゆは横山町に向かう。
国藤たちと合流したおふゆのところに、読売を売っている矢助がやって来る。
おふゆに読売の挿絵を描いて貰いたいと言うのだ。
国藤はおふゆに佐野屋に行き、絵を描けと命ずる。
佐野屋がおふゆに描くように言った絵は…。
葛飾北斎の娘のお栄(1790年ごろに生まれ1860年ごろに亡くなる)が出てくるとは思いませんでした。
おふゆの暮らす時代は、北斎が1849年に亡くなっているので、1850年代で、お栄の生きていた頃と被る設定なのですね。
おふゆは誰かの妻になるということもできるけれど、お栄のような生き方もできます。どちらの道を選ぶのでしょうか。
私としてはおくり絵師として頑張ってもらいたいですが。
お話としては、残念ながら今回もそれほど感動しませんでした。
次作に期待します。
コメント
_ ろき ― 2025/01/17 20時25分25秒
_ coco ― 2025/01/18 07時01分23秒
ろきさん、旅行会社がない時代ですから、御師がいないと旅慣れていないと、伊勢まで行けませんよね。今は楽に旅行に行けて、いい時代になりました。
おくり絵師も今は写真がありますから、仕方ないですね。
どこでも眠れる人なら、高速バスでも大丈夫。私はダメです。
おじさんのこと、覚えていませんか?
おくり絵師も今は写真がありますから、仕方ないですね。
どこでも眠れる人なら、高速バスでも大丈夫。私はダメです。
おじさんのこと、覚えていませんか?
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最近は高速バスも快適になったようですが、やっぱり若くないと辛いかなw
おじさんが良い人でよかったです。赤福、食べたいなー。