塩田武士 『存在のすべてを』2026/05/22



平成三(1991)年十二月、神奈川県で二児同時誘拐事件が発生した。
一件目は塾の帰りに拉致された、厚木市内の輸入家具販売会社の経営者の小学六年の息子で、誘拐犯は二千万円の身代金を要求した。
二件目はその翌日。
横浜市中区に住む健康食品会社の社長から孫が誘拐されたとの通報が入った。
被害男児は四歳で、彼の母親と夫との婚姻関係は破綻していて、別居状態だった。
誘拐犯は男児の祖父母の自宅に電話をし、一億円の身代金を要求した。
その後、厚木の方の子供は無事に保護されたが、横浜市の方は身代金の受け渡しに失敗し、誘拐犯は逃亡し、男児は見つからなかった。

事件から三十年後の令和三(2021)年十二月、元神奈川県警中澤洋一刑事が亡くなった。
当時警察担当だった大日新聞の記者、門田次郎は二児同時誘拐事件で「マルK指導」を担った中澤と知り合った。
ガンプラが取り持つ仲だった。
葬式で門田は中澤の後輩の先崎から話しかけられ、車に乗せられる。
そこで見せられたのが、写真週刊誌『フリーダム』の記事だった。
記事には二児同時誘拐事件で行方不明になっていた男児、内藤亮が、事件の三年後に祖父母の家に姿を現し、今、如月脩という人気の写実画家になっていることが写真とともに書かれていた。
三年間、誰と暮らしていたのか、亮は頑なに口を閉ざし、彼の祖父の木島は警察への協力を拒んだため、事件は未解決のまま時効を迎えていた。

門田は中澤の死をきっかけに、自分が記者であることの意味を見出すために、記者人生を賭け、事件の再調査を始める。

誘拐され行方不明になっていた男児の三年間が、このお話の要になります。
この三年間の謎が明かされたときに、心が揺さぶられます。
誘拐犯たちの行動はよく理解できませんでした。何を考えているんだか。
ネタバレになっちゃいますが、家族って何なんでしょうねぇ。
これ以上言いませんが、お勧めの本です。

おまけ。
写実絵画とは、「見たままを忠実に描くことを基本にした絵画」のことです。
これも本に出てきますが、写実絵画専門美術館が千葉県緑区のホキ美術館です。
私は二度ほど行ったことがありますが、美術館も絵画も是非見て欲しいです。
写真とどう違うのと言う人がいるかもしれませんが、見ると違いがわかります。
ジッと絵を見つめていると、描かれている対象の「内面性や物語性」が感じられるくるのです。
一枚の絵を描くのに、何カ月もかかるといいます。
目が悪いし、肩こりもすごい私には真似のできないことですわぁw。
美術界の闇って、やっぱりあるんでしょうかね。

映画化が決定しており、門田は西島秀俊、土屋里穂は広瀬すずだそうです。
来年二月五日に劇場公開。
まあ、キャストは悪くないですね。
本を読むのが面倒な方は映画を観よう。

米澤穂信 『倫敦スコーンの謎』2026/05/14

<小市民>シリーズの六冊目。
前回、このシリーズも終わりだとか書いていますが、間違いでした。
まだ番外編として続くようです。


小市民を目指し互恵関係を結んでいる小鳩常悟朗と小佐内ゆき。
彼らがいかに小市民を目指そうが、隠されている謎を見つけ、解いてしまおうという衝動はいかんともしがたい。

「桑港クッキーの謎」
小鳩は新聞部の堂島健吾から小佐内を紹介してくれないかと頼まれる。テレビ局から、今年のサンフランシスコ・ビエンナーレの黒熊賞を受賞した船戸高校出身の美術家縞大我の絵が高校にないかと聞かれ、探すと美術室で見つかった。その絵に関することで相談があるというのだ。

「羅馬ジェラートの謎」
この前の借りを返すために小鳩は小佐内を連れて彼女の好きなジェラート屋の二号店があるショッピングモールに行った。そこでジェラートを食べているときに、あるお客の行動が気になる。

「倫敦スコーンの謎」
二年生になって間もなく、調理実習の授業があった。班ごとでアフタヌーンティーを用意することになっていたが、小佐内の班のスコーンだけが生焼けだった。彼女によると手順は合っていたという。だが、何故失敗したのか?

