堂場瞬一 『英雄の悲鳴 ラストライン7』 ― 2025/03/13
『罪の年輪 ラストライン6』に続く、「ラストライン」シリーズの七作目。

五十六歳になった岩倉剛は立川中央署から警視庁捜査一課に復帰し、南大田署時代に指導した愛弟子の伊東彩香とまたコンビを組むことになる。
恋人の赤沢実里は母親の看病や連続ドラマの出演などで忙しく、なかなか会えない状態が続いている。
娘の千夏は大学4年になり、就活のことが気がかりだ。
捜査一課は若い女性ばかりが犠牲になった連続殺人事件の捜査に追われていたが、岩倉は待機状態で関わっていない。
暇を持て余している時に、町田市の公園で三十歳ぐらいの男性の遺体が発見される。
スマホや財布などの遺留品はなく、凶器らしき刃物とネックレスがあったが、目撃者も出ず、防犯カメラにも人の姿が映っていなかった。
厄介な事件になるのではないかと岩倉は思う。
たまたま岩倉が自販機のコーヒーを買いに行った時に、地域課がざわついており、気になったので、地域課長に聞いてみると、怪我して保護した女性が病院を逃げ出し、一度家に戻ったのに、家を出ていったという。
事件か事故かわからないらしい。
岩倉のアンテナが危険信号を受信していた。
やがて車のキーから被害者の身元がわかるが、周辺捜査を続けていくと、被害者の隠された姿が浮かび上がってくる。
しばらくして岩倉はなんの気もなく関わった女性の失踪事件に駆り出される。
三つの事件は思わぬ展開を見せ、絡み合い、意外な様相を見せていく・・・。
意外だったのは、あのおっさん臭い岩倉が、今回、丸くなっていることです。
五十六歳にもなると、定年を踏まえて、後輩を指導しようという気になるんでしょうかね。
『時効の果て』では追跡捜査係の西川を振り回していたのに、今回はそれほどパワーが全開になっていません。
どうしちゃったんでしょう。
このシリーズには堂場さんの他のシリーズに出てくる人たちがよく参加しています。
特にイケメン大友鉄が出てくると、私的には嬉しいです。
なんと彼は五十歳を過ぎていてもハンサムですって。
捜査一課強行犯係に復帰し活躍しています。
一人息子は大学を卒業して働いているんですか。
岩倉よりも大友の方の活躍が読みたいです(ごめん)。
今回は岩倉のおっさん臭さはあまり気になりませんし、結構面白い内容になっています。
このシリーズ、このまま岩倉が定年になるまで続くのか、楽しみになってきました。
次回は五十七歳になった岩倉が活躍するんでしょうかね。
若竹七海 『まぐさ桶の犬』 ― 2025/03/09

昨日とは別の道でお散歩をすると、神社に河津桜が咲いていました。

意外とどこでも見られるようになったのですね。

吉祥寺のミステリ専門書店<MURDER BEAR BOOKSHOP>のアルバイト兼<白熊探偵社>の調査員である葉村晶は、ご近所さんの奥山香苗の娘に無理やり頼み込まれて、香苗の父方の叔母の三十三回忌の法要に、香苗のボディガードとして参加することになる。
香苗は身近な人間にはワガママを通すのに、親戚たちにはいい顔をしたがるという。
どうも親戚連中はそれにつけこんでいるようだ。
法要がおわったので、しつこい親戚連中から逃れ帰ろうとする葉村たちは白いワゴン車の事故に巻き込まれる。
香苗はかすり傷ひとつ負わなかったが、葉村は額を強打し、たんこぶができた上に、乗っていった<MURDER BEAR BOOKSHOP>のワゴン車は潰れてしまう。
実質七時間働いたのに、「ボディガード料」はたった二万円という安さ。
店長の冨山泰之から「葉村はヤキが回ったんじゃないか」と言われる始末。
法要の間に香苗の屋敷に窃盗団が浸入し、家財道具を盗もうとしていたというオチがあったが、何かおかしいと思った葉村は前もってセキュリティー会社に注意喚起をしていたので、未然に防げたのは幸いだった。
この後、香苗から呼び出され、一応謝られたが、本題は国分寺の叔父様が葉村に頼みたいことがあるということだった。
国分寺の叔父様こと乾嚴は魁星学園の創始者・乾聡哲の孫で、学園で教鞭を取る傍ら理事もしていたという。