「維納ザッハトルテの謎」
毎年六月下旬、舟戸高校では名のある卒業生を招いて講演会を開いている。今年は造形作家の縞大我が招かれることになっていたが、講演会を中止しろという脅迫状が届いたという噂が生徒間に出回る。
講演会の二週間前には縞からオブジェが送られて来る。壊れると困るので、美術室に展示することになるが、講演会前日に起こった地震のせいで、オブジェが損壊してしまう。しかし、講演会当日、オブジェにはキズ一つなかった。
何故なのか?そして脅迫状とオブジェの損壊は関係があるのか?

どの謎も私には考えつかないものでした。
日常にはたぶん、私なんかの想像もつかないような謎が溢れているのでしょうね。
現実に小鳩君と小佐内さんのような高校生がいたら、たぶん怖がられて、みんな遠巻きにするでしょうね。
彼らがいかに隠そうとも、彼らの好奇心と自分たちだけが知っているという奢りは
隠せませんわ。


<この頃読んだ気になる漫画>
ついでに漫画のことも載せていきます。
秀良子の『ニシオギ奇譚』は中央線にある西荻駅がなくなったけれど、架空の町ニシオギは存在していて、何故かそこで暮らしている人たちがいるという不思議なお話。本当にそうなったら怖いですねぇ。
漫画には関係ない話ですが、今は土日休日に高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪に中央線は停まりませんが、昔は荻窪や吉祥寺にも停まらなかったようです。
色々と調べていて知ったことですが、杉並三駅問題なんてあるんですね。
私は杉並三駅よりも武蔵小金井、東小金井、武蔵境の三駅が…と思ったことがありますけどww。
人の感じ方も様々ですね。

もう一冊は、槇村さとるの『ダンシング・ゼネレーションsenior』です。
簡単にいうと、50代更年期真っ盛りの女性編集者が仕事の都合で社交ダンスを習うことになって…というお話です。
社交ダンスは見るのが好きですが、自分ではやってみようとは思いません。
だって体力が必要で、あんなウェア、着るのが恥ずかしいわぁ。

漫画世代も高齢化しているので、漫画も若者だけに向けて描くのではなくなっているのでしょうね。

柚月裕子 『誓いの証言』2026/05/06

佐方貞人シリーズの五作目にして、16年ぶりの長編小説。


ヤメ検で、今は中野に弁護士事務所を構える佐方貞人は築地警察署に呼び出される。
大学の同期で弁護士をしている久保利典が行きつけのクラブの女性への不同意性交等罪で逮捕され、佐方を弁護人に指名しているというのだ。
久保は無実を主張し、佐方は事件の経緯を調べ始める。
しかし、久保が無罪だとしたら、何故女性が彼を嵌めようとしているのかがわからない。
二人は過去に何らかの接点があるのか?

調べていくと、二人に共通するのが香川であることがわかる。

佐方と香川のことが順番に書かれていますので、最初は繋がりが分からなかったのですが、しばらくして意味がわかります。
柚月さんの本はミステリとして謎を解くものではなく、明かされていく隠された真実が感動を呼ぶものです。
今回は最後をきれいに佐方が納めてくれました。
できすぎ感はありますが、最後まで読むスピードが鈍らないのは、作家さんの力ですね。

佐方が語った言葉、「事実と真実は違います。目に見える事実だけではなく、事件の動機ーー真実がわからなければ、本当に事件が解決できたとは思いません」がこの小説の肝ですね。
お勧めです。

<佐方貞人シリーズの順番>
⑤『誓いの証言』(本書)


<今日のわんこ>
兄犬は年に二、三回吐きます。それもわざわざベッドの上に吐くんです。
この頃は大丈夫かと思っていたら、週末にベッドの上に吐いていました。
一旦匂いがつくと、寝ようとはしないので、ベッドを新しくすることになります。
平らなベッドが買ってあったので代わりに置きましたが、絶対に寝ません。
ハウスの中で寝ています。
仕方がないので、ベッドを買いました。
やっとベッドが来て、置くとすぐに寝始めました。