現在は世田谷の介護付きシルバーマンションに入っている。
彼から葉村は秘密厳守で稲本和子という元養護教諭の女性を探して欲しいと頼まれる。
コロナ禍で三年ぶりに調査の仕事をする葉村晶だったが、一筋縄ではいかない関係者たちの間で翻弄される。
そしてまた満身創痍という、誠についていない葉村晶だった。
葉村晶も五十代に突入し、老眼が進み、「保湿剤や日焼け止めの量が増え、目薬、皮膚炎、湿布薬の消費が激しく」なり、「痛む膝をかばうためのサポーターや、歩きやすい靴に動きやすい服、ヘアマニキュアから白髪染め。いずれ補聴器や入れ歯、場合によっては人工関節なんてものまで必要になるかもしれないが、わたしはその費用を捻出できるんだろうか」なんて書いてあるので、笑ってしまいました。
ホント、笑い事ではないですねぇ。明日は我が身ですわwww。
それなのに、葉村晶は頑張ります。
なんとかならないのでしょうか、若竹さん。
毎回、痛い目にあうなんて、かわいそすぎますよ。
とにかく出てくる人が多過ぎて、途中でわけがわからなくなるので、気をつけて下さい。
私のような人は、最初から家系図を書いてみるといいでしょう。
私は読み終わってから書いてみましたが、後からじゃ意味がなかったです、笑。
「まぐさ桶の犬」って初めて聞きました。
本の中では、「自分には役に立たないが、誰かがそれでいい思いをするのは絶対にイヤだ、とその「役に立たないもの」を手放さずに意地悪や嫌がらせをし続けるひとを「秣桶の犬」と呼ぶ」そうです。
イソップ物語が出典のようです。
何故か葉村晶の周りには、人の話を聞かないで、仕事を押し付けるワガママな人ばかりです。
何ででしょうね。
毎回楽しませてくれる葉村晶シリーズです。
シリーズの順番
①『プレゼント』
④『暗い越流』
⑤『さよならの手口』
⑥『静かな炎天』
⑦『錆びた滑車』
⑧『不穏な眠り』
⑨『まぐさ桶の犬』(本書)
新川帆立 『目には目を』 ― 2025/03/06

土木作業員、少年Aの死体が寮の部屋で発見された。
容疑者はすぐに見つかった。自首したのだ。
容疑者の娘は少年Aに殺されたが、少年Aは十五歳だったので、少年院に一年三カ月入っただけで退院していた。
人を殺して、たった一年三カ月入っただけで、許されるのはおかしい。
死には死をもって償ってもらう。
そう思った容疑者はインターネット上で少年Aの情報を集め、Aと同じ時期をN少年院ですごした少年Bからの情報提供でAの所在を特定し、殺害したと語ったという。
裁判で犯行動機を聞かれ、容疑者はハンムラビ法典の「目には目を」を引用した。
そのため被害者家族が加害者に復讐した稀有な例として、この事件は「目には目を」事件と呼ばれるようになる。
フリーのルポライター、仮谷苑子は他の多くの少年は罰を受けていないのに、なぜ、少年Aだけが殺されたのか。少年Aは運が悪かったのか。あるいは殺されるだけの事情があったのかという疑問を持ち、「目には目を」事件の関係者の証言をもとに、少年法のベールに包まれた事件の真相を解明しようと思った。
少年Aと同じ時期にN少年院ミドリ班にいた少年は六人。
①大坂雅也(仮名):先輩に命じられ、名前も知らない少年に暴行を働き、翌朝、少年は死亡。弟が子役で有名だった。目立ちたがり屋。少年院が楽しかったという。
②堂城武史(仮名):中3の時に十歳ぐらいの女の子をトイレに連れ込みいたずらしようとするが、叫ばれたので殺す。IQ76。「根は優しい」と幼なじみはいう。
③小堺隼人(仮名):受験に失敗し、自殺しようとして誤って母親をナイフで刺してしまう。自分は利口で天才ゆえ、生きづらいと思っている。
④進藤正義(仮名):14歳で特殊詐欺の受け子で逮捕されるが不処分。中学の女子更衣室に隠しカメラを仕掛け盗撮し、保護観察処分。18歳で暴力団員に金を払えと恫喝され、大きな屋敷に盗みに入り、家主に見つかり逃亡し、窃盗未遂で少年院に入る。大声で話し、社交的だが、虚言癖があるという。
⑤雨宮太一(仮名):妹の友だちの女の子と男の子を殺し、切り刻んで、つなぎ合わせて民家の前においた元猟奇殺人犯。タワマンに住み、YouTuberをしている。
⑥岩田優輔(仮名):吃音を気にして高校からしゃべらなくなる。醜形恐怖症と男性器が小さいことに悩んでいる。高校1年の夏休みから母親や姉に暴力を振るうようになり、高校2年の時に母に暴力を振るうのを止めようとした姉を殴り、鑑別所から少年院に送られる。姉は未だに植物状態。今は父親と暮らし、話せるようになっている。
この6人のうち、誰が被害者で、誰が密告者なのか。
仮谷苑子の隠された意図はなんなのか。
意外な事実が明らかになる。
各少年たちの話を読んでいくと、この子たちとの意思の疎通は難しいだろうなと思いました。
厳しい見方をすると、自分がしたことを客観的には見られないようですし、被害者と被害者家族に対して悪いことをしたとか罪を償おうとか、それほど思っていないように感じました。
少年院の職員の方々は大変ですね。
読んでいて、どうしても私にはわからなかったのが、少年Aの母親です。
少年Aは少女を殺しているんですよ。そうでなければ、少女の母親は少年Aを殺さなかったはずです。
それなのに、そのことは棚に上げ、「じぶんの息子が学校で虐められていた。ストレスがたまっていたんだ。少年院で自分の罪と向き合っていたはずだ。殺さなくてもいいじゃないか。これからというときだったのに」とか言っています。
そして、加害者には手が出せないので、「自分の子を裏切った情報提供者に報いを受けさせなくてはならない」と思うのです。
なんかこの論理の飛躍が私には理解できませんでした。
今までの新川さんとは全く違う作品です。
興味がある方は読んでみてください。
<今週のおやつ>

ガトーフェスタハラダのグーテ・デ・レーヌとグーテ・デ・ロワ プレミアム ノワゼットです。
グーテ・デ・レーヌは薄くスライスしたガトーラスクでレーズンクリームを挟んだもの。
ノワゼットの方はクーベルチュールミルクチョコレートにノワゼットのペーストを練り込んだものをガトーラスクにコーティングしたもので、すごく甘いです。
堂場瞬一 『初心の業 ボーダーズ4』 ― 2025/03/02
SCUとは英語の「Special Case Unit」の略で、「特殊事件対策班」のこと。
メンバーは五人いますが、シリーズ四作目の今回はサブキャップの綿谷亮介が主人公です。
綿谷の父親は元岩手県警釜石警察署長なので、警察官の二代目です。
綿谷は組織犯罪対策部からSCUに異動してきました。

綿谷の父親が脳梗塞で倒れたとの連絡があり、綿谷はすぐに東京から盛岡に飛んだ。
幸い命に別条はないし、認知能力には問題はないが、左足に軽い麻痺が残る可能性があった。
五十一歳の姉の真咲は同じ県に住んでいるとはいえ、車で片道二時間ぐらいかかり、夫のお義母さんも介護が必要だという。
父と母の年寄りふたりの面倒は見てもらえそうもない。
自分の住む我孫子に引き取り、同居すべきなのかもしれないが、父親は自分の家に執着し、家に帰ると言い張っている。
ならば…。
綿谷は四十九歳で、人生の大きな転換期が来たと感じていた。
そんな時に、盛岡で立て籠もり事件が起こる。
立て籠もったのは、菅原大治。
彼は元暴力団幹部で、六年前に殺人容疑で指名手配されていた。
綿谷たちが逮捕できるところまで追い詰めたのに、逃げられたのだ。
綿谷は個人的にも知り合いだということで、説得に入るよう指示される。
なんとか綿谷が菅原を説得し、人質二人を解放させ、菅原の確保という時に、菅原は銃を持った刑事を見て逆上し、銃を撃とうとし、頭を撃たれてしまう。
一命は取り留めたが、話はできない。
綿谷は撃たれた直後に菅原が言った言葉が気にかかった。
綿谷はキャプの結城から岩手県警への期限付レンタル移籍を命じられる。
綿谷は前に所属していた組織犯罪対策部の時に縁のあった暴力団関係者から菅原に関する情報を収集する。
ところが、しばらくして自宅付近で何物かに襲われる。
綿谷は警視庁を辞め、地元に戻るのか。
SCUのメンバーにも異動の話が出ているという。