ぐっすりと寝ています。頭がのっけられるところがないと嫌なんでしょうか?
ママのベッドの上では気持ちよく寝ているのですが、何が違うのでしょうね。
食べ物も寝床も、好き嫌いの多いわんこです。

三上延 『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅴ~扉子と謎めく夏~』2026/05/02

「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ、扉子編の五作目。


夏休みが始まった。
樋口恭一郎はビブリア古書堂で一週間、臨時のアルバイトをすることになっている。
ビブリア古書堂の娘・篠川扉子は同じ県立高校の先輩だ。
扉子の母親の栞子と父親の大輔は海外在住の古書コレクターから蔵書の買取を頼まれたため、彼らが日本にいない間だけのアルバイトだ。
恭一郎は栞子に呼び出され、古書についての相談事を引き受けないこと、言動の不審な客には関わらないこと、栞子の母である篠川千恵子に注意することを約束させられる。

第一話『シャーロック・ホームズの歸還』岩浪文庫
坂口昌志としのぶ夫婦と息子の直晴が店に現れる。昌志の父親が終戦末期に捕虜収容所で起きた岩波文庫から出版された『シャーロック・ホームズの帰還に纏わる出来事が昌志の人生に関わっていると言っていた。そのことが気になり、父の遺品を引き取った兄の書斎で本を探すが見つからない。数日中に蔵書が処分されるというので、扉子は手がかりを授け、本は見つかるが…。

第二話 森山大道『写真よさようなら』(写真評論社)
栞子の妹、文香の高校の同級生、日野千尋が写真家になりそこなった元夫の遺品の写真集を持って来た。扉子はその中にある森山大道の『写真よさようなら』が気になるようだ。日野が持ち込んだのはオリジナルの初版だというのだが…。

第三話 中原中也 『山羊の歌』(文圃堂書店)
バイトの最終日。大学生のときに文香と付き合っていたという玉岡昴が相談を持ち込む。先月買った中原中也の署名本がなくなったというのだが、話を聞くと、しょうもないことがわかる。

栞子さんの娘も本の虫で、本に関する謎を解くのが大好きです。
熱中すると見境がなくなることが問題です。
恭一郎はそんな扉子が好きみたい。
彼も大輔の辿った道を行きそうですね。

栞子が大怪我をしたきっかけになったあの男と彼女の母親、千恵子が次回に登場しそうです。
不穏な感じです。

森山大道は世界的に有名な写真家なんですね。
知りませんでした。
今度、図書館に行ったら『写真よさようなら』を見てみようかと思ったら、残念ながら図書館に所蔵していないようです。
『ビブリア古書堂の事件手帖』で紹介されたので、そのうち所蔵するかも…?

麻見和史 『罪過の代償 警視庁文書捜査官』2026/04/30



クレマチスの小さい種類かと思ったら違っていて、「ニオイバンマツリ」というのだそうです。甘い香りと紫から白へ変わる花が特徴だそうですが、香りがあったかどうかは不明です。私の鼻が悪いのかしら?


花の前で写真を撮るのは諦め、こそっと後姿を写しましたw。

「警視庁文書捜査官」シリーズの十二巻目。


派遣会社に登録されているプログラマーの小谷野清文が中野区本町の自宅で遺体で見つかる。
被害者は凄惨な拷問の後に殺害されていた。
現場からSDカードが持ち去られ、『room made up』と書かれたカードが残されていた。

警視庁文書解読班に出動要請が出され、鳴海里沙と矢代、夏目の三人が中野署の捜査本部に向かう。
文書解読班は古賀係長から事件現場から持ち去られた記憶媒体およびその中に保存されたデータをを探すようにと命じられる。
事件に何やらきな臭いものが…。

派遣された会社、東京アイテックによると、小谷野は特殊制御システムの開発に従事していたという。
別の派遣会社の友坂によると、小谷野は会社に不満を持っていて、辞めた後に一矢報いてやるつもりだと言っていたらしい。

宅急便の送り状に現場で見つかったメモに書かれていた人物、辰井の名前が書かれていた。
矢代たちがその辰井を訪ねていくと、辰井も拷問の末に首を絞められて殺害されていた。
小谷野が送ってきた段ボールにはソースコードを印刷した紙が入っているだけで、SDカードは見つからなかった。
品名蘭には「書類」、「3個口」と書かれている。
辰井宅にある箱はひとつのみ。
残る二つはどこに?