SCUは解体し、新しい段階にいくのか。
今回は警視庁と岩手県警、千葉県警、大阪府警が関わる事件です。
ひとつのケースとして複数の警察が関わったようです。
綿谷は柔道四段、剣道二段、空手二段、将棋がアマ三段の十一段でしたが、今回、喧嘩五段が加わり、トータル十六段になったそうですwww。
がさつな人かと思ったら、意外と家族思いの細やかな神経の人でした。
お父さんは署長まで務めた人で、息子よりも大きな器の人のようです。
みんなに謎の人だと思われている結城は、今回は美味しい和菓子を作って、綿谷を慰労しました。
次の手作りスイーツは何かが、楽しみのひとつになってます。
さて、次回は結城が主人公なのか、それとも新人さんなのか。
楽しみです。
「ボーダーズ」シリーズの順番
①『ボーダーズ』
②『夢の終焉 ボーダーズ2』
③『野心 ボーダーズ3』
④『初心の業 ボーダーズ4』(本書)
<今日のわんこ>

兄犬は先週の火曜日から下痢気味で、ママとパパを心配させました。
たぶんパパが長く散歩させ過ぎて疲れたのでしょう。
ママは三食、カボチャやサツマイモなどを使い消化のいい餌を作り、お腹の薬を混ぜて食べさせ、やっと昨日から普通の便が出ました。
元気になったので、今日はお散歩に行きました。
ヨーキー弟は兄がいい物を食べていると勘違いして、餌を食べなくなりました。
といっても、後から見ると食べているのですがw。
明日から寒くなるようですが、だんだんと暖かくなるので、そろそろ公園に行けるようになるでしょう。
元気に見えても、お年(犬年齢12歳と10歳、人間年齢では64歳と56歳)なので、気をつけて遊ばせます。
堂場瞬一 『時効の果て』 ― 2025/02/18
警視庁追跡調査係シリーズの十作目。

「週刊ジャパン」に時効になっている31年前のバラバラ殺人事件の核心に迫る新証言が飛び出したという記事が載った。
追跡捜査係の沖田は十二年前の放火殺人事件で名古屋に出張しているので、西川が非公式に捜査をすることになる。
そこに岩倉剛から電話がくる。
この事件は岩倉にとって警察官になる原点だった。
岩倉はこれは俺の事件で、誰にも渡したくないと思い、追跡捜査係が調査するなら、自分も一枚噛ませろ。個人的に勝手に動けないので、追跡捜査係から正式にヘルプの要請をしてくれというのだ。
理論派の追跡捜査係の西川と南大田署刑事課の岩倉はコンビを組み調査することになるが、だんだんと岩倉が暴走気味になる。
やがて「書斎派」の西川と「アウトドア派」の岩倉の違いが顕著になっていく。
沖田の登場が少なく、その代わりに「ラストライン」シリーズの岩倉剛が西川とバディになります。
岩倉は年の功があり、西川は位負けかな。
実は私、前にも書いていますが、おじさん臭プンプンのガンさんがあまり好きじゃないんです。
まあ、岩倉とうまくいく人がそもそもいそうもありませんけどね。
一人で勝手に捜査をやってましたが、最後の方で西川に任せることもあり、安心しました。だってこれはラストラインシリーズじゃないんですから。
やっぱり西川と沖田のコンビの方がいいですねww。
今回の追跡捜査係は庄田と三井が異動し、後任に二年限定で捜査一課特殊班から牛尾拓也、所轄の刑事課から林麻衣が加わりました。
無口な大竹君はまだいます。
庄田と三井が出てきて、嬉しかったです。
シンガポールにいるからと、調査を頼むのはいけませんね。
シンガポールには一日だけいたことがありますが、そんなに観光するところがないんですかね。
これでやっと追いつきました。
追跡捜査係シリーズ、出版されているものは全て読みました。
シリーズの全てを知りたい方はこちらをご覧ください。最後に書いてあります。
堂場瞬一 『脅迫者』&『垂れ込み』 ― 2025/02/17
警視庁追跡調査係シリーズの八作目と九作目。

『脅迫者 警視庁追跡調査係』
沖田大輝は五年ぶりに、元同僚の北岡と会う。
その時に新人刑事時代の話題が出て、沖田はある事件のことを思い出す。
あれは周りから浮いていた沖田への新人いじめだったのか?
気になった沖田は二十年以上も前に違和感を抱いた案件を再調査することにする。
当時、マル暴の近くにいたと思われる、三十歳、無職の加山貴男が、調布市の河川敷で遺体となって見つかるが、自殺とされた。
この時、沖田は非番で、日報の記載が中途半端だったので個人的にちょっと調べてみると、課長に呼びつけられた。他にもおかしなことがいくつかあった。
沖田は殺人事件の隠蔽が行われたのではないかと、今でも疑っている。
西川は懐疑的だったが、係長の鳩山は今、関わっている事件がないことから、当事者ではない西川に調査するよう指示する。
西川は庄田と調査を始めるが、動機以外に不審な点はなかった。
しかし、納得のいかない沖田は引き下がらない。
仕方ないので、お目付役に三井をつけるが、沖田の暴走は止まらない。
彼は当時、事件に関わった刑事たちの事情聴取を始める。
そんな時に、沖田は何者かに尾行されていることに気づく。
西川の奥さん、美也子さんが静岡の母親がいる実家に毎週行くようになり、先の見えない親の介護で、精神的に西川もまいっているようです。
沖田に「今回の件では全然切れがないぞ」と言われています。
沖田は沖田で、恋人との仲は相変わらず進展なしでしたが・・・。
アラアラ、「あなたたちいくつなの?」と聞きたくなりましたwww。
警察の闇やら癒着やらと、話が広がっていきますが、隠蔽の動機がねぇ。
やっぱり西川と沖田の二人はいいバディです。
このシリーズは堂場さんのシリーズ物に出てくる人たちが参加するものなんですね。
大友鉄や一之瀬拓真、村野、高城、鳴沢了と色々と出てきます。
『垂れ込み 警視庁追跡調査係』
山岡という男から十五年前の上野の通り魔事件の犯人に関する情報の垂れ込みがあった。
沖山が会いに行くが、山岡は現れなかった。
上野の通り魔事件とは、JR上野駅のすぐ近くにある通称「パンダ橋」で午後十時過ぎに四十五歳のサラリーマンが背後から刺され、犯人は逃走、被害者は病院で死亡したというものだ。
沖田は勝手に山岡のことを調べ、しつこく会おうとするが、再度すっぽかされ、その翌日、山岡は多摩川の河川敷で遺体となって見つかる。
一方、西川は追跡調査係が抱える重大案件の一つ、十年前の新宿通り魔事件を掘り返し始める。
新宿通り魔事件とは、JR新宿駅構内で夜の十時過ぎにサラリーマンがいきなり刺されて死亡した事件で、目撃者が多数いて、防犯カメラに犯人の姿が写っていたにもかかわらず、犯人特定にいたっていない。
そんな時に、池袋駅近くで通り魔事件が起こる。
上野事件と新宿事件と関係があるのか。
事件は意外な方向へ・・・。
沖田と恋人の響子の仲は微妙になってきています。
はっきり言って沖田は最低です。結婚してもしなくてもいいのですが、どっちにするか、はっきりさせましょうよ。
一方、西川は家に美也子の母親を引き取りますが、母親が実家に帰りたがって困っています。介護問題はうまい解決策がなかなか見つからなくて、大変です。
このままなら西川は本格的に帰宅恐怖症になりそうですね。
大友鉄が捜査一課に戻っていました。
『闇の叫び アナザーフェイス9』の後のことですね。
追跡捜査係と支援課が何度かバッティングして、相変わらずいがみあっています。
村野さん、是非二人を研修させてくださいww。
最後にびっくりすることがありますので、楽しみにしていてください。
大阪のおっちゃん刑事、鋭いです。
堂場瞬一 『暗い穴』&『報い』 ― 2025/02/13
警視庁追跡調査係シリーズの六作目と七作目。

『暗い穴 警視庁追跡調査係』
沖田大輝が夏休みを取り、恋人の響子の実家のある長崎へ行っている時に、追跡調査係に電話がくる。
一ヶ月ほど前、捜査一課の強行班に手を貸して逮捕した犯人が遺体を埋めたと自供したが、証言が具体的なので、本人を同行して穴掘りを始めたというのだ。
追跡調査係のメンバーたちは遺体の遺棄場所の檜原村に行き、穴掘りを手伝うことになる。