捜査に行き詰まった鳴海と矢代の前に、約二年半前の事件で出会った男が現れ、二人にアドバイスを与えていく。
鳴海は命令違反ではあるが、賭けに出ることにする。

文書解読班ではありながら、今回は全く文書に関係ない捜査をしています。
いつもは聞き込みなんかしない鳴海が矢代といっしょに聞き込みをするんです。
『room made up』というカードだけじゃ調べようがないですものね。
いつもと違うなと思っていたら、最後になるほどと思いました。
「第一部完結!」と大々的に書いてあるので、ここに書いちゃいますが、「文書解読班」は名前が変わり、「情報分析係」になるのです。
続きがあるとしたら、今度は「警視庁情報分析官」になるのかしら?
ある男が現れたので、次回からその男との因縁の対決が中心になるのかな。
どういう形になるのか、楽しみに待ちましょう。

鳴神響一 『湘南機動鑑識隊 朝比奈小雪 湯けむりの影』2026/04/28

「湘南機動鑑識隊 朝比奈小雪」シリーズの四作目。
三作目、買ってあったのに、読んでいませんでしたww。


水曜日の朝、地域部通信指令室からの入電を表すブザーが鳴った。
足柄下郡箱根町の温泉旅館≪はこね湯殿≫で宿泊客が不自然死しているとの通報があったという。
小雪の所属する江の島分駐所の機動鑑識隊が臨場する。

刺殺体で発見されたマル害は五十三歳の橋本慶子。
昨夜、彼女が主催する『湯殿夜会』という催しが開かれており、宿泊客は彼女を覗いて五人。全員が小田原市や周辺地域の中小企業経営者たちで、その会のメンバーだった。
慶子は五人のメンバーと、それぞれトラブルを抱えていたという。

鑑識作業をしていた小雪はタオルとバスタオルに違和感を抱く。
タオルから硫黄の匂いがしないのだ。
だが、成分を分析すれば硫黄成分が検出されるだろう…。

小田原署の鑑識に引き継ぎ、小雪たちは現場を後にした。

しかし、それでは終わらなかった。
小雪は週休日に捜査一課特命係の向井勝太郎警部補に呼び出され、≪はこね湯殿≫で起こった事件に協力させられる。

今回は小雪が美術大学を出たことが全く行かされていません。
まあ、美術を絡めてトリックを考えるのも大変でしょうから仕方ないでしょう。
彼女は犬のように臭覚が優れているのでしょうかね。
いつも小雪を呼び出して刑事の仕事をさせる向井は何を考えているのでしょうか。
小雪以外に使えそうな刑事はいないわけではないと思うのですが、彼の考えていることはこれから明らかになるのでしょうかね。
ミステリとしてはちょっとという感じなので、そろそろ私は手を引くかもw。

それよりもこの頃、温泉に行っていないので、行きたいですわ。
夏休みに暑いけど行きたいものです。
昨年は修善寺に行って兄犬の具合が悪くなったので、今年は近場でのんびりしたいものです。

岩井圭也 『檻を出ろ! 横浜ネイバーズSP』2026/04/25

横浜ネイバーズ・シリーズの『中華街の子どもたち』に続く七作目です。


弁護士になることを決心したロンこと小柳龍一は、清田の横浜中華街法律事務所で事務手伝いをしながら、通信制大学の法学部に入り、勉強漬けの毎日を送っている。

ある日、ロンのもとに突然メールが届く。
高校の同級生だった鈴木翔真の彼女だと名乗る女性が助けを求めてきたのだ。
翔真は今年の四月に急にバイトを辞め、五月から行方がわからなくなっているという。
断るつもりだったが、彼女が妊娠していると聞き、ロンは生まれてくる子どものために、もう一度だけ<山下町の名探偵>をすることにする。
ロンはヒナやマツ、凪、蒼太に声をかける。