供述通り遺体が発見されるが、その遺体のすぐ側から、もう一つ遺体が見つかる。
西川は乗りかかった船だからと、この事件に噛むことにし、沖田を呼び戻す。
遺体の身元割り出しをする一方、西川は供述した犯人の相澤の取り調べを任される。
しかし、相澤はそれ以上頑なに話そうとはしない。
沖田は村で聞き込みを始めるが・・・。
今回出てくる犯人がすごいです。
サイコパスであり、最強のファム・ファタールです。(ネタバレになるので、知りたくない方はめくらないでね)
沖田も西川も餌食にならなくてよかったです。
今回見つかった5人以上人を殺していそうです。
もっと事件を突き詰めて欲しかったような気もしますが、こんなもんでいいのかも。
なんともいえない後味の悪いお話でした。
『報い 警視庁追跡調査係』
一ヶ月ほど前に肺癌で亡くなった男が、二年前に墨田区で起きた強盗致死事件の犯人を見ていて、犯人の顔の特徴を書いた日記を残し、それを読んだ家族が所轄に日記を持ち込んだ。
その特徴に当てはまるのが、ベテランのスリ、辰見一朗。
沖田大輝は追跡調査係の後輩刑事の三井さやかと庄田基樹を連れ、宇都宮に辰見の身柄を押さえに行く。
だが、辰見は八幡山公園の駐車場で瀕死の状態で発見され、「はめられた」という言葉を残し死亡する。
二年前の事件と今回の事件がつながっているのか?
沖田たちは、栃木県警から手出し口出しは無用とは言われたが、近所の聞き込みを始める。
一方、西川は七年前に杉並区で起きた強盗殺人事件に取り組んでいた。
不動産経営をしている夫婦が殺され、自宅に保管していた五千万円近くの現金のうち、二千万円が盗まれた。
初動は完璧だったのに、なぜか犯人に辿りつけなかったのだ。
沖田と西川は昨日の事件と七年前の事件の殺し方が共通しているのに気づく。
二つの事件の犯人は、同一人物なのか?
二年前の強盗致死事件も含め、三件とも関係しているのか?
西川は情報の入手先を考え、ある場所を思いつくが・・・。
西川の家庭に変化がありました。
妻の美也子さんの父親が亡くなり、母親が心配な美也子さんはしょっちゅう静岡に母親の様子を見に行っています。
美也子さんのコーヒーがないと、というか、美也子さんがいないと、西川も調子がでないようです。
沖田は相変わらず、響子さんと結婚せず、ぐずぐずしていますww。
40歳を過ぎると、なかなか決断できないものなのですね。
そうそう、猪突猛進の沖田が絶体絶命という場面もあります。
彼は懲りない人っぽいので、これからも色々とありそうです。
響子さんも大変ですねぇ、笑。
このシリーズには他のシリーズの登場人物がよく出てきます。
犯罪被害者支援課の村野が登場し、西川に「もっと被害者遺族のことを考えるべき」だと言っています。
温厚な西川でも、支援課から見ると強引に見えるのですね。
今回は人の恨みの深さを思い知らされました。
人に恨まれるようなことをしてはいけませんね。
それがいつか返ってくることがあります。
恨みを晴らすために考えたことがすご過ぎです。
本当にこんなことできるのかと思いました。
結構、このシリーズ、面白いです。
後三冊、読めそうです。
今野敏 『任侠梵鐘』 ― 2025/02/12
「任侠」シリーズの七作目。

阿岐本雄蔵組長のところに永神健太郎がやってきた。
彼が来るとろくなことがない。
彼が持ち込んだ相談事のせいで、日村誠司をはじめ阿岐本組のメンバーは、今まで出版社、私立高校、病院、銭湯、映画館、さらにはオーケストラまでの廃業、閉鎖、解散の危機を救ってきたのだ。
日村は今度は何かとヒヤヒヤしていた。
阿岐本によると、永神は明日の同じ時間に大切な客を連れてくるという。
翌日、永神が連れてきたのはテキヤ筋の大御所の多嘉原義一。
彼によると、目黒区にある小さな神社、駒吉神社の縁日に出店していたのが、今年から出店できなくなったという。
多嘉原はテキヤはもう生きていけない世の中になっちまったと諦めていたが、阿岐本は日村に神社に行って話を聞いてこいと命じる。