ロンの幼馴染で加賀町警察署の刑事・欽ちゃんこと岩清水欽太はデジタルに強い優秀な刑事だと言われている県警捜査一課の浅香と組み、山下町の高層マンションで殺された男の捜査をしている。
殺された男は萩原研太といい、三十三歳の暴露系インフルエンサーの<ペリカンジミー>だという。

調べていくと、翔真は存在しない仕事の誘いに乗って、彼女に黙って海外に行ったようだ。
彼は<ペリカンジミー>と何度も連絡を取っていた。
<ペリカンジミー>は闇バイトに関わりがあるのか?
欽太に相談すると、五月中旬に翔真がQ共和国に出国した記録があることを教えられ、この事件は警察に任せ、手を引けと言われる。
しかし、彼女に話すと、自分がQ共和国に行くと言い張られ、妊婦に行けせることはできないと思ったロンは…。

一方、<ペリカンジミー>の容疑者と目される男がファイスブックに載っていた空港で写した写真の中に見つかる。
そこはQ共和国の空港だった。

二つの事件は何らかの関りがあるのか…?

一年ぶりのネイバーズたちですが、そういえば第一シーズンが終了しましたから、今回はスペシャル版なのですね。
でも特にスペシャル感はなく、「7」でもよさそうですが。
<アルファ>との対決はしばしマテ、ですか。
とにかくロンは危ない橋を渡ることを止められないようです。
ヒナさん、付き合いを止めるなら、今ですww。

伏尾美紀 『百年の時効』2026/04/03



今年の私には何やらよからぬことが多いような感じです。
身体のこともそうですが、機械類も壊れる時期のようです。
洗濯機を皮切りにルーターが壊れました。
というのも、午前中には使えたはずのインターネットが、用事から帰って来て使おうと思ったら使えません。
ルーターを見ると、インターネットのライトだけが消えています。
何をやってもつきません。
時間が経つと使えるようになるかもしれないと思って放っておきましたが、次の日になっても使えません。
ネットでサービス業者に調べてもらうと特に不備はないと言います。
もしかして昨年買ったばかりなのにルーターが壊れたのかと思い、新しいルーターを買いました。
携帯ではネットに繋がりにくい状況なので、設定ができません。
パソコンに繋いでやってみたら成功!
ネットに繋がった時の喜びったらありません。
パソコンに詳しい方はお笑いでしょうが。
大事なメールはパソコン用ではなく携帯用のメールアドレスに変えることにしました。
今回、私がいかにネットに毒されているかがよ~くわかりましたww。

さて、北海道札幌市在住で、『北緯43度のコールドケース』や『数学の女王』を書いた伏尾さんの昨年8月に出版された作品です。


令和6年(2024年)2月、28歳になる葛飾警察署刑事組織犯罪対策課の藤森菜摘は、アパートの一室で男性の遺体が発見されたという現場に臨場する。
遺体は74歳の桜井信吾のもので、桜井は昭和四十年から平成に入る直前にかけてまで天才的な相場師『兜町の異端児』として知られていた。
自然死であるとみられたが、藤森は微かな違和感を感じていた。
部屋を調べてみると、「警察のみなさまへ」と書かれた封筒が見つかった。

しばらくして藤森は警視庁刑事部捜査一課管理官の草加文夫に呼び出され、桜井が昭和49年(1974年)に起こった『佃島一家四人殺傷事件』の重要参考人で、この事件の捜査の幕引きをするために、一年間、徹底的に捜査を行うことになったが、それを藤森に任せたいと言われる。

捜査を引き受けた藤森に草加は先輩刑事の鎌田から託された捜査ノートを渡す。
鎌田のノートには昭和、平成、令和と半世紀にも渡り犯人グループを追い詰めながらも、決定的な証拠を掴み切れずにいた刑事たちの苦悩と執念が書かれていた。