日村は駒吉神社に行き、神職の大木和喜と話す。
彼によると、警察と町内会から申し入れがあり、今年から縁日は町内会の人が店を出しているという。
大木の愚痴を聞いているうちに、近くの西量寺も困っているというので、日村はそこにも行ってみることにする。
日村が寺にある立派な鐘楼を眺めていると、住職の田代栄寛が詰問してくる。
どうも鐘の音が騒音だと区役所に苦情がきているらしい。
阿岐本に報告すると、彼は田代に会ってみたいと言い出す。
何か引っかかっているようだ。
次の日、阿岐本が田代と話していると、区役所の職員と警察官がやってくる。
相互監視態勢が整っているようだ。
阿岐本は神社にも行き、話を聞いてみる。
事務所に帰ると、そこにいたのは、北綾瀬署のマル暴刑事、甘糟達男。
中目黒署のマル暴から連絡が来たらしい。
阿岐本は日村に若い衆を使って駒吉神社と西量寺に対する苦情や反対運動の音頭を取っている人物を調べるようにと命じる。
そして永神を呼び、駒吉神社の金回りについて調べてくれと頼む。
一体、阿岐本は何が引っかかっているのだろうか。
駒吉神社と西量寺のトラブルの影に何があるのか。
阿岐本は日村たちを使い、トラブルを解決できるのか。
現代の神社やお寺の問題を的確に描いた作品です。
宗教団体って無税だからいいなと思っていましたが、今のご時世ではそうでもないんですね。
そうそう、お寺の鐘に「先祖供養の意味がある」なんて、知りませんでした。
神社やお寺がもっと身近になるといいのですが、都会では無理そうです。
今までとは違い、今回は阿岐本組長が大活躍します。
それはそれで面白いのですが、若い衆たちの働きがなくて残念でした。
神社やお寺の再生にヤクザさんたちというのは、ちょっと無理がありますものね。
次は今までのように若い衆たちの出番を多くしてくださいね。
阿岐本組によく遊びに来る香苗ちゃんの言った言葉がこころに残りました。
「本当に怖いのは、自分のことしか考えていない人だと思う」
香苗ちゃんのおじいさんで喫茶店のマスターの源次さんがいいキャラっぽいので、次回からもっと登場してもらいたいです。
「任侠」シリーズの順番
①『とせい(任侠書房)』
②『任侠学園』
③『任侠病院』
④『任侠浴場』
⑤『任侠シネマ』
⑥『任侠楽団』
⑦『任侠梵鐘』
中山七里 『ヒポクラテスの困惑』 ― 2025/02/11
「ヒポクラテスの誓い」シリーズの六作目。

2020年4月。
新型コロナウイルスが猛威を振るい、政府は緊急事態宣言を行い、外出自粛を要請していた。
治療法も治療薬もワクチンもなかった。
埼玉県警刑事部捜査一課の古手川和也が浦和医大法医学教室に現れる。
捜査一課に昨日、新型コロナウイルス感染症で急逝したオンライン通販の<KAYABA TOWN>の創設者、萱場啓一郎の姪と名乗る女がやってきて、新型コロナウイルスのワクチンを数回接種している叔父が新型コロナウイルスに罹るはずがないので、死因を捜査してほしいと頼まれたというのだ。
光崎藤次郎教授が執刀し、判明した直接の死因は、砒素だった。
その二日後、第二の事件が起こる。
犠牲者は人気YouTuber<サッシー>こと笹森茂留。
交際相手が笹森と連絡が取れず、浦和区にあるマンションを訪れ、部屋で死体を発見したのだ。
被害者がセレブで死因が一見、病死に見えるということで、萱場事件との関連が疑われた。
浦和医大法医学教室で解剖すると、死因は砒素中毒死。
光崎は使われた砒素の成分分析を命じる。
捜査をしていくと、笹森も未承認の偽ワクチンを打っていたことがわかる。
そんな時に、<埼玉日報>の記者が法医学教室にやって来る。
偽ワクチンの正体を教えてほしいというが、断る。
SNSで萱場と笹森に対する誹謗中傷が激しくなり、火元のひとつが<埼玉日報>だった。
やがて火の粉は浦和医大法医学教室にも・・・。
コロナ禍のことを思い出しました。一体、あれは何だったのでしょうね。
偽ワクチンは報道されたかどうかわかりませんが、あったと思いますよ。
誰も死ななかったので、問題になっていなかっただけではないでしょうか。
コロナ禍以降、マスコミが感染症で大袈裟に煽ることが多くなったと思いますが、どうでしょう。
今回は法医学教室があまり活躍していません。
もっと光崎教授が出てきてほしいです。
古手川が後半から警視庁捜査一課の犬養と共に事件を追っていくのは、嬉しかったですがね。
この頃、思うのですが、本の出版が増えたせいか、中山七里さんの作品の質がイマイチです。
今回も最後の数ページで事件が解決してしまうし、犯人も動機も驚きが全くありませんでした。
次に期待しますわ。
「ヒポクラテスの誓い」シリーズの順番
堂場瞬一 『謀略』&『標的の男』 ― 2025/02/05
警視庁追跡調査係シリーズの三作目と四作目。

『謀略 警視庁追跡調査係』
追跡捜査係は連続強盗殺人事件の特捜本部に派遣された。
あてがわれたのは、普段は倉庫として使われている、窓がひとつもない、狭い会議室。
派遣は鳩山が決めたのだが、「後から出てきて引っ掻き回すな」という感じだ。
二つの事件はほぼ一ヶ月の間隔を置いて都内の運河沿いの側道で発生した。
犠牲者は二人とも、二十代のOLで、帰宅途中に襲われ、殺された。
同一犯のように思われたが、解決の糸口がないままに半年が経っている。
調書を読んでいて西川は第二の事件現場に落ちていた靴のことが引っかかり、特捜本部の管理官の阿部に聞くが、細かいことを気にし過ぎとけんもほろろの扱いだった。
一方、沖田は犠牲者の二人が歩いたルートを辿ってから徹底した聞き込みを開始する。
事件は通り魔によるものなのか、それとも・・・。
沖田と西川は誰も着目していなかった被害者二人の共通点を探す。
すると・・・。
『標的の男 警視庁追跡調査係』
服役中の男が刑務官に告白した。
五年前に起きた墨田区の不動産業者の強盗殺人事件の犯人は熊井悦司だというのだ。
墨田区の特捜から追跡捜査係に動向監視の要請が来て、沖田が派遣される。
しかし、沖田は警察に気づき疾走してきた熊井を止められず、熊井は逃走してしまう。
沖田は足首を骨折し、しばらく入院する。
沖田は大嫌いな書類仕事をあてがわれ、彼の代わりに西川が聞き込みに行く。
だが、大人しくしている沖田ではない。
無理やり退院し、静岡刑務所で服役者に会ってくるという。
そんな時に熊井が自殺する・・・。
追跡調査係はそうとう捜査一課から嫌われていますね。
捜査一課の刑事たちはプライドが高いですから、自分たちのあら探しをされていると思うと許せないのですね。
もっと謙虚になった方がいいと思います。
そうすると未解決事件もなくなり、追跡調査係も出ばる余地がなくなりますよ。
追跡調査係には西川と沖田以外に若手が三人います。
極端に無口な大竹といつもどことなくうわの空だけど真面目な庄司基樹、外回りが好きで、明るく素直な三井さやか。
庄司と三井は犬猿の仲というか、さやかが庄司をものすごく毛嫌いしています。
何故なのか、西川も沖田もわかりません。
私はそんなさやかが好きになれません。
テレビドラマを見ないので、知りませんでしたが、『交錯』が昨年、ドラマになっていたんですね。
沖田役が遠藤憲一で西川役が高橋克典。
ごめん、二人とも私のイメージとは違います。
響子が観月ありさだって、沖田と年齢違い過ぎませんか。
ドラマを見ると違和感がないのかもしれませんがね。
五作目の『刑事の絆』はアナザーフェイス・シリーズとのコラボ作品です。
イケメン大友刑事が登場します。
私のブログにどんな事件を扱うか書いていないので、出版社のあらすじを抜粋してここに書いておきます。
大友が「ベンチャー企業が開発した、次世代エネルギー資源を巡る国際規模の策謀に巻き込まれた」のだそうです。
興味のある方は『凍る炎』からお読みください。
その方がお話がわかりやすいでしょう。
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