果たして藤森は真実に行きつくことができるのか。

各時代の刑事たちが個性豊かで、それぞれの捜査の仕方が時代ごとに違い興味深かったです。
まだ戦争の影響が残りながらもバブル景気に沸く昭和、地下鉄サリン事件などのテロ事件やオウムなどの宗教問題が起こった平成など時代ごとの重大事件も折り込まれてあるので、歴史を振り返りながら読んでいきました。
登場人物が結構多いので、どの事件に関係する人物なのか、誰と誰が繋がっているのかなど途中でわからなくなる可能性があるので、時系列に並べたり、相関図や家系図などを自分なりに書き留めながら読んでいくといいと思います。
結構長い作品なので、最期まで行きつけるかと思いましたが、問題なく読み進めていけました。
満州のことと最後の犯人が私的にはちょっと惜しいかな。

この作品は第28回大藪春彦賞と第47回吉川栄治文学新人賞を受賞し、「本の雑誌が選ぶ2025年度ベストテン」一位、「週刊文春ミステリーベスト10」の三位、「このミステリーがすごい!」の四位で、第79回日本推理作家協会賞(5月13日最終選考会)の長編および連作短編集部門候補作品だそうです。

長岡弘樹 『教場Ω 刑事・風間公親』2026/03/22

風間公親が新人刑事だったころのお話。


T県警富葉署の生活安全課の石貫尊利は、JR富葉駅で中学三年生の女子が電車から降りるときに何者かに右手の甲を刺された事件で呼び出される。
監視カメラには黒い帽子を被り、茶色い薄手のコートを着ている男が写っていたが、特定できなかった。
女子の友人、三人に会って話を聞くが、トラブルはないようだった。
犯人は成人男性と思われたので、生安課は捜査から外れ、刑事課が担当することになる。
二週間後に被害者が被害届を取り下げたが、捜査は継続。
しかし、犯人は見つかっていない。

五年後、刑事課に異動していた石貫はT大学前公園で若い女性が殺害された現場に臨場する。
その時に、五年前にT県警察学校で初任科短期課程の学生を対象に行われた講座で出会った風間公親と再会する。
その講座で石貫は中学三年生の女子が右手を刺された事件のことを話していた。
風間は警察学校を首席で卒業し、異例のスピード出世をし、本部捜一の刑事となっていた。
石貫は切れすぎる風間に苦手意識を持つが、殺人事件が五年前の事件と関わりがあることに気づき、風間と組み捜査をすることになる。

風間が若い頃から優秀だったことがわかるお話です。
組んだ石貫がかわいそうですね。石貫は並の刑事でしょうにw。
犯人はサイコパスっぽく、対する風間も似ていると思いました。
だから因縁のライバルになるのでしょうね。

とても読みやすく、数時間で読み終えてしまいました。
犯人はすぐにわかってしまいますが、風間とある男の最初の出会いが書かれているので、「教場」好きには見逃せないでしょう。

堂場舜一 『暗黒の彼方』2026/03/21

沈黙の終わり』の続編。


東日新聞の遊軍記者、古山孝弘はかつて一緒に仕事をしたが、四年ほど会っていないOBの松島慶太に呼び出され、彼の柏市にある家まで行った。
松島は胃がんを患い、定年退職後、自宅で療養しているが、余命宣告を受けているそうだ。
現役時代の取材でやり残したことがあり、それを古山に託すというのだ。

松島に渡されたのは、暗号のようなものを使って書かれたメモ。
それは三十年前の1995年の夏、松島が警視庁担当に異動になった時のものだ。
松島と同じ大学、同じ学部の先輩で警視庁の若手官僚だった藤村康孝が長野警察の捜査二課長として異動する前に松島に託したものだ。
藤村は長野に行った数カ月後、心不全で亡くなったという。

古山は遊軍キャップの石野に相談し、まず藤村のことを調べてみることにする。

長野県警の隠蔽かというところから始まり、取材をしていくうちに三十年前の日米政府間のことにまで話は広がっていきます。
相手側の脅迫にも負けずに取材を続けていく古山に昔の記者の矜持を感じました。

最後の政治記者と社会部記者のいがみあい(?)が次への伏線でしょうかw。
『沈黙の終わり』を読んでいなくても問題ないので、興味を持ったら読んでみて下さい